早瀬淳弥(はやせ じゅんや)と付き合い始めて八年目、私たちはついに婚約を交わした。その夜、彼は会社に泊まり、酔いつぶれて帰ってこなかった。真夜中、私は、彼の酔いが少しでも冷めるようにと、温かい飲み物の入ったポットを手に会社を訪れた。――けれど、そこで耳にしたのは、彼が隣に座る美しい女性部下に向けて放った、あまりにも冷たい言葉だった。「あいつは、お前みたいに向上心があるわけじゃない……一生、あんなもんだろう。でもまあ、八年も一緒にいたからね。プロポーズなんて、正直、成り行きみたいなものさ」長い時間を経て、ようやく結ばれたのだと信じていた。けれどそれは、彼の情けによる「施し」でしかなかった。私は手にしていたポットを静かに床へ捨て、その場で婚約を破棄した。それからしばらくして――雪が降りしきる中、玄関先に立ち尽くす淳弥は、荒れた声でこう言った。「夏希(なつき)……俺が間違っていた、後悔している」……婚約披露パーティーが終わると、淳弥はそのまま会社へ戻っていった。ところが真夜中、彼の部下から「早瀬さんが酔い潰れた」という連絡が入った。私はすぐに体が温まるものを用意し、車を走らせて会社へと急いだ。オフィスに到着し、部長室の少し開いたドアに手をかけたその時――中から甘く潤んだ女性の声が聞こえてきた。「淳弥さん、婚約しちゃったんだね……」粘りつくようなその口調。私は瞬時にその声の主に気がついた。さっき私に連絡をよこした部下であり、少し前にデザイン部に異動してきたチームリーダー、篠田莉奈(しのだ りな)だ。私は反射的に、ドアノブにかけていた手をそっと離した。淳弥の声は微かに酔いを帯び、少し掠れていた。「ああ、婚約したよ」その淡々とした口ぶりに、莉奈はたちまち目元を赤くした。「ひどい……二人で一緒に頑張って、まだ見ぬ景色を一緒に見に行こうって言ってくれたのに。結婚なんてされたら、私はどうしたらいいの?」声は次第に弱まり、切なさを滲ませていった。淳弥は身を起こすと、優しく莉奈の頭を撫でた。「結婚しようがしまいが、俺たちの関係は変わらないさ」それでも唇を尖らせる莉奈を見て、彼は困ったように笑い、手元の引き出しから美しい小箱を取り出して彼女に手渡した。「ほら、やるよ。お詫
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