《二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す》全部章節:第 211 章 - 第 220 章

292 章節

第211話

車に乗り込んだ湊斗は、助手席に座らせていた男が勝手なことをしないように念を押した。「お前、嘘ついたらわかってるな?」「嘘なんてつきませんってば!本当のことしか言いません!」男は完全に彼に恐れをなしているのか、大慌てで叫んだ。その様子なら、嘘はつかないだろう。湊斗は瀬奈の元まで最短距離で向かう必要があった。エンジンをかけると、すぐにアクセルを踏んで車を走らせた。「隣町の倉庫って言ったよな?そこまで案内しろ」「は、はい……」湊斗は男のナビで車を走らせ続けた。内心焦っているせいか、急ブレーキが多く、いつもよりも運転が荒い。赤信号になると途端にイライラし出す湊斗を横目に、男は終始体を震わせていた。数十分経った頃、二人はようやく目的地に到着した。近くに車をとめた湊斗は、助手席に乗せていた男と共に車から降りた。「場所はここで合ってるのか?」「は、はい……間違いありません。この場所に里亜を連れてくるようにと……言われました」「一体誰に言われたんだよ……」「そ、それは俺にも……」湊斗は呆れた顔で彼を見つめた。雇用主が誰かもわからない状態で、そんなとんでもない仕事を引き受けるか?とでも言いたそうだった。「……」彼は何も言えないまま、ただ湊斗について行った。このような事態になるとわかっていれば、最初からこのようなことを引き受けてなどいなかっただろう。「この倉庫なんだな?」「はい、そこで待つようにと言われました。まだ中にいる可能性は十分にあります」中に犯人たちが潜んでいるかもしれない。湊斗と男は、辺りを警戒しながら倉庫へ入った。しかし、そこには既に誰もいなかった。男の顔が真っ青になった。「う、嘘は言っていません!たしかにここで約束していましたから!」「……」湊斗は倉庫の中を見回し、ため息をついた。「……一歩遅かったな」湊斗は苛立ちを隠しきれない、というようにポツリと呟いた。倉庫が僅かに荒らされた形跡があり、地面には複数人の足跡が残っていた。それは紛れもなく、ついさっきまで瀬奈たちがいたという証拠だった。「倉庫で合流したあとはどこへ行くつもりだったんだ?」「そ、それは私にもわかりません……全てはあの男の指示で動けと言われていましたから」「そうか……」せっかくここまで来たというのに、何の手がかりも得られないのか。落胆していた湊斗の
last update最後更新 : 2026-06-13
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第212話

瀬奈は朦朧とする意識の中、運転席に座る男の顔をバレないように見つめていた。斜め後ろからの角度ではあったが、その顔は何故か見覚えがあった。(……誰かに似てる?)初めて会うはずなのに、どこかで見たような気がしてならない。しかし、どれだけ考えても誰かまではわからなかった。瀬奈がそんなことを思っているうちにも車は走り続け、ある場所へ到着した。(……ここはどこ?)彼女は助手席に座っていた男――瀬奈を誘拐した張本人によって強引に車外に出された。車に乗っていた男は二人、彼らが瀬奈を誘拐した犯人たちだった。瀬奈は腕を縛られ、男に引きずられるように歩き始めた。口元には布を巻かれていて、声を出すことができない。こんな夜中、大声を出せばすぐにバレてしまう。そのことを恐れているのだろう。そのまま瀬奈は男たちが用意したのであろう小さな家に入った。そこで、ようやく彼女の口元を覆っていた布が外された。「……一体何のつもり?」瀬奈は鋭い目で男たちの顔を見上げた。助手席に座っていた実行犯の男は一瞬ビクッと肩を上げ、黒幕であろう男はニヤッと笑みを深めた。「この状況でそんな目をするだなんて……可憐な見た目に反して強気な女だな」「私の質問に答えなさい」瀬奈は男の煽りにも動じなかった。里亜や静香、誠也たちが心配しているだろう。一刻も早くここから抜け出さなければ、という焦りが彼女の胸の中を支配した。「あなたたち、こんなことをしでかしてただで済むと思ったら大間違いよ!」瀬奈は二人の男を前に、声を荒らげた。手を拘束された状態で、男相手にここまで威勢を張ることができるのは瀬奈と静香くらいだろう。(二人が誰であれ関係無いわ!私は絶対にこの場所を抜け出して、里亜たちの元へ生きて帰るんだから!)その言葉を聞いた男は、瀬奈を見下ろしてニッと笑った。不気味でいやらしく、ゾッとするような笑顔だった。瀬奈はその顔に、思わず身を震わせた。主犯格である男はしゃがみ込むと、瀬奈の顎を掴んだ。至近距離で視線がぶつかり、鼻先が触れそうなほど近付いた。(な、何をするつもり……?気安く触らないでよ……!)何故、こんなにも不快でたまらないのか瀬奈はわからなかった。湊斗に体を触れられたときはここまで嫌悪感を抱かなかった。それなのに、どうしてこの男たちに対しては――「さっきから俺たちが腰を抜かすくらい活
last update最後更新 : 2026-06-14
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第213話

瀬奈は震える声で言葉を放った。ここで動揺していたら、男たちの思う壺だ。彼らが嘘をついている可能性も否めないし、まだ湊斗が犯人だと決め付けるのは早かった。「そんなことあるわけがないでしょう……湊斗が私を誘拐して何になるわけ?」「邪魔な本妻を消したくなったんだろ?」「ずいぶん荒い手を使うのね、離婚すればいいだけの話だわ」やっぱり湊斗が犯人なんてありえない。離婚を拒否しているのは瀬奈ではなく、彼の方なのだ。そんな彼が、瀬奈を消すためにこんなことをしでかすわけがない。(…………ちょっと待って、誘拐を命じたのは私じゃなくて里亜の方よね?)そこで瀬奈は、ターゲットが自分ではなく里亜であったことに気が付いた。なら、湊斗の狙いは彼女の娘である里亜ということになる。瀬奈は馬鹿げている、と感じ笑った。(湊斗が里亜の誘拐を命じるわけないわ……だって彼は里亜のことを本当に……)愛しているもの――と言いかけて彼女は、初めて里亜を湊斗の前に連れて来たときのことを思い出した。『――何だ、その汚らわしいのは』湊斗は瀬奈の胸に抱かれた里亜の顔をまともに見ることもなく、不機嫌な顔でそう吐き捨てた。その瞬間、胸が刃物でズタズタに切り刻まれたかのような強烈な痛みが彼女を襲った。そのときのことを思い浮かべ、瀬奈は彼を信じられなくなっていた。(……私ではなく、里亜を狙っているのだとしたら?)湊斗は少し前に、瀬奈のことを愛していると告白したばかりだった。愛する女が他の男と作った子供を、普通は可愛がれるわけがない。それに加え、湊斗は元々幼い子供が好きではなかった。自分の子供にすら愛情を注げないような人が、他の男の子を愛せるはずがない。(……今までの里亜への態度は、全て私を欺くためのものだったということ?)本当は心の奥であの子を憎んでいて、始末する機会を窺っていたとしたら?湊斗は元々冷酷な人間だ。彼なら、やりそうなことだった。「……」「ずいぶん顔色が悪いな。愛する旦那に裏切られて悔しいか?」「……ええ、そうね」湊斗の考えがわからず、瀬奈は混乱していた。(もしも、湊斗が里亜を狙ってやったのだとしたら……)彼女は一体何を信じればいいのか。「落ち着かないみたいだな、しばらく一人にしてやるよ。俺たちもやらないといけないことがあるし。ここでじっとしてろよ」主犯の男はそれだけ
last update最後更新 : 2026-06-15
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第214話

時間は流れ、瀬奈が監禁されてから一時間が経過した。瀬奈は相変わらず、部屋に閉じ込められたまま彼を待ち続けていた。「湊斗……まだ来ないのかな……」部屋の隅で体育座りをしている瀬奈が、ポツリと呟いた。室内に誰もいないから、余計に寂しかった。(違う……湊斗はこんなことをしたりしない……)心の中でそう思っているはいるものの、やはりまだ彼のことを信じられずにいた。その間にも早く来てほしい、と瀬奈は心の中で祈り続けた。(笑っちゃうわ……傍にいたときはあれほど離れたがっていたくせに……)――こんな風に窮地に陥った途端、来てほしいだなんて。いくら何でも都合が良すぎるのではないか。自分でもそのことを理解しているものの、いつまでも彼のことが頭から離れなかった。瀬奈にとって湊斗は、永遠の王子様だった。今も昔も、そのことだけはずっと変わらない。彼にとってのお姫様が自分だったかはわからないが。しばらくすると、閉ざされていた扉が音を立てて開いた。(…………湊斗?)もしや、湊斗が来てくれたのかと瀬奈は期待に胸を膨らませた。しかし――「――待たせたな」「……」部屋に入ってきたのは湊斗ではなく、瀬奈を最初に拉致した男だった。彼は部屋の隅で座り込んでいた瀬奈の元まで歩いてきた。「浮かない顔をしているな。旦那じゃなくてショックだったか?」「……ええ」瀬奈は素直に認めた。俯くような形で頷いた彼女に、男は眉をひそめた。「旦那に裏切られたってのに、まだお前はアイツのことが好きなのか?」「当然でしょう……二十年間ずっとそうだったんだから」「二十年だと?お前、引くくらい一途なんだな」明らかに嫌味が込められていたが、瀬奈は気にも留めなかった。「好きに言えばいいわ。私は彼を信じているから」「信じる……か」男は同情しているかのように瀬奈を見下ろした。(可哀相だと思うなら、ここから出してくれないかしら?)愛されない本妻とは憐れだな、とでも思っているのだろうか。余計なお世話だ、と口を開きかけた瞬間、我慢できずに瀬奈の目から涙が溢れた。「お、お前……」突然泣いてしまった瀬奈に、男は狼狽え始めた。「どうしてこんなことをするの?私が一体何をしたって言うのよ……!家に帰りたい……!」「……」瀬奈は声を上げて泣き続けた。誘拐されてから泣かないように我慢していたのに、より
last update最後更新 : 2026-06-16
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第215話

男が湊斗に瀬奈の居場所を伝えた頃、相変わらず瀬奈は部屋で湊斗のことを待ち続けていた。しかし、彼女の心は既に限界に近付いていた。涙は止んでいたが、それでも不安なことに変わりは無い。「……やっぱり、湊斗がこのことを仕組んだのかな」あまりにも監禁生活が長いと、そのようなことを思い始めるようになった。そんなことあるわけがないと思う気持ちと、やっぱりそうかもしれないという気持ちが半々。「私……ずっと彼に騙されていたのかしら……」誰もいない部屋でポツリと呟いたそのとき、さっき男が出て行った扉が開いた。湊斗かもしれない――という期待はもうしていなかった。顔を上げると、さっきとは違って主犯の男が部屋に入ってくるところだった。「ゆっくり休めたか?」「……あなたは」こんな状況でゆっくりできるわけがない。瀬奈は質問には答えなかった。「俺を無視するだなんていい度胸だな」ぷいっと顔を背けると、頭上から男の低い声が聞こえた。瀬奈はそれにも返事をしなかった。二度も無視されたことに憤りを覚えたのか、彼の声のトーンがさらに落ちた。「……お前、自分の置かれた立場が理解できていないみたいだな」「……何を」その瞬間、男の振り上げた拳が瀬奈の側頭部に直撃した。「キャアッ!」殴られた衝撃で、瀬奈は横に倒れた。ドサッという音と共に、彼女は床に頭を打ち付けた。「いたた……」殴られたのだということに気付いたのはそのときだった。瀬奈の頭から、血が流れた。そのまま彼は、瀬奈の体を何度も蹴り上げた。「お前、次俺を無視したらもっと痛い目を見せてやるよ」「……」瀬奈は痛みでうめき声を上げながら、男を見上げていた。「いいか?返事をしろ」「は、はい……」瀬奈は床に転がったまま、返事をした。「一つだけ……質問してもいいですか」「何だ、言ってみろ」瀬奈からの質問が物珍しいのか、男は顎で言えと合図を送った。敬語を使ったのが大きかったのか、彼に質問に答える気でいるようだ。「さっきまで……どちらに行っていたんですか?」「……ちょっと用があっただけだ。そんなことが気になるのか?」彼はしゃがみ込み、瀬奈と視線を合わせた。男の顔が目の前まで来ると、瀬奈は泣きそうになった。押し寄せてくる絶望感が、いつまで経っても拭えなかった。そんな状況では、まともな判断などできるはずがなかった。(
last update最後更新 : 2026-06-17
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第216話

池は思ったよりも深く、瀬奈の体はどんどん沈んでいった。元々運動神経が良くない彼女は、この状況から自力で浮き上がることなどできない。徐々に意識が遠くなっていく。死が迫ってきていることを感じ取った。(湊斗……)最期の瞬間、彼女の頭に浮かんだのはやはり彼の顔だった。彼女が二十年以上、ずっと愛し続けてきた人。結局、瀬奈はその思いを断ち切ることなど到底できなかった。死を目前にしてそのことに気付くだなんて。瀬奈は自分自身を嘲笑った。(最後にもう一度だけ……彼の声を聞きたいな……)当然、叶うはずの無い望みだった。しかし……「――瀬奈!」「……」彼女を憐れに思った神が、その願いを叶えてくれたのだろうか。湊斗の声が聞こえた。神なんていないと思っていたが、最後の最後で彼女に希望を与えてくれたようだ。冷たい水に沈んだ瀬奈の心が、僅かに温かくなった。幻聴でもかまわない、この声をずっと聞いていたい。「瀬奈……!」今度は至近距離から聞こえたその声に、瀬奈は一気に現実に引き戻されていった。「…………湊斗?」目を開けると、湊斗がいた。彼はスーツ姿のまま水に入り、瀬奈の元へ泳いでいた。――どうして彼がここに。あっという間に瀬奈の傍までやって来た湊斗は、彼女の腰を強く抱くと、そのまま水面に向けて泳ぎ出した。水面に浮かび上がると、ようやくまともに呼吸ができるようになった。「……ッ」湊斗は瀬奈を抱きしめたまま、池から出た。池のほとりでは、ついさっき瀬奈を突き落とした男が顔面ボコボコにされた状態で意識を失っていた。瀬奈は咳をしながらも、水を吐き出した。そんな彼女の背中を、湊斗は優しくさすった。お互いにびしょ濡れだった。「しっかりしろ、瀬奈……」「湊斗……どうしてここに……」瀬奈は泣きそうな顔で彼を見上げた。さっきまで切実に会いたいと願っていた湊斗が、今目の前にいるのだ。正気でいられる方がおかしいだろう。その質問が気に食わなかったのか、湊斗が片方の眉を上げた。「お前を助けに来たんだよ、それ以外ありえないだろう?」「だ、だけど……一連のことを仕組んだのは湊斗だって……」「……何だと?」彼は衝撃を受けたかのように、固まった。しばらくあ然としていた彼は、突然彼女の肩を両手で掴んで揺さぶった。「――お前は、それを信じたのか……!?」「湊斗……」ショックを受け
last update最後更新 : 2026-06-18
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第217話

その後、瀬奈は湊斗の呼んだ救急車に乗り込んで病院へと運ばれた。頭を殴られ、執拗に体を痛めつけられた瀬奈だったが、運良く軽傷で済んだ。それでもしばらくは安静にしなければならない。彼女は病院のベッドで、ゆっくりしていた。誘拐されてから一日が経過していたものの、相変わらず湊斗は彼女の元へは訪れなかった。(寂しい……)瀬奈は病室の窓から外を眺めながら、心の中で呟いた。彼女が最後に見た彼は、泣いているように見えた。一人でいる時間が長いせいか、瀬奈は暇を持て余していた。そんな中、彼女の元にある人物が訪れた。「瀬奈!」「姉さん……!」慌てた様子で病室へ入って来たのは、静香だった。彼女は目に涙を浮かべながら、病室のベッドに座る瀬奈の体を抱きしめた。「無事でよかった……何もできなくて……ごめんね……!」「姉さん……」瀬奈は静香の背中にそっと腕を回した。彼女は唯一瀬奈の誘拐された場面を直接目撃している人物だ。相当な心配をかけただろう。静香は頭や手足に包帯を巻いた瀬奈を、痛々しそうに見つめた。「私は平気よ、姉さん。命に別状は無いから、心配しないで」「不幸中の幸いってやつね……」しばらく抱き合ったあと、静香は落ち着きを取り戻したようで、ベッドサイドの椅子に座った。彼女は目に溜まっていた涙を手で拭うと、気を取り直して口を開いた。「あなたを拉致した犯人たちは全員捕らえられたわ。主犯格の男に至っては、極刑が下されるそうよ。あなたを池に突き落としたのは紛れもなく殺人未遂になるわけだし」「……そう、それはよかった」男たちに重い刑が科されると知った瀬奈は、安堵の息を吐いた。「……湊斗が、裏で手を回したそうよ」「湊斗が……?」突然出てきた彼の名前に、瀬奈は驚いた。昨日から一度も会いに来なかったのは、そのせいだったのか。にわかには信じがたい話である。「瀬奈……湊斗はよっぽどあなたのことが大切なようね。池に突き落とされたあなたを助け出したのも、彼なんでしょう?」「ええ……彼が池に沈んだ私を引き上げてくれたの。おかげで大事には至らなかったわ」「そう……」二人とも黙り込んでしまい、病室には沈黙が流れた。お互いに考えていることは同じだった。(湊斗……)彼の考えが、わからないのだ。大切だと言うのなら、どうして私に会いに来ないのか。「……ねぇ、それより里亜はどこ
last update最後更新 : 2026-06-19
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第218話

突然の湊斗の登場に、瀬奈はもちろん、静香も驚きを隠せなかった。一体いつからそこにいたのか。今の話を全て聞いていたのか。(マズいわね……)もし彼が全てを聞いていたとしたら、今回ばかりは言い逃れはできない。湊斗は病室のベッドに座る瀬奈にゆっくりと近付いた。待ち望んでいた彼がやっと会いに来てくれたというのに、どうしてこんなにも緊張しているのだろうか。「――瀬奈、今の話は一体どういうことだ?説明してくれ」「湊斗……」静香はお互いから目を離すことのできない二人を見て、戸惑った。ここは自分が何とかしないとと、彼女は湊斗の肩に手を触れた。「湊斗……一旦落ち着いて……」静香の伸ばした手を、湊斗は冷酷に振り払った。「静香……お前は外に出てくれないか……」「湊斗……?」「――瀬奈と二人で話したいことがある」静香は湊斗の意図がわからず渋ったが、瀬奈がそんな姉に声をかけた。「姉さん、私は平気だから。一度外に出てくれる?」「瀬奈……」そう言われてしまえば、彼女は従うほかない。静香は最後まで心配そうに瀬奈の方を振り返りながらも、何も言わずに部屋を出て行った。病室には、瀬奈と湊斗の二人だけが取り残された。彼は瀬奈を見下ろしたまま、一言も発さなかった。(私が何かを言うまで待っているのね……)瀬奈は気まずさを感じながらも、口を開いた。「湊斗、今日は私のお見舞いに来てくれたのね。あの日以降会えなかったから……」「――瀬奈、俺が聞いているのはそんなことじゃない」「……」見舞いに対する礼を言う瀬奈の言葉を、湊斗はすぐに遮った。彼がそのようなことを求めているわけではないのだということを、瀬奈も理解していた。しかし、どうしても言葉は出なかった。(私って……こんなんだったかしら……)湊斗を前に、上手く話すことができない。彼はきっと、瀬奈の口から直接真実を聞くまでここから離れないだろう。「さっき、静香が言っていたことは……一体どういう意味なんだ?」その言葉で、瀬奈は顔を上げた。ハッキリと聞かれてしまっている以上、誤魔化しようがなかった。彼女は湊斗を目を合わせ、口を開いた。「――そうよ、里亜は……湊斗、あなたの子なの」「……」確信してはいたものの、本人の口から直接聞くと衝撃を隠しきれないようだ。湊斗は固まったまま、瞬きだけを何度もしていた。彼女はそんな
last update最後更新 : 2026-06-20
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第219話

あの日のことは、湊斗の記憶にも深く刻まれていた。瀬奈があなたの子だと言って、赤子を連れてきたときのこと。『――汚らわしい』たしかに湊斗は、顔を見ることもせずそう言い放った。そのときの瀬奈のショックを受けたような顔は今でもよく覚えている。目の前にいる瀬奈は、涙を流していた。「信じられるわけがないでしょう……?あなたがあのとき言ったことを思えば……」「瀬奈……」湊斗はハラハラと涙を流す彼女の頬に手を伸ばしたが、空中でその手は止まってしまった。自分がそのようなことをする資格は無いように思えたのだ。(彼女がここに戻ってきてからというもの、キスまでしたというのに……)何故、今になってこんなにも躊躇してしまうのか。結局その手は彼女にかすりもせず、ゆっくりと力なく下ろされた。瀬奈は自分の手で涙を拭い、口を開いた。「湊斗……助けてくれたことに関しては礼を言うわ。ありがとう、あなたがいなかったら私は死んでいたはずよ」「……夫として、あれくらいは当然のことだ」瀬奈は言葉を返すことなく、彼から顔を背けるようにベッドに寝転がった。今はとても話ができるような状況ではないことを、湊斗はすぐに悟った。「……そうだな、今は休みたいだろう。俺は出て行くから、ゆっくりするといい」「……」最後まで返事をすることはなく、湊斗はそのまま彼女の病室から出て行った。彼女と一緒にいたいという気持ちが無いことは無いが、今は面会謝絶状態だった。湊斗としても、考えなければならないことがある。(今はお互いに離れていた方がよさそうだな……)湊斗は車に乗り、一度神宮司邸へ戻った。昨日から、彼は動きっぱなしでまともに眠れていなかった。瀬奈を誘拐した犯人たちに厳罰が下るようにと奔走していたのだ。(疲れたな……ちょっとだけ休みたい……)湊斗は額を手で押さえてふぅと息を吐いた。とても、仕事ができるような状態ではなかった。そんな彼の元に、瀬奈についていたメイドがやって来た。「――社長、DNA鑑定の結果が届きました」「……」湊斗はメイドから封筒を受け取り、中身を開けた。今さら、こんなもの見るまでもなかった。ほとんど確定しているようなことなのに、何故いちいち中を開けたのかは自分でもわからない。――被験者同士は生物学的親子関係であると判断されます。予想はついていたから、驚きもしなかった。何より
last update最後更新 : 2026-06-21
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第220話

湊斗は突如部屋を訪れた里亜に、困惑した。彼女が彼の娘だと判明してから会うのは初めてだった。他人の子だと思っていた子供が、自分の子供だった。そのせいで彼はどう里亜に接すればいいかわからなかった。「里亜……」「おじさん」里亜はそんなこと知る由も無く、いつものように無垢な顔で湊斗の部屋に入った。目の前にいる彼が実の父親だとは思いもしていないだろう。「里亜、久しぶりだな……」彼は目の前にやって来た里亜に、控えめに声をかけた。湊斗はあの外出の日以来、里亜には会っていなかった。「おじさん、ママはどこにいるんですか?」「ママは……もうすぐ帰ってくるだろうから心配するな」湊斗は悩みながらも、答えた。瀬奈が誘拐され、殺害されそうになったことを里亜に伝えるわけにはいかない。知ったら間違いなくショックを受けるだろうから。真実を知っている彼は、そう声をかけることで精一杯だった。「ママがいなくて寂しい……」「……」やはり、幼い子供にとって母親と長い間離れるのは辛いことだろう。里亜は俯き、目に涙を浮かべた。普段滅多に泣くことのない子であるため、湊斗は戸惑った。彼は里亜と視線を合わせるように、しゃがみ込んだ。幼い子供とほとんど関わったことのない湊斗は、こういうときにどうすればいいかなんてわからない。今までの彼ならば、じっと見守ることしかできなかったはずだ。(俺と……血が繋がっている子か……)そのことを考えると、湊斗の胸に愛おしさがこみ上げてきた。今までも抱いていた感情ではあったが、そのときとは気持ちの大きさが違う。「里亜……こっちにおいで」「おじさん……」自分でもびっくりするくらい、優しい声だった。湊斗はゆっくりと歩いてきた里亜を、抱きしめた。「母親が来るまで、俺が傍にいるから……」彼は里亜を何とか泣き止ませようと、小さな頭を撫でながら強く抱きしめた。一度体を離し、額をコツンと合わせた。(自分の子を持つとは……父親になるとはこういうことなのか……)里亜のおでこから伝わる温もりに、彼の胸がじんわりと温かくなった。「落ち着いたか?」「はい、おじさん。ママが帰ってくるまで傍にいてください」「おじさん……か」「おじさん、どうかしたんですか?」”おじさん”という言葉に、湊斗は思うところがあるのか眉間にシワを寄せた。彼は里亜の父親なのだから、おじさん
last update最後更新 : 2026-06-22
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