「あ―っ、参った!降参、降参です!」徹は観念したように両手を挙げた。「ここではただの、石ころ好きの現場作業員ですから」彼は一呼吸置き、声を落とした。少し気まずそうだ。「あと、俺さっき、口が滑りましたね?」光奈子は足を止めた。夜闇の中で彼女の瞳は、吸い込まれそうなほど澄んでいた。「……近藤室長が拉致された件を知ってるってこと?」徹の喉仏がごくりと動いた。隠し立ては無意味だと悟ったようだった。「……ああ。ここへ来る前、古川さんの噂を聞いたんです。本部最年少のシニアエンジニアなのに、自らこんな辺鄙な火山島への異動を願い出たと。どんな変わり者なんだと気になって、つい調べてしまったんです。でも、会ってみたら全然違います。あの日、砂嵐の中でサンプリングする古川さんを見るまでは、ただのエリート様だと思ってました。でもあなたは、暴風域で視界ゼロなのに、自分の身よりサンプル袋を守ってました」光奈子は指先のタコをそっと摩った。長年の野外作業が残した、消えない痕跡だ。ここ一ヶ月、辛い時にはいつも徹が「偶然」現れたことを思い出した。「ついで」に水を多めに持ってきたり、「たまたま」通りかかって重い機材を運んでくれたり。光奈子はようやく彼を振り返った。月明かりの下、この男の瞳は夜空のように深く、嘘がなかった。そこには哀れみなどなく、あるのは揺るぎない敬意だけ。「ねえ」突然、彼女は口を開いた。声には久しく感じなかった安らぎが含まれていた。「ここに来て一ヶ月、服部さんが初めてよ。『もったいない』って言わなかったのは」他の人は皆、本部から異動してきた光奈子を、「キャリアを棒に振った」、「前途を台無しにした」と嘆いた。「もったいない?逆ですよ。こんな過酷な場所に根を下ろせる人こそ、本当に強いんです。温室の花がいくら綺麗でも、荒地に根を張るヤシャブシには敵わないんです」徹は堰を切ったように早口で言った。「俺、ヤシャブシが好きなんですよ!見た目は地味な低木だけど、栄養のない荒れた土を豊かな森に変えていくんです……」突然、自分が何を言ったか気づき、少し耳を赤くしながら言った。だが今回は目を逸らさず、むしろ背筋を伸ばした。「だから……チャンスをくれませんか?古川さんと一緒に、この島で一番強いヤシャブシになるチャンス
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