Home / BL / 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜 / 第十七話「元彼と元カノと今彼」

Share

第十七話「元彼と元カノと今彼」

Author: ひなた翠
last update Petsa ng paglalathala: 2026-02-15 18:34:46

「心臓がヒュッてなって、胸が抉られて――お化け屋敷にいるより心臓がおかしくなりそうだった」

 バーカウンター内で人から隠れるように座り込んで、顔を覆う。冷たい床の感触が手のひらに伝わってきて、身体が震えていた。膝を抱えて丸くなり、できるだけ小さくなろうとする。隣で玲司が立ってグラスを磨いている音が聞こえて、規則的な音が僕の耳に響く。キュッキュッという音が心地よくて、少しだけ気持ちが落ち着いた。

 玲司の革靴を見ながら、深いため息をついた。黒く光る革靴が目の前にあって、動こうとしても身体が言うことを聞かなかった。足が震えて、立ち上がれる気がしない。

「どうするの?」

 玲司が低い声で問いかけてきて、僕は顔を上げた。

「どうもこうも――どうしたらいい?」

 震える声で答えると、玲司が小さく息を吐く音が聞こえた。

「俺に聞かれても。今は環さんが対応しているからいいけど。彼氏の連れは楽しそうにくそ高いシャンパンを飲んでるよ」

 玲司の言葉に、僕は唇を噛んだ。

 あの後、黒瀬さんは玲司の対応に文句を言いながらも、帰っていった。

 兄さんと一緒にいた女性は何かを察知したのか、それとも単純に興味が
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜   第三十二話「僕たちの愛の形」

     日曜日の朝の光が、カーテンの隙間から細く差し込んでいた。 隣で眠る千景の寝顔を、頬杖をつきながら眺める。枕に広がった黒髪の間から覗く白い耳、規則正しく上下する薄い肩。朝の柔らかな光を受けて、指輪の表面に淡い虹が走っていた。 バーで「ちか」と出会ったあの夜から、もう五年になる。カウンターの隣に座った美しい女性が実は義弟で、男で、六年間も想い続けてくれていた人間だったと知ったときの衝撃は、今でも鮮明に覚えている。あの頃の俺は、仕事がどれだけ順調でも、どこか不完全な人間のように感じていた。営業成績も昇進も同僚からの信頼も、全てが砂上の楼閣のように脆く思えて、「女を抱けない」という一点が、積み上げてきたものの土台を静かに蝕んでいた。 千景が、全てを変えてくれた。 千景の睫毛が震えて、ゆっくりと瞼が持ち上がった。焦点の合わない瞳が天井を彷徨ってから、俺の顔を見つけて柔らかく細められる。二十八歳になった千景の寝起きの顔は、出会った頃よりも少しだけ大人びていて、目元に浮かぶ穏やかさが増していた。「おはよう」「おはよう、伊織」 軽く唇を重ねると、千景の温かい吐息が鼻先に触れる。優しい朝のキスは、一日の始まりを告げる大切な儀式のようなものだ。 先にベッドを出て、キッチンに立った。手際よく朝食の準備をしていく。 背中に温もりが触れた。千景が後ろから抱きついてきて、俺のシャツの背中に頬を押しつけている。細い腕が腰に回されて、寝起きの体温がじんわりと伝わってきた。「今日、どうする?」「午後から店に行く予定だよ。環さんから話があるって」「環さん? もう帰ってきてるの?」「うん。先週帰国したって」 フライパンの上でベーコンが弾ける音を聞きながら、千景の腕を軽く叩いて離してもらう。卵を割り入れると、白身がじゅうっと音を立てて広がった。「会いたいな」「一緒に来る?」「俺が行っていいの?」「環さんも会いたがってたから。喜ぶと思うよ」 千景が嬉しそうに頷いて、トースターにパンを入れた。二人で並んでキッチンに立つ日曜の朝は、五年間で当たり前の風景になっている。当たり前であることが、どれほど贅沢なのかを噛み締めながら、俺は目玉焼きを皿に移した。 向かい合ってダイニングテーブルに着き、トーストにバターを塗りながら千景が口を開いた。「玲司と一ツ橋さん、来月から同棲

  • 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜   第三十一話「三年後の日常」

     黒地に赤い椿が散りばめられた着物の帯を締め直しながら、僕はカウンターの端に置かれた姿見で全身を確認した。華やかな帯揚げが胸元できちんと整っているのを確かめてから、袂を軽く払う。和服を着るようになって一年が経つけれど、帯の締め加減にはまだ神経を使う。きつすぎると呼吸が苦しくなり、緩すぎると着崩れてしまうから、毎回、微妙な加減を探りながら調整していた。「ママ、今夜も綺麗ですねえ」 カウンター席に腰かけた常連客が、グラスを掲げながら声をかけてくる。僕は口元に微笑みを浮かべて「ありがとうございます」と軽く頭を下げると、客のグラスに手を伸ばして水割りを作り始めた。氷がグラスの中でからからと回る音が、フロアに流れるジャズのピアノと重なっていく。 Queen's Nightの店内は、三年前と大きくは変わっていなかった。カウンターの木目も、壁に飾られた常連からの色紙も、奥のテーブル席に灯る間接照明の色合いも、環さんがいた頃のままだ。変わったのは、環さんの定位置だった場所に今は僕が立っていることだろう。バーテンダーの玲司はいつも通りシェイカーを振っている。 一年前、環さんは長年の夢だった世界旅行へと旅立った。「あなたたちに任せるわ」と笑って店の鍵を玲司に預けた環さんの後ろ姿を見送ったのが、つい昨日のことのように思い出される。新オーナーとなった玲司が経営面を担い、僕はバイトから正社員になって、ママ代理として店を切り盛りしていた。 かつての源氏名「ちか」は、いつの間にか「ちかママ」に変わり、新人キャストたちからも常連客からも、自然とそう呼ばれるようになっている。 新人キャストの一人がフロアから戻ってきて、「ママ、三番テーブルのお客様がお会計です」と耳元で囁いた。僕が頷いてレジへ向かおうとしたとき、入り口のドアが勢いよく開く音が店内に響いた。「こんばんはー!」 聞き覚えのある元気な声とともに飛び込んできたのは、短く刈り込んだ髪にがっしりとした肩幅、スポーツマン体型の男性だった。スーツの上着を小脇に抱えて、ネクタイを緩めた姿で息を弾ませている。「一ツ橋さん! 玲司、恋人が来たよ」 カウンターに向かって声をかけると、グラスを磨いていた玲司が顔をあげた。切れ長の目が一瞬だけ柔らかく細められて、「ああ」と短く応える声に微かな喜びが滲んでいる。交際を始めて一年半が経つ二人の間

  • 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜   第三十話「卒業祝いとプロポーズ」

     窓の向こうに広がる夜景が、宝石を散りばめたように瞬いていた。 高層階のレストランは、フロア全体が落ち着いた間接照明に包まれていて、テーブルの上に灯された蝋燭の炎がゆらゆらと揺れるたびに、千景の横顔に柔らかな陰影を作り出している。純白のテーブルクロスの上には、フレンチのコース料理が一皿ずつ運ばれてきて、銀のカトラリーが静かに触れ合う音と、グラスを傾ける微かな水音だけが、二人の間に漂っていた。「今日は特別な日だから」 向かい合って座る千景にそう告げると、千景が少しだけ恥ずかしそうに目を伏せて、口元を綻ばせた。卒業証書を受け取った瞬間の誇らしげな横顔を思い出して、俺の胸にも温かいものが込み上げてくる。「卒業おめでとう」 グラスを掲げると、千景も赤ワインの入ったグラスを持ち上げて、澄んだ音を立てて合わせてくれた。蝋燭の光がワインの深紅を透かして、千景の白い指を赤く染めている。「ありがとう、伊織」 名前を呼ぶ声が柔らかく響いて、胸の奥がじんわりと熱くなった。呼び方が「兄さん」から「伊織」に変わってから、名前を口にされるたびに鼓動が跳ねる感覚は、何度経験しても慣れることがなかった。「あの日、バーで出会ってから……いろいろあったな」 ワインを一口含むと、芳醇な香りが喉を滑り落ちていく。あの夜、カウンターの隣に座った「ちか」の姿が脳裏をよぎった。長い黒髪、洗練されたワンピース、低くてハスキーな声。酔いに任せて弱みを曝け出した夜から、想像もしなかった場所まで二人で歩いてきたのだと思うと、感慨深い。「うん。伊織と付き合えて、僕はすごく幸せだよ」 千景がナプキンの端を指先で弄びながら、照れくさそうに微笑んだ。蝋燭の炎を映した瞳が潤んでいて、薄い唇が僅かに震えている。言葉にするのが気恥ずかしいのだろう、視線をワインのグラスに落としながらも、頬は仄かに紅潮していた。「俺も」 短く答えて微笑むと、千景がようやく顔を上げて目を合わせてくれた。視線が交わった瞬間に、千景の瞳に宿る光がふわりと柔らかくなって、レストランの喧騒が遠のいていくような錯覚に陥る。 デザートのクレームブリュレを食べ終えて、エスプレッソを飲みながら千景の話に耳を傾けていた。卒業式での友人との別れ、ゼミの教授からかけられた言葉、卒業論文を提出したときの達成感。一つ一つを嬉しそうに語る千景の表情を眺

  • 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜   第二十九話「久しぶりの甘い時間」

     玄関のドアを閉めた途端、千景の唇が重なってきた。 靴を脱ぐ間もなく、薄暗い玄関先で互いの体温を求め合うように抱き寄せると、千景の腕が首に絡みついてくる。ウィッグの黒髪が肩口に流れ落ち、微かに残る店の香りと千景自身の匂いが鼻腔をくすぐった。 唇を離しては重ね、離してはまた吸い上げる口づけを何度も繰り返すうちに、呼吸が荒くなり、互いの吐息だけが狭い空間に響いていく。 舌先が千景の上唇をなぞると、小さく身体を震わせて口を開いてくれた。差し込んだ舌が千景の舌と絡み合い、唾液が溢れて口の端から零れそうになる。飲み込む音が静かな玄関に響いて、千景の耳が薄く赤く染まっていくのが、廊下から漏れる常夜灯の灯りで見て取れた。 キスをしたまま、手のひらをワンピースの裾から滑り込ませると、太腿の柔らかな肌に触れた。指先を内側へと這わせながら上へ辿っていくと、スカートの布地を押し上げるように硬くなった千景の熱が手のひらに当たる。薄い布越しに包み込むように触れた瞬間、千景の喉からくぐもった甘い声が漏れて、膝ががくりと揺れた。「あっ……んっ、あ」「玄関だから、静かにね」 耳元で囁くと、千景が潤んだ瞳で睨むように見上げてきた。「兄さんが触るから……」 責めるような口調なのに、腰は俺の手に擦り寄せるように動いている。頬が紅潮し、長い睫毛の下で瞳が蕩けかけていた。唇が微かに震えて、次の言葉を待っているのがわかった。「兄さんじゃなくて、そろそろ俺のこと『伊織』って呼んでほしいな」 千景の顎に指を添えて顔を上げさせると、大きな瞳がさらに見開かれた。常夜灯の淡い光を受けて、アーモンド型の瞳が濡れたように輝いている。「いっ……いおり」 小さく、掠れた声だった。名前を口にしただけで千景の耳まで真っ赤に染まっていくのが愛おしくて、頬を両手で包み込むと額に唇を落とした。「うん。これからは、ずっとそう呼んで」 柔らかく唇を重ねると、千景の力が抜けたように身体が預けられてくる。甘く、蕩けるような口づけだった。舌を絡ませるのではなく、唇だけで触れ合う優しいキスに、胸の奥がじんわりと熱くなる。「伊織、久しぶりに……したい」 唇が離れた隙間から、千景の切ない声が零れた。「もちろん。俺も我慢できない」 千景の腰を引き寄せて深いキスをすると、玄関で靴を脱ぐ音がばたばたと重なった。互いの唇

  • 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜   第二十八話「写真の人」

     金曜日のQueen's Nightは、週で最も客入りの多い夜だった。カウンターの向こう側で玲司がシェイカーを振る音と、フロアに流れる低いジャズの旋律が混じり合い、店内には華やかで親密な空気が漂っている。 ドアの向こう側が、にわかに騒がしくなる。 環さんが小首を傾げて入り口へ視線を向けているのが目に入り、僕もつられるように顔をあげると、ドアを押し開けて入ってきたスーツ姿の男性が、兄さんだとわかった。ダークネイビーのスーツに身を包んだ長身の体躯が、店のネオンに照らされて輪郭を際立たせている。仕事帰りなのだろう、ネクタイは少し緩められていて、普段の隙のない佇まいよりも幾分砕けた雰囲気をまとっていた。 兄さんの半歩後ろに、見覚えのない男性が一人、物珍しそうにきょろきょろと店内を見回しながら立っていた。兄さんより少し背が低く、がっしりとした肩幅にスポーツ刈りの髪型で、顔立ちは人懐っこい犬のような愛嬌があった。「ちかちゃんの彼氏さんと――部下の人かしら?」 環さんが、赤い唇に指を添えて呟くのが聞こえてくる。僕は入り口へと足を向けた。ヒールが床を叩く規則正しい音が、自分の鼓動と重なっていく。(兄さんが僕のバイトの日に店に来るのは珍しい)「ばったりそこで会ったので」 兄さんが環さんに向けて、いかにも困りましたという表情を浮かべながら説明していた。眉間に僅かな皺を寄せて、片手で後頭部を掻いている姿は珍しい。「部下の一ツ橋でっ……あっ!」 僕が近づいた瞬間、兄さんの隣に立っていた男性が大きく目を見開いて声をあげた。丸い瞳が僕の顔を捉えると、まるで有名人に遭遇した少年のようにぱあっと表情が輝いていく。「写真の人」 一ツ橋と名乗った男性が、弾んだ声で続けた。「部長の待ち受けの――めっちゃ美人な彼女……さん? 彼氏さん? どっちだ?」 正解がわからないらしく、首を右へ左へと傾けながら僕と兄さんの顔を交互に見比べている。「恋人でいい。ってか、声が大きすぎる。ボリュームをさげて」 兄さんが眉を顰めて低い声で窘めると、一ツ橋さんは「あ、はい!」と威勢よく返事をしてから、「すんません」と軽く頭をさげた。声を落としたつもりなのだろうが、あまり変わってない。「ちかです」 僕が微笑みながら名乗ると、一ツ橋さんはキラキラと光を湛えた目のまま僕の両手を掴んで、まじまじと

  • 完璧な義兄は不完全な愛に溺れる〜義弟の甘い蜜〜   第二十七話「人事部からの呼び出し」

     俺は出勤すると自分のデスクへと向かい、鞄を置いて椅子に座った。 パソコンを起動させようとしたとき、内線電話が鳴った。受話器を取り、耳に当てる。「営業部、松井田です」『人事部の田中です。松井田部長、すぐに人事部まで来ていただけますか』 低く、事務的な声が響いた。嫌な予感が胸の奥に広がっていく。「分かりました。すぐに伺います」 電話を切ると、俺は深く息を吐いた。人事部からの突然の呼び出しと聞いて、なんだか気が滅入る。人事部と聞くだけで、緊張感が増すはなんでだろうか。 デスクの抽斗を開け、奥に仕舞っていた茶封筒を手に取ると、お守り代わりにスーツの胸ポケットにしまった。 営業部を出ると廊下を歩く。足音が響き、窓の外には青い空が広がっている。エレベーターに乗り込むと、ボタンを押した。上昇していく感覚が身体に伝わり、階数表示が変わっていく。人事部のある階で止まると扉が開いた。(空気からして重い) どんより暗い雰囲気みを感じるのは、錯覚なのかもしれないが――。営業部の階と違って、重苦しい空気が漂っている。 廊下を突き進み、人事部長の部屋の前に立つと、扉を三回ほどノックした。「どうぞ」という声が聞いてから、俺はドアを押し開ける。「失礼します。松井田です」 人事部長はすでに応接用のテーブルに座っていて、俺を見ると椅子を指差した。表情は硬く、眉間に皺が寄っている。(ああ、この表情はいいことではないな)「座ってください」 俺は促されるまま椅子に座った。人事部長が手元にあった封筒から何枚かの写真を取り出し、テーブルに並べ始める。一枚、また一枚と増えていく写真を目にして、俺の手が僅かに震えた。 全て俺と千景が写っている写真だった。 バイトの迎えに行ったときの写真。手を繋いでいる写真。キスをしている写真。親密な関係が一目で分かる構図ばかりだった。この写真には見覚えがある。つい先日、白石さんが俺に見せてきたのと同じものだ。「松井田部長、行きつけのバーの男性キャストと不適切な関係にあるという報告を受けましたが」 人事部長が一度言葉を区切ると、厳しい顔つきでこちらを見てきた。鋭い視線が俺を捉え、答えを待っている。 白石さんの密告だと分かった。俺と一対一で上手くいかなかったから、黒瀬を利用した。それも上手くいかなかったから、今度は上司を利用したのだろう。

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status