บททั้งหมดของ 地上のパイロットは同期の私に塩対応が過ぎる: บทที่ 41 - บทที่ 50

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第 41 話

まるで他人事のように、淡々と語る……彼の心には、さざ波すら立っていない。 だけど――。「……やっと吹っ切ったんだよ。好きになるのと同じだけ時間かけて、やっと……」言っているうちに、彼は徐々に俯いていく。 声帯が圧迫されて、その声は力を失い小さくなって消え入った。 普段の彼からは信じられないくらい、弱々しい声――。なのに、抑揚を殺した口調だから、かえって、彼が恋に破れて心に負った傷が、痛々しいほど浮き彫りにされる。唇に腕を当てたせいで、吐き捨てるような言葉がくぐもって聞こえる。 胸が詰まり、私は言葉を失った。「なのに、さ」氷室君が、ポツリと続けた。「あの人……半年くらい前から、縁りを戻そうって言い出して」「……っ、え?」聞き返した声が喉につかえたのは、瞬時に理解できなかったからだ。 氷室君は、片足をベッドにのせて抱え込み、肩越しに私を振り返った。「なあ。八巻さんも、さ。俺って、そんなにいい?」皮肉げに口角を上げて問われた意図がわからず、戸惑って瞬きで返す。 特段、真面目な回答を求めていたわけじゃないようだ。 彼は私の返事を待たず、顔を正面に戻した。 抱えた膝に顎をのせ、小さく背を丸めて、「旦那じゃ満足できないから、俺がいいんだって。……男としちゃ、光栄だな」なにかを蔑むようでいて、自虐的にふっと鼻で笑う。「っ、氷室君」なにを言おうとしたかは、わからない。 だけど、氷室君が立花さんのことを本当に好きだったのがわかるから、彼女の言葉に惑わされているなら止めなきゃ、という思いで気が逸った。「ダメ、そんなのダメ」ベッドに突いた彼の腕を、両手でギュッと握りしめた。 力がこもり過ぎて、血の気を失った手が、カタカタと震える。 氷室君は、顎を引いてそこに目を落とし――。「言われなくたって、わかってる。だから、ちゃんと突っ撥ねた。……それはこの間、あんたも見ただろ」溜め息交じりの声を聞いて、私はそっと彼の横顔を見上げた。「ただ……わからない。わからないんだよ、俺には。自分の将来設計には必要ないって切り捨てておいて、今さら……あの人がなに考えてんのか」自分の言葉に同調するように、彼の瞳が揺れる。「わからなすぎて、この半年、気付くとあの人のことを考えてる。……本当に、もう好きじゃないんだ。縁りを戻す気も、サラサラない。だけど
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第 42 話

代わりになんかされてない。 だって、最初から、氷室君の目に私は映ってなかったんだから。私は、代わりにすら、なってなかった――。 無力なだけじゃない。 彼にとって無意味な存在でしかない自分が悲しくて、苦しくて、やるせなくて……。「!? 八巻……」私は、氷室君が怯むのも構わず、力任せにこちらを向かせた。 視界の真ん中に、大きく目を見開いた彼を焼きつけて、目蓋を閉じる。「っ」唇がぶつかった途端、氷室君が一瞬息を止めた気配が伝わってきた。 それでもお構いなしに、薄い唇を舌でこじ開けた。「んっ、やま……」珍しく、氷室君がキスの途中で声を漏らす。 滅多に聞くことのない色っぽい声に、背筋にゾクゾクとした戦慄を感じながら、私は追及の手を緩めず、グイグイと追い詰めていき……。「氷室君、私を見て」唇を離して、声を絞り出した。「立花さんで頭も心もいっぱいにしないで、私を」凶暴なくらい、一気に胸に込み上げてきたなにかで、声が詰まる。 泣きそうに顔を歪める私を、氷室君がベッドに仰向けになって見上げている。 その喉元で、男らしい喉仏が上下した。 私は鼻の奥の方がツンとするのを堪え、彼の胸に突いた両手をぎゅっと握って震わせた。「氷室君。私、氷室君のこと、好……」胸いっぱいにせり上がった色々な感情に突き動かされ、迸らせる途中で――。「言うな。聞きたくない」氷室君が、大きな手で私の口を塞いでいた。 低い声で阻まれ、言葉にできなかった想いを、ゴクッとのみ下す。 瞬きも忘れて、ただバカみたいに彼の顔を見つめた。氷室君は片手で私の両手を纏めて掴み、自分の胸から離させると、ゆっくり上体を起こした。 そして、脱力してペタンと正座した私を上目遣いで見据え……。「本気になると、心も身体も振り回される。自分のこともわからなくなるほど、溺れてもがく……。俺、もうそういうの嫌なんだ」まるで、言い含めるようにゆっくり言って、手を放す。 私は、力なく腕を落とした。 目を見開いたまま呆然とする私から、氷室君は目を逸らす。「今まで、ごめん。明日からは、指導担当替えてもらえるよう、俺からリーダーに掛け合っておく」淡々と言って、ベッドから降りた。 サイドテーブルから取り上げた眼鏡を、スッと片手でかける。 軽く背を屈めて、リュックと上着を床から拾い上げた。
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第 43 話

泣いた。 辺りを気にすることなく、まるで子供の頃のように、わんわん声をあげて。 顔を突っ伏した枕がグショグショになるほど、涙を流して。喉が嗄れて、泣き声も出なくなるほど。 涙が枯渇して、全身の水分が失われ、干上がるかと思うほど。 思いっきり泣いて、力尽きて泣きやんだ。ゴロンと寝返りを打って、ベッドに仰向けになる。 天井を仰ぎ、お腹の底からはーっと息を吐いた。最後の嗚咽の余韻のように、ひくっと喉が鳴る。 もう、しゃくり上げる力も残っていなかった。 目の上に両腕を翳し、閉じた目蓋に力を込める。「言うな、ってなんなの。真剣なのに、言わせてもくれないなんて、酷い男……」実際に声になっていたか、それともそういう形に唇が動いただけかはわからない。 だけど、意識してはっきりと彼を詰れたおかげで、少しだけ気分が晴れる。そうよ。 あんな酷い男、仕事以外で尊敬する部分なんて、なに一つない。 いくらずっと憧れていたディスパッチャーだからって、一度寝ただけで変な情が湧いて好きになるなんて、いい年してどうかしてた。いや、それだって錯覚だったかも。 氷室君と、二度目の夜。 あの時の私は、身体は疲れてるのに、頭は冴えて気持ちが高揚していた。 心と身体、脳みそがバランスを欠いて、明らかに尋常じゃなかった。私は、彼の意味深な言い回しを、誘われたと勘違いして期待した……なんて方向に、意地悪に誘導されただけだ。 いっそ、心を巧妙に操作された、と言い切ってもいい。今日だって、頭の中で脳神経が一本切れたような、興奮状態だった。 氷室君は、恋愛に本気になるのは嫌だと言った。 私は適当な遊び相手でしかなかっただろうし、『好き』なんて口走らなくてよかった。 ――止めてもらえて、よかった。「っ……」冷静になって導き出した結論は、絶対正しいと思うのに、彼を詰る私の心は張り裂けそうだった。 彼を悪者にして、自分を肯定しようとすればするほど胸が痛み、なんの慰めにもならない。だって今なら、私もよくわかる。 私が運航管理部に異動したのは、すでに立花さんが、氷室君に復縁を求めていた頃だろう。 自分の都合で氷室君を振っておいて、今もまた、自己中心的に彼を欲しがって。氷室君は、気持ちでは強く突っ撥ねていても、あまりに彼女を理解し難いせいで、思考回路を占領される。
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第 44 話

『俺みたいになるな』というのは、きっと――。 私への、塩対応。 あれは――彼なりの、思いやりだったんじゃない……?私は目の上の腕を退かし、ぼんやりと目蓋を持ち上げた。 視界から遮断していたのは少しの間なのに、天井の明かりがとても眩しい。 それでも私は、降り注ぐ光を求めて、身体を起こした。ボロボロに傷つけられたのに、氷室君を悪く思えず、『優しい人』なんて思考を転換してしまえるくらい、私は彼のことを好きになってしまったんだろうか。 どんなに素っ気なく、冷たくされても、隣で仕事をする彼に憧れを募らせて。 そこから芽生えた、彼個人への好奇心が、恋心に昇華した。 あっという間に、盲目になってしまうほど――?自分に問いかけ、どんなに答えを探しても、反論材料が浮かんでこない。 だから私は、潔く諦めた。 どこか清々しい気分で、ぎこちない笑みを浮かべた。声が嗄れて、涙が枯渇するまで泣いても、彼のせいではない。 全部私の自己責任だから……私は、氷室君から離れたくない。「……うん」自分の決断に強く頷いて同意して、胸元でシャツをぎゅっと握りしめた。なによりも、自分の感覚と心に忠実に。 私は改めて想いを強くして、次の日、遅番シフトに就いた。 午後一時にオフィスに入り、業務を開始する準備をしていると。「おい」隣のデスクにドサッと物が置かれ、同時に、やや硬い声が聞こえた。「あ。氷室君、おはよう」私は手を止めて顔を上げ、いつもと変わらない挨拶を返した。「今日も、ご指導よろしくお願いします」いつもよりちょっと意識して元気に付け加え、返事を待たずにデスクに向き直る。 パソコンのキーボードに手をのせ、指を走らせようとした途端、いきなり肘を掴まれた。「え?」一瞬ドキッとして、今度は上体を捩って振り仰ぐ。 氷室君は、私のすぐ傍に立っていた。「あんた、なんで」急いた様子で口走る途中で、人の耳を気にしたのか、辺りに視線を走らせる。 口を噤んで大きな柱にかけられた壁時計を見て、私の腕を強く引っ張った。「ひゃっ」力任せに立ち上げられて、私は足をもたつかせた。「ど、どうしたの。氷室く……」「あと二十分あるから、ちょっと来い」氷室君は私を無視して、有無を言わせずに手を引く。「え、ちょっ……!」私は、デスクと彼の背中を交互に見遣りながら、半分引
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第 45 話

忌々しい……より、困惑が強い瞳で、私を射貫く。 私はきゅっと唇を結んで、背筋を伸ばしてまっすぐ彼に向き合った。「うん。氷室君が掛け合うより先に、私がお願いした」「なんで」「私は、氷室君に指導を継続してほしいから」淀みなくきっぱり告げると、氷室君は虚を衝かれた様子で瞬きを繰り返す。 そして、「意味がわからない」理解できない苛立ちか、前髪をザッと掻き上げた。 テンプルを摘まみ、軽く眼鏡の位置を直しながら、レンズの向こうから私を見据えてくる。「俺以上に、あんたの方がやりづらいだろ。だから俺は……」「やりづらくなんかない。言ったでしょ。私は氷室君のバディになりたいって」私はここでも怯まず、惑い揺れる彼の声を遮った。「その気持ちは、なにがあっても変わらないよ。氷室君も、私を育てるって約束してくれたでしょ?」決して変わることのない、強い意志を持って見つめ返す私に、氷室君はこくりと喉仏を上下させる。 言葉を探すように目を逸らしたものの、結局見つからなかったのか、口元を手で覆って黙り込む。 その反応を最後まで確認して、私は大きな深呼吸で自分を鼓舞して、「ありがとう。氷室君」はにかんで、お礼を告げた。「……は?」氷室君は、たっぷり一拍分の間の後、口から手を離して短く聞き返してきた。 お礼を言われる筋合いはない、とでも言いたいのか、怪訝そうに眉根を寄せる。 私は両手を背中に回し、グッと胸を反らした。「氷室君、私のために、塩対応を徹底してくれてたんでしょ?」「え?」「異動初日で、私がいきなり、氷室君のこと憧れなんて言ったから。最初から予防線を張って、キープアウトしてた」小首を傾げて答える私に、氷室君が目を瞠った。 だけどすぐに、ハッとしたようにふいと視線を外す。「違う。ちゃんと言ったろ。俺は、指導が面倒臭いから」「うん。もちろん、根っから指導嫌いで、自分でやった方が早いって言ったのも、間違ってないと思う」それには、同意の相槌を打って、「でも、あんなに徹底して、私を寄せつけないようにしたのは、私が氷室君のことを好きになるって、確信があったから」私がそう断言すると、彼は一瞬意表をつかれたようにポカンと口を開けた。 でも、すぐに気を取り直し、自嘲気味に浅い息を吐く。「なんだ、それ。俺が初対面で、『コイツ絶対俺のこと好きになる』
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第 46 話

「氷室君……俺みたいになるなって、言ったじゃない?」ポツリと続けた。「あれ、どういう意味だろうって考えて、わかったんだよ」「え?」「憧れから発展した恋に溺れる気持ちも、破れた恋にもがく苦しさも、不可抗力な嵐に掻き乱される混乱も、氷室君自身が痛いくらい経験済みだから」氷室君が、警戒心を研ぎ澄ませた空気を、肌で感じる。 私が顔を上げると、目が合うのを避けるように、睫毛を伏せた。「ごめんね。恋に本気になるのが嫌な氷室君に、特に業務上……関わりがある相手なんて、迷惑だったよね。これで終わりにするから、一度だけ聞いて」私は彼にとって、立花さんと変わらないくらい、自分勝手なことを言おうとしてるかもしれない。 そういう自覚があるから、一度唇を結ぶ。 それでも決意を強めて、彼をまっすぐ見つめた。「私は氷室君に憧れてて、同じ職場になってからは尊敬した。あなた自身にもっと近付きたいって思った」氷室君は、ゆっくり私に視線を戻した。 私がなにを言おうとしているか、鋭く見抜いているのに、揺れる瞳。 だけど、昨日のように、口にする前に阻止されはしない――。 私はそう確信して、一歩踏み出した。「俺みたいになるなって言われたけど、ちょっと無理みたい。私も、氷室君と同じ。憧れて憧れて、好きになった。私と氷室君、似てるみたいだから」目を逸らさず、まっすぐ彼の心に訴えかける。 彼の眉尻が、ほんのわずかに下がった。「……八巻さん。俺は」どこか途方に暮れたように、口を開くのを見て、「あ、いいのいいの! 返事しなくていいし、記憶に留めないでいいから!」私は両手と首を横に振って、彼を止めた。「今のは、自己満足というか、所信表明」「所信表明?」「氷室君の優しさ、無駄にしない。私は、溺れてもがいたりしない。今後は余計なことを考えずに、氷室君の絶対的バディを目指して邁進する所存です」早口で捲し立てすぎて、心拍数が上がっていた。 両手を胸に当て、何度か大きくスーハーと深呼吸して、鼓動を鎮める。「えっと……だから、これからも私の指導、よろしくお願いします」一人で盛り上がってしまった。 気恥ずかしさを誤魔化そうと、私は勢いよく頭を下げた。顔を上げると、氷室君は手で口元を隠して、視線を横に流していた。 私が返事を待って、窺う気配が伝わったのか、ハッとした顔をして
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第 47 話

氷室君から、『よろしく』と言ってもらえるなんて、夢にも思わなかった。 大きく目を見開いて、バカみたいに彼を凝視してしまう。「……なんだよ」「! ううん」どこか居心地悪そうに、ムッと唇を結んで問われ、慌てて首を横に振った。 ――憐れみの優しさかもしれない。 でも、これで、口にできずにのみ込んだ私の想いも、少しは浮かばれる気がした。 不覚にも、鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなってくる。 涙が込み上げてくるのを自覚して、「じゃあ、この話はこれでおしまい!」私は無理矢理声を張った。 彼の横を通り過ぎながら、その腕をポンと叩く。「戻ろう。氷室君」氷室君がそこを見下ろすのを横目に、ドアの鍵を開けた。 休憩室から通路に出るまで、辛うじて浮かべていられた笑顔が、一歩踏み出した途端に歪む。おしまいになんか、できっこない。 今、この瞬間にも、彼への想いは膨らんでいく一方なのに。 だけど、今の私じゃ、想いを聞いてももらえないから、一刻も早く、頼もしいディスパッチャーになれるよう頑張る。 運航管理部のみんなにも認められるバディになれたら、その時は――。 私はぎゅっと奥歯を噛んで、デスクに向かって駆け出した。それから一週間して、世間はお盆休みに突入した。 交通機関は、陸も空も、大混雑、大渋滞。 OCOで働く私たちにとって、盆暮正月、GWにシルバーウィークといった大型連休は、年に数度の大繁忙期。 休暇希望はほぼ通らず、使いものにならない私も出ずっぱりだ。 私は相変わらず、遅番勤務開始早々、氷室君に指示されたデータ収集に明け暮れ、午後六時に休憩に入った。今日は、出勤前にコンビニでおにぎりを二つ買ってきてある。 食堂には行かずに簡易休憩室に向かい、空いていたテーブル席に着いた。 バッグから参考書を取り出してテーブルに広げ、おにぎりを食べながらページを捲っていると。「あれ。八巻さん。お疲れ様」コツコツと革靴の踵が鳴る音が近付いてきて、口をモグモグ動かし、振り返った。「あ、手塚さん! お疲れ様です」ごっくんと飲み下した後、条件反射で腰を浮かせる。「食事中だろ? いいから座って」そう言って私を制し、向かい側に回り込んできたのは、私たち国内短距離線チームのリーダー、手塚さんだった。「はい。ありがとうございます」「前、いい?
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第 48 話

「航空無線通信士……来年二月の国試対策か。感心だね。休憩中も勉強?」「こういう勉強、家では捗らなくて。気が引き締まるからか、空港の方が集中できるみたいで」私は彼に釣られて参考書に目を落とし、そっと脇に退けてぎこちなく笑った。 それには、「わかる気がする」と相槌が返ってくる。「すぐ隣の席に、尊敬するディスパッチャーがいれば、士気も高まるね」腕組みをして、悪戯っぽく瞳を動かして言われ、私は気恥ずかしくなって目を泳がせた。『氷室君が、私の指導担当を交替したいって言っても、絶対受け付けないでください』深々と頭を下げて直訴したのは、まだほんの一週間前のこと。 真剣な顔で願い出た私に、手塚さんは不思議そうだった。『随分と厳しくされてたし、心折れるんじゃないかって心配もあったんだけど……根性あるね』それには、遠慮なく肯定しながらも。『優秀なディスパッチャーだからこその厳しさです。負けずに食らいついて、いつか氷室君が認めてくれたら、爽快じゃないですか』強気で胸を張ったら、あ然とされた。 その後も、四ヵ月ほどの間で見てきた彼の仕事ぶりや、指導を受ける身だから知れる英雄伝を、前のめりになって熱く訴えて……。 あの時のテンションはどうかしてたし、改めて思い返すとこっ恥ずかしい。私は火照った頬に風を当てようとして、無駄にひらひらと手を翳した。 手塚さんは訳知り顔でクスクス笑いながら、小気味いい音を立てて割り箸を割り、ズズッと豪快にカップヌードルを啜った。「……待ち過ぎたか」やや微妙に眉間に皺を刻んだものの、気を取り直した様子でさっさと食事を進めていく。 私もひょいと肩を竦めて、伏し目がちに、おにぎりを口に運んだ。一つ食べ終わった時、ふと視線を感じて、顔を上げた。 手塚さんが手を止め、頬杖をついて私を見ていた。「? あの……?」ほんのちょっと怯んで、背もたれに背を逃がしながら問いかける。「ああ、ごめん。不躾に」彼はそう言って、頬杖を解いた。箸をカップヌードルの容器に置いて、椅子に背を預けて腕組みをする。「八巻さん、君さ。氷室に、自分と似てるって言ったって?」どこか意地悪に目を細めて言われて、私は一瞬きょとんとした。「! は、はい」確かにそう言ったことを思い出し、シャキッと背筋を伸ばす。 だけど、氷室君がどういう流れで彼に話したのかわか
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第 49 話

私が氷室君にそう言った意図は、主に恋愛面についてで、決して仕事中の姿勢のことではなかったから、彼の言葉に意表をつかれた。「あの……どうして、手塚さんはそんな風に思うんですか?」膝に両手を置いてグッと身を乗り出し、思い切って訊ねてみる。 すると。「二人とも負けず嫌いで、呆れるほど向上心が強いからかな」即答されて、思わず首を傾げた。説明してくれるのを待って、ジッと目を凝らす。手塚さんはスープを飲み干してから「ふう」と息をつき、容器と箸をテーブルに戻した。 前のめりの私に、やや苦笑したものの。「氷室は大学の工学部で航空工学を専攻していたのもあって、新人で運航管理部に配属されたんだけど。ディスパッチャーに必要な、気象に関する知識はなくてね。下積み時代、指導担当者からも結構厳しく叩き込まれてたな~」「氷室……君が、叩き込まれた……」――想像がつかない。 いや、いくら氷室君でも、最初は新人だし。 下積み時代があるのは、当然だけど……。 私の反応を見て、手塚さんがくくっと小気味よく笑った。「今の氷室と君、まるであの頃を見てるようだよ」「それで、似てる……ですか?」言わんとするところが繋がって、私はそう訊ねた。 手塚さんは、一度「うん」と頷いて、「苦労は他にも。あの通り、愛想のない男だから、パイロットや管制官とのやり取りも。当時副操縦士だった久遠機長にも、相当やり込められた」「え。久遠さんに?」「今みたいに堂々と、フライトプランの説明ができるようになったのは、三年くらい前からかな」記憶を手繰るように、顎を撫でた。「…………」私は、きゅっと唇を噛んだ。 三年前……考えるまでもなく、立花さんの存在が大きく関わっているはず。彼女への憧れ、恋心が、氷室君を変えたのか。 彼女と恋をして、あの久遠さんを理詰めで説き伏せられるほどに、変わったのか――。思考が深みに嵌ったせいで、一瞬、目の前に靄が広がり、体幹から揺れる気がした。 クラッと眩暈がして、平衡感覚が覚束なくなる。「っ……」私は、とっさにテーブルを両手で掴んだ。「……って、思ってたんだけどね」手塚さんがなにか続ける声に聴覚をくすぐられ、ハッと我に返る。 私は、手が白くなるほど強くテーブルに掴まっていたけど、身体が傾くこともなく、ちゃんと椅子に座っていた。「? 八巻さん?
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第 50 話

「え?」私は虚を衝かれて聞き返した。「いつか、立場逆転……なんてことになるかもしれない。そういう意味では、畏れもあるのかな」しげしげと顎を摩って続けられて、私の胸がトクンと鳴いた。「最初に憧れてるなんて言われたら、職場の関係としてはほぼ頂点からの始まりでしょ。男ってのは馬鹿な生き物だから、そこから転落しないよう、結構躍起になるもんで」「氷室君が、そんなこと……?」柔らかい鼓動に煽られて、無意識に口を突いて出た呟きが、私の胸をきゅんと疼かせた。「あ。これは、この間氷室と話して、俺が勝手に、君への厳しさの解釈としただけだから、ここだけのオフレコで。知ったらアイツ、静かに激怒するだろうし」手塚さんは、ぬか喜びになってはいけないと思ったのか、顔の前で両手を合わせた。 そして、私を通り越して休憩室のドア口の方を見て、『あ』という形に口を開ける。 なにかあたふたした様子で、左手首の腕時計に目を遣って、「じゃあ、俺はそろそろ。お先に」空になったカップヌードルの容器を、三本指で摘まみ上げて立ち上がった。「え?」突然話を切り上げられて、私は虚を衝かれた。 彼がなにを見たのか確認しようと、振り返り……。「!」「お疲れ様です」息をのむ私の横を通り過ぎた彼に、そう声をかけたのは氷室君だった。手塚さんは「おう」と応じて、ドア口に立っていた彼の肩をポンと叩き、休憩室から出ていく。 氷室君は、わずかに首を傾げてその背を見送ってから、私の方に進んできた。手塚さんと私の話、聞かれてないよね……。 後ろ暗いことはないのに、額に変な汗が滲む。「お、お疲れ様」無駄にシャキッと背筋を伸ばして声をかける私に、氷室君は無言で首を縦に振った。 不服そうに歪む表情がレアで、私は微妙に首を傾ける。「どうしたの?」肩を縮めて、問いかけてみると。「あんた最近、休憩中に食堂来てないな」「え?」氷室君は、手塚さんが座っていた椅子を引いて、ドカッと腰を下ろした。 テーブルから身体の正面を外して、長い足を組み上げる。彼の方から、私に歩み寄ってくれた……初めて。 嬉しくて心が踊りそうになるのに、あまりに希少だから、その意図を探ってしまう。 なにか、不機嫌そうなオーラが漂ってくるし、また私がなにかしたかと、身体を強張らせたものの。「ちゃんと食ってるなら、いい」彼
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