泉の顔が一瞬にして青ざめる。「翔太。まずは話を聞いて」泉は一歩前に出て、翔太の手を取ろうとした。しかし、翔太はさっと身をかわして、その手を避けた。泉の手は行き場をなくして宙をさまよった。泉の目にはみるみるうちに涙が溜まり、震えた声で翔太に訴える。「私も考えての決断なの。この子は産めない。だって、考えてみて?私たちが今どんな状況か。真奈美が出て行ったばかりで、離婚だってまだなのに。その上、もし私たちに子供がいるなんて知られたら、周りになんて言われるか……とにかく、どう転ぼうとも私たちの将来は台無しなの!あなたのこれまでの努力も、私がもうすぐ手にできるはずだった主任のポストも、全部無くなってしまう」泉は言葉を紡げば紡ぐほど感情的になっていった。その目からは涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。まるで、二人の未来のために痛みに耐え犠牲になる、悲劇のヒロインだった。「あなたが辛いのだって分かってるけど、私も辛いんだよ?だってこの子は、私たちの子だから……でもね、翔太。現実はそう甘くないの。望まれていない子供のために、自分たちのすべてを壊すなんて、私にはそんなことできない。いつか、ちゃんとした夫婦になれたら、子供はその時作ればいいんだから。何人だっていい。でも、この子は……私たちとは縁がなかった。そう思うしかないのよ……」「もういい!」翔太は低く唸り、涙ながらの泉の言い訳を遮った。泉を見つめる翔太の瞳には失望が宿っている。「泉。お前がそんなことを言うなんて、思ってもみなかったよ。望まれていない子?すべてを壊す?お前にとって、俺たちの子供はただの間違いで、邪魔なだけだったのか?」「そういう意味じゃない!」泉は焦って言った。「私は二人のために言ってるの!翔太、少しは冷静になって!」「だから、お前は子供を殺すことを勝手に決めたのか?」抑えきれない怒りで、翔太の声は急に大きくなった。「俺に一言の相談もなく?泉、この子は俺の子でもあったんだぞ!たった一人でこの子の生死を決める権利がお前にはあるのか?俺を愛してる、待ってるって、いつも言ってたのに?これがお前の言う愛情?自分の将来のために、俺たちの子供を犠牲にすることが?」「私の将来?」泉も苛立ちを露わにする。装っていた弱々しさは消え去り、代わりに悔しさと怒りを全面に出した。
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