All Chapters of 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた: Chapter 1 - Chapter 10

26 Chapters

第1話

「いい加減にしろ!玲奈、篠は病気なんだ。頼れる家族が誰もいないから、俺が代わりに見てやってるだけだ。いちいち文句を言って、情に訴えるような真似はやめてくれ。いい歳して、屋上から飛び降りるなんて、脅しかよ。やりたきゃ勝手にやればいいだろ!」彼氏の谷口竜也(たにぐち たつや)が、失望した目で、ビルの上にいる、私・中島玲奈(なかじま れな)を見ていた。冷たい風が吹き抜け、私は言いようのない悪寒に震えた。そこで初めて、自分は時を遡ったのだと悟った。心臓が激しく波打つのを感じて、私は一歩後ろへ下がった。下で見ていた人々は、私の行動を見てほっと息を吐き、口々に「危ないから降りてきて」と声をかけてくれた。けれど、私が死に物狂いで10年もの間愛し続けてきたその男は、私の姿を軽蔑するように見ていた。「どうせ演技だろう」とでも言いたげな表情で。竜也が「病気だから助けなきゃ」と言い張る相手。それは彼の初恋の相手、陣内篠(じんない しの)だった。竜也と付き合っている間、彼はいつも「篠の方が可哀想だ」と言っては、私を置き去りにした。今回は、10年間夢見て、私の両親と縁を切ってまで用意した結婚式だったというのに。竜也は結婚式を放り出し、私と多くの招待客を残して、ただ風邪を引いただけの篠を看病しに行ったのだ。前世の私は、どうかしていた。自分がもっと酷い目に遭えば、竜也が私を少しでも愛してくれるようになるのではないか?それを確かめたかった。おまけに竜也に刺激され、反抗心が芽生えた私は、衝動的に高層ビルから身を投げた。死ぬ瞬間のその時まで、竜也が後悔し、絶望にくれる姿を夢見ていた。けれど、彼はそうならなかった。後悔どころか、涙一つ流さなかったのだ。竜也は私の体から飛び散った血を無表情で拭うと、幼稚な奴だと私を鼻で笑っただけだった。そして、翌日、私の遺産を持って篠と入籍したのだ。その瞬間に、私はようやく全てを理解した。「篠が可哀想だから助けている」という竜也の言葉は、すべて嘘だった。竜也はただ、篠が好きすぎて、何事も篠を優先し、彼女を中心に回っていたのだ。私は10年もの間、騙され続けたまま、無惨な死を迎えてようやく真実に辿り着いた。今の私には二度目の人生がある。二度と他人のためだけに自ら命を絶つような馬鹿はしない。
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第2話

私がやっと折れたというのに、竜也は嬉しそうな様子も見せず、苛立ったように言った。「余裕ぶってるつもりか?何回言わせるんだよ。俺と篠はただの友達だ。それに、どこに行こうが、それは俺の自由だし、お前に許可をもらう必要もないだろ。俺を買ったからって、交友関係まで制限できると思うなよ。今訴えられたらどうなるか、分かってるのか?」捨て台詞を吐いて脅してくる竜也を見て、私は思わず笑ってしまった。今でこそ高級ブランドを身にまとい、最新のスマホを使っているが、10年前の竜也は学費も払えないような貧困の学生だったのだ。彼の父親は早くに亡くなり、弟は水難事故で亡くし、母親は大病を患っていた。独りぼっちで、私の前に膝をつき泣きつく竜也は、母親を助けてほしい、そのためなら何でもすると誓った。私は竜也の境遇を憐れみ、彼の母親の治療費を全額肩代わりした。ただ善意からしたことだったが、竜也は無鉄砲にも会社へ押しかけ、突然私に告白してきたのだ。最初は周囲の冷やかしもあって承諾したが、いつしか私は竜也にのめり込んでいた。竜也に尽くすあまり、生活費も学費も全て負担し、限定ゲームや靴など、新しいものが出るたびに買い与えてウォークインクローゼットを埋め尽くしていった。私はずっと、互いに愛し合っているのだと信じていた。しかし竜也の目には、私はただ金で彼を汚す悪人にしか見えていなかったらしい。どうりで、これほどまでに憎まれていたわけだ。それならそれでいい。竜也に好きなようにさせる。「竜也、別れよう。これであなたは自由よ」竜也は鼻で笑い、「いつもの芝居か」といった表情を見せた。「なんだ?自殺未遂でだめだったから、次は別れ話ごっこか?いいぞ、別れを言い出したのはお前だ。後悔しても知らないからな」捨て台詞を吐くと、竜也はわざとらしくゆっくりと歩き出した。私から追いかけてくるのを待っているのだ。これまで喧嘩のたびに、どっちが悪くても、重苦しい沈黙に耐えきれない私が折れていた。だから今回もすぐに負けを認めるはずだ、と竜也はタカをくくっている。しかし、前世で竜也が篠と幸せな一生を送るのを、私は幽霊となって見届けたのだ。私の両親は娘を失った悲しみで、一夜にして老け込んでしまった。それでも両親は、私の遺言を尊重して遺産を竜
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第3話

竜也は、私が飛び降りようとした動画をすべて撮影し、それをネット上に投稿して、こんな文章を添えた。【独占欲が爆発する彼女を持つと、どうなるか?ただ病気の友達の看病に行くだけなのに、彼女は死ぬと脅して引き止めようとするんだ!】この動画は拡散され、たちまちネット上は炎上騒ぎになった。【別れろ、絶対別れた方がいい!こんな粘着質な女が彼女とか、怖すぎるだろ!】【看病に行くだけで飛び降りるなんて、かまちょすぎて理解できない。画面越しでも窒息しそうになったわ!】少しして、竜也はすぐさまそのコメント欄で一番高評価を得ていた書き込みに返信した。【みなさんの言う通り、もうあの女とは別れた。今は新しい彼女を病院から連れ帰っているところだ】添付された写真には、竜也と篠のツーショットがあった。二人の頬にはハートの半分ずつが描かれ、ぴったりと寄り添っていた。フォロワーたちは【おめでとうございます】と祝福の言葉を連ねた。私はそれを見て、滑稽で笑いがこみ上げた。写真の中の篠は、血色も良く、どこからどう見ても元気そうだ。病気なんかじゃない。これは私と竜也の結婚式を台無しにするために、篠が考えた常套手段だ。病気のフリなんて何度も繰り返しているのに、竜也は一度も疑うことなく、逆に私の方を心が汚れている、篠を悪く思っていると責めるのだ。以前の私はそれで悔し泣きをしていたけれど、今はもう分かった。竜也は見抜けないのではなく、確信犯で篠を贔屓しているのだと。今回竜也が自ら私をネットで炎上させ、コメント欄に篠との交際公表の写真を貼ったのも、私が昔のように問い詰めるのを待ち、彼がそれを上から目線で論破し、その流れで自分に都合よく喧嘩を収めようという意図だろう。でも今回は、竜也のくだらない芝居なんて無視することにした。彼からの通知を全てオフにし、両親に電話をかけた。二人にとってみれば、私は一昨日大喧嘩をしたばかりだ。でも、私にとってはもう何10年も会っていなかったのだ。「お父さん、お母さん。もう迷いは吹っ切れたよ。あの政略結婚の話、受けることにするわ」私の言葉に、受話器の向こうの両親は明らかに絶句していた。それもそうだ。昨日まで縁を切るとまで言って、家出をしてまで竜也との結婚を貫こうとしていたんだから。父の中島慎吾(なかじま しんご
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第4話

会議室は水を打ったような静けさになった。やがて相手が気まずい沈黙を破り、何とか感情を抑えて説明した。「谷口さん。こちらの注文内容にケチをつけているのではありません。ただ、今回ご提出いただいた案は弊社の基準を満たしていないので、採用することはできかねます。数値データに整合性が見られず、また誤字脱字や文章構成にも課題が確認されております。また、内容の一部に既存情報との高い類似性が確認されており、検知率が80%を超えております。過剰な要求をしているつもりはございませんが、現段階では承認基準を満たしておらず、採用は難しいと判断しております」そもそも篠に能力が足りないことはわかっていた。採用試験で不合格にするつもりだったが、竜也があまりにしつこく頼み込むから折れたのだ。ところが、入社してからの篠はミスを連発した。契約書作成でペンを間違え、インクが消えて契約を無効にして億単位の損害を出したりした。接待では勝手にメニューを変え、「体が弱いので」と高級ワインをぶどうジュースにし、予約していたフルコースを病気の時の栄養食に入れ替えたりもした。書類の印刷を頼めばシュレッダーにかけて、「見間違えました」で済ませたこともある。半年かけて取り組んだプロジェクトが水の泡になり、ボーナスも吹き飛んだ。文句を言おうとするといつも竜也が篠の前に立ち塞がり、新人だから仕方ないと私を責めた。篠をクビにするなら、彼のこともクビにしろと脅すのだ。前の私は、あのおめでたい恋愛脳のせいで竜也のためにずっと我慢を重ねてきた。しかし、まさかここまでひどいことになるとは思わなかった。正気に戻ると、会議室の中の篠と視線がぶつかった。私が入ってくるのを見て篠は得意げに微笑み、いかにも悲しげに首をかしげて竜也に話しかけた。「竜也、こんなことしないで。200億円の大きな仕事だもの。私が少しくらい嫌な思いをするのは当たり前よ。今から残業して書き直すわ。もし過労で倒れたとしても、お客様が満足してくれるものを持ってくるから」竜也はすぐに心を痛めて篠を止めた。「篠、何言ってる!たかだか200億で、健康を犠牲にできるわけがないだろう?無理するな、この案のままで行く。相手が提携したくなければ、降りてもらうだけだ!」顧客は冷ややかな目で竜也を睨みつけた。「中島社長
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第5話

私が突然現れたことで、会議室にいた竜也は目を丸くした。私の発言の意味を理解したのか、竜也は眉間に深い皺を寄せた。「玲奈、何を言ってるんだ?」私は耳の奥をほじるような仕草をしてから、ゆっくりと口を開いた。「耳が遠いのかしら?それとも理解できないの?二人ともクビだって言ってるのよ」竜也はそれが私のまた新しい駆け引きだと決めつけ、呆れたように鼻で笑った。「玲奈、昨日あんなに騒いで別れるとか言っておいて、今日はクビだと?もう十分だろ。こっちはもう飽き飽きしてるんだ……」彼が言い終わる前に、私は準備させていた美月から退職手続きの書類を受け取り、突きつけた。「サインして、さっさと会社から消え失せて」差し出された書類を見て、竜也の顔色は青ざめ、信じられないという目で私を見返した。「玲奈、本気か?」篠がいち早く割って入ってきた。「玲奈さん、竜也にそんなこと言わないでください!せっかく仲直りできる機会なのに」私はそのままもう一枚の退職手続きの書類を篠の前に投げた。「慌てないで。あなたもクビよ」私が本気だと知った途端、竜也も逆上し始めた。プライドの高い竜也が、このような侮辱に耐えられるはずもなく、吐き捨てた。「いいさ。後から、泣きついて戻ってきてなんて頼むなよ」竜也は殴り書きでサインをし、革靴の音を響かせながら威勢よく立ち去った。篠は二人の間で行き場をなくした様子でため息をつき、サインを済ませると竜也を追っていった。社員たちは皆、私がいつものように情緒不安定になっているのではと、不安そうに私を伺っていた。でも、彼らは知らない。私が時を遡ったことを。私は未練がましく竜也を追うようなことはせず、まず取り引き先を繋ぎ止めることに注力した。冷静になった私を見て、顧客の態度は軟化し、契約はスムーズに進行した。顧客を見送った後、周囲の怪訝な視線を無視して社長室へ向かった。美月に、これまでの竜也の管理する会計書類をすべて出させることにした。今まで竜也を信頼して任せていたけれど、別れた以上は私が全権を掌握するつもりだ。「社長、こちらが資料になります」資料をめくっていた私の眉間は、怒りで硬直していった。竜也の好き放題を許していたのは私だけれど、まさか部下たちもそれを助長していたとは。
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第6話

「どういうことですか?端末が壊れてるんじゃないですか?」すると後ろから会計を急ぐ客の列が伸び、店員は他の客の会計を先に済ませようとした。その客のカードは問題なく決済できたため、店側のシステムに問題がないことは明らかだった。顔を真っ赤にして苛立った竜也は、あろうことか他にも持っていた数枚のブラックカードを店員に投げつけた。しかし、「決済不能」という電子音が、竜也のプライドを何度も打ち砕いていく。まさか全てのカードが使えないとは、竜也も夢にも思っていなかったのだろう。「お客様、恐れ入りますがカードのご利用が停止されているようです」竜也が歯を食いしばりながらカードを取り上げると、鼻で笑いを浮かべる私と目が合い、激高した。「玲奈、まさかお前がやったのか?性格が悪すぎる!結婚式での小さな行き違いをいつまで根に持ってるんだ?わざとカードを止めて、俺を恥かかせる気か!」篠もすぐさま悪態をつき始める。「玲奈さん、そんなにセコい真似してると竜也も怒って、もう構ってもらえなくなりますよ」私は冷ややかな目で篠を一瞥し、一切容赦せず言い返した。「陣内さん、寄生虫のあなたが口を挟むことじゃないわ。それに、あなたが使っているその服もバッグも、元はといえば全部私の金よ。ついでに言っておくと、私は自分の資産を回収しただけ。あなたたちに与える金は一銭も残していないわ」竜也の顔色は蒼白になり、悔しさに地団駄を踏んでいた。「お前はどれだけ強欲なんだ?それだけ持っていれば、俺たちに少しくらい分け与えたっていいだろう?」あまりの身勝手さに笑えてきた。「銀行には大金があるわよ。強盗でもして手に入れれば?」言い返せない竜也は、怒りで眉間にしわを寄せている。篠が呆然とした表情で私を見る。「玲奈さん、竜也は少し強がってるだけですよ。そんなに本気で追い詰めて、愛想を尽かされても知りませんからね」竜也は傲慢な態度を崩さず、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。「気にするな。これはただの駆け引きだ。そのうち泣きついて戻ってくるだろうよ」そう言って竜也は、はめていた高級時計を外して投げ捨て、支払いを済ませると、篠を連れて足早に店を去った。しかも、捨て台詞を残して。私は予約した個室へ向かう途中、二人が遠ざかっていく中でも楽しそうに
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第7話

電話を切り、私は両親と共にフロントロビーで賓客を迎えた。会場には年長者が多く、祝いの言葉に笑顔で応じる中、ポケットの中でスマホが震え続けていた。執事の山本大地(やまもと だいち)がかけてきたと分かり、一言断って席を外した。「玲奈様、大変です!谷口様が更衣室に押し入ってきました!今、新郎である葛城様がお着替え中なのに!」私は耳を疑った。「どういうこと?あの場所に、どうやって入ったの?」大地はしどろもどろになりながら答えた。「以前、玲奈様が『この家の中で、竜也が立ち入り禁止の場所はない』と仰っていましたので、誰も止められなくて……」頭痛がした。あの竜也のことだ。きっと何か常軌を逸した行動に出るに決まっている。大地にその場を繋ぐよう命じて急行した。到着するなり目に入ったのは、直樹に贈った百億単位の骨董品が、ゴミのように床で粉々に砕け散っている光景だった。竜也は狂ったように喚き散らしていた。「玲奈をすぐ呼び出せ!さもなくば、ここの物を全てぶっ壊してやる!」その場にいた誰もが息を呑み、震撼していた。渦中の竜也は平然としたまま、私を見つけると恨みがましい目で詰め寄ってきた。「玲奈、お前だろ?うちの母の治療費を止めたのは」「ええ、私よ」私の答えに、竜也の目が怒りに燃えた。「なんて冷酷な女だ!あの薬がなきゃ母は生きていけないんだぞ。金を出さないなんて、殺そうとしてるのか!」もはや竜也に未練はない。そう言われても動じなかった。「竜也、はっきり言うけど。あなたのお母さんは私の家族じゃない。自分の親を支えるだけで手一杯よ。あなたの身内を面倒見る義務なんてないわ。自分の身内くらい自分で面倒見て」これほど強く言い返されると思っていなかったのか、竜也は呆然とし、やがて屈辱に満ちた表情を見せた。「お前の勝ちだ」私は何のことだか理解できない。竜也は奥歯を噛み締め、捨て台詞を吐いた。「白々しいな。連絡先をブロックして金を止めて……俺に謝らせて、プロポーズさせたいんだろ?そんなに必死だったなんてな!いいさ、結婚してやる。次はこんな手段で追い詰めるな。もし同じことしたら、今度こそお前の前から消えてやるからな!」その瞬間、周囲からざわめきが起こった。「どういうこと?今日の主役は葛城さんと中島
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第8話

竜也は結婚指輪をその目で見て、信じられないという表情で立ち尽くした。そのとき、大地が竜也の行く手を阻んだ。「谷口様、何度もお伝えしておりますが、玲奈様は既にご結婚されております。お引き取りください」周囲の使用人たちからも冷ややかな視線が注がれ、竜也はいたたまれない様子だった。しかし次の瞬間、竜也は何かを思いついたように私の手から結婚指輪を奪おうと手を伸ばし、鼻で笑った。「玲奈、いつからそんな賢い芝居を覚えたんだ?結婚指輪まで用意するなんて、迫真の演技だな」私はすぐさま結婚指輪を取り戻し、大地や他の使用人たちが竜也を押し留めた。私はただ二人の大切な指輪が騒動で汚れるのを防ぎたかっただけだが、竜也の目には、私が図星を突かれて焦っているように映ったらしい。竜也は余裕ぶって端に立ち、私を斜めに見下ろした。「言ってみろ、結局何が目的だ?まぁ、演技は良いが、ほどほどにしておけよ。お前は男がいる身だ、他の男と手なんか繋ぐな。俺は潔癖症なんだ、汚らわしい」その理不尽な物言いに、その場にいた関係者は皆、呆れ果てて苦笑していた。竜也は普段、篠と深い仲であるのに「ただ面倒を見ているだけだ」と言い繕っている。今や私とは別れ、新しい人生を歩んでいるというのに、どの口が言っているのだろう。本当に開いた口が塞がらない。私は手で追い払うように大地に命じた。「いいわ。すぐにこの人を追い出して。式に差し障りが出るから」事態が自分の想像を超えて動き出すのを見て、竜也は動揺し始めた。「なんだ……演技じゃないのか?玲奈、本気で言ってるのか?」私は相手にせず、直樹をなだめることに専念した。私の元カレが迷惑をかけたなんて、油断していた私の落ち度だ。しかし、直樹はただ首を振った。「気にしなくていい。こういった妄想に浸る奴はどこにでもいる。今日は大切な記念日だし、俺が追い払うのは後味が悪い。よければこの方も、一杯飲んでいくか?」さすが葛城グループの御曹司、その器の大きさで完全に竜也を圧していた。二人の話が落ち着くと、直樹は私が以前の竜也とのことをどう思っているかを確認した。唯一、絶対条件として譲らないのは、私たちが再び関係を持たないことだった。私はそれを聞いて唖然とし、すぐさま竜也とは完全に切れており、もう二
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第9話

その言葉を聞き、警備員たちは困ったように力を緩め、私の様子をうかがった。竜也は掴まれていた腕を振り払い、ふんぞり返って周囲を怒鳴り散らそうとした。私は冷ややかな声でそれを遮った。「最後にもう一度言うわ。この人とはとっくのとうに別れているの。私の夫は、直樹ただ一人よ。二度とこんな狂った人間を中に入れるんじゃないわ。クビになりたくなかったら、さっさとやりなさい!」普段温厚な私が初めて激昂し、その場にいた全員が震え上がった。竜也はあっけにとられ、私を見つめた。竜也がつまみ出されそうになったその時、使用人の中に隠れていた篠が割って入った。「玲奈さん、感情的にならないでください。もし竜也を怒らせて、彼が玲奈さんの前から完全に消えてしまったら、後悔しても遅いですよ」篠の声を聞き、消えかかっていた竜也の闘志が再び燃え上がるのを見て、私は鼻で笑った。「望むところよ。山本さん、二人を放り出しなさい。野良猫や犬が来ていい場所じゃないの。招かれざる客に用はないわ」みんな私の本気さを感じ取り、ためらいなく実力行使に出た。竜也は瞳を真っ赤にさせ、意地を張った。「出て行ってやるよ、誰がこんなところ!」竜也が本当に帰ろうとするのを見て、ようやく焦り始めた篠が縋りついた。「竜也、そんな意地を張らないで!玲奈さんと別れたら、食べていけないでしょ。早く謝りなさいよ。そうすれば玲奈さんだってきっと許してくれるわ」その言葉を聞いて、私は竜也の服装がブランド物ではなく、聞いたこともないメーカーのものに変わっていることに気づいた。あの日、わざわざうちの邸宅に戻り、高級品を持ち出していったはずなのに。よく見れば、竜也の手首にある高級そうな時計は、どう見ても安っぽい模造品だった。どうせ持ち出したものを全て換金してしまったのだろう。金に困っていたからこそ、あのプライドの高い竜也が無理をして結婚式を壊しに来たのだと腑に落ちた。思惑を見抜かれた竜也は、屈辱に地団駄を踏んだ。「篠、何言ってんだよ?誰が金なんて欲しがるか!自分の力でいくらでも稼げる!」言葉を失った篠は、衝動的に私に本音を吐き出した。「玲奈さん、竜也は黙っていてと言ったけど、もう限界ですよ。玲奈さんが竜也を縛るために生活費を止め、会社から追い出したんでしょ
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第10話

竜也は、私が警察を呼ぶと言ったのは冗談だと思っていたらしい。しかし、本物の警察が現れて、顔色を失った。竜也は信じられないといった様子で私を振り返り、激昂した。「玲奈、本当に俺を捕まえさせるつもりか?お前、頭がどうかしてるぞ!どうしてそんなことができるんだ?」私は滑稽に感じた。「壊したのはあなたでしょ。損害賠償を請求するのは当然のことじゃないかしら」そもそも竜也には、腹が立つと私のコレクションを叩き壊したり、書画を引き裂いたりする悪い癖があった。以前の私は竜也を愛していたから、それを咎めることもなく、壊されても泣き寝入りしていた。しかし私の寛容さは竜也をつけ上がらせた。私が死んだ時ですら、彼は涙一粒見せなかったのだ。前世で冷酷に徹した竜也に、今の私はもう迷わない。二度と甘やかすつもりはなかった。篠は状況が不利だと見るや、すぐに間に入って取りなそうとした。「玲奈さんは大金持ちなんだから、こんな花瓶で竜也を追い詰めるのは、大人げないんじゃないですか?」篠という女は、まるでハエのように耳障りで、ただそこにいるだけで苛立ちを感じる。「そんなに竜也が心配なら、代わりにその260億をあなたが弁償したら?」篠は俯いて沈黙した。私は鼻で笑った。「何よ、いい子ぶってるんじゃないわよ」篠の顔はみるみる蒼ざめ、ますますうなだれた。本気だと悟った竜也は、あわてて警察に向かってこう言った。「これはただの痴話喧嘩です。警察が出る幕じゃないでしょう?」少しは小利口なようだ。揉め事を「痴話喧嘩」ということにすれば、大事にならないとでも思ったのだろう。だが一度そう認められてしまえば、もう取り返しはつかない。警察が私に視線を送ると、私は直樹との結婚指輪を彼らに見せ、竜也とは破局しているという証拠も突きつけた。「警察の方、私たちはとっくに別れています。どうか公正に対応してください」警察は頷き、竜也の前に立った。「谷口さん、住居不法侵入および器物損壊の疑いがありますので、署までご同行願います」篠は呆然として私を見た。「嘘でしょう。玲奈さん、本当に竜也を連れて行かせるつもりですか?」竜也は屈辱に震え、声一つ発さなかった。警察から状況を聞かれそうになったが、今日が結婚式であるため、対応は弁護士と秘書の美月
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