妊娠25週目の健診の日、中山美羽(なかやま みう)は夫の浮気を目撃してしまう。黒いコートを羽織った背の高いハンサムな男性が、腕の中にいる可憐な美人をかばうように立っている。その女性は白いコートを着て、頬はほんのりピンク色に染まっている。ふわふわのマフラーに包まれた小さな顔は、まるでお人形のように精巧な顔立ちだった。美羽は健診結果の用紙を指が白くなるほど強く握りしめた。冷たい風が頬をかすめる。だけど、体の芯まで凍えさせるのは、ズキズキと痛む心のせいだ。中山翔平(なかやま しょうへい)は、遠くにいる美羽の姿に気づいた。でも、その表情は平然としていて、浮気現場を見られた気まずさなんて微塵も感じさせない。それどころか、彼はその女性のために自ら車のドアを開けてあげるなど、終始優しい態度を崩さなかった。いつもは人を寄せ付けない冷たいエリートなのに、こんな風に誰かを気遣う優しい一面もあるなんて。その女性は美羽の視線に気づいたようだ。一瞬動きを止めると、不思議そうに美羽を見てから、翔平に尋ねた。「翔平さん、あのおばさん、ずっとこっちを見てるけど、知り合いなの?」冷たい風が耳元で低く鳴った。美羽には、その女性が翔平に何を言ったのか聞こえなかった。それでも、彼女の口の動きで「おばさん」と言われたことだけは、はっきりと分かった。「おばさん」って?きっと、自分のことを言っているのだろう。美羽は、心の中で力なく笑った。まだ今年で24歳になったばかりだというのに。もともとぽっちゃり体型なのに加え、顔立ちもごく普通。黒のダウンに黒のニット帽をかぶれば、妊娠後期のむくんだ体は重苦しく見える。やつれた顔も相まって、たしかに30代みたいだ。若くてきれいな美人とは比べものにならない。翔平は、その女性が車に乗るのを優しくエスコートした。美羽は体がこわばって、その場に立ち尽くした。車が走り去っていくのを、ただ見送ることしかできなかった。美羽と翔平は、お腹の子供がきっかけで結婚した。翔平のようなエリートにとって、この不本意な結婚は順風満帆だった人生に生じた唯一の瑕のようなもので、お腹の子も、美羽が自分を縛りつけるための手段にすぎなかった。翔平は、美羽のことを心から憎んでいる。美羽は翔平に8年間も片想いをしていた。でも、自分が翔平にふさわし
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