突然現れた一条に、陽菜は思わず勢いよく立ち上がった。その拍子に、テーブルの上のカップを倒しかけるほどだった。 心臓が一気に跳ね上がり、呼吸が一瞬乱れる。表情にも、隠しきれないほどの驚きが浮かんでいた。「えっ?!どうして……」「はは、藤野。今どんな顔してるか、自分でわかってるか?」 ガラス越しに、一条が再び声を立てて笑う。その声は互いの手にしたスマートフォン越しに届き、直接向き合っているときとは違う、不思議な距離感を伴って響いた。 短く言葉を失ったあと、陽菜は店を出ようとする。だがその動きを、一条がすぐに片手で制した。 そのまま彼は足早に店の入口へと向かう。ドアを押し開けた瞬間、入口のベルが澄んだ音を立てて軽やかに鳴った。 陽菜はその場に立ったまま、一条がこちらへ歩いてくるのを見つめる。 途中、カウンターの奥にいた店主が彼に気づき、親しげに声をかけた。「よお、修司くんじゃないか。久しぶりだな」「店長、お久しぶりです」 一条は軽く手を上げて応じると、そのまま自然な足取りで、ためらうこともなく陽菜のもとへ歩み寄る。「い、一条くん……こんなところで、偶然ですね……?」「まあな。もしマンションの下でそのまま降りてたら、お前がここにいるのは見つけられなかったけど」「一条くんは……どうしてこの辺にいるんですか?」「散歩」 簡潔に答えたあと、一条はすぐに思い直したように言葉を付け足す。「……いや、正確には違うな。凌がこの近くで新しい取引の打ち合わせしてるからさ、その間、ちょっと時間潰してただけ」 陽菜の問いに対して、珍しく一条は回りくどい言い方をせず、あっさりと事情を明かした。 それは単に機嫌がいいからなのかもしれない。 出会ってからずっと、彼の表情には途切れることなく笑みが浮かんでいた。 昨日、鷹宮が試作品を渡しながら何気なく口にした「修司の新作は順調らしい」という言葉が、ふと陽菜の頭をよぎる。 おそらく一条が上機嫌な理由も、それで説明がつくのだろうと、陽菜はそう思った。 二人の会話の合間に、店内のBGMがちょうど一曲終わる。 それまで流れていたピアノ主体の穏やかな曲が途切れ、次に流れ始めたのは、しっとりとした英語の楽曲だった。 やわらかく、どこか癒やしを含んだ男性の声が、ゆっくりと歌い出す。 その旋律を耳にした瞬間、陽菜の
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