「おばあ様! 私がこのキャンベル伯爵家を継ぎます!」 キャンベル伯爵家の当主だったフィオナの次兄フィリップが、自身の婚約式にて獣人王シドの襲撃を受け、亡くなってから数日後―― 衝撃から立ち直れず混沌とする伯爵家にて、内々で済ませたフィリップの葬儀の後、前伯爵である祖母キャスリンの執務室に乗り込んだフィオナ・キャンベル伯爵令嬢は、悲しみを破るように決意を込めてそう宣言した。 執務机にてサラサラと書類にペンを走らせていたキャスリンは、フィオナの宣言を受けて手を止め、正面から孫娘を見据えた。 祖母キャスリンは、もうすぐ五十歳とは思えないほどに肌艶がよく、フィオナにも受け継がれたその灰色の髪は毛先までよく手入れされていて、若々しい容貌の持ち主だ。 おまけにドレスを押し上げているキャスリンの胸はかなり豊満なので、亡き母は騎士をしていたせいか胸が筋肉になってしまい「貧乳になった」と母自身が語っていたが、現在十五歳のフィオナは、もう少ししたら自分も祖母のような巨乳になるに違いないと信じている。 祖母は隣国の公爵家出身だ。亡き祖父イーサンとの結婚のために海を渡りこちらに嫁いできたが、婚姻と同時にイーサンの両親と養子縁組をしたため、キャンベル家の血を引いていなくても爵位が継げた。 キャスリンはこれまで、子や孫が成人するまでの繋ぎのような形で何度も女伯爵をしていたし、今も、亡くなってしまったフィリップの代わりに当主の仕事をしていた。「この家はオルフェスに継がせます。お前は嫁に行きなさい」 そう返す祖母の顔は暗い。 孫のフィリップが死亡したばかりではあるが、悲しみに暮れている、というよりも、今の祖母は思い詰めたような印象の方が強い。 オルフェスとは、キャンベル伯爵家私兵団長を務めている若者であり、祖父イーサンが妾に生ませた子供だ。 黒髪碧眼のオルフェスはイーサンにそっくりな見た目をしていて、明らかに祖父の実子であるにも関わらず、キャスリンはオルフェスが夫の子であることを、公式には頑なに認めなかった。 現在、キャンベル伯爵家の直系はフィオナしかいない。この国の爵位継承は男子が基本ではあるが、直系に男子がいない場合は、女子にも爵位継承が認められる。 けれど、次代の伯爵に、フィオナかオルフェスかどちらを選ぶかという選択において、祖母はオルフェスを選んだ。
Última atualização : 2026-02-27 Ler mais