All Chapters of 月明かりの下、君はもういない: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第21話

勲は、たまらなく彩葉に会いたかった。その想いこがれる気持ちは、退院する瞬間、最高潮に達した。車が彩葉の暮らす邸宅の前に停まると、勲は何だか違和感を感じた。邸宅の周りにはたくさんの車が停まっていて、門は花や風船で飾られているのだ。嫌な予感がして、心臓が冷たくなる。よろめきながら車のドアを開け、勲はちょうど出てきたスタッフらしき人を捕まえた。そして、かすれた声で尋ねた。「今日、ここで何かあるんですか?」スタッフは不思議そうに勲を一瞥する。しかし、勲の様子があまりにも不憫に思えたのだろう、丁寧に質問に答えてくれた。「今日は中島さんと入江さんの結婚式ですよ。参列者の方ですか?でしたら、招待状を拝見させていただけますか?」結婚式……英樹と彩葉の……勲は、頭を鈍器で殴られたような目眩に襲われ、立っているのもやっとだった。彼は車のドアに手をつき、荒い息を繰り返す。あ、ありえない。なんで、こんなに早く?勲はスタッフを突き飛ばした。相手の制止も、後ろにいた運転手の驚きの声も聞こえない。狂ったように、邸宅の中へと走り出した。周りの参列者たちは談笑していて、時折、奇妙な目で勲を一瞥するが、すぐにまたお喋りに戻る。しかし、勲にはそんな視線を気にする余裕はなかった。彼は、正面に置かれた白いバラのアーチを、食い入るように見つめていた。音楽が鳴り始める。聞き慣れた、結婚式のあの曲だ。アーチの向こう側にある扉が開く。そこから、彩葉が現れた。勲は、思わず息を呑んだ。陽の光が、少し俯いている彩葉の純白のドレスに降り注ぐ。その手にはブーケが抱えられていた。そんな彩葉は、いつもと全く違って見えた。自分の前でいつも見せていた、あの怯えたような、どこか悲しげな表情ではない。少し緊張しているようだったが、それ以上に期待に胸を膨らませているように見えた。その瞳が、キラキラと輝いている。彩葉は英樹の腕を組み、ゆっくりとバージンロードを歩いた。黒のタキシードに身を包む英樹は、凛々しい表情でずっと彩葉のことを見つめている。しかし、その顔からは、隠しきれない喜びが溢れていた。勲は、二人が一歩、また一歩と自分の方へ近づいてくるのを、ただ見ていた。頭は真っ白になった。思考が停止し、ただ一つの事実だけが頭をよぎる――
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第22話

彩葉と英樹は、穏やかで充実した毎日を送っていた。少し肥満気味の丸々としたコーラも、家庭を明るくしてくれる存在だった。そして、英樹は約束通り、毎年決まってあの日には、真剣な顔で一度だけこう尋ねるのだ。「彩葉、もう一度俺と結婚しないか?」とっくに入籍しているのに。彩葉はいつも呆れたように笑いながら英樹を軽くにらむ。だが、心は幸せで満たされていた。勲という人間は、その名前と共に、二人の日常から少しずつ薄れていっていた。ある日、仕事から帰ってきた英樹は、どこか浮かない顔をしていた。彼は靴を脱ぐと、キッチンで料理を作っていた彩葉の背後に歩み寄り、何も言わずに後ろから彼女の腰に腕を回して、その肩に顎をのせた。「どうしたの?会社で何かあった?」彩葉はコンロの火を弱め、英樹の顔をのぞきこむ。英樹は少し黙ってから、低い声で言った。「さっき連絡があったんだけど、安西が……亡くなったって」おたまを手にしていた彩葉の手が、3秒ほどぴたりと止まった。そして「そう」とだけ、落ち着いた声でつぶやいた。彩葉はまた、おたまでゆっくりと鍋の中をかき混ぜ始める。立ちのぼる湯気が、その表情を隠した。「酒の飲みすぎで、持病だった胃の病気が悪化したらしい。発覚した頃には、もう手遅れだったそうだ。それに、一人暮らしだったみたいで、発見された時にはもう……」英樹は静かな声で続けた。彩葉は火を止め、鍋に蓋をした。彼女は振り返って英樹と向き合うと、「わかった」と一言言った。そして、心配そうに眉をひそめる英樹の眉間にそっと触れる。「ご飯、できたよ。手を洗ってきて。ご飯にしよう。今日はあなたの好物にしたから」彩葉の瞳を見つめていると、英樹の胸につかえていたもやもやした気持ちも、少しずつ晴れていくようだった。彼はうなずき、彩葉の額にキスをした。「うん」窓の外の綺麗な夕日が、ダイニングを暖かな色に染める。テーブルの下では、コーラが二人の足元をうろつき、クンクン鳴いて食べ物をねだっている。英樹が味のついていない骨付き肉をひとかけら投げると、コーラはすぐにそれをくわえ、短い尻尾を嬉しそうに振って走っていった。湯気が立っている味噌汁を、彩葉が二つのお椀によそう。そして、薬味の青ネギをぱらぱらとふりかけると、食欲をそそる香りが漂った。二人は向かい
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