結婚して5年。安西彩葉(あんざい いろは)は、ようやく夫である安西勲(あんざい いさお)が、自分のことを愛し始めてくれている、そう感じていた。最初は他人行儀な勲だったが、時間の経過と共に、自分のアレルギーの薬を覚えてくれたり、手料理も食べてくれるようになった。それに、友人にも自分のことを「妻」として紹介してくれるようになったのだから。一緒に過ごしていく中で、氷のようだった勲の心もようやく溶けたのだと、信じていた。そして、自分の亡き姉である入江柚葉(いりえ ゆずは)への想いも、勲は断ち切り、やっと自分のことを見てくれるようになった……そう思っていた。そんな日々の中で、毎年ある日には、諦めの悪い幼馴染みの中島英樹(なかじま ひでき)によって彩葉は役所まで連れ出され、彼からプロポーズを受けるのだった。そして、英樹の手には彼の欄が記入済みの婚姻届が握られているのだ。彩葉は毎年のように、自分はもう既婚者なのだと断ろうとした。そんな彩葉に構わず、英樹は記入済みの婚姻届を手に、市民課の受付へと進む。「すみません、婚姻届を提出したいのですが……」毎年この日になると強引に自分を役所に連れてくる英樹を、彩葉は呆れたように見つめた。こんな毎年の茶番に、彩葉が付き合っているのには訳があった。5年前、彩葉が車に轢かれそうになった時、身を挺して車から守ってくれたのが英樹だったのだ。その後、彩葉の代わりに大怪我を負った英樹が、病院のベッドに横たわりながら、か細い声でこう言った。「彩葉、もし今回のことで負い目を感じているなら、これから毎年、この日になったら、俺と一緒に役所に行ってくれないか?10分だけでいい。少しでいいから、チャンスが欲しいんだ」「申し訳ありません。安西様は現在、離婚届受理中ですので、受理されてからでないと、婚姻届を受け付けることができません」と、パソコンでシステム検索をかけたらしき役所の職員が、不思議そうな顔で言った。「ほら、だから私は結婚してるって言ったで……え?離婚届受理中?」彩葉は唖然として、職員の方を見た。職員は事務的な口調で答えた。「はい。配偶者の方が、数日前に離婚届を提出されておりますが。何か、問題でもございましたか?」彩葉はその場で固まってしまった。隣にいた英樹も驚いた様子だったが、すぐに彼女の方を向き直ると、希望を隠せな
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