指示を待つのではなく先回りして、自ら情報収集を進めていると――。『PAN-PAN PAN-PAN PAN-PAN. Tokyo control, JAK073』 「えっ?」穣が、短い声をあげた。 私はキーボードに走らせていた指を止め、彼の方に顔を向ける。『JAK073, Tokyo control. Go ahead』彼のデスクから漏れ聞こえてくるのは、常時モニタリングしている、巡航中の機体と管制塔の無線交信だ。 三回繰り返されたPAN-PANコール……遭難信号に当たる『メーデー』を発する一歩手前の、準緊急事態に陥ったことを伝える、航空無線における緊急用語だ。 『メーデー』ほど切迫していないものの、巡航を続けるにあたって、なんらかの障害が発生した際に使用される。今まさに、空のどこかで緊急事態が起きている。 私は、思わず息をのんだ。穣の厳しい横顔に見入り、弾かれたように立ち上がる。 彼の背後に回り、モニターを覗き込んだ。フライトレーダーが展開されている。 管制塔にPAN-PANコールを発信したのは、十分ほど前に離陸した伊丹行きJAK73便。 現在、伊豆半島付近を巡航中。 機長は久遠さんだ。抑揚の感じられない低い声。 時々走るノイズに邪魔されながらも、私より数秒早く英語によるやり取りを理解した穣の横顔に、確かな緊張が走る。羽田を離陸して五分ほど後、機体に衝撃があったそうだ。 その影響か、右エンジンが停止したと言う。『Tokyo control, JAK073, Request emergency landing to Tokyo-Haneda』久遠さんが羽田空港への緊急着陸を要請するのを聞いて、私の背筋にゾワッと戦慄が走った。 周りのデスクのディスパッチャーたちも、異変に気付いたようだ。 何人かが席から立ち上がり、こちらを注視している。 73便担当の穣は、モニターにサッと視線を走らせた。『JAK073, Control Roger. Contact Tokyo approach 119.10』『Roger』管制塔が要請に応じ、着域管制席の周波数を伝える横で、リーダーの手塚さんが駆け寄ってくる。「氷室。73便、なにが起きた」穣は、彼には視線を向けずに、「管制塔に、PAN-PANコールを発信しました。原因究明要
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