「千葉さん。お願いします。この世界を救えるのはあなただけなんです」システムの焦ったような声が、私・千葉柚(ちば ゆず)の脳内に響く。「岩崎さんの精神がおかしくなってしまいまして、あなたに会えなければ、世界の核心を爆破して、全員道連れにすると言っているんです」私はモニタールームに座り、崩壊寸前のデータを眺めた。2年前、攻略に失敗した私は、全ての感情を代償にすることで、任務を脱出し元の世界へ戻る切符を手に入れた。だから今の私には、喜びも怒りも哀しみも楽しみも一切ない。つまりは、愛憎も執着も消え失せているのだ。私の心は底のない器のようなもので、何が入ってこようとも、何一つ留めることができない。「戻ってもいい」私は静かに口を開いた。「でもあの男はもう狂っているんでしょ?今の私には感情がないから、彼に応えることはできないよ」「大丈夫。あなたがそばにいてくれさえすればいいんですから!あと3ヶ月彼を繋ぎ止めてください。その間に、世界の防御システムを復旧させて、すぐにあなたを元の世界へ送ります。その時には感情も返しますし、10億円の報酬も上乗せしますから!」システムはかなりの報酬を提示した。私は少し考えてみた。10億円あれば、残りの人生は何不自由なく暮らせる。そうして私は承諾したのだった。再び目を開けると、そこは見慣れた邸宅の前だった。ドアが勢いよく開き、足をもつれさせながら岩崎颯太(いわさき そうた)が飛び出してきた。2年ぶりの彼からは、かつての凛々しさが消え、陰鬱な殺気をまとっていた。しかし、私を見た瞬間、彼の瞳の奥に宿っていた狂気は、戸惑いに変わる。「柚なのか?」颯太は指先を震わせ、私に触れようとしてはその手を止め、まるで幻影でも見ているかのようだ。私は颯太を見つめる。2年前、彼が佐野澪(さの みお)のために私を捨てた光景が、脳内にフラッシュバックしてきた。本来であれば、憎んだり、悔しがったりすべきだと分かってはいる。しかし、心には茫洋とした空白が広がっているだけなのだ。私は記憶を頼りに、颯太と愛し合っていた頃の自分を演じて、淡い微笑みを浮かべながらささやく。「ただいま。颯太」次の瞬間、私は颯太に力強く抱き寄せられた。驚くほどの力だった。彼の手足は激しく震え、頬から落ちる熱い涙が私の襟元を濡らして
Read more