花束を抱えたまま一条と並んで街を歩いていると、まるで自分たちが恋人同士であるかのような光景に思えてしまう。 おそらく一条の外見があまりにも目を引くせいだろう。彼と一緒に歩いていると、通りすがりの人たちがふとこちらを振り返る視線を、陽菜は何度も感じた。普段目立つことのない生活に慣れている彼女には、それが少し落ち着かない。 一方の一条は、そんな周囲の視線などまるで気にしていない様子だった。歩く足取りは終始ゆったりとしていて、急ぐ気配もない。まるでどこかへ向かう途中というより、この時間そのものを味わうために歩いているかのようだった。 肩の力も抜けていて、時おり思い出したように鼻歌を口ずさむ。気分が乗ったときだけ、ふっと短く旋律がこぼれるような、そんな自然な鼻歌だった。 そのうちの一つは、陽菜にも聞き覚えがあった。最近ネットでよく流れている人気の曲だ。 二度目に口ずさんだ旋律は、陽菜には聞き覚えのない曲だった。けれど、一条の低く落ち着いた声で紡がれると、それだけで不思議と耳に残る。 ただの鼻歌のはずなのに、音程はきれいに整っていて、どこか柔らかく響く。 きっと、きちんと歌えばかなり上手いのだろうと、陽菜はなんとなく思った。 陽菜もつられて歩く速度を少し落とした。 一条が鼻歌を口にするのはほんの短い間だけで、どうやら特別に歌っているわけではなく、ただ気分が緩んでいるときに無意識で出てしまうものらしい。 だから陽菜が声をかけたとき、一条は一瞬きょとんとした顔をした。自分が鼻歌を歌っていたことを思い出すのに、少し時間がかかったようだった。「さっきの歌、何の曲ですか?」「さっきの? ああ、外国の曲。留学してた頃によく聴いてたから、なんとなく覚えてるんだろうな」 一条は曲名を口にした。外国語のタイトルだったが、陽菜は忘れないよう頭の中でそっと繰り返した。「とてもいい曲ですね。私は初めて聴きましたけど……」「藤野は普段、どんな音楽聴いてるんだ?」 一条の問いは、ごく自然な流れで投げかけられたものだった。 陽菜も特に深く考えることなく、ただの何気ない会話として受け取った。「学生の頃は、流行りの曲をよく聴いてました。ネットで流れてきて気に入った曲をしばらく繰り返して聴く感じで……特別に追いかけている歌手とかはあまりいなくて。だから大人になってからは、
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