男装令嬢の恋と受胎~国一番の顔面偏差値を持つ隠れ天敵な超絶美形銃騎士に溺愛されて幸せです~

男装令嬢の恋と受胎~国一番の顔面偏差値を持つ隠れ天敵な超絶美形銃騎士に溺愛されて幸せです~

last updateDernière mise à jour : 2026-04-30
Par:  鈴田在可Complété
Langue: Japanese
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【完結】獣人に殺された家族の敵を討つために、兄のフィリップであると偽り、男装して獣人を狩る銃騎士になる決意した伯爵令嬢フィオナ・キャンベルは、国一番のモテ男である超絶美形銃騎士ジュリアス・ブラッドレイに出会って、一目で恋に落ちた。 フィオナは銃騎士になるための協力を得る代わりに、結婚願望がなく女避けをしたかったジュリアスと、恋心を隠して偽装婚約した。 銃騎士になったフィオナはジュリアスの副官に抜擢されたが、ある時、魔法使いであるジュリアスの魔力補充のために、フィオナは彼に唇を奪われる。 男装銃騎士になった伯爵令嬢が、国一番の顔面偏差値を持つ秘密持ち超絶イケメンに墜ちて地獄まで一緒に行く覚悟を持つ話。

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Chapitre 1

《恋編》1 お前だけは

私・陸川遥(りくかわ はるか)は椎名律人(しいな りつと)と別れたあと、「大富豪」といわれる陸川孝之(りくかわ たかゆき)と結婚した。

つい先ほど、その孝之が彼自身の全財産を私名義に移すと言い出し、私は慌てて断ったものの、彼の真剣な思いに押し切られてしまった。そして彼は、愛があるからこそ、お金で示したいとも言うのだった。

そうすることで、私に誰にも頼らず生きられる強さを与えたいらしい。財産移転の手続きまで、わざわざ私の生まれ故郷であるA市で行うよう手配していた。

やむを得ず、私はA市で一番大きな法律事務所へ向かった。

予約名を告げようとしたその瞬間、背後から聞き覚えのある嘲笑が飛んでくる。

「おい。あれって昔、律人のことを必死に追いかけてた遥じゃないか?

でも残念だな。律人はもう婚約してるんだから」

一瞬動きを止めた私は、ゆっくりと振り返る。

そこには見慣れた顔ぶれがいた。

大学時代の同級生たちだ。

そしてその中心に立つ男。

仕立ての良いスーツを身にまとい、その目元は冷ややかで、周囲を寄せ付けない冷淡な空気を漂わせている。

5年経った今でも、一目ですぐに分かった。

律人。

一瞬、その場の空気が静かになったが、次の瞬間には、彼らが一斉にざわつき始めた。

「まじで遥なの?じゃあ、あの格好はどういうこと?」

「エルメスにブルガリ?買えるわけがないから、どうせ偽物だろ?」

「ここは律人の法律事務所なのにな。そんな場所で、律人に金持ちアピールなんて、まじで笑えるんだけど」

馬鹿にするような笑い声が次第に大きくなっていく。

だがこんなことには、とうの昔に慣れ切っていた。

大学の頃から、彼らは律人の周りでいつも私を馬鹿にしていたから。

当時、私が律人に想いを寄せていることを知らない人はいなかったと思う。

私は律人に毎朝弁当を作り、彼の講義が終わるのを待ち、深夜まで図書館で勉強する律人に付き添った。

そんな私を律人は拒みもしなかったが、受け入れもしなかった。

39度の高熱を出した時でも、私は無理をして律人のスピーチ大会を見に行った。

大会後、倒れそうになっている私を見て、律人は淡々と言った。「試しに付き合ってみよう」

そうして、私たちは付き合うことになった。

付き合ってからも、律人の態度は相変わらず冷たかったが、それでも期末にはテストに出る箇所を教えてくれたし、私が眠そうにしていると、真面目な顔でこんなことも言った。

「ちゃんと勉強しないんだったら、キスするぞ」

他の女性が彼に手紙を渡そうとすれば、律人はその女性の前で私の手を握りしめる。「彼女がいるんだ」

私がバスケサークルのイケメンに見とれていると、律人はひんやりした手のひらで私の目を覆い、翌日には彼自身もバスケサークルに入って、「これからは俺だけを見ていればいい」などと言ってきたのだった……

だからこそ、あの頃は本気で律人も私のことが好きなのだと信じていた。

しかし、卒業が迫っていたあの時期。

律人の幼なじみである相沢結衣(あいざわ ゆい)が、私たちの大学に合格したのだ。

結衣と律人はあまりにも距離が近く、彼らといると、まるで自分がよそ者のように感じた。

私が文句を言わなかったわけではないが、私の機嫌が少しでも悪くなると、律人は眉をひそめ、苛立ちを含んだ口調でこう言った。

「遥、そういうの本当面倒くさい」

それでも、諦めきれなかった私は、自分があと少しだけ我慢すれば、いつかは律人も分かってくれるはず、そう思って耐え続けた。

そうやって、私は結婚式の直前まで耐え続けた。

しかしその日、飲酒運転で暴走したポルシェにはねられて、私の母が亡くなった。

その車を運転していたのが結衣だった。

私が警察に駆けつけた時、結衣は律人の袖にしがみつき、震えながら泣いていた。

「律人、わざとじゃないの……

律人が結婚するのが辛すぎて……それで、飲み過ぎたらこんなことに……」

すると、律人が結衣を優しく慰めた。

「大丈夫だ。俺がついているから」

その瞬間、私は全身の血が凍りつくような感覚に襲われた。

そしてその日の夜には、結婚式をキャンセルし、律人にも別れを切り出した。

律人は引き止めることもなく、長い沈黙の後、私にこう言った。

「結衣は妹みたいな存在だから、見捨てることなんてできないんだ」

母が亡くなった交通事故の裁判が始まると、律人は自ら結衣の弁護人を務め、さらには相沢家という後ろ盾も加わったことで、この酒気帯び運転による事故死は、ごく一般的な過失事故として処理されてしまった。

結局、結衣に下されたのは執行猶予だけ。

結衣が律人の胸に飛び込んで泣き叫ぶ。

対面する席に座っていた私は、母の命を奪った張本人が律人に守られる様を、ただ見ているしかなかった。

納得できなかった私と父は控訴を続けたのだが、結果が出る前に、父が病死してしまったのだ。

それに私も相沢家に目を付けられ、拉致された後に裸の写真を撮られた。

そして最後は逃げるように、この国から出たのだった……

過去を思い出すと、急に吐き気がこみ上げてきた。

その場にもう1秒でもいたくなかった私は、彼らに背を向け、受付に言った。

「予約をキャンセルしてもらえますか?他の法律事務所に行きますので」

律人は私のブランドの服やジュエリーを、まるでゴミでも見るかのように冷たい視線で見下ろしてきた。

「そんなことをする必要はないだろ」

その傲慢な口ぶりは、あの頃のまま。

「みっともない」

私は律人を見返した。

かつて律人のために我慢し続けていた自分も、確かにみっともなかったなと、改めて思った私は、思わず笑ってしまった。そして、彼を相手にするのも面倒くさかったので、そのまま立ち去ろうと背を向ける。

すると、背後からまた下品な笑い声が追いかけてきた。

「律人に会いに来たんだから、素直になればいいのに!」

「もしかしてまだ未練があるとか?あんなにあっさりと結婚をやめたくせに?」

「今では律人もこの法律事務所のパートナーになって、金持ちの令嬢と結婚するから、さぞかし悔しいんだろな!」

そんな言葉の数々に、私はもう我慢の限界だった。

持ち物やアクセサリーを馬鹿にされるのは構わないが、律人に未練があるかのように思われるのだけは、受け入れられない。

過去のことを抜きにしても、律人には正直もう嫌悪感すらあるし、今の私には夫がいるのだ。

それに、大事な企業案件の会議がなければ、今日だって孝之が同行してくれていたのだから。

私は振り返り、静かに彼らを見つめた。

「二度とその汚い口をきかないで」

すると律人が少し目を細め、かすかに笑みを浮かべた。

「遥、28歳だろ?もう子供じゃないんだ。

俺の仕事場まで俺を探しに来たっていうのに、まだ認めないのか?そんなことをして何になる、ん?」

怒りが喉元まで込み上げてきて、もう平然を装うことはできなかった。

私は彼の目をまっすぐ見据え、低い声で伝える。

「夫がすべての財産を私名義に変更してくれるから、ここには法的な相談に来ただけ。

私があなたを追いかけてここに来たって言ってるけど、あなたなんて、私にとっては過去の汚点でしかないの。自意識過剰にも程があるんじゃない?」

私がそう言い終わるとフロアに衝撃が走り、数秒間、その場から音が消えた。

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《恋編》1 お前だけは
「おばあ様! 私がこのキャンベル伯爵家を継ぎます!」 キャンベル伯爵家の当主だったフィオナの次兄フィリップが、自身の婚約式にて獣人王シドの襲撃を受け、亡くなってから数日後―― 衝撃から立ち直れず混沌とする伯爵家にて、内々で済ませたフィリップの葬儀の後、前伯爵である祖母キャスリンの執務室に乗り込んだフィオナ・キャンベル伯爵令嬢は、悲しみを破るように決意を込めてそう宣言した。 執務机にてサラサラと書類にペンを走らせていたキャスリンは、フィオナの宣言を受けて手を止め、正面から孫娘を見据えた。 祖母キャスリンは、もうすぐ五十歳とは思えないほどに肌艶がよく、フィオナにも受け継がれたその灰色の髪は毛先までよく手入れされていて、若々しい容貌の持ち主だ。 おまけにドレスを押し上げているキャスリンの胸はかなり豊満なので、亡き母は騎士をしていたせいか胸が筋肉になってしまい「貧乳になった」と母自身が語っていたが、現在十五歳のフィオナは、もう少ししたら自分も祖母のような巨乳になるに違いないと信じている。 祖母は隣国の公爵家出身だ。亡き祖父イーサンとの結婚のために海を渡りこちらに嫁いできたが、婚姻と同時にイーサンの両親と養子縁組をしたため、キャンベル家の血を引いていなくても爵位が継げた。 キャスリンはこれまで、子や孫が成人するまでの繋ぎのような形で何度も女伯爵をしていたし、今も、亡くなってしまったフィリップの代わりに当主の仕事をしていた。「この家はオルフェスに継がせます。お前は嫁に行きなさい」 そう返す祖母の顔は暗い。 孫のフィリップが死亡したばかりではあるが、悲しみに暮れている、というよりも、今の祖母は思い詰めたような印象の方が強い。 オルフェスとは、キャンベル伯爵家私兵団長を務めている若者であり、祖父イーサンが妾に生ませた子供だ。 黒髪碧眼のオルフェスはイーサンにそっくりな見た目をしていて、明らかに祖父の実子であるにも関わらず、キャスリンはオルフェスが夫の子であることを、公式には頑なに認めなかった。 現在、キャンベル伯爵家の直系はフィオナしかいない。この国の爵位継承は男子が基本ではあるが、直系に男子がいない場合は、女子にも爵位継承が認められる。 けれど、次代の伯爵に、フィオナかオルフェスかどちらを選ぶかという選択において、祖母はオルフェスを選んだ。
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2 出航
 夏の盛りが過ぎて、初秋の頃、フィオナは今まさに隣国へ出港しようとする船の中にいた。 甲板に出て、祖母や伯爵家の者たちが見送る中、自身も彼らに手を振り返しながら、本当にこれでよかったのだろうかと、フィオナの中には、出港直前のこの期に及んでも、自分の選択を後悔する気持ちがあった。 このまま隣国へ行けば、あるべき貴族令嬢としての生き方を全うすることができるのだろう。 それが祖母の望みであり、願いである。 フィオナではなくて、祖母の――(……違う。これでいい。だって私は、もうこれ以上おばあ様を悲しませたくない) 道を示したのは祖母だが、それを選び取ったのはフィオナ自身である。 亡き祖父イーサンに似て頑固な面もあるフィオナは、この選択に疑問を持ちつつも、一度自身が決断した道を覆すことを良しとしなかった。 フィオナは胸に宿る焦燥感に気づかないふりをしながら、伯爵令嬢としての気品を保つようにと、成長途中の小柄な背をしゃんと伸ばした。 共に隣国へ移住する予定の、使用人モカが差してくれる白い日傘の下で、フィオナは家族同然の伯爵家の者たちと別れた。 だが、船が汽笛を鳴らし、岸から離れて見送る彼らの姿が遠ざかるにつれて、フィオナの頬を勝手に涙が伝い、押し殺していた焦燥感も強くなる。(もう二度と会えなくなるかもしれない……) キャスリンは「この家はもうお終い……」と言っていた。 祖母は死を覚悟している。 夫や子供、そして孫が亡くなるたびにキャンベル家の伯爵を務めていたキャスリンは、伯爵家と運命を共にするつもりなのだろう。 その昔、キャスリンの夫イーサンがシドに殺された時、彼女の身を案じた隣国公爵家は、「帰ってくるように」と書簡を送っていたそうだが、祖母は頑なに故国には帰らなかった。 祖母は伯爵家に残り、亡き夫イーサンに代わって、領民と伯爵家を守る道を選んだ。(私だって、この伯爵領のすべてを愛している) フィオナは、小さくなっていく伯爵家の者たちの姿を見つめながら、このままではすべてが失われてしまうと、まるで天啓のようにして悟った。 フィオナは涙をぬぐうと、モカや護衛たちを促して船内にあてがわれた客室に戻った。 フィオナは部屋に着くや否や、喉が渇いたと飲み物を所望してモカを退出させ、加えて、ドレスから部屋着に着替えたいと言って、モカと同様に隣国まで
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3 跳躍
 旅路では使用人が少なくなるために、着ていた一人でも脱ぎ着できる簡易的なドレスを脱ぎ捨てたフィオナは、コルセットと下着だけの姿になると、荷物の中からとある一つのトランクを引っ張り出してきた。 そのトランクは水に浮くように作られていて、船旅でもし水難事故にあった際には、浮き輪代わりになるし、しかも中に水が入らないという完全防水仕様の優れものだ。 フィオナはトランクの中に、動きやすそうな服と下着を瞬時に吟味して詰め替え、祖母から贈られた宝石類なども路銀にするために合わせて詰めた。 そしてこの先に一番必要になるだろう、次兄フィリップの形見分けとしてフィオナが望んでもらった、三年前にフィリップが銃騎士隊養成学校に入校を希望した際に揃えた書類――長兄フレデリクが亡くなり家を継ぐ必要が出てきて結局書類が使われることはなかったが――を、皺にならないように書籍に挟むと、トランクは完全防水仕様だが一応濡れないようにと服にくるんでから、中に入れた。 フィリップは亡くなってしまったが、実は死亡届はまだ出されていない。 オルフェスの庶子認定は、祖父の遺言状などの証拠を精査し未だ進行中で成されていないが、もしもこの状態で、爵位を戻して継承可能なキャスリンが獣人に殺される等して死亡した場合、「キャンベル伯爵家は継ぐ者がいない」と判断されて「お家断絶」の可能性があるからだ。 普通、爵位が継げると聞けば、可能性のある親戚が群がってきそうなものだが、最強最悪の『赤い悪魔』こと獣人王シドの居住地に最も近く、常に危険がつきまとうこの貴族領を継ぎたがる親戚は、誰もいない。 実際に、祖父イーサン以降のキャンベル伯爵家の当主は、キャスリンを除いて、皆シド率いる獣人たちに殺されてしまっている。 ただ、手続きをすれば女のフィオナでも爵位は継げるのだが、そこにイチャモンをつけてきそうな男が約一名いるのだという。 その男こそが、君主政ではなくて宗主制――国民の象徴として宗主という存在を置く制度――を敷くこの国の政治を、裏から一手に牛耳る影の君主、宗主配クラウス・ローゼンである。 キャスリンは獣人王対策として、国から多額の予算をガッポリと引っ張ってきているが、そのことを宗主配クラウスはよく思っておらず、キャスリンを筆頭に、キャンベル伯爵家はクラウスに嫌われている
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4 君、女の子だよね?
 浮かぶトランクにしがみつきながら自力で浜辺にたどり着いたフィオナは、岩場で濡れた下着類を脱いで着替えをすませると、街道で辻馬車を捕まえて最寄りの駅に行き、列車で首都に向かった。  フィオナは首都に行く途中で長かった髪をバッサリと切り、「生きているから大丈夫。心配しないで」と書いた手紙にその髪束を同封して、伯爵家に送っておいた。  実家ではフィオナが行方不明になったと騒ぎになっているだろうから、とりあえずの連絡だが、女なのに銃騎士になるだなんて全員に大反対されそうなので、とにかく試験に合格するまではと、自分の目的も居場所も知らせないことにした。  フィオナは列車を乗り継ぎ数日かけて首都に到着した。  都内にあるキャンベル伯爵家のタウンハウスには知り合いもいるので、フィオナは受験結果が出るまではあまり近づかないことにして、離れた場所で宿を取ることにした。  この時期、首都では養成学校の試験を受けるために全国から人が集まってくる。男装さえバレなければ、少年が一人で宿を取ろうとしてもさほど奇妙には思われない。 「立派な銃騎士になって悪い獣人をやっつけてね」  フィオナが男物の服を購入して男装し、「銃騎士養成学校の試験を受けに来ました」と言うと、宿屋の主人はそう言って、快く部屋を貸してくれた。  ******  そしてやって来た受験当日。  願書は事前に郵送してもよいが、銃騎士隊は多くの人員を募集しているので、当日飛び入りで受付に願書を提出しても受験可能だ。事前の願書提出だと実家にバレてしまうと思ったフィオナは、当日直接願書を提出した。  願書には三年前の次兄フィリップの顔写真が載っている。  フィリップとは髪色も眼の色も同じ灰色なので、そのあたりは助かったと思いつつ、変装のために度のない銀縁眼鏡をかけてみたところ、「キャンベル家の若き伯爵が受験しに来た!」とかなり驚かれたが、正体がフィオナだとバレることはなく、すんなり受付を通って受験者に紛れることができた。 (とりあえず第一関門は突破だわ!)  しかしこの後には第二関門の身体測定が待っていた。  身体測定は上半身裸の状態で行われる。  フィオナの胸はツルペタではないがささやかな状態であり、女だとバレるかバレないかギリギリのところだった。しかしフィオナとしては、「ちょっとぽっちゃり
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5 俺を好きにならないこと
「どうかこのことは内密にしてください! 私は銃騎士になって家族の仇であるあのおぞましき赤髪の獣人王をこの手で討ちたいのです! あなたが黙っていてくれるなら何でもしますし、あなたの下僕でも舎弟でも何にでもなりますから!!」 根が真っ直ぐなフィオナは、女バレを咄嗟に誤魔化すのではなくて、認めた上で自分の情熱を伝えた後に、口止めを願い出た。「黙っているのは君次第だけど、どうするつもりだったのかな?」 彼は自らを、ジュリアス・ブラッドレイと名乗った後に、そう尋ねてきた。 口調は年長者が年下に「悪さをしたのか?」と優しく問いかけるようなそれであるが、君次第だけどというところに、フィオナはジュリアスに一筋縄ではいかない感というか、強敵感を覚えてしまい、冷や汗を掻いた。「ええと…… この後の身体測定に関しては、ありのままの姿を晒すつもりで、あとは試験に合格さえすれば何とかなると思います!」「……」 フィオナが希望的観測を述べると、ジュリアスは呆れたのかしばらく閉口していた。「……こちらの条件を呑んでくれるのなら、女の子であることを黙っていてもいいよ」 ジュリアスは美しい指を顎に当て、考え込んだような素振りの後にそう提案してきた。 ジュリアスは美しすぎる顔に似合わず「取引」なるものを持ちかけてきたが、彼の澄んだ瞳に見つめられると、それだけでフィオナの胸はキュンとした。「はいわかりました! その条件呑みます!」「条件の内容をちゃんと聞いてから決めようね」 先走りすぎる自分に注意を促してくれるジュリアスは、とても良い人、いや良い先輩だとフィオナは思った。 フィオナは、この短時間で完全にジュリアスに心を許した。「一つは、俺の仮の婚約者になること」「婚約者っ!!!!」「仮の、ね。事情があって誰かに俺の婚約者の役目を引き受けて欲しいんだけど、ほとぼりが冷めた頃に婚約解消するから、本当に結婚はしないので安心してほしい」 フィオナは、「本当に結婚してもいいですよ」と言いかけたが、「銃騎士になって家族の仇を討つまでは結婚しない」と自分で決めていたので、おいそれと約束はできないと思い、喉まで出かかった言葉を押し留めた。「どうして仮の婚約者が必要なんですか?」「俺は誰ともつき合うつもりはないし、結婚するつもりもないんだけど、女性に言い寄ら
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6 VS女帝
 銃騎士養成学校入校試験の合格がわかってから数日後、フィオナは実家の伯爵家に戻っていた。 フィオナは入校試験の合格をジュリアス経由で聞いていたが、その結果自体はキャンベル伯爵家に送付されるそうで、その前に自分たちの口で伝えた方が心象が良いだろうとジュリアスに促されて、フィオナは合格祝いとして彼からプレゼントされたセンスの良すぎる婦人服を身にまとい、髪は短いが令嬢の姿で、実家に戻った。 フィオナはジュリアスと共に馬車で領地の伯爵邸に向かっていたが、もうすぐ着くというところで、伯爵家の美貌の使用人ギルバートに馬車を止められ、「フィー様ッ! よくぞご無事でぇぇぇー! ああああ私のフィー様の美しき御髪が切られてェェェェー!」と泣き崩れるギルバートと共に邸に入り、客間に通された。 現在、客間にてソファに座るフィオナの目の前には、キャンベル伯爵家の「女帝」ことキャスリン・キャンベルその人の姿がある。「モカが倒れたそうよ」 キャスリンは客間に入室してソファに座るなり、開口一番そんなことを言ってきた。 モカとは、フィオナと共に隣国に赴く予定だったフィオナの専属使用人の女性だ。「大奥様、情報は正しく伝えるべきかと」 表情を曇らせるフィオナに気づいたのか、助け舟を出すように口を開いたのは、涙を引っ込めた後に、まるで執事がごとき雰囲気で当たり前のように室内にたたずんでいた、隻腕の使用人ギルバートだ。 ギルバートは婚約式襲撃事件の際に、フィオナをシドから守って片腕を失ってしまっている。 キャスリンは表情を作り微笑みすら浮かべていたが、まるで「余計なことは言うな」とでも言うように、発言をしたギルバートを一瞬きつく睨みつけていた。 対する使用人ギルバートは、屋敷の女主人に睨まれても全く怯まず堂々としている。むしろキャスリンをちょっと睨み返したようにも見えた。 ギルバートは立派な体躯をした大柄の青年だ。顔の作りは中性的で美しい顔立ちをしていて、髪が銀色なのもキラキラしていて綺麗だ。 実は、美しいギルバートはフィオナの初恋の人なのだが、そのことを知ったキャスリンが、これ以上ないくらい烈火のごとく怒っていたことを、フィオナは鮮烈な記憶として昨日のことのようにずっと覚えている。 祖母は年若く美しいギルバートと愛人関係であると噂されているが、ただ、緊張感を孕んだ
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7 種
「おばあ様は、フィル兄様が銃騎士になりたいと言い出した時に、許可を出されたじゃないですか! 『銃騎士隊との繋がりが増えるのは良い事だ』とも仰っていたじゃないですか!  フィル兄様は大丈夫で、どうして私は駄目なのですか⁈  フィル兄様は家を継ぐ必要がありましたが、私にはない…… 家を継ぐのはオル兄様。ならば、私は別の形で、この家を、この伯爵領を守りたいんです!」  フィオナが銃騎士になることを許可しない発言をしたキャスリンに、フィオナが食ってかかる。 「お前は伯爵令嬢、フィオナ・キャンベルなのですよ。お前の人生を犠牲にする選択を、私は肯定できない」  フィオナの情熱を、冷静さで受け止めるように、キャスリンは落ち着き払って言葉を紡ぐ。  兄フィリップのフリをして生きるということは、その間のフィオナ自身の人生は希薄になる。 「お前もそろそろ婚約者を考えていかねばならない年頃です。令嬢の十代を舐めてはいけませんよ。数年出遅れただけで、良い嫁ぎ先はどんどんなくなっていきます。  お前の言う通り、国のルールがどうあれ、私自身は女が銃騎士になっても構わないと思っているし、お前の身の安全が保証されるのであれば、銃騎士隊と紐付くことは、我が伯爵家にとっては『良き』ことでもあるわ。  でも、仮に銃騎士になることを認めたとして、それはいつまでの話になるの? いつ、『令嬢のフィオナ』は帰って来るの?   悲願叶ってシドを倒せたとしても、その後に伯爵令嬢に戻った時のお前には、一体何が残るの?  貴族女性にとって、結婚できなかったということは、とても致命的なことなのよ」 「そのことなのですが」  キャスリンが「結婚」の言葉を出してきたことで、ここぞとばかりにジュリアスが口を挟んだ。 「私とフィオナ様の婚約を認めていただけませんか?」  ジュリアスの婚約許可願いに、キャスリンは目を見開き、扇子で口元を隠すのも忘れて、驚愕の面持ちでジュリアスの顔面をまじまじと見つめた。  場を沈黙が支配する。 (おばあ様お願い! 認めてー!)  フィオナはキャスリンに念を送りながら、ここが自分が銃騎士になれるかなれないかの分岐点だと感じていた。 「……いいでしょう」 (やったっ!!)  婚約と言っても偽装婚約なのだが、この時フィオナは、ジュリアスと本当に結婚
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8 据え膳になるのよ、フィー!
 パタリとドアが閉まる。ジュリアスと案内役のギルバートの足音が遠ざかっていく中、話し合いの終わった室内にて、祖母キャスリンと二人きりになったフィオナは――「フィー! あの魚絶対に逃がすんじゃないわよ!」 先ほどまでの淑女然とした雰囲気から一転、フィオナの両肩を掴んだキャスリンは、クワッと目を見開き、勢い込んで話すが、あまりの勢いにフィオナはのけ反った。「さ、魚……」「とんだ大物よ! 彼はきっと大出世するわ! デキる男感がビシバシと伝わってきて、全身がシビレたもの! 彼だったらもしかしたら本当にシドを倒せるかもしれない!」 キャスリンは人を見る目はあるので、祖母が言うならば、きっとジュリアスがシドをやっつけてくれるような気が、フィオナもした。「で、どうなの? ヤったの? ヤっちゃったの?」「はい?」「処女は散らしてもらったの?」 とんでもねえことをキャスリンは言うが、一部例外はあるが、獣人は処女としか致さないので、前もって婚約者や恋人に脱処女してもらえれば、『悪魔の花嫁』――獣人の番――にならずにすむ。 この国では初体験は早ければ早いほど良いという風潮があって、現在、伯爵家当主代行の立場にいる祖母が、無粋なことを聞いてくるのも、わかると言えばわかるが、フィオナの心中は複雑だった。 「……まだです」「だったら今夜すませなさい!!」「ええっ!?」 無茶振りに驚愕したフィオナは心臓が止まりそうになったが、一方のキャスリンは、巨大魚を逃がさんと熱が入っていた。「既成事実を作って、婚約破棄なんて絶対にさせないようにするのよ!」「いや、でもっ…… あの……」 ゆくゆくは婚約解消の予定だが、それを祖母に見抜かれているような感じがして、フィオナは冷や汗が出てきた。 それに、ジュリアスには「俺を好きにならないこと」と言われているのに、「初夜の床」なんて準備されたら、それだけで嫌われてしまう気
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9 婚約者(仮)と初めての夜
 トントン、と使用人が、ジュリアスのいる部屋の扉を叩いた。 『はい』  寝ていて訪問に気づかないでほしいと思ったが、そこまで遅い時間ではないので、ジュリアスは普通に起きていた。 「夜分に失礼いたします。大奥様からのお届け物でございます」  自分はお届け物らしいと、フィオナは知る。  少し間があってから、カチャッと鍵を外す音が響いて扉が開いたが、フィオナは恥ずかしいやら気まずいやらで、下を向いたまま床ばかり見ていた。 「晩酌をしていたんだけど、話し相手になってくれるなら嬉しいね。ありがとう」  予想に反して、ジュリアスは朗らかな口調でそう告げると、フィオナの手を引いて部屋の中に入れてくれた。 (優しい……)  据え膳を受け入れたというよりも、おそらく女性に恥を掻かせないようにという配慮なのだろうが、フィオナは胸がじんとして、ジュリアスへの思いも強くなった。  しかし、フィオナに続いてなぜかそのままゾロゾロと女性使用人たちも中に入ってきた。 「婚約者と二人きりになりたいから」  ジュリアスがそう言って、それとなく退出を促しながら極上の笑みを見せると、「キャ~」と女性使用人たちは全員黄色い声を上げて、頬を染めたり瞳をとろんとさせて魅入られた状態になった。 (美しいって、恐ろしい……)  魅入られた者たちの中でも、一番近くでジュリアスの笑みを見た使用人がパタリと倒れてしまったため、彼女たちは名残惜しそうにしながらも、「失礼いたしました」と言って、倒れた使用人を引きずるようにして去って行った。  彼女たちが部屋から出た途端に、すかさずジュリアスはカチャリと鍵をかけた。それは血迷った女性たちに襲われないようにするための、ジュリアスの自衛的行動のようだった。 「とりあえず、座って。何か飲む?」  フィオナはジュリアスにソファまでエスコートされながらも、密室で二人きりの状況に緊張していて、何も喋れず、ただ問いかけを了承するようにコクコクと首を縦に振るばかりだった。  フィオナもジュリアスの破壊力のある微笑みにズキューンと胸を撃ち抜かれた一人だったが、出会ってからずっと、「俺を好きにならないこと」の約束を(表面上は)守るために、ジュリアスへの好意表出を自重しているフィオナは、顔面が緩むのを根性で耐え、ジュリアスにしなだれか
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10 デビュタント・パーティー ~彼の嘘~
 フィオナの実家であるキャンベル伯爵家から婚約の許可が出たことで、ジュリアスとの婚約の手続きが進められ、二人は婚約した。  婚約後、新聞や雑誌などで、若くして二番隊長代行に抜擢された期待の超絶美形銃騎士ジュリアスと、辺境の伯爵令嬢フィオナの婚約が取り沙汰されると、とりわけ首都の社交界における、ジュリアスを本気で狙っていた貴婦人たちの多くがざわつき始めた。  フィオナはキャスリンの許可をもらい首都にあるキャンベル伯爵家のタウンハウスに移っていたが、「ジュリアス電撃婚約」の真偽を確かめるべく、早くもタウンハウスに突撃してくる血気盛んな令嬢たちが現れ始め、フィオナはあらかじめジュリアスに言われていた通り、身の安全を守るべく、家の中でも男装してフィリップとして過ごした。  伯爵家のタウンハウスの中でもフィオナの正体を知るのは、祖母キャスリンがタウンハウスの管理を任されていた、信頼できる執事夫妻のみだ。 「フィリップ死亡」が暴かれると「伯爵家存亡の危機」に繋がる可能性があるため、キャスリンは関係者であっても多くの者に真実を伏せていた。  フィオナは、時にはフィリップとして令嬢たちに応対して、「フィオナはここにはいない」と言って彼女たちを追っ払いながら、新年が明けてから始まる銃騎士養成学校生活の準備をしつつ、年の暮れに差し迫ったもう一つの重大イベントの準備をしていた。  デビュタントである。  フィオナは未成年だったので社交界デビューはまだしていなかった。貴族主催のパーティなどは成人を目安に参加するものだが、婚約をすると一人前とみなされる風習もあり、成人前の早い時期から社交を始める者も多い。  社交をするもしないも本人の自由という建前はありつつ、婚約をした場合はお披露目のために社交界に出るのが一般的とされる貴族社会において、婚約後にデビューしないのは「家にデビュタントをする余裕がない」と示すことにもなってしまう。  そしてフィオナの場合は、「まだデビュタントもなさっておられませんのねぇ」とジュリアス狙いの令嬢たちにあざけられる原因にもなる。  せめてデビュタントだけでも済ませておかなければ、貴族令嬢としての立場がないのだ。  養成学校が始まれば令嬢としての生活もできにくくなるだろうから、その前に済ませてしまえという思惑と、それから、次から次へと現れ
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