木村真奈美(きむら まなみ)は、妊娠4ヶ月の時、夫である木村翔太(きむら しょうた)が書いた遺書を見つけた。手紙の日付は3日後になっていた。3日後といえば、翔太が危険な任務に向かう日だった。【この手紙をお前が読んでいるということは、俺はもうこの世にいないのだろう。でも、泉……どうか悲しまないで】真奈美の指は震え、妊娠中の腹部がぎゅっと締め付けられるように痛んだが、ひたすら続きに目を通す。【俺の遺産は、すべてお前に受け取って欲しい。もし真奈美から何か言われたら、こう伝えて。真奈美と結婚したのは、ただ責任を取るためだった、と】一枚ずつ遺書を捲る真奈美の指先は、すっかり冷えきっていた。彼女が幸せだと信じていた日々は、この一通の遺書によって容赦なく切り刻まれたのだった。翔太がプロポーズしてくれたから、願書提出の前日だったにも関わらず留学は諦めた。海外の有名な病院からの誘いだって、翔太に「近くにいてほしい」と言われたから断った。リスクが高いと知りつつ妊娠したのも、翔太が子供を欲しがっていたから。それが二人の愛の証だと思っていたのに……結局、真奈美がこれまで翔太のためにしてきた人生の選択は、すべて長谷川泉(はせがわ いずみ)という女のためにすぎなかったのだ。翔太は特殊部隊の指揮官で、冷静かつ勇敢だと、部下からの信頼も厚かった。なのに、そんな翔太が自分の妻の人生を犠牲にしてまでも、別の女を幸せにする計画を立てていたなんて。激しい吐き気と共に、下腹部に引き裂かれるような激痛が走った。生暖かい液体が、足の付け根を伝って流れる。意識が遠のく中、散らばった遺書の最後の一行が目に飛び込んできた。【泉。俺の一番の後悔は、お前を妻にできなかったこと……】真奈美が次に目を覚ますと、そこは病院だった。もう何度も嗅いでいた消毒液の匂い。そして、腹部の鈍い痛みが、もうそこには何もないことを真奈美に告げていた。すると、泣いている泉と翔太が話している声が聞こえてきた。「私のせいだ。昨日の演習の時……あなたが私のミスをかばって怪我なんかしなければ、もっと早く帰って真奈美の異変に気づけたはずなのに……」真奈美は目を閉じた。胃がひっくり返るような不快感がする。自分が子供を失ったまさにその時、翔太は別の女を守って怪我をし、その女も医師
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