もともと絢子は、どういう理由をつけて咲夜と二人きりで話をすればいいのかと悩んでいた。今、千暁が咲夜と同じ病室にいることも知っている。ところが思いがけないことに、エレベーターを待っていたところで偶然にも咲夜と鉢合わせた。せっかく巡ってきたこの機会を、絢子が逃すはずもなかった。千雪はすぐに断ろうとし、咲夜を絢子に近づけまいとした。しかし咲夜は絢子と目を合わせると、「あっちで話しましょう。ここに立っていたら邪魔になりますから」と言った。今、咲夜はまだエレベーターの中にいて、絢子はその外にいる。どう考えても、落ち着いて話をするのに適した場所ではなかった。その言葉を聞いた絢子は、体を横にずらして道を空けた。千雪は咲夜に促され、車椅子を押してエレベーターから出る。絢子はそのあとについていき、観葉植物のそばに小さな丸テーブルと二脚の椅子が置かれた休憩スペースの一角までやって来た。咲夜は千雪を見て言った。「小林さん、悪いけど水を一本買ってきてくれる?」千雪は心配そうな表情を浮かべた。「花江さん、やっぱり私もここに残りましょうか?」そう言いながら、警戒するように絢子へ視線を向ける。咲夜は大丈夫だと伝えるように目で合図した。それを見て、千雪はようやくその場を離れたものの、何度も振り返りながら少し離れたところにある売店へと歩いていった。絢子は鼻を鳴らした。「あなたのアシスタント、ずいぶん忠実なのね」千雪が自分を警戒していることくらい、絢子にも当然分かっていた。まるで次の瞬間にも絢子が感情を爆発させ、咲夜に危害を加えるのではないかと疑っているような目だった。以前の絢子なら、そんな偏見に満ちた視線をひどく気にしていただろう。天志に精神疾患を理由に治療施設へ送り込まれ、治療を受けさせられたことを、彼女は今でも覚えている。退院したあと、周囲の人々から向けられる視線が針のように突き刺さり、ひどく居心地の悪い思いをしたものだ。けれど、何度も繰り返されるうちに、絢子もすっかり慣れてしまった。今では、周囲から狂人扱いされることを、それほど恥ずかしいとも思わない。どうせここまで来てしまったのだ。狂人なら狂人で構わない。むしろ狂人というのも悪くない。少なくとも、狂っていると思われれば、何をしてもまともには扱わ
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