「わざわざ来てもらう必要はないわ。父は望月家とも、あの女とも、とうの昔に縁が切れているのよ。これ以上、父の穏やかな生活を邪魔しないでちょうだい」言い捨てるなり、楓は電話を切った。一方の琉生は、すぐに沙弓の番号へ発信した。「……何の用?」電話に出た沙弓の声は冷淡で、微かな不機嫌さが混ざっていた。「叔母さん、もしかして楓の父親のところへ行ったのか?」「……どうしてそれを知っている?」「たった今、楓から怒りの電話があったよ。あんたに激怒させられて、父親が倒れたそうだ。今も病院で意識が戻らないらしい」電話の向こうで二秒ほどの沈黙があり、やがて嘲笑を含んだ声が返ってきた。「私が楓をM国へ連れて行くことと、昔の出来事を少し話して聞かせただけだ。たったそれだけで倒れるなんて、随分と打たれ弱い男だな!」琉生は深々とため息をついた。「叔母さん、あの人とは離婚してもう何年も経っているんだ。わざわざ会いに行く必要なんてなかっただろう?もしあの人に万が一のことがあれば、楓は絶対にあんたを恨むことになるぞ。忘れないでくれ、楓はあの人に育てられたんだ。彼女にとって、父親への愛情はあんたへのそれよりも遥かに深いんだぞ」沙弓は鼻で冷笑した。「あの子が私をどう思おうと知ったことか。私が機嫌を取ってやるとでも思っているなら、大間違いだ」「ここへ来る前は、楓と上手くやると約束していたじゃないか」電話の向こうが静まり返った。しばらくして、沙弓がようやく口を開いた。「……分かった。もう恒一に会いに行くつもりはない」そう言い残し、彼女は一方的に通話を切った。琉生はアシスタントに電話をかけ、恒一が搬送された病院を調べさせた。すぐに病院名と病室番号が送られてきた。着替えて見舞いに行こうかとドアまで歩きかけたが、ふと何かを思い出し、足を止めて再びアシスタントに電話した。「……木村さんの病室に、手土産を見繕って届けておいてくれ」「かしこまりました」電話を切り、琉生はデスクに戻って仕事を再開した。一方、病院の病室。楓が待つこと一時間余り、ようやく恒一が目を覚ました。楓は慌てて医師を呼び、父の容態が安定していることを確認して、ようやく安堵の息をついた。「お父さん、気分はどう?どこか苦しいところがあったら言ってね
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