Alle Kapitel von 氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜: Kapitel 81 – Kapitel 90

179 Kapitel

81話

「元気にしてた?」「なんとかね。そっちは? 特殊な任務を任されてるって聞いたけど」「色々大変だけど、元気にやってる」「そっか、よかった。どういう任務か知らないけど、あんまり無理しないでね」 自分の身を案じてくれる親友が嬉しくもあり、悲しくもある。カミリアの任務は確かに重要なもので大変ではあるが、戦場などに立つことはない。むしろ心配なのは、彼らの方だ。「ふたりは本当に仲がいいね」 ラウルに声をかけられ、彼の存在を忘れていた自分に気づく。カミリアとハーディは抱き合うのをやめると、ハーディはふたりの少し後ろに移動した。「申し訳ありません、ラウル団長」「いいんだよ。皆に会わせるために、カミリアを連れてきたんだから。そうそう、カミリアの鎧を運んでくれたのは、ハーディなんだよ」「そうなの?」 振り返ると、ハーディはコクリと頷く。そこにあるのは親友の顔ではなく、騎士の顔だった。少し寂しいが、自分も切り替えなくてはならない。「ラウル団長が、女性の部屋に勝手に入るのは気が引けるから、と」「そうだったのか。ありがとう、ディアス」「ふたり共、白々しいやり取りだって思わないの?」 騎士の顔に戻ったふたりに、ラウルが口を挟む。ふたりは同時にラウルを睨みつけた。「そういうことは言わないでください」 声を揃えて言うふたりに、ラウルは苦笑した。「ごめんごめん。さぁ、はやく皆のところに行こう」 すたすたと歩くラウルと一緒に訓練所に入ると、ひとりの騎士がカミリアに気づいて目を丸くする。「ケリー副団長!? 皆、副団長が戻ってきたぞ!」 カミリアに気づいた騎士が叫ぶと、彼らは稽古をやめて駆け寄ってくる。「ケリー副団長、寂しかったですよ」「また授業してほしいです!」「自分は手合わせを!」 我先にとカミリアの前に出ては、要望や想いを伝えてくれる騎士達が、微笑ましく、自然と頬が緩む。彼らの顔を見ただけで、帰って来られて本当に良かったと心の底から思った。
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82話

「おいおい、なんの騒ぎだ?」 煩わしそうな声に、騎士達は道を開けた。険しい顔をしていたラートだったが、カミリアを見た途端、笑顔になる。「副団長! 任務は終わったんですか?」 隊長である彼の言葉に、極秘任務どころか交友パーティの話すらされていないことを知る。2週間後に迫っているから、てっきり話がいってると思ったが、違ったようだ。「いや、任務の最中だ。少し時間が出来たから、こうして皆の顔を見に来たんだ。土産もある」「フェガリのお菓子とお酒だよ。皆で分けてね」 カミリアとラウルが持っていた紙袋を持ち上げると、近くにいた騎士達が持ってくれた。「ありがとうございます!」「大事にいただきます」 騎士達は紙袋を大事そうに抱え、宿舎に持っていく。嬉しそうに話をしながら運ぶ後ろ姿は、逞しくも微笑ましい。「お前ら、つまみ食いすんなよ!」「分かってますよ=!」「ラート隊長こそ、あとでこっそりお酒飲まないでくださいよ=!」 ラートが荷物運びの騎士達に大声で言うと、軽口が返ってくる。少し前までは、彼らのこういったやり取りが羨ましかったのを思い出す。否、羨ましいのは今も変わりない。だいぶ距離が縮んだとはいえ、軽口を叩いてくる者はいない。カミリアは彼らともっと打ち解ける努力をしようと、密かに決意した。「ところで副団長、綺麗になったんじゃないですか? 一瞬、どこのお嬢様がうちの鎧を着てるんだって思いましたよ」 ラートの言葉に、冷や汗が流れる。正式に令嬢になったわけではないが、令嬢のフリをするために、教養を身に着けている最中だ。それを知ったら、ラートは笑うだろう。「つまらないお世辞を言うな。そんなことより皆、30分後に授業を開こうと思ってるんだが、どうだろう?」 カミリアの提案に、騎士達は歓声を上げる。まさかここまで喜ばれるとは思ってもみなかった。驚きと喜びを胸に抱えながら、彼らに微笑みかける。 それは氷の戦乙女と呼ばれ、笑っても冷笑しかしないと言われていた頃には考えられないほど、穏やかな笑みだった。
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83話

 カミリアは騎士達と別れ、自室に戻った。何冊か軍学書を引っ張り出すと、窓際のテーブルセットに座る。「ん?」 違和感を覚え、テーブルを見てみると、テーブルは綺麗に磨かれていた。2週間を明けていたのだから埃が積もっていてもおかしくないのだが、塵ひとつ落ちていない。気になって窓際やサイドテーブルなども見るが、どこもピカピカに磨かれていた。「ハーディか?」 真っ先に思い浮かぶのは、親友の顔だった。彼女以外、この部屋に入りそうな人間もいない。「後で礼を言わないとな」 カミリアはあたたかい気持ちに包まれながら、再び窓際に腰掛け、軍学書を開いた。 30分後、会議室は半分以上の席が埋まっていた。前に立つと、彼らはきらきらした目でカミリアを見ている。後ろでは、ラウルが壁に寄りかかってこちらを見ていた。 戦場とは違う緊張感に、胸が高鳴る。「では諸君、授業を始めよう」 久方ぶりの授業は楽しくて、ついつい喋りすぎてしまった。いつかフェガリのことも、こうして彼らに教えられる日が来ることを祈りながら、ひとりひとりの質問に答えていった。 授業が終わると、昼食の時間になる。皆と一緒に食堂へ行き、いつもの隅っこの席に座ろうとすると、女性騎士達に手を引っ張られた。ひとりはカミリアが持っていた昼食を取り上げる。「そんなところで食べてないで、一緒に食べましょうよ」「私達、副団長をお話したいんです」 まさかこういった声かけをしてもらえるとは思わず、一瞬固まってしまうが、彼女達の厚意に甘え、同じテーブルで食べることにした。「カミリア様。あ、カミリア様って読んでいいですか?」「あぁ、構わないよ」 本当は呼び捨てにしてほしいが、きっと彼女達が遠慮するだろうと思ってやめた。他の女性騎士達も、カミリア様と呼ぶことにしたようだ。「カミリア様、任務はラウル団長と一緒なんですか?」「一緒の時もあれば、離れていることもある」 カミリアの回答に、彼女達は目を輝かせる。彼女達がラウルと自分の恋話をご所望だと察し、困惑する。確かに一緒に暮らしてはいるが、そういう仲ではない。カミリア自身、ラウルのことはキザな人たらし上司としか思っていない。
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84話

「カミリア様のピンチに、ラウル団長が駆けつけてくれたりとか、ありました?」 ピンチと聞いて思い出すのは、サージュ女史のこと。彼女達が想像しているピンチとはまた違うが、ラウルのおかげで心が守られたのは紛れもない事実だ。「ピンチというほどではないが、困った時はサポートしてもらって助かったよ。内容は言えないが、不慣れな任務だからね」 カミリアの答えに、彼女達は目をらんらんと輝かせ、顔を見合わせた。その後も遠回しな恋愛要素を含む質問をいくつもされ、少し参ってしまった。それでもハーディ以外の同性と雑談をするのは久しぶりのことで、とても充実した。 昼食が終わると、彼らと手合わせをする。ラウルに手合わせを申し出る者もいたが、ラウルはそれを断って見学している。カミリアは珍しいこともあるものだと思ったがそれだけで、騎士達と夢中で手合わせをした。 3時過ぎになると、見回りをしていた騎士達が急いで訓練所に入ってきた。「大変だ! って、ケリー副団長にラウル団長!?」 彼らはふたりの姿を捉えると、敬礼をする。カミリアは彼らに駆け寄る。その際、ラウルをチラリと見たが、彼はその場を動こうとしなかった。「何があった?」「コボルトの群れを、街の近くで確認したと門番が」 コボルトはそんなに強くはないが、人を見るなり襲い掛かってくる凶暴な魔物だ。早急に討伐しなくてはならない。「ラウル団長、コボルト討伐に行ってきても?」「すぐに戻るならね」「分かりました、すぐに戻ります」 ラウルの了承を得ると、カミリアは討伐隊を編成し、街から出る。不謹慎かもしれないが、久方ぶりの討伐にワクワクしている。手合わせもいいが、やはり実戦で剣を振るわなければ腕が落ちてしまう。「ケリー副団長、なんだか楽しそうですね」「君達と久方ぶりに戦えるのが嬉しくてね」 久方ぶりに剣を持つとは口が裂けても言えない。ましてや、ご令嬢の真似事をしていたなど。今言ったことも嘘ではないと自分に言い聞かせながら、カミリアは彼らと一緒に街を出た。
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85話

 コボルトの群れはすぐに見つかった。群れと言ってもたった4体しかおらず、正直拍子抜けだ。「ここは私がやる。君達は他にもいないか探してくるんだ」「はっ!」 騎士達が散り散りになると、カミリアはコボルト達の前に躍り出る。コボルト達は鋭い爪をカミリアに向かって振り下ろそうとするが、その前にサーベルを抜いて2体同時に切り裂いた。残り2体は一瞬怯むも、カミリアに襲いかかる。「遅い」 バックステップで避け、手前のコボルトから刺突して確実に仕留める。4体のコボルトを短時間で倒したカミリアの呼吸は全く乱れていない。それどころか、軽く辺りを見回す余裕すらある。「すぐに戻ってくるといいんだが……」 探し回ってはぐれてはいけないと思い、コボルトの死骸から少し離れたところで騎士達を待つ。 サーベルについた血を振り払い、鞘に収めながら、自分の居場所はやはり戦場だと痛感する。無闇矢鱈に命を奪うのが楽しいのではない。上品に振る舞うよりも、こうして剣を振るっていた方が自分らしくいられる。「交友パーティ、はやく終わらないかな……」 ポツリと零れる本音に、失笑する。屋敷での暮らしが、どれだけ自分に向いていないのか改めて痛感した。 正直に言うと貴族にあまりいいイメージはない。贅沢な空間で暮らし、国民達の税金で食事会は舞踏会を開く人でなしというのが、シャムス貴族に抱いている印象だ。だが食事会や舞踏会へ行くために、彼らなりの努力をしていると知り、一概に軽蔑出来ないと思った。 しばらくすると騎士達が戻ってきて、他にコボルトはいなかったと報告した。 カミリアは彼らと一緒に城に戻った。訓練所にいるはずのラウルは、どういうわけか城門の前でカミリアを待っていた。帰りの時間が迫っていると悟り、カミリアは心底がっかりする。せめて訓練所に行って、彼らに別れを告げたいが、ラウルがここまで来たということは、それも許されないのだろう。
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86話

「やぁ、皆。お疲れ様。カミリア、僕達はそろそろ任務に戻ろう。報告は彼らに任せればいい」 ラウルはカミリアの後ろにいる騎士達を見ながら言う。ダメ元で訓練所へ行かせてもらえないか頼み込むつもりだったが、この様子だと無駄だろう。「分かりました。では皆、騎士団を頼むよ」「もうお別れですか……。ラウル団長も、ケリー副団長もお気をつけて」「あぁ、ありがとう。はやくラート達に報告して、安心させてやってくれ」 カミリア達は騎士達が城門をくぐるのを見ると、少し離れたところに停めた馬車に乗った。ふたりが座ると、馬車が動き出す。「ラウル、今日はありがとう。おかげでいい気分転換になったよ」「あぁ、うん……」 てっきり甘い言葉のひとつやふたつを添えた言葉が返ってくるかと思ったが、返ってきたのは生返事。不審に思いラウルを見ると、頬がうっすら赤く、息が荒い。「ラウル? どうしたの?」 言い終わるやいなや、ラウルはカミリアに寄りかかる。カミリアは驚きのあまり、小さな悲鳴を上げた。寄りかかってきたことに驚いたのではない。ラウルの身体が異常に熱い。自分とラウルの額に同時に触れると、彼のほうが何倍も熱く感じた。「酷い熱……。せめて薬を飲ませなきゃ!」 まだ馬車が走っているというのに、カミリアはドアを開け、身を乗り出した。大してスピードは出ていなかったが、落ちたら怪我をするだろう。「すいませーん! ラウルの具合がよくないんです!」 声を張り上げるが、馬の足音にかき消されているのか、馬車は停まる気配を見せない。カミリアは大きく息を吸い、再び声を張り上げる。「すいませーん!!! 止まって!!!」 精一杯声を張り上げると、馬車は徐々にスピードを落としていった。停車すると御者が降りて来て、カミリアを見るなり目を丸くする。「ソ、ソニア様!? その格好は、いったい……」「そんなことより、ラウルが熱を出してしまったんです。薬屋に寄ってくれませんか?」「ラウル様が!?」 御者が中を覗き込もうとするので、彼に見えやすいように横にずれる。カミリアも振り返ると、ラウルはぐったりと座席に横たわっていた。
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87話

「ラウル様!」「お願い、はやく薬屋へ」 中に入ろうとする御者の前に立ち塞がると、御者は困り顔をする。「そうしたいのは山々ですが、シャムスの土地勘がないので、薬屋がどこにあるのか分からないんです……」「それなら私が道案内します」 カミリアは御者の返事も待たずに、御者台に座った。御者も急いで座ると、カミリアに言われたとおりに馬車を走らせた。 薬屋に着くと、カミリアはキャリッジに入り、横になっているラウルの肩をそっと揺らす。ラウルは咳をしながら薄目を開けた。その目に生気はない。「ラウル、薬を買うからどこが辛いのか言って」「んー……けほっ、身体が、重い……。それと、咳が少し」「倦怠感と咳ね、分かった」「待って」 キャリッジから出ようとすると、ラウルはか細い声でカミリアを呼び止めた。振り返ると起き上がろうとしていたので、手を貸して起き上がらせる。「薬、これで買って」 ラウルはポケットから財布を取り出し、カミリアに渡そうとするが、床に落としてしまう。カミリアは財布を拾おうとするラウルを座り直させ、代わりに財布を拾った。「そんな状態の時は、私に頼って」 カミリアはそれだけ言い残すと、薬屋に入った。美しい黒髪をひとつにまとめた女性店主は、カミリアを見るなり笑顔で駆け寄って来る。彼女はメディナといって、数年前、黒髪差別をするブロンドの男に店を荒らされていたところを、カミリアに助けられた過去がある。事件後、カミリアが見回りも兼ねてここでよく薬を買うようになり、今は安心して商売を続けられているので、カミリアを神のように崇めたてている。「カミリア様! 最近姿を見せないので心配してたんですよ。今日はどのような御用入りですか?」「知人が熱を出してしまって。咳も少し出て、倦怠感もあるようなんだ」「まぁ、それは一大事ですね。その方は、どちらに?」「馬車で休んでいるよ」「カミリア様。その方を診せていただけませんか? 医者ではありませんが、職業柄、ある程度の心得があります」 メディナは神妙な顔つきで頼み込むが、カミリアにとって、願ってもない申し出だ。カミリアはすぐに、メディナをキャリッジに招き入れた。
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88話

「ひどい汗だな……」 カミリアはハンカチでラウルの汗を拭う。すると頬の赤みが更に赤くなった。よく見るとラウルは化粧をしていた。ハンカチで丁寧に拭いて化粧を落とすと、顔は発熱で真っ赤になり、目の下には濃い隈ができていた。「随分と無理をなさったようですね」 ラウルの顔を覗き込むメディナは、深刻そうな顔をする。「診察の邪魔になってはいけないから、私は外で待ってるよ」「お気遣い、ありがとうございます」 一礼するメディナを一瞥すると、カミリアはキャリッジから出て、深呼吸をする。そっと胸に触れると、鼓動がはやくなっているのが嫌でも分かる。 ラウルが体調を崩したことに、酷く心が乱されていた。ハーディが高熱で倒れた時だって、ここまで焦ったりはしなかった。だが、ラウルの辛そうな顔を見ているだけで、心が痛む。 メディナには邪魔をしないためと言ったが、本当はカミリアが自分を落ち着かせたかったからに他ならない。(どうしてこんなに不安になるの? ただの風邪なのに) 自分に言い聞かせるが、自分を騙せるほど、カミリアは器用じゃない。本当は、ラウルの体調不良に気づけなかった自分に嫌気が差している。異変に気づくチャンスはいくらでもあった。それなのに、久方ぶりにシャムスに帰れたからと浮かれ、ラウルを気にかけなかった。 1週間も一緒に食事ができないほど、ラウルは多忙だった。そのことを考えれば、いつ体調を崩してもおかしくないと気づけたはずだ。いつも気遣われてばかりで、ラウルを気遣えなかった自分が腹立たしい。「大したことなければいいんだけど……」 本音が零れ落ちるのとほぼ同時に、メディナがキャリッジから出てきた。カミリアは祈りながら、メディナを見つめる。「お連れ様は風邪と過労です。過労で免疫が落ちている時に風邪を引いてしまったので、余計に症状が悪化したのでしょう。今、お薬を持ってきますね」 メディナが店に戻るのを見届けると、カミリアはキャリッジに入る。ラウルは相変わらずぐったり横たわっている。
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89話

「ラウル……」「僕は大丈夫だから、そんな顔しないで」 ラウルの前にしゃがんで髪を撫でると、ラウルは力なく笑った。弱々しいその笑みは、見ているだけで心が痛む。「無理しないで。帰ったらお医者様に診てもらいましょう」「薬屋さんが診てくれたのに?」 メディナのことを疑っているわけではないが、ちゃんとした医者に診てほしい。今すぐにでもそう言いたいが、いつメディナが戻ってくるか分からないこの状況では言えない。「カミリア様、お薬をお持ちしました」 メディナは紙袋と水を持ってキャリッジに戻ってきた。カミリアがラウルを抱き起こすと、メディナは紙袋から1回分の薬を出し、ラウルに飲ませる。「これは風邪薬の中でも1番効能があるお薬です。大抵の風邪は、これを飲んで一晩寝れば、回復します。それと、こっちは疲れを和らげるお薬です。風邪薬は3日分、疲れを取るお薬は1週間分出しておきます」「ありがとう、メディナ。一度店に戻って、会計を……」「ここでも構いません。お連れ様をはやく休ませてあげてください」 メディナのお言葉に甘えてその場で支払うと、御者にもう行っていいと伝え、急いでフェガリへ向かう。「カミリア……」 カミリアを呼ぶラウルの声はとてもか細く、走行中の馬車の中では聞き取りにくい。カミリアはラウルの口元に、自分の耳を寄せた。「どうしたの?」「膝枕、してほしいな……」 いつもなら跳ね除けるような要求だが、今回ばかりは罪悪感がある上に、ラウルは病人だ。カミリアは言われたとおり、膝枕をする。「ははっ、鎧のまんまなんだ」 ラウルはクスクス笑いながら、手の甲でカミリアの鎧を軽く叩く。平静を装うも、誤魔化し切れずにいる自分が恥ずかしい。「あ、ごめんなさい! 今脱ぐから……」「いいよいいよ。冷たくて気持ちいいから」 それだけ言うと、ラウルは目を閉じて寝息を立てた。 カミリアは1秒でも早く屋敷につくことを祈りながら、ラウルの顔にかかった髪を耳にかけた。
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90話

 屋敷に着く頃には、薬が効いたのか、ラウルは静かに寝息を立てて眠っていた。顔の赤みも心なしか少し引いている気がした。「ソニア様、ラウル様をお運びします」 御者はキャリッジのドアを開けて中を覗き込む。彼の表情から、ラウルがどれだけ心配されているのかが伝わり、あたたかい気持ちになる。(きっとそれだけ、ラウルが使用人達に優しくしているってことよね) シャムスにいた使用人達を思い返してみるが、こんなに主人思いの使用人は見たことがない。貴族の護衛任務をしていると、時々使用人達の会話が聞こえてくるが、彼らはいつも主人の陰口をたたいていた。彼らの話を信じる限り、使用人達をぞんざいに扱う貴族に非があるのだが。「いえ、私が運びます」「しかし……」「大丈夫、これでも力はありますから」 カミリアはラウルを抱き上げると、キャリッジから出た。それとほぼ同時に、ルナが屋敷から出て駆け寄ってくる。「ソニア様、その格好は!? それに、ラウル様はいったい……」「話は後。ルナ、悪いけど私の剣を運んでくれる? あなたになら任せられるわ。それと、医者を呼んでほしいの」 カミリアは口早に言うと、ラウルの部屋に行く。本当は剣を他人に触らせたくはないが、今はそんなことを言っている場合ではない。それに、初めて屋敷に来た時にやむを得ず彼女に剣を運ばせたが、彼女は剣の持ち方を知っていた。 ラウルの部屋に入り、彼をベッドに寝かせようとした瞬間、ドアが乱雑に開き、燕尾服を着た神経質そうな男が入ってきた。鮮やかな赤髪をオールバックにし、モノクルをかけている。彼はカミリアを見るなり、害獣でも見るように目を細めた。「なんなんですか、貴女は。何故シャムスなんかの騎士が、ここにいるのです?」 棘のある言葉と視線に、カミリアは固まる。何故初対面の相手にここまで言われなければいけないのかと腹を立てるが、今は喧嘩をしている場合ではない。
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