「! ちょっと、瞳っ」「誘惑の暖簾?」隣で腰を浮かせた理華を遮るように、私は首を傾げた。「洗濯物、干しっ放しにしてたのよ。おかげで水無瀬君、部屋に入った途端に、ズラッと干されたブラジャーにお出迎えされたって」「~~っ!」理華は茹った顔をして、ストンと腰を落とす。 私はわずかにポカンとしてから、「ぷ」小さく吹き出す。「ふふっ……はははっ、理華らしい!」肩を揺らす私の隣で、彼女が「もう」と頬を膨らませる。「フライトで一緒になった瞳に話す、透も透だけど。藍里にまで暴露する瞳も瞳……」「いいじゃない。その時の水無瀬君、すでに理華にメロメロだったんだから」彼女からジロッと睨まれても、瞳は涼しい顔でジョッキを傾けていたけれど。「でも、そういう二人が、瞳のキューピッドじゃない? 整備士の佐伯君……」私が話の矛先を向けると、ブッと噴いた。 顔を横に背け、ゴホゴホと噎せ返る彼女の前で、理華が「そう!」といきり立つ。「佐伯君のメールアドレス知ってたのに、いきなり連絡できないって。佐伯君も照れちゃって、二人きりにされたら、どうしていいかわからないって言うから、透と私と四人で合コンしてね……」「すみませ~ん! オーダーお願いしま~す」私の方に身を乗り出して、意気揚々と話し出すのを、瞳が身を捩って後ろを向き、声を張って阻んだ。「あ。ズルーい」理華は唇を尖らせているけど、オーダーで誤魔化す瞳は耳まで赤い。「はは。……二人とも、いいなあ……」 私は、眉をハの字に下げて、独り言ちた。 瞳の彼は、同期の航空整備士、佐伯君だ。 二人のパートナーが共に同期のせいか、ついつい自分に重ね合わせてしまう。台風対応でドタバタだった、あの夜から十日ほど――。 私は一度、氷室君に抱かれた。身体を対価に手に入れたのは、『時々でいいから、休憩中一緒に食事する』……という権利。 本当は、もっと彼に望むことがあるのに、断られるのを恐れて踏み込めない。運航管理部の同僚には、『だいぶ打ち解けてきたね』と言われた。 とは言え、それまでがそれまでだったから、これでやっと『同じ職場で働く同期』っぽくなったという進歩でしかない。実際は、なにを交換条件にしたら拒否されないか。 そこで終わりにされないか。 慎重に考えて、本当に言いたい条件を口にするのを、先に延ばしている。
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