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あなたの世界は、私の生きる場所ではない
あなたの世界は、私の生きる場所ではない
Author: 鬼火

第1話

Author: 鬼火
「千葉さん。お願いします。この世界を救えるのはあなただけなんです」

システムの焦ったような声が、私・千葉柚(ちば ゆず)の脳内に響く。

「岩崎さんの精神がおかしくなってしまいまして、あなたに会えなければ、世界の核心を爆破して、全員道連れにすると言っているんです」

私はモニタールームに座り、崩壊寸前のデータを眺めた。

2年前、攻略に失敗した私は、全ての感情を代償にすることで、任務を脱出し元の世界へ戻る切符を手に入れた。

だから今の私には、喜びも怒りも哀しみも楽しみも一切ない。つまりは、愛憎も執着も消え失せているのだ。

私の心は底のない器のようなもので、何が入ってこようとも、何一つ留めることができない。

「戻ってもいい」私は静かに口を開いた。「でもあの男はもう狂っているんでしょ?今の私には感情がないから、彼に応えることはできないよ」

「大丈夫。あなたがそばにいてくれさえすればいいんですから!あと3ヶ月彼を繋ぎ止めてください。その間に、世界の防御システムを復旧させて、すぐにあなたを元の世界へ送ります。その時には感情も返しますし、10億円の報酬も上乗せしますから!」システムはかなりの報酬を提示した。

私は少し考えてみた。10億円あれば、残りの人生は何不自由なく暮らせる。

そうして私は承諾したのだった。

再び目を開けると、そこは見慣れた邸宅の前だった。

ドアが勢いよく開き、足をもつれさせながら岩崎颯太(いわさき そうた)が飛び出してきた。

2年ぶりの彼からは、かつての凛々しさが消え、陰鬱な殺気をまとっていた。しかし、私を見た瞬間、彼の瞳の奥に宿っていた狂気は、戸惑いに変わる。

「柚なのか?」

颯太は指先を震わせ、私に触れようとしてはその手を止め、まるで幻影でも見ているかのようだ。

私は颯太を見つめる。2年前、彼が佐野澪(さの みお)のために私を捨てた光景が、脳内にフラッシュバックしてきた。

本来であれば、憎んだり、悔しがったりすべきだと分かってはいる。しかし、心には茫洋とした空白が広がっているだけなのだ。

私は記憶を頼りに、颯太と愛し合っていた頃の自分を演じて、淡い微笑みを浮かべながらささやく。「ただいま。颯太」

次の瞬間、私は颯太に力強く抱き寄せられた。

驚くほどの力だった。彼の手足は激しく震え、頬から落ちる熱い涙が私の襟元を濡らしていく。

溺れかけた人間がやっと見つけた流木にしがみつくかのように、颯太は私を抱きしめながら、私の名前を耳元で何度も繰り返した。

「ようやく戻ってきてくれたんだな……お前なら戻ってきてくれるって分かってたよ……柚、もう二度と俺を捨てないでくれ、頼む……」

私は颯太にされるがままになりながら、ゆっくりと手を上げて、彼の背中を優しく撫でた。

はたから見れば、自分のパートナーを優しく落ち着かせている女性だろう。しかし、私の心には何の感情もなかった。

体は颯太の腕の中にあるが、心は空中に浮かび、この感動的な再会という芝居を冷めた目で見つめているようだった。
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