くすくす笑う加藤木を不気味そうに見つめながら、陸奥は呟く。 「……守秘義務」 「露見なきゃいいのです」 「いやダメだろそれ」 「えー。だけど陸奥先生こそ気にならないんですか? 亜桜家の裏稼業」 「早咲が言ってたな……雪之丞の娘は“担保”だっていうあれか?」 「ひどいですねぇ、担保だなんて。だけど桜庭家が彼女を見捨てる決断をしたというなら、彼女の身柄も当然亜桜家のものになりますからねぇ。雪之丞は彼女を生かして利用したかったみたいだけど……」 生かして、という言葉の重さに陸奥は言葉を詰まらせる。 亜桜小手毬の両親に何度も懇願された「お金ならいくらでも出す」の滑稽さ。 彼女はなぜそこまでして生かされたのか? そして記憶を取り戻した彼女が「死にたがり」だという意味は? 苦悩する陸奥を面白そうに見上げて加藤木はさらりと告げる。「雪之丞が先に死んじゃったから、計画は頓挫。桜庭蘭子は賢いわ~。得体のしれない隠し子を見捨てることで亜桜家の裏稼業からもすっぱり足を洗ったんですもの」 「だからその裏稼業って」 「しー。下手すると殺されますよぉ。リハビリ室の扉、開いたままになってるんだから」 「……殺されるとは尋常じゃないな」 「何を今更。早咲先生はそれが怖くて脱落したようなもんですよ。あとをキミに押し付けて、ね」 「は?」 俺は何も聞かされてないぞ? と首を傾げれば、加藤木は素直にそうでしょうねと微笑む。 早咲が亜桜小手毬の主治医から退いたのは、加害者の女性と恋仲になったから。 けれどその裏側には、陸奥にも言えないほんとうの理由が隠されていた? 怪訝そうな表情の陸奥を見て、加藤木は言葉を続ける。どこか面白がっているようにも見えて癪に障る。 「早咲先生のことだから、陸奥先生なら大丈夫だろう、って思ったんでしょうね。見事に策に嵌ってますし。見ていて飽きないわ本当に」 「だから何だよそれ」 「あら珍しい。陸奥先生のお怒りの表情、なかなかカッコいいじゃない」 「話、を、そらすな!」 顔を真っ赤にして怒鳴りつければ、ごめんごめんと真顔に戻り、加藤木は声を落とす。 「患者として彼女を救うことは簡単だけど、それは真の意味での救いにはならない、ってこと」 「……救い?」 「そ。諸見里くんはどんな道を選ぶかねぇ~」
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