土曜日の夜。 鷹宮はクライアントとの会食を早めに切り上げ、ゴルフ場からそのまま劇場へと向かった。到着した時には、陽菜はすでに一階ロビーで待っていた。「ごめん、陽菜さん。待たせたかな」「いえ、鷹宮さん。ちょうど今、入場が始まったところです」 陽菜は今日、肩元にリボンのあしらわれたニットに、小花柄のロングスカートを合わせ、その上からキャメル色のコートを羽織っていた。柔らかな色合いが彼女によく似合い、いつも以上に目を引く装いだった。 鷹宮も思わず視線を留め、素直に口にする。「その格好、すごく似合ってるね」「あ、ありがとうございます……」 褒められた瞬間、陽菜は思わずコートの袖をきゅっと掴み、うつむきがちに礼を言った。 その頬は、ほんのりと色づいている。 鷹宮にミュージカルへ誘われてから、まだ一週間ほどしか経っていない。 それでも陽菜にとっては、毎日が夢のようで、胸が浮き立つばかりだった。この日が来るのを待ちきれず、それでいてどこか現実味がないほどに。 やがて開演が近づき、ロビーには入場待ちの列ができ始める。 鷹宮は陽菜を伴って最後尾に並び、スマートフォンを取り出して、一条から送られてきたチケットの認証コードを表示させた。 このミュージカルは、鷹宮が最も好きだと言っていた作品だ。 二十年前からロングランを続け、映画やドラマといった派生作品も数多く生まれている。ミュージカルに詳しくない陽菜ですら、その名を耳にしたことがあるほど有名だった。 そして実際、鷹宮がこの作品を特別に思っていることは明らかだった。普段は感情の起伏をあまり見せない彼だが、今はどこか浮き立つような気配がある。 劇場は広く、入場を待つ列は幾重にも連なり、ロビーには人々のざわめきが絶えず満ちていた。 陽菜は静かに彼の隣に並び、ときおりそっと横顔を盗み見る。柔らかく微笑むその表情を見ているだけで、時間があっという間に過ぎていくようだった。 上演が始まると、陽菜は一瞬たりとも見逃すまいと、息を詰めるようにして舞台を見つめた。鷹宮が好きだと言っていた作品だからこそ、余計に真剣になってしまう。 やがて幕間。「ごめん、少し席を外してもいいかな。電話とメールを確認してくる」 鷹宮は申し訳なさそうにそう言って席を立った。 陽菜はひとり席に残り、入場時にもらったパンフレットをめ
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