会社で大規模なリストラが始まった。妊娠五ヶ月の私・斎藤汐(さいとう しお)は、いつリストラされてもおかしくない。私の夫・西屋健吾(にしや けんご)は人事部長で、「俺が何とかするから」と保証した。私は感動して、お礼に彼の好きなスープを煮込んだ。ところが、リストラ候補者発表の日、私の社員番号はしっかりと載っていた。【昔の同僚に感謝!やっと憧れの会社に入れました!】健吾の元カノが投稿したSNSの写真には、私たちの会社の社員証が写っていた。偶然かもしれない。そう思っていた。だからその夜、夫が寝ている隙に、彼のデスクにあったリストラ承認書類を開いた。私の名前の欄に、手書きのメモが添えられていた。【差し替え候補者、水原青美(みずはら あおみ)】彼の元カノの名前だった。夜が明けた。隣では健吾がぐっすり眠っている。私は一晩中、天井を見つめていた。あの承認書類は、そっと戻しておいた。昨夜、私はわざわざ遠回りして、彼の大好きな唐揚げを買いに行った。もうすぐ親になる喜びを、一緒に祝いたかったから。なのに、デスクであの書類を見つけてしまった。七時の目覚まし時計が鳴り、健吾は目を覚ました。枕元に座り、目の下に隈を作っている私を見て、彼はすぐに近づき抱きしめた。「汐、どうしてこんなに早く起きてるんだ?また赤ちゃんが蹴ったのか?」彼の手のひらが、私の膨らんだお腹に触れ、優しく撫でる。前なら幸せだと思えたのに、今はただ気持ち悪い。私は彼の手を振りほどき、ベッドを降りて靴を履いた。「眠れなかったの。なんだか落ち着かなくて」健吾が後ろからついてくる。「まだリストラのことを気にしてるのか?人事部長の旦那がいるって言っただろ。俺がいる限り、汐は大丈夫だ」彼は後ろから私の腰を抱き、顎を肩に乗せた。「安心しろ。リストラ候補は全部チェック済みだ。汐の名前は入ってない」昨夜あの書類をこの目で見ていなければ、私は絶対に信じていただろう。それどころか、彼が私をかばってくれていることに、罪悪感すら覚えていたかもしれない。「そう……よかった」私はぎこちない笑顔を作り、俯いたまま歯を磨き続けた。健吾は鼻歌を歌いながら着替え始めた。今日は特別に選んだオーダースーツに、念入りに整えた髪型だ。
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