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第6話

Autor: 浅木栖
淳弥は私の行く手を遮った。その声は乾ききって掠れていたが、必死に言葉を紡ぎ、言い訳を並べ立てた。

「夏希、莉奈のことが嫌いなんだろ?分かった、これからは彼女と距離を置く。だから、お願いだ。一緒に家に帰ろう?」

私が家を出てからかなりの時間が経っている。彼はそれを知っていたはずだ。それに、私がいなくなった翌日には、彼は莉奈をあの家に連れ込んでいた。

莉奈は、わざわざ何枚もの写真を私に送りつけてきたのだ。

「無理……汚くて嫌」

私は首を振った。

「置いてきた荷物も、もういらない」

「夏希、説明させてくれ!あの日は泥酔していたから、莉奈が家まで送ってくれただけなんだ。彼女はすぐ帰った。本当に、何の関係も……」

淳弥は顔を真っ青に染め、さらに必死さを増して縋りついてくる。

「説明なんていらないわ、淳弥」

私は一歩後ずさり、静かに彼を見つめた。

「私たちは、もう別れたのよ」

淳弥の瞳に、はっきりとした恐怖が浮かんだ。

「嫌だ……別れるなんて認めない。俺が悪かった。部外者のためにお前を傷つけ、追い出すような真似をして……本当にすまなかった。ごめん、ごめんよ、夏希……俺を見
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