「それで、彼女に白羽の矢が立ったのか?」 「さあね。雨龍ならもう情報手にしているかと思ったんだけど、狸はまだ何も言っていないのね」 地域医療センターでは診療領域で問題があるからと、茜里を勧めたのはきっと天の父親だろう。彼は小手鞠を保護するという名目のもと、転院を強要させたに違いない。死にたがりの彼女を生かしつづけるため。 ーーそして、あわよくば彼女の腹に雨龍の子を孕ませるため。 前時代的な信仰が息づくこの地域では、選ばれし女神の器に優れた男を差し出すという奇妙な風習が残っている。子を為せば一族の栄華が約束され、諸神の一員として迎えられる……けれど、諸神を裏切った人間との間に子を為させることは、この世の終焉に値するとも信じられている。「ああ」 「……諸見里に気をつけて。彼らに奪われることだけは避けなくてはいけない。それならば雨龍、あなたが」 「よせよ。十八の小娘、しかも高次脳機能障害が残ってるんだろ? 俺にそんな趣味はない」 「……どうかしら。最悪の事態としてよ、それは」 「最悪の事態に陥ったら、ねえ?」 「あの狸はとりあえず器が使えるか判断したいだろうから……そうじゃなければあたしを放逐した意味がない」 「俺が拒否したら?」 「別の人間にお鉢が回るんじゃない? そうねぇ……」 ふと天の脳裡に浮かんだのは彼女の担当医としてここまでついてくることになった同僚の麻酔科医、陸奥允だ。 彼はまだ、彼女の存在意義を知らない。この異質な病院に毒されて、または狸に唆されたら、彼は諸神から追われる彼女を守る騎士に成り得るだろうか。「うちから担当医として麻酔科医が来るわ。彼を利用するか……」 「事情を知らない一般人を巻き込むのもどうかと思うが……まぁ、心に留めとくよ。そうは言っても狸の命令には表立って逆らえねぇからな……なるべく彼女が苦しまないよう、考えてはおく」 「雨龍」 「けど、狸も強情だよな。そこまでして彼女を……女神を赤根の家に縛り付けようとするなんて」 「それに気づいたから、桜庭蘭子は雪之丞が隠していた娘を切り捨てたのよ。彼
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