All Chapters of 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Chapter 291 - Chapter 300

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第291話

そう言い終えると、電話の向こう側は、沈黙に包まれた。長い間が空いたあと、浩平はようやくゆっくりと口を開いた。「分かった。彼らが幸せなら、それでいい」その声には、言い知れぬ複雑な思いがにじんでいた。翔平は返事を聞きながらスマホを握りしめ、力を込めて問い返した。「本当に、会いに行かなくていいのか?」浩平は自嘲気味に笑って答えた。「自分でも分からない。彼らの平穏を乱して、俺が現れたら迷惑になるだけだろう」恐らく父も妹も、もうとっくに自分のことは忘れているのだ。翔平は言った。「それなら、全てを時間に委ねよう」「ああ。近いうちに一度、深津市へ戻るつもりだ」「前にボヘンを買収する計画だと言っていたな?」と、翔平が切り出した。浩平は頷いた。「あそこが持つ技術に目をつけていてね。トウキには市場はあるが、開発力には少し欠ける。ボヘンを買収してその弱点を補うんだ。今は向こうの内部が揉めているから、ちょうどいいチャンスだよ」ボヘンは涼太と友人が立ち上げた会社で、創業当時は皆ががむしゃらに働いて盛り上げていた。しかし成長とともに、経営に対する考え方に少しずつズレが生じてしまったようだ。結局、翔平はそれ以上何も言わなかった。互いに通話を切った。翔平はスマホを置くと、運転手に言った。「さあ、出発してくれ」その日の午後。美羽が隆と今後の仕事の相談をしていると、突然隆のスマホが鳴った。美羽が漏れ聞いた内容によれば、来週、隆が深津市へ向かい、宏介と共同投資プロジェクトの契約を結ぶということだった。10分ほどして、隆が電話を切った。美羽が尋ねた。「白石家の動きが激しいですね。もう待ちきれないのでしょうか?」浩平は、白石家の傘下にあるMKグループの中核事業を少しずつ奪い始めている。隆は言った。「今の野村社長は白石家に対して容赦ない。この共同投資プロジェクトこそ、白石副社長の最大の賭けなんだ」美羽は言った。「栄和も、そのプロジェクトのおこぼれがもらえるといいですね」隆は不敵に笑った。「もちろんだ」美羽は当然、隆の力を信じていた。もちろん、瑠衣と彩乃たちのやり方が嫌いで白石家に嫌悪感を抱いていることもあり、特に浩平が窮地に追い込まれるのを見たがっていたのだ。するとその時、美羽に幼稚園から着信があった。「はい、
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第292話

上品な装いの貴婦人が椅子に座り、冷ややかな目つきで美羽を見下ろしている。先生は慌てて間に入り、なだめるように言った。「イヴリンさん、早瀬さん。今は子供たちを教室へ戻して、落ち着いてから話しましょう。子供たちへの悪影響が心配ですから」美羽は、興奮する柚葉をなだめた。ようやく落ち着きを取り戻した柚葉を連れ、先生は教室へと戻っていった。早瀬冴子(はやせ さえこ)はボディーガードに合図を送り、早瀬梓(はやせ あずさ)を車へ連れ帰らせた。美羽は担任の麻希と別室で二人きりになり、何があったのか詳細を聞いた。どうやら今日、美羽が保護者会へ行った際、他の子供たちが美羽を見て、「柚葉ちゃんのママ、すごく綺麗!」と口々に褒めたらしい。柚葉はそれが誇らしくてたまらず、否定もせずに嬉しそうにしていたという。そこへ梓が突然、こう言い放ったのだ。「あの綺麗な人は柚葉ちゃんのママじゃないよ。柚葉ちゃんにはママなんていないの。捨てられちゃったんだから」この言葉にカッとなった柚葉が梓に掴みかかり、それを見た詩音が加勢して乱闘騒ぎになったそうだ。その説明を聞いて、美羽は胸が締め付けられるような思いだった。美羽が職員室へ戻ると、冴子が足を組んで椅子にふんぞり返り、軽蔑の眼差しを投げつけてきた。「ああ、あなたが例のイヴリンさん?男をたぶらかすだけじゃ飽き足らず、人の子をままごとにして育てるの?それなら、使用人のバイトでもしたらどうかしら?」冴子の言葉を聞き、先生たちは顔を見合わせた。以前は確かにイヴリンなんて知らなかったが、最近になってよく柚葉の送迎に現れるようになったのだ。あの瑠衣の姿は見かけなくなった。まさか、このイヴリンが本当に取って代わったのか?上流階級の噂は、毎日更新されるほど波乱含みだ。周囲の先生たちはただ沈黙を守り、心の内で噂を楽しんでいた。美羽は冴子に近づくと、デスクにあったコップの水を躊躇なく彼女の顔に浴びせた。「きゃっ!」悲鳴を上げて立ち上がった冴子は、真っ赤な顔で怒鳴った。「あんた、頭がおかしいんじゃないの!?私に水をかけるなんて!」麻希は慌てて冴子にティッシュを差し出した。美羽は冷ややかな声で返した。「口が臭いですね、歯磨きするのを忘れたんでしょうか?子供の躾がなっていない理由が分かりました。あなた
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第293話

翔平の視線が自分に向けられたことに気づき、美羽は冷ややかな目で彼を一瞥した。「あんた、いい加減にしなさい。誰にでも手を出していいと思ってるの?」と、瑠衣が怒り心頭に発した様子で美羽に言った。美羽は鼻で笑うと、言い返した。「手を上げたからって何か問題でも?私が聞きたいのは、この方の娘さんがなぜ『柚葉ちゃんにママがいない』なんて言ったのか、その点ですよ。裏で吹き込んだのは誰でしょう?」その言葉を聞いた瑠衣の顔が、わずかに引きつった。「何よ、デタラメばかり言わないで!」瑠衣の瞳に宿る動揺を見て、確信を得た美羽は皮肉めいた笑みを浮かべた。「いいでしょう、じゃあ今からそちらの早瀬さんのお子さんをここへ呼んで、本人の前で聞いてみましょうか。いったい誰から聞いた話なのか」瑠衣は美羽を睨みつけ、うしろめたそうに傍らの男へと視線を泳がせた。翔平は一言も発しなかったが、その表情は目に見えて険しくなっていた。焦った瑠衣が、必死で言い訳をする。「翔平さん、きっと柚葉ちゃんと梓ちゃんの間に誤解があっただけよ。梓ちゃんがそんなひどいことを言うはずないわ」園長はチラリと翔平を窺った。このイヴリンという女性が翔平とどのような関係にあるのか、見当がつかなかったからだ。その口調からして……まさかこの女性こそが柚葉の母親なのだろうか?考えれば考えるほど、園長は戦慄した。よく見れば、柚葉の面影はどことなくイヴリンに似ているようにも見えた。この場にいる誰一人として、学校側が敵に回せる人間ではない。園長は急いで場の空気を和らげようとした。「申し訳ありません。今回のことは我々の配慮が足りず、子供たちへの指導が行き届いておりませんでした。責任はすべて私共の監督不足にあります。二度とこのようなことがないよう深く反省し、必ず納得のいく解決を図ります」園長は当たり障りのない言葉で、全ての責任を自分たちのものとした。担任の麻希は、先ほど叩かれたばかりだったにもかかわらず、園長の説明を聞くとすぐに謝罪した。冴子は心の中で悪態をついたが、園長が出てきて翔平も同席している以上、引き下がるしかなかった。彼女は美羽に向けて恨みがましい視線を送り、これで済むと思ったら大間違いだと誓った。職員室を出ると、翔平は教室内へと向かい、その後ろを園長と麻希がついて行く
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第294話

美羽は一真に電話をかけ、仕事の段取りを確認した。それから、そのまま柚葉を連れて今井家へ戻った。帰り道のことだ。車内で美羽と柚葉は楽しそうにおしゃべりをしていた。それでも柚葉はまだ怒っているのか、頬を膨らませた。「私はママがいない子なんかじゃないもん。イヴリンさん、ママになってよ。いいでしょ?」娘の切実な言葉を聞いた美羽の胸が締め付けられ、思わず涙が出そうになった。ママだよ、一度だって捨てたりしていないんだよって、すべて打ち明けて抱きしめてしまいたい衝動に駆られた。それでも、ぐっとこらえた。今井家に着いた。柚葉と戻った美羽は元気がなく、浮かない顔をしていたため、正人と澪はすぐに異変を感じ取った。澪が心配そうに問いかける。「柚葉ちゃん、何かあったの?」美羽は柚葉を抱きかかえたまま言った。「お父さん、お母さん。先に向こうの部屋に連れて行くね」二人は追及することなく、「ゆっくり休ませて」とだけ告げた。よく遊びに来るため、美羽の部屋には柚葉のための生活用品や、お気に入りのウサギのぬいぐるみも常備してある。美羽は寝室で柚葉に付き添い、添い寝をして落ち着かせた。やがて柚葉が眠りについた。美羽はベッドに横たわり、柚葉の小さな体を抱きしめながら、申し訳なさと堪え難い苦しみに胸を焦がした。美羽は柚葉の額にそっとキスをして、震える声で呟いた。「ごめんね。ママが悪いのよ。大好きだよ」そのまま柚葉と一緒にしばらくうたた寝をした。目を覚ました時、柚葉はまだぐっすりと眠っていた。起こさないように静かに布団をめくり、美羽は足音を立てずに下の階へ降りた。澪と正人はリビングでテレビを見ていた。美羽の姿を見ると、正人が心配そうに尋ねた。「美羽、一体何があったんだ?」美羽は詳しくは説明せず、短く伝えた。「園でちょっとしたトラブルがあって、帰ってこさせたの」「どうして急にもめ事になったんだ?柚葉ちゃんはどこもケガしてないのか?」「大丈夫、何ともないわ」「それなら良かった」「……」夜になり、澪が手料理をふるまい、柚葉のために食事の用意をした。目が覚めた柚葉に美羽が声をかけ、あやすと、寝室にはいつもの弾けるような笑い声が戻ってきた。着替えを終えた美羽は、柚葉と手を繋いでリビングへ向かった。
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第295話

美羽は静かに頷いた。「で、柚葉ちゃんは何か怪しんでいるのか?」正人が尋ねた。美羽は小さく首を振った。「あの子はまだ小さいから。何も分かっていないわ」柚葉は、自分と翔平の仲がうまくいっていないことは肌で感じているが、大人の複雑な事情までは理解できないのだ。柚葉は自分が実の母親だとは知らないが、それでも母親になってもらいたいと願っていた。夕食時、涼太はまだ帰っていなかった。美羽は尋ねた。「お兄ちゃん、今日は夕飯には帰ってこないのかしら?」澪が言った。「仕事が立て込んでいるから残業するみたい。先に食べよう」「ええ」午後にたっぷりと昼寝をしたおかげか、柚葉は夜の10時を過ぎても元気だった。眠る前、柚葉は翔平とビデオ通話をした。美羽は下の階に降りてホットミルクを入れ、ちょうど帰宅した涼太と鉢合わせた。「お兄ちゃん、ずいぶん遅いのね。そんなに忙しかったの?」涼太は短く答えた。「ちょっとね。紗良さんから聞いたんだが、詩音ちゃんと柚葉ちゃんが学校で他の子と喧嘩したらしいな。柚葉ちゃんは大丈夫か?」紗良と涼太は連絡先を交換してから、よく個人的にやり取りをしていた。互いの気持ちは明確には言っていないけれど。それでも美羽には分かっていた。技術一筋で生きてきた不器用な涼太には、、紗良のような明るく熱心な女性が必要だ。二人の進展を美羽は微笑ましく見守っていた。順調にいってくれるといいと願っていた。「ええ、もう大丈夫よ。今日は連れ帰ってきて、夜にはいつも通りに落ち着いたから」涼太は頷いた。「それは良かった。それにしても、親のいない子だなんて暴言、子供が何も知らずに急に言い出すはずがない」夕食前、美羽は紗良とメッセージのやり取りをし、事の次第を伝えていた。紗良は憤慨した。【絶対、白石さんが裏で吹き込んだんだわ。本当に根性が悪いわね。中山社長だって柚葉ちゃんを大切にしているんでしょ?柚葉ちゃんがこんなにひどい目にあわされて、黙ってるつもり?白石さんなんて、顔が取り柄であるだけで、あの男の目は節穴なのかしら!】翔平が実際どう動くつもりなのか、美羽には分からなかった。ただ昨日、瑠衣が見せた怯えた様子から察するに、瑠衣自身、柚葉の件で翔平が激怒し、印象が悪くなることを心底恐れているようだった。翔平がいずれ再婚する
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第296話

隆は、特に隠し立てすることもなく教えてくれた。盛沢市に拠点を置く二つの投資会社が、東華の株を20億円分も突然売却し始めたらしい。隆はその動きを以前から察知していて警戒していた。背後には天嶺の存在があり、翔平が東華の空売りを仕掛けようとしている。こんなに早く動いてくるとはね。「自分はこっちで対応する。来週、深津市へ行って白石副社長と契約を結ぶはずだったが、美羽さんは大輔と二人で先に向かってくれ」「分かりました。でも……そっちの処理は大丈夫なのでしょうか?」美羽は心配でたまらなかった。隆は言った、「天嶺の急な動きは確かに想定外だったが、東華も対策を講じている。ただ、少し厄介なことにはなりそうだ」「分かりました」この2年間、両社は激しい競争を繰り広げてきた。そのせいで対立が深まり、以前には公正取引委員会から事情聴取を受けたこともあった。「それと、もう一つ報告がある」と隆が声を潜めた。「たった今入った情報なんだが、野村社長がボヘンの買収を目論んでいるらしい」「なんですって?」美羽は息をのんだ。買収計画は企業秘密のはずだ。恐らく宏介側と組んだ上での動きなのだろう。隆が相手のルートから掴んだ情報に違いなかった。「鷲尾部長には伝えておく。涼太さんにも警戒するように言っておいてくれ」栄和がかつてボヘンに出資しており、現在は鷲尾恒(わしお こう)がその担当者だった。「了解しました」通話を終え、電話越しの険しい表情を見ていた紗良が、心配そうに尋ねてきた。「美羽、何かあったの?」「少しお兄ちゃんのところへ行ってくる」美羽は足早に歩き出した。紗良も後を追いながら、子供たちの世話を使用人に頼んだ。リビングへ向かうと、ちょうど涼太と悠斗が真剣な表情で打ち合わせをしていた。「お兄ちゃん、悠斗」美羽の表情が暗いのを見て、涼太は聞いた。「どうかしたのか?」ソファに深く座り込むと、美羽は口を開いた。「お兄ちゃん、桑原さんと提携の件で折り合いがついてないって言ってたけれど、あれから進展はあったの?」桑原毅(くわばら つよし)というのは、涼太と共同経営を始めた仲間だ。高校から大学までずっとクラスメイトで、親友同士の関係だった。以前、今井家にも食事に来たことがある。会ったことはあるけれど、その時の会話の節々から、
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第297話

涼太と悠斗の表情が、一瞬にして凍りついた。悠斗は険しい顔で吐き捨てた。「浩平さんの野心も、随分と肥大化したものだ」美羽が言った。「彼は間違いなく、ボヘンのコア技術を狙ってるわ。それをトウキに組み込むつもりなのよ。お兄ちゃん、もう一度桑原さんとしっかり話し合ってみて」涼太はスマホを取り出し、毅に発信した。しかし、電話口からはすぐに切断音が返ってきた。涼太が言った。「今からあいつの家に行ってくる」美羽が応じた。「ええ。今日は週末だし、何としても桑原さんと妥協点を見つけてきて」毅が独断で動いたのはいただけないが、今の会社を二人でここまで育て上げたのも事実だからだ。「分かってる」悠斗が続いた。「俺も一緒に行く」涼太は頷いた。紗良は、不安で胸がいっぱいだった。とはいえ、今の彼女にはどうすることもできなかった。紗良の心配に気づいた涼太は、席を立つ際に通りすがりざま優しく言った。「大丈夫。うまく解決するさ」紗良は顔を上げると小さく頷き、屈託のない顔で言った。「涼太さん、もしお金が必要なら私が出資しようか?」なぜなら、今の自分にとって余計なものといえば、使いきれないほどの金くらいなのだから。涼太は微笑んだ。「美羽、母さんによろしく伝えてくれ」「分かったわ。二人とも、気をつけて」涼太と悠斗は今井家を後にした。二人の背中を見送りながら、うまくまとまるように美羽は願った。気づくのが早くて本当によかった。午後、美羽と紗良は子供たちを連れて街へ繰り出した。家にいても不安が募るだけだし、直美とも合流することにした。直美は、隆が盛沢市に行ったことを知っていた。「中山社長が東華の空売りを狙うなんて、とんでもないわ」直美は腹を立てていた。紗良は直美と美羽の会話を聞いて、初めて事情を理解した。幸い、柚葉と詩音は目の前の噴水で金魚すくいごっこをして遊んでいる。「子供たちがいるから、あの男の話は終わりにしましょう」と紗良がたしなめた。直美は仕方なく口を閉ざした。紗良は皆を連れて、高級ブランドショップをはしごした。「今日は気にせず、好きなものを選んでくださいね。お代は私が持ちますから」直美は苦笑いした。「さすが紗良ちゃん。美羽ちゃんも一度とことん中山社長を懲らしめた方がいいわ。不倫なん
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第298話

「柚葉ちゃん」名前を呼ばれた柚葉が振り返ると、そこに百合がいた。柚葉は立ち上がって歩み寄り、「おばあちゃん」と呼んだ。百合は柚葉の前に歩み寄ると、腰をかがめて彼女を抱きしめた。彩乃が歩いてきて、柚葉に視線を落とした。「これが翔平さんの娘さん?とっても可愛いわね!」柚葉はきょとんとした顔で、目の前の見知らぬ人を見つめた。百合は笑顔で言った。「そうでしょ。柚葉ちゃん、彩乃さんに挨拶しなさい」柚葉は素直に挨拶した。瑠衣はしゃがみこんで、柚葉に優しい笑みを向けた。「柚葉ちゃん、そのネックレスすごく似合ってるわね。他に何セットか揃えてあげるわ」瑠衣は柚葉のことが疎ましくてたまらなかったが、翔平が溺愛する娘であり、結婚のためにはうまく付き合うしかなかったのだ。柚葉は瑠衣を見て、強い拒否反応を示した。イヴリンをいじめていたことを知ってから、柚葉は瑠衣が大嫌いになっていたのだ。「いらない。瑠衣さんからのネックレスなんて欲しくないもん」柚葉が言い放った途端、場が凍りついた。彩乃と百合の顔色が変わり、瑠衣は笑顔を引きつらせたまま、ひどく不機嫌になった。すると、百合が窘めた。「柚葉ちゃん、瑠衣さんは親切で言ってるのよ。そんなこと言っちゃだめでしょ?」柚葉はぼそっと言った。「だって、瑠衣さんはイヴリンさんをいじめてたもん」百合の表情がこわばり、美羽へと視線を移した。美羽と百合の目が合う。その険しい眼差しからすると、百合は自分が柚葉に吹き込んで、わざとそんなことを言わせていると勘違いしているのだろう。彩乃が瑠衣を一瞥してから、柚葉にかがみこんで言った。「柚葉ちゃん、瑠衣とイヴリンさんの間にはきっと誤解があるのよ。瑠衣にイヴリンさんへ謝らせるから、それで許してくれない?」瑠衣は納得いかない様子で、彩乃を見上げた。彩乃は、「感情的にならないで」と視線で合図を送った。柚葉は言い返した。「イヴリンさんが瑠衣さんを許すならいいよ」百合が声を強めた。「柚葉ちゃん、そんな聞き分けのないことを言ってはいけないでしょう」柚葉は不満そうに下を向いた。彩乃が言った。「大丈夫。瑠衣に至らないところがあったのね。さあ、瑠衣、イヴリンさんに謝りなさい」瑠衣は拳を握り締め、心の中で柚葉を激しく罵った。彩乃に小突かれた瑠衣は
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第299話

彩乃は冷ややかな目を向けたが、結局何も言わなかった。柚葉が近づいてきて、美羽を見上げて言った。「イヴリンさん、瑠衣さんを許したの?」美羽は柚葉の小さな頭をなでながら答えず、「柚葉ちゃんは、まだアクセサリーを選ぶ?」とだけ返した。百合が、柚葉をVIPルームへ連れて行こうとした。「イヴリンさん、行ってもいい?」美羽はうなずき、言った。「行ってらっしゃい」イヴリンが怒っていないのを見て、柚葉はようやく百合についていった。数人が去った後、直美が嬉しそうに言った。「美羽ちゃんは本当にいい子ね。さっきの平手打ち、もっと力を入れてもよかったのに」そして嘲るように続けた。「両家の親が会ってるのに、中山社長は、いまだに彼女と結婚する気配もないじゃない?」紗良が言った。「白石家は娘を溺愛していると聞いていましたけど、さっき彼女が叩かれるのを黙認するなんて……」直美も不思議そうに眉をひそめた。普段の彩乃らしくない。瑠衣が叩かれるのを見たとき、彩乃はあからさまに不愉快そうな顔をしていたのに、何も言わなかったのだから。紗良はさらに続けた。「あんな育て方をしてるんだもの、その母親もいい性格じゃないでしょうね」「本当よね」と直美が続けた。美羽と紗良は、同時に直美を見た。直美は本当は長年付き合いのある仲間の悪口など言いたくないが、今日はどうしても堪えられなかったらしい。「彩乃さんと白石さんの父親は再婚同士よ。彩乃さんは若い頃から美人で有名で、ビジネス界の大物たちからも一目惚れされていたとか。当時の彼女にはすでに夫がいたそうだけど、強引に白石家へ嫁入りしたの。浩平は前の夫との子供よ」「なるほど」と紗良。「それじゃ、自分から夫を捨てて金持ちの家に転がり込んだってわけですね。本当にあくどい人ですね。その母親にしてこの娘ありですね」美羽は軽く笑って言った。「まあ、白石さん本人とあの母親を比べると、足元にも及ばないですけどね」直美は美羽の意図を察し、皮肉っぽく口元を歪めて言った。「確かにね。白石さんに少しでも賢さがあれば、とっくに中山家に嫁げていたでしょうに。顔はいいけど脳みそがついていかないタイプね」翔平は瑠衣を甘やかしているが、今となっては彼が一方的に主導権を握っているようにも見える。今、美羽が本当に願っているのは、瑠衣が少しで
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第300話

「おばあちゃん、彩乃さん、またね」柚葉は二人に向かって小さく手を振った。「美羽、私たちも行こうか」紗良の声がした。美羽は気を引き締め、それ以上考えるのをやめた。百合たちは店を出た。すると、彩乃が尋ねる。「あのイヴリンさんって柚葉ちゃんの母親なんでしょ?どうして柚葉ちゃんを自分の子だと認めないの?」百合は冷ややかな目で答えた。「捨てて逃げ出したのに、今さら名乗り出る勇気なんてないのよ。自分も惨めなのは分かっているんでしょ」3人は地下駐車場に行くと別れた。瑠衣は車の中で、彩乃に泣きついた。彩乃は焦りながら慰める。「悔しい思いをしてるのはお母さんも知ってるわ。でも翔平さんが柚葉ちゃんを可愛がっている以上、瑠衣も柚葉ちゃんを好きだという素振りを見せなさい。嫌いでも表情には出さないで。お母さんが言ったことを忘れたの?」瑠衣は泣きながら言った。「でも、あのガキのこと、本当に大嫌いなの」「瑠衣!」彩乃が声を強める。「翔平さんと結婚したいなら、やりなさい。今の瑠衣が辛い顔をすれば、百合さんだってかわいそうだと思うんだから」瑠衣は嗚咽を漏らした。さっきの百合の励ましとは、自分を宥めるために渡された高級なネックレスのことだった。瑠衣は拳をぎゅっと握りしめた。「分かったわ」夕方になったが、涼太からも悠斗からも連絡がない。状況が読み込めないままだ。美羽たちは松風の庵で夕食を済ませた。そこへ、たまたま財経週刊誌の裕貴たちが通りかかる。美羽は少し彼らと言葉を交わした。直美と紗良は先に子供たちを連れて2階の個室へ向かった。美羽の挨拶もすぐに終わった。階段を上がりかけると、スマホが振動した。見ると悠斗からだった。美羽は電話を取り、静かなベランダへと移動した。「もしもし、悠斗?」「飯は食ったか?」と悠斗が聞いた。「今レストランにいるわ。そっちはどうなった?交渉は?」「本人にはまだ会えてないんだ。涼太さんとさっき潮咲市に着いたところで、今夜は戻れそうにない」美羽が眉をひそめる。「桑原さんが潮咲市にいるの?ギャンブルするために?」悠斗は頷く。「今日、あいつの銀行の入出金を確認したが、異常な額が動いている」美羽はピンときた。「なるほど……とにかく二人とも気を付けてね」「ああ、美羽も早く食べに
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