目を覚ますと、後ろから強く抱きしめられていて、伊織の体温が背中に伝わってきた。寝不足なはずなのに、頭も心もすっきりしていて、不思議な充足感が胸を満たしている。 シングルのベッドで男二人はきつくて、伊織はまるで抱き枕を抱えるかのように僕を強く抱いて眠っていた。腕が胸の下に回され、逃げられないように固定されている。 前回の時もそうだった。きっと癖なのだろうと思いながら、胸の奥が苦しくなる。今までの彼女にもこうして寝ていたのだと想像すると、嫉妬が込み上げてきた。 二週間前まで、伊織には女性の恋人がいた。同じ会社の女性で、きっと同じように部屋に呼び、一緒にこのベッドで眠っていたのだろう。 抱けなかったとしても――恋人同士なら同じベッドで眠るくらいはするはずだ。こうして兄さんに抱きしめられて、幸せを感じていたのかもしれない。 何度も絶頂を味わった気だるい身体を起こし、兄さんの腕をそっと外す。ベッドから降りて、洗面所へと向かった。冷たい床が足裏に触れ、身体が僅かに震える。 洗面所の鏡を見て、全身に残る痕を確認した。前回消えかけていたキスマークが再び、白い肌に赤く濃く点在している。首筋、鎖骨、胸、太腿。至る所に伊織がつけた証が残っていて、触れると鈍い痛みが走った。「顔……やばっ」 鏡に映る自分の顔を見て、驚きの声が漏れる。ちかとして化粧をしていたのに、落とさずに寝てしまっていた。マスカラとアイライナーが落ちて、目の周りが真っ黒になっている。とんでもなく醜い顔になっていた。 こんな悪魔のような顔を伊織に見せるわけにはいかない。玄関に置きっぱなしになっているカバンを取りに戻る。リビングを抜け、玄関でカバンを手に取ると、また洗面所へと急いだ。 カバンから携帯用の化粧落としシートを取り出し、顔を拭いていく。黒く汚れた顔が少しずつ綺麗になり、素の顔に戻っていった。 ふと洗面所の棚に並ぶ小物に目がいく。歯ブラシも歯磨き粉も、洗顔フォームも一つずつしか置いていなくて、女性用の化粧品も見当たらない。 つい最近まで恋人と付き合っていたのなら、まだ彼女の私物が残っていてもおかしくはないのに。元カノの痕跡を探してしまう自分が嫌になりながら、棚の中を覗き込んでしまう。「何を探しているの? 千景――」 背後に人の気配がしたと思った瞬間、後ろから熱いものが突き刺さる感覚で足が
Last Updated : 2026-02-12 Read more