千暁は咲夜をそっと車椅子に座らせると、そのまま真澄のいる方に押していった。「様子を見に行こう」陽向は何日も意識を失ったまま、ずっとICUで生命維持装置につながれ、かろうじて命をつないでいた。ひとまず、目を覚ましたのはよかった。ただ……目を覚ましたタイミングが、あまりにも出来すぎていた。今日はちょうど、瞳と恭介の婚約の日だった。咲夜は千暁をちらりと見た。「さすがに今の陽向に、ICUを抜け出して止めに行くような力は残ってないよね」もともと咲夜も、瞳が言っていた婚約は、ただ時間を稼ぐための口実にすぎないと思っていた。しかし、瞳本人から婚約するのは事実だと聞かされた。ただ、それ以上のことは何も話そうとしなかった。そして今日ほど大事な席となれば、瞳の母親である絢子も当然出席するはずだった。絢子は三日前、すでに東雲メンタル医療病院から連れ出されていた。ただ、精神状態はあまりよくないらしい。迎えに来た天志に連れ出された時もひどく意識が混濁しており、危うく彼に怪我をさせるところだったという。千暁は咲夜を見ながら答えた。「それは何とも言えないな。愛の力は偉大だから」それを聞き、咲夜はため息をついた。「愛のせいで何もする気力がなくなることもあれば、逆に生きる力が湧いてくることもあるものね。自分の力で乗り越えてくれればいいんだけど」話しているうちに、千暁は咲夜をICUの前まで連れてきていた。咲夜はわずかに開いた扉の隙間から、中の様子を覗くことしかできなかった。陽向は確かに目を覚ましていたものの、容体は依然としてよくなさそうだった。全身から生気が抜け落ちたようで、生きようとする意志さえまるで感じられない。咲夜の視線に気づいたのか、彼は苦しそうにゆっくりと顔をこちらに向けた。虚ろだった目に一瞬だけ何かが宿ったものの、そこにいたのが咲夜だと分かった途端、その光は跡形もなく消え去った。陽向の絶望に沈んだ目に、自嘲めいた色がかすかに浮かんだ。そして、最後に残っていたわずかな光さえ消えた。彼はゆっくりと目を閉じた。次の瞬間、機械のけたたましい警告音が鳴り響き、その音がいつまでも咲夜の耳から離れなかった。咲夜は大きく目を見開いた。彼女の目に最後に映ったのは、ベッドの脇に力なく垂れ落ちた陽向の手だった
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