All Chapters of 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す: Chapter 231 - Chapter 240

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第231話

十七年前のその日、湊斗はいつものように会社で仕事をしていた。このときには既に妻である瀬奈との仲は壊滅的で、彼は毎日のように夜遊びを繰り返していた。特に相手のことを好きになったわけでもないが、孤独感を埋めるためにはそうする以外の選択肢は無かった。この頃、既に両親は事故で亡くなっており、余計に心に余裕が無かったのだ。そんな彼の元を、一人の女性が訪れた。「――湊斗兄さん、久しぶりね」「……お前」突如何の先触れもなく本社にある彼の社長室にやって来たのは、彼の従兄妹の一人――長谷川小夏(はせがわこなつ)だった。小夏とは家同士の付き合いがあり、昔から親しくしていた。しかし、ある一件を機に彼女は実家と縁を切り、それからは会うことも減って行った。――そんな彼女が、どうして今になって俺の元へ?「何故こんなところにいる?」「兄さん、お願いがあってここに来たの。どうか私の話を聞いてほしい」「……」真剣な面持ちの小夏に、湊斗は仕事中だったが断ることができなかった。彼女を奥の部屋に通し、二人で向かい合って座った。小夏とこうして話すのは、実に四年ぶりのことだった。彼女は湊斗の一つ下で、最後に会ったのは小夏がまだ十六の高校生だった頃だった。「――実はね、夫が亡くなったの」「何だと……?」突然の告白に、湊斗は衝撃を隠しきれなかった。(小夏の夫が亡くなっただと……?)湊斗がここまで驚いたのには理由があった。小夏は昔から、実の両親とは折り合いが悪かった。彼女は裕福な家庭の生まれだったが、父と母は厳格な人で、昔から衝突してばかりだった。そのせいか、小夏の学生時代はなかなかに荒れていた。夜遊びを繰り返し、勉強もろくにしなくなった。権力を持つ両親のおかげで何とか高校には進学できたものの、そこでも彼女は真面目に勉学に励むことなく、毎日のように遊び歩いていた。両親はそんな小夏に愛想を尽かし、ほとんど見放していた。いつからか遊びに対しても何も言わなくなり、そのことがきっかけで彼女の行動には拍車がかかった。――そして十六歳になった冬、小夏は当時付き合っていた年上の恋人との子供を妊娠した。両親はそれを機に小夏と絶縁し、彼女は家を出て行った。小夏はそのまま付き合っていた恋人と結婚し、彼と同棲する運びとなった。それから四年の月日が流れ、今に至る。湊斗は最後に会ったときより
last updateLast Updated : 2026-07-01
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第232話

その言葉に、湊斗は二度目の衝撃を受けた。小夏は完全に実家とは縁を切っているため、彼女が今どこで何をしていて、どのような状況であるかを全く知らなかったのだ。小夏はまだ膨らんでいないお腹に手を置いたまま、静かに涙を流した。華奢な体が、小刻みに震えている。「そ、それは本当か……!?」「ええ……お医者さんにもそう診断されているから、間違いないわ」小夏は今、複雑な気持ちを抱いていた。三人目の子供が生まれてくるという喜びと、夫亡き状態でたった一人で幼い子供たちを育てていかなければならないという不安。そのことは、湊斗にもきちんと伝わっていた。「兄さん、私もうどうすればいいかわからないの……」「小夏、落ち着いてくれ……」湊斗はソファから立ち上がると、震える彼女の肩にそっと手を置いた。彼はかつて、小夏のことを実の妹のように可愛がっていた。そんな彼女が泣いている姿には、胸が締め付けられた。「今さら父さんと母さんは頼れないし……幼い子供たちにひもじい思いをさせるわけには……」「……」赤の他人ならまだしも、小夏は彼の親族であり、幼い頃からの仲だった。彼には、そんな彼女を放っておくことなどできなかったのだ。「――小夏、そう不安になるな」「……兄さん?」湊斗は小夏の肩を優しく抱き寄せ、驚いた彼女の目が見開かれた。高校すら卒業していない小夏が、シングルマザーとして三人の子供を養っていくのは難しいだろう。湊斗は神宮司財閥の社長。彼女たち一家を丸々養うことくらいどうだってことはないのだ。そのため、決断するまでそう時間はかからなかった。「俺が助けてやる、だから心配するな」「ほ、本当……?」湊斗は小夏と子供たちに絶対に窮屈な暮らしはさせないと、その場で約束した。彼女は嬉しそうに湊斗の手を握り、礼を言った。「兄さん、ありがとう!やっぱり兄さんに相談して正解だったわ!」浮かない表情だった小夏は、帰る頃には以前のような明るさを取り戻していた。それから九ヵ月後、小夏は彼の支えもあって無事に元気な男の子を出産した。湊斗は無事に生まれた赤ん坊を抱いた彼女に会いに行った。――週刊誌に写真を撮られたのは、ちょうどその頃だった。
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第233話

小夏は一般人であるため、顔にモザイクをかけた状態で湊斗とのツーショットが掲載された。正確には湊斗も一般人ではあったが、彼はメディアに度々出ていたため例外だと判断されたようだ。結婚してから間もなく、本妻である暁家の令嬢も妊娠していない今、突如発覚した神宮司湊斗の隠し子疑惑。赤ん坊を抱いた女性と二人きりで外を歩くその姿。たしかに傍から見れば彼が子供の父親であるように見えるだろう。二人は従兄妹という関係であるため、そのような関係であるわけがなかった。しかし、週刊誌側は湊斗が小夏に対して毎月一定の金銭を支払っていたことも突き止めていた。愛人に養育費を払っているのだと、世間は騒ぎ立てた。湊斗への批判と同時に、瀬奈への同情の声も多く上がった。当然、湊斗は噂を否定しようとした。しかし、そうする前に小夏が湊斗との関係を認めてしまったのだった。何故そのような事態になったのか。彼女は街を歩いていたとき、記事を掲載した週刊誌の記者からのインタビューを受けた。突然目の前に現れた記者は小夏に、記事に書かれていたことは真実かどうかを尋ねた。彼女の子が湊斗の血を引いているという週刊誌の主張は、どう考えても間違っていた。そのことを、小夏本人が誰よりも知っているはずだった。しかし、彼女は予想外の回答をした。――「……えぇ、社長の子です。奥さんとはきちんと話し合って和解済みです」何と小夏は、週刊誌の記者の前で堂々と湊斗の隠し子疑惑を認めてしまったのだ。湊斗が疑惑を否定する前の出来事だった。当人である彼女が認めたおかげで、世間ではやっぱり社長には婚外子がいたのだと広く認知されるようになった。当然、湊斗が黙っているはずがない。「――小夏!どういうことだ!」「兄さん、落ち着いて」家に押しかけてきた湊斗を、小夏は何とか落ち着かせた。彼が彼女に対してここまで怒るのは珍しかった。湊斗は基本的に、身内には甘い人だったからだ。彼はすぐに小夏を問い詰めた。「小夏、何故週刊誌にあんなことを言った?お前が認めたせいで、俺は……」当時、湊斗の隠し子発覚はかなり話題になっていた。小夏がそれを認めてからは余計に。自身を責め立てる湊斗に、彼女はニッコリと笑った。「ねえ兄さん、お願いがあるの――あの子を、あなたの子供ってことにしてくれないかしら?」「……何だと?」
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第234話

信じられないというような顔で見下ろす湊斗に対し、小夏は笑みを崩すことなく彼を見つめていた。何故彼女が突然そのようなことを言い出すのか、理解ができなかった。こっちはお前の不用意な発言のせいで、こんなに焦っているというのに。「どういうことだ?何故あの子を俺の子供だとする必要がある?」「特に深い理由は無いのよ……ただ、父親のいない子にするのは可哀相だし……ウチの上の子たちもあなたにはかなり懐いているみたいだから……」小夏はそう言うが、その瞳には間違いなく別の理由が含まれていた。嘘をつく必要があるということは、少なくとも他人にはとても言えないような理由なのだろう。(小夏……何故だ?何故あんなことを……)恩を仇で返されたかのような気分だ。湊斗は小夏のために子供たちと一緒に住める家を用意し、毎月子供たちのための養育費を渡していた。子供に最上級の教育を与えたいという彼女のために、私立小学校の学費まで。今、二人がいるのも彼が少し前に与えた一軒家だった。(……何だ、あのハイブランドのバッグは)リビングの棚には、有名ブランドのバッグがいくつも飾られていた。小夏はあんなのに興味がある人だっただろうか、と湊斗は驚きを隠せなかった。そういえば、小夏は湊斗の元へ来る前まで都内にあるキャバクラで働いていたという噂があった。あのときは特別気にしていなかったが、今になって彼女が普段何をしているのかがやけに引っかかった。「兄さんとその奥さんに悪いことをしてしまったのはわかっているの……でもね、私が認めてしまった今、あなたが否定したら余計に面倒なことになるわよ」「……」小夏の言うことは的を得ていたが、湊斗も赤の他人の子を自分の子供だと言われて黙っているような男ではなかった。「――兄さん、いっそウチの子たちを兄さんの養子にするのはどう?奥さんとの間に子供はいないんでしょう?私も兄さんと同じ、神宮司家の血を引いているわけだし……」「……意味がわからない」湊斗はこれ以上小夏と話していたくなくて、彼女を置いたまま部屋から出て行った。その後、湊斗は人を使って小夏の身辺調査をした。そこで驚くべき事実が次々と明らかになった。「小夏の旦那は生きているだと……!?」――そう、彼女の夫は死んでなどいない。今も存命であり、一年前に離婚が成立したばかりだった。小夏は平気で彼に嘘をついて
last updateLast Updated : 2026-07-03
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第235話

小夏の夫は十六歳の頃に彼女を妊娠させ、そのまま責任を取る形で彼女と結婚した。相手は当時十歳近く年上で、社会人だったため特に金銭的には困らなかった。小夏は実家と縁を切り、彼の家に転がり込んだ。それから二人目を妊娠し、彼女は二児の母親となった。しかし、性格の不一致で結婚生活は上手くいかず結局は離婚。夫に内緒でキャバクラに勤務していたことが決定打となったようだ。そして、湊斗に会いに来たときに身籠っていた三人目の子は元夫の子ではない。どうやら誰の子かは彼女もわからないようだ。「小夏……」湊斗は手に持っていた調査報告書を握りつぶした。グシャッと音を立てて紙がクシャクシャになった。――よくも俺を、騙したな。驚くことに、湊斗の前で見せた涙は全て演技だったようだ。お前はいつからそんな女になったんだ。小夏はたしかに昔から我儘なところはあったものの、身内に嘘をつくほど歪んではいなかったはずだ。一体何が彼女をそこまで変えてしまったのだろうか。(でも結局は……裏を取らなかった俺のせいなんだろうな……)騙されていた自分がとても情けなかった。昔からの仲であるからと、信用しきっていたのが仇となったようだ。しかし、彼女のついた嘘たちが明らかになってもなお疑問が残る。(小夏は何故、あのようなことをしたんだ……?)彼女がそのような行動を取った理由を湊斗はどうしても理解できなかったのだ。彼のことを好いており、本妻の座を狙っているというわけでもないだろう。小夏は湊斗に自身の子供たちを養子にしてくれないかと言った。妻になりたいではなく、子供たちを養子に。(ならば狙いは……神宮司家の後継者の座か……!)小夏の父親は、神宮司家の先代社長である湊斗の父親の弟。彼女もたしかに神宮司家の血を引いているため、自身の子を後継者にすることは可能だ。しかも最近生まれた三人目の子は男児。ちょうどいい機会だと思って彼に接触したのだろう。権力欲がなさそうな小夏が後継者の座を狙っていたとは、驚きだ。しかし、湊斗とてそう易々とその座を渡すわけがない。「絶対に小夏の思惑通りにはさせないぞ……」かつては妹のように可愛がっていたが、こんなことをされてはもうそのような気持ちを抱けなかった。彼は小夏と争いを繰り広げることとなる。そんな中で、またしても予期せぬ出来事が起きてしまう。
last updateLast Updated : 2026-07-04
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第236話

湊斗が小夏のことで頭を抱えている間、別の問題が起きた。「――湊斗、この子はあなたの子よ」「………何だと?」生まれたばかりの赤子を抱き、彼に向けてそう言ったのは沙織だった。彼女は湊斗の子供だと言い放ったが、当然彼は信じなかった。(俺の子供だと?そんなはずがない)湊斗は多くの女と遊んでいたが、誰とでもポンポン子供を作るような人間ではない。そのため、そうならないための措置はきちんとしていた。沙織はかつて、夜の街ではかなり有名な女だった。高級クラブのホステスとして働き、その美しさで多くの男を手玉に取っていた。経験豊富だからか、湊斗は彼女と一緒にいるときに他の女のように疲労感を感じなかった。彼女は控えめな性格で、本妻にしてほしいと騒ぎ立てることもしない。瀬奈のいる家庭から逃げた湊斗は、必然的に沙織の元へ行くようになった。特別な感情を抱いていたわけではなく、ただ単に心の傷がそれ以上痛まなかった相手だったというだけ。周囲からは相思相愛で寵愛が最も深いと思われていたようだったが、実際はそうではなかった。瀬奈を見たときに抱いていたような熱烈な愛情を抱くことも無く、ただ穏やかな関係でい続けた。当時の沙織もまた、他にも男を作って遊び歩いていた。隠しているようだったが、そのことは湊斗も知っていた。しかし、そんな彼女との関係を切ることもできないまま月日は流れた。そんな中での出来事だった。疑うような湊斗の視線に、沙織も気付いたのだろう。彼女は気まずそうに目を逸らした。「……ねぇ、湊斗。この子をあなたの子供として大切にしてほしいの」「……」誰の子かもわからない子供を、自分の子として育てろだなんて。沙織の言っていることは滅茶苦茶だった。そんなとんでもない提案を、彼が素直に受け入れるとでも思っているのだろうか。渋る彼の前で、沙織は顔を両手で覆って地面に膝をついた。「お願い、湊斗……」「…………沙織」彼女は顔を手で覆いながら、嗚咽を上げ始めた。そんな風に泣かれたら、彼は沙織を責められなかった。「誰の子かわからないの……今の仕事だっていつまでも続けられるわけじゃない……私、不安なのよ……あなたの支援が無いとどうなるかわからなくて……」「……」結局、湊斗は自分の子とすることはしなかったものの、小夏のように金銭的な援助を約束した。沙織は湊斗にその子供の認知を頼んだ
last updateLast Updated : 2026-07-05
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第237話

本妻である瀬奈との仲は相変わらず上手くいかず、気付けばそのままかなりの歳月が経過していた。そして彼の子供は次々と増え、小夏が生んだ子を含めて六人にもなっていた。もちろん、全員彼の子ではなかった。何故そのような事態になったのかというと、神宮司湊斗は愛人が生んだ子を特に確認することもなく自分の子として受け入れているという噂が夜の世界で広まったからだ。そのため、彼が過去に交際していた女たちが次々とあなたの子供だと言って幼子を連れてくるのだ。さすがに一度きりの女がそのような行動を取ることはなかったものの、ある程度長く付き合いのあった女たちが養育費目当てに彼に押しかけたのだ。そしてちょうどその頃、瀬奈との仲が壊滅的だった。『最低……あなたとなんて結婚しなければよかったわ』『……こっちだって、お前となんか結婚しなけりゃよかったよ』結婚しなければよかったなんて言われたのが悔しくて切なくて悲しくて。無意識に思ってもいないことを口にしていた。彼女が他の男と一緒になるのが耐えられなくて、結婚を選んだのは紛れもなく彼だというのに。――昔から思っていたが、お前はそんなに俺のことが嫌いなのか。湊斗は普段あまり他人のことを気にしない性格だったが、愛する女性に嫌悪されるというのは辛かった。我に返ったときには全てが遅く、弁解しようと彼女の元へ向かったが、面会謝絶状態だった。瀬奈に会うこともできず、湊斗は気まずくなって家に帰るのをやめた。当然、会いたいという気持ちが無かったわけではない。彼女の笑顔を最後に見たのはいつだっただろうか。それすら、思い出せなかった。『湊斗、久しぶりね。実はあの後、私妊娠していたのよ……』『……そうか』いつからか、否定することすら面倒になっていった。養育費を渡すことでギャーギャー騒ぐのをやめるのなら、それくらい平然とやってのけた。瀬奈は彼が愛人たちを深く寵愛していると思っているだろうが、実際はそのような関係ではなかった。「……別にどうでもいい」仕事をしているとき以外、彼は無気力だった。そしてそんな中で、久しぶりに会った瀬奈は胸に赤ん坊を抱いていた。一体誰の子だ?このとき、湊斗は平然を装ってはいたものの、内心かなり動揺していた。「――湊斗、あなたの子よ。抱いてあげて」自分の子だと言って赤子を連れて来られるのは、もう何度目かわからない
last updateLast Updated : 2026-07-06
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第238話

湊斗は瀬奈と結婚してからというもの、一度も関係を持ったことは無かった。そんな彼女に子供ができるはずがない。しかし、彼女の腕にはたしかに生まれたばかりの赤ちゃんが抱かれていた。それが意味するのはただ一つ。(瀬奈は……他の男と寝たのか……)紛れもないその事実が、湊斗の胸に重くのしかかった。しかも関係を持っただけではなく、子まで産んでいる。「……俺に近付けるな」子供の顔を見たくなかった。瀬奈と他の男の愛の結晶を、その目で確認したくなかったのだ。結局湊斗は、そのまま呆然とする瀬奈に背を向け、二度と振り返ることはなかった。(瀬奈に子供がいたのか……全然知らなかったな……)どうやら彼が海外出張に行っている相手に、周囲に内緒で産んだようだった。一体誰の子なのだろうという疑問が頭をよぎるが、いちいち調べるような真似はしなかった。他の女と平然と不倫をしている彼が彼女を責める資格なんてないからだ。そのことは彼自身もよくわかっていた。そのため、離婚なんて選択肢は無かったし、そのことを特に追及もしなかった。最後に見たショックを受けたような彼女の顔が、永遠に頭から離れなかった。世間では五人の子供を持つ父親ということになっている湊斗だったが、その中に彼と血の繋がった子はいない。血の繋がりの無いとわかっている子を可愛がれるほど、湊斗はできた人間ではなかった。そのため、愛人が産んだ子供たちとの関係は微妙なものだった。――しかし、そんな中である少女が彼の目の前に現れた。「おじさん、ママの知り合いですか?」ふっくらした頬を赤く染めて、彼を上目遣いで見つめながらそう尋ねてきた幼い少女。彼女との初対面のときのことは今でもよく覚えている。幼い子供があまり好きではなかった彼が、唯一愛情を感じた子。里亜と名乗った彼女を前にすると、彼は何だか胸が温かくなるような不思議な気持ちになった。自分でも何故そんな感情を抱くのか、説明がつかなかった。それが瀬奈が産んだあの子だったということを知ったのは、その後だった。愛する女の雰囲気を感じさせるからだろうか。この子には泣いてほしくないと感じ、できることならずっと笑顔で健やかに暮らしていてほしいとさえ思うようになった。血の繋がりも無い、赤の他人の子に何故ここまで。彼は、知らない男の子供である里亜をずっと手元に置いておきたいとさえ思っていた
last updateLast Updated : 2026-07-07
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第239話

湊斗は全てを語り終えると、ごめん――と一言呟いた。「……俺があまりにも幼稚だったよな。”くだらない昔”のことをいつまでも引きずって。夫婦として過ごしている間、きちんとお前とも向き合っていればよかったんだ」「幼稚だなんて……」瀬奈は正面に座る湊斗をじっと見つめた。長い間湊斗を見てきた彼女にはわかる。今のはきっと、嘘偽りのない彼の本当の気持ちだ。しかし、だからといって二十年間の葛藤を考えれば、そう簡単に彼を受け入れるわけにもいなかった。それに、瀬奈が知りたいことはまだまだ他にもあるのだ。「ねぇ、湊斗……」「何だ?」罪悪感でいっぱいになった瞳が、瀬奈を正面から捉えた。いくら彼が悪いと思っているところで、過去は変えられない。いつまでも目を逸らしたままというわけにもいかないのだ。瀬奈はこの日、彼が抱えていたものを全て知るつもりだった。そうでなければ、彼女も湊斗もいつまで経っても前に進めないような、そんな気がしたからだ。「湊斗――くだらない昔のことって何のこと?」「……」予想だにしていない質問だったのか、彼は固まった。彼はきっと、自分がそのような言葉を口にしたことにすら気付いていなかったのだろう。(そんな反応をするだなんて……やっぱり私の知らない何かがあるんだわ)おそらく、彼がたしかに言っていたそこに、瀬奈が二十年間放置され続けていた理由が隠されているのだろう。「昔のこと……私たちが結婚する前のことかしら?」「………あぁ、そうだ」彼は観念したのか、気まずそうにしながらも首を縦に振った。子供の頃のことなんて大人になった今ではほとんど覚えていないのが普通だが、湊斗とのこととなると話は別だった。(優しかった彼が突然冷たくなった日……)あのときのことは、今でもハッキリと思い出すことができる。突然冷たくされ、ショックで何日も眠れなかったし、食事も喉を通らないほどに憔悴しきっていた。瀬奈の地獄のような日々が始まったのは、その日からだった。「私はあなたに初めて拒絶されたあの日のことを忘れたことなんて一度も無かったわ」「………瀬奈」「――話さないというのなら、私は今すぐにでも里亜を連れてここを出て行くわ」最初から、湊斗には選択肢すら与えられていなかった。彼が話さないのであれば、二人の関係は今ここで終了となる。そんな状況になるというのなら、話さな
last updateLast Updated : 2026-07-08
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第240話

それから湊斗は自身と瀬奈の間に起きたことを、包み隠さず全て話し始めた。当然、瀬奈にとってはどれも初めて知る内容だ。きっとそれなりの覚悟がいるだろう。「いつからだったか……俺たちの関係は変わってしまった……」その言葉を皮切りに、湊斗は瀬奈との間に起きたことをゆっくりと語り始めた。湊斗は幼い頃に瀬奈を初めて目にしたその瞬間から、彼女に好感を抱いていた。自分を見上げて赤く頬を染める姿が何とも愛らしく、一目で気に入った。天真爛漫で明るいところにも惹かれ、彼女を好きになるまでそう時間はかからなかった。湊斗は好きになった女には一途になるタイプだ。中学に上がってこれまでのように会えなくなった分、手紙やプレゼントを贈って何とか自身のことを忘れさせないように努力した。しかし、時間が経つにつれ瀬奈は次第に湊斗への気持ちが薄れていったのだろうか。贈ったプレゼントは毎回突き返されるようになり、手紙も返事が返ってこないことが増えていった。湊斗はそのことに悩んだが、ただ自分の気持ちが上手く彼女に伝わっていないだけだと、根気強く何度も手紙を書き続けた。あの時代、自分の携帯を持っている子供なんてほとんどおらず、湊斗や瀬奈ですら買い与えられていなかった。そのため、連絡手段は手紙以外になかったのだ。いつまで経っても何の音沙汰も無い彼女に痺れを切らして、家まで直接会いに行ったりもした。しかし、そのたびに湊斗は暁家の者に追い返された。『瀬奈お嬢様は、湊斗お坊ちゃまに会いたくないと言っていらっしゃいます』『何故だ……?何故そのような……』彼は理由を知ることもできず、瀬奈に会うことも叶わなかった。それどころか、瀬奈に関する変な噂話が彼の耳に入るようになった。『瀬奈お嬢様は、他に男がいるそうです。だから湊斗お坊ちゃまとの婚約は破棄したいんだと』『私、暁家のお嬢様が外で男と腕を組んで歩いているのを見たことがあるわ』『暁瀬奈は多くの男を手玉に取る悪女よ』そのような噂が湊斗の周囲を流れるようになり、彼はショックで瀬奈に会いに行くのをやめた。
last updateLast Updated : 2026-07-09
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