梅田の朝は、いつも白い。空の色ではない。ビルのガラスに反射した光でもない。史人の目に刺さるのは、入館ゲートの発光と、天井に並ぶ蛍光灯と、ディスプレイの白背景だった。白が多い場所は、人の影を薄くする。薄くなるほど、人間は機能になっていく。史人は、その機能として今日も歩いている気がした。ビルのエントランスは、無駄に広い。無駄に磨かれた床が、靴底の音を少しだけ反響させる。香りは薄い。清掃洗剤と、空調の乾きと、誰かの整髪料が混ざっているのに、どれも決定打にならない。決定打がない空気は、個性を奪う。奪われた空気の中で、史人は首から下げた入館カードを指で確かめた。ゲートにかざす。「ピッ」音が短いほど、失敗の余地がないみたいで息が詰まる。ゲートの先へ進むだけで、胸の奥が固くなる。固さは、ここへ来るたびに増える。増えた固さは、休日になっても抜けない。抜けない固さを抱えたまま、史人はエレベーターのボタンを押す。上へ上がる箱の中は、無音に近い。無音の中で、史人の心拍だけが聞こえる気がした。心拍の音が大きいと、自分が生きていることを感じるはずなのに、ここでは逆だ。心拍が大きいほど、何かが起きる予感がする。予感はいつも、当たる。フロアに着く。ドアが開く。冷たい空気が頬に触れた。乾いた空調。オフィス独特の匂い。紙、コーヒー、制汗剤、電子機器の熱。どれも毎日嗅いでいるはずなのに、慣れない。慣れないのは、身体が拒否しているからだろうと思う。拒否しても、ここから出られない。形式上、史人は自社の社員だ。名刺にもそう書いてある。けれど実態は客先常駐で、身動きが取れない。職場はここで、評価もここで、怒号もここで受ける。逃げる先は自社ではなく、自分の胃の奥だ。席に着くと、モニターが二枚、白い画面で迎えた。監視のダッシュボード。進捗表。チケット管理。チャット。今日のタスク。白地に黒文字、ところどころに赤や黄が点る。赤は危険。黄は注意。緑は順調。普通ならそうだ。ここでは違う。赤も黄も緑も、全部が詰めの色に見える。史人はキーボードに指を置いた。指を置くと、指先が少し冷たい。冷たい指先は、眠さではない。緊張が末端に溜まっている証拠だ。史人は深呼吸をし
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