* * * ――薬の影響か、すこしうとうとしていたみたいだ。 扉の向こうから、甲高い女性の声と、聞き覚えのある男性の声がかすかに聞こえてくる。 「……から、です……」 「の……!」 先ほどまで傍にいた早咲の姿はない。仕事に戻ったのだろう。 ただ花に囲まれた白い個室でひとり、長い時間を過ごすのは退屈なものだ。 ベッドサイドに置かれたポインセチアの鉢植えを見て、小手毬はふぅ、と溜め息をつく。 けれどその音は、荒々しく開かれたドアの音にかき消されてしまう。 「――なによ。死にぞこないのくせに!」「落ち着いてください、患者さんの前です!」 「これが落ち着けますか! 雪之丞は何も言わずに逝ってしまったのよ! 諸見里、貴方も知っていて陰で嘲笑っていたんでしょう? どうして彼女が生きていて、彼はあっさり死んでしまったの?」 真っ黒なワンピースを着た妙齢の女性は射殺しそうなまなざしを小手毬に向け、言い放つ。「この死神がっ……」 「言いすぎです、蘭子さんっ!」 ――しにがみ、ってあたしのこと? きょとん、とした表情の小手毬を前に、蘭子と呼ばれた女性は忌々しそうに舌打ちをする。「まるで子どもじゃない。生殖機能は無事だっていうけど……これ以上お金は出せない、出したくないわ」 「ですが……」 小手毬を見て子どもだと蔑む蘭子はそれだけ口にするとふん、と乱暴に病室に飾られていた花を奪い、床に放り投げ、黒いハイヒールでくしゃりと踏みつぶす。真っ赤なバラが、床に血のような花弁を散らす。 「あっ……!」 ――オソザキがくれたお花……っ。 ようやく表情を変えた小手毬を見て、蘭子は勝ち誇ったように告げる。 「亜流の桜庭家の小娘に教えてあげるわ。桜庭家はこれ以上貴女の治療費を出さないと決めたけど、亜桜の人間がこの先しばらくは入院費を立て替えるからすぐに強制退院になることはないわ。でもね、よーく覚えておき
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