スマホが震え、画面の光がまぶしく目を刺した。午前三時。登録名は「智樹」のたった二文字。通話をつなぐと、低くかすれた声が聞こえた。「菜々美、アイスバッグを持って俺の部屋に来い」プツッという音とともに、電話は切れた。暗くなった画面を見つめ、闇の中で三十秒ほど座り込んだ。エアコンが枕元に直接風を送っているのに、全身に冷や汗がにじんでいた。布団をめくってベッドを降り、素足で踏んだ無垢の床板から、ひやりとした感触が足裏から這い上がってくる。手近にあったシルクのナイトドレスをつかんで頭からかぶると、裾は太ももの付け根をかろうじて隠す程度。髪も束ねず、乱れたまま肩に垂れている。キッチンでアイスバッグを取ろうとしたとき、手が震えていた。冷蔵庫から流れ出る冷気が顔に当たり、ようやく少しだけ意識がはっきりした。小山智樹(こやま ともき)の部屋は廊下の突き当たりにある。この廊下を五年間も歩き続けてきたが、一歩一歩がまるで刃を踏むような感覚だ。扉はわずかに開いており、隙間から淡い黄色の光が漏れている。そっと扉を押し開けた。部屋の中には天井の灯りはついておらず、隅に置かれたフロアランプだけがぼんやりと灯っている。薄暗い光の中、空気は濃いたばこの匂いで満ちて、それに混じってどこか甘く、言葉にしがたいムスクの香りが漂っていた。智樹はベッドの縁に腰を下ろしていた。上着を脱ぎ、白いシャツの襟元は三つのボタンが外れ、広い鎖骨と張りつめた胸筋が露わになっている。胸は荒く上下し、額の汗が顎のラインを伝って深灰色のスラックスに落ち、暗い染みを広げていった。物音に気づいたが、彼は顔を上げず、ただ指先でシーツを強く握りしめていた。息を殺し、裸足で一歩一歩彼に近づいた。この五年間、彼を恐れながらも、同時にどうしようもなく惹かれていた。「氷、持ってきたよ」彼の手が届くぎりぎりの距離で立ち止まり、まだ冷気を吐き出しているアイスバッグを差し出した。指先が彼の熱い掌に触れた瞬間、彼はふいに顔を上げた。いつもは冷ややかで、よそよそしかった彼の瞳が、今は真っ赤に血走っていた。その視線が、私の乱れた髪からゆっくりと滑り落ち、鎖骨をかすめ、寝間着の裾からのぞく裸足へと移る。喉仏が上下に動き、ごくっと、低く湿った音を立て
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