飛行機が着陸した時、南都市は小雨に煙っていた。湿り気を帯びた風が、見知らぬ街の独特な空気を運んでくる。瞳は深く息を吸い込み、キャリーケースの取っ手を強く握りしめた。新しい生活が、今、ここから始まるのだ。南都大学はこの南都市の中心に位置しており、広大なキャンパスには色づき始めた欅並木が続き、北にある都市とは違う穏やかで優美な雰囲気に包まれていた。瞳は入学手続きを済ませ、事前に申し込んだ学生寮の鍵を受け取ると、荷物を一つずつ整理していった。わざとスマホは見ないようにした。クラスのグループチャットでは、きっと今も蓮と桃果の話題で持ちきりだろう。でも、そんなことはもう自分には関係ない。新しいSIMカードに差し替え、役目を終えた古いカードは躊躇なくゴミ箱へ捨てた。翌日、寮の交流室が賑やかになった。寮生は全国各地から来ていて、個性豊かな面々だったが、皆根は優しい子たちだった。地元の名産を分け合ったり、新生活への期待を語り合ったり。瞳は微笑みながらみんなの話に耳を傾け、時折言葉を返した。見知らぬ人たちの中にいる疎外感が、逆に今まで感じたことのない種類の安心感をもたらしてくれた。サークルの新歓活動が、中央通りで盛大に行われていた。同じ寮の子に引っ張られて人波の中を歩いていた瞳の視線が、ふと少し離れた場所にある静かなテントに吸い寄せられた。ダンスサークルの横断幕の前で、瞳は、吸い寄せられるように足を止めた。「よかったら、ダンスに興味ある?」穏やかな声が聞こえてきた。声の主は白いシャツを着た男子学生で、胸にはサークルスタッフの名札を下げている。机の上の申込書を整理しながら、何気なく声をかけてきたようだった。その佇まいは、驚くほど自然体だった。「それは……」「うちのサークル、雰囲気いいよ。初心者でも全然大丈夫だから」男子学生が顔を上げて、瞳に視線を向ける。じろじろ見るわけでもなく、ただ友好的に申込書を一枚差し出した。「一枚書いてみない?来週簡単な面接があるけど、形式上の面接だから、そんなに緊張しなくていいよ」瞳は少し躊躇してから、用紙を受け取った。「ありがとうございます、先輩」「古江悠人(ふるえ ゆうと)。情報学部の三年」彼は微笑んで、手元のペンを取って渡してくれた。「こっちで書けるよ」その時
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