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あなたの世界は、私の生きる場所ではない

あなたの世界は、私の生きる場所ではない

By:  鬼火Completed
Language: Japanese
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攻略に失敗した私は、感情との交換で、元の世界に戻ることができた。 それから2年が経ったある日、システムから緊急の連絡が入る。 攻略対象の岩崎颯太(いわさき そうた)が暮らす世界を救うには、私が彼に会うしかない、というものだった。 私は即座に断った。 たとえ今は感情がなくても、以前私を傷つけた人間になどあいたくなかったから。 それでも、システムは必死に条件を提示してきたので、結局、3か月だけ戻ることで話がまとまった。 戻ったときには感情を返してくれることだけでなく、巨額の報酬も支払われることになった。 しかし、一切の感情を失った私が颯太の前に戻った時、彼は以前にも増して壊れていった。

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Chapter 1

第1話

「千葉さん。お願いします。この世界を救えるのはあなただけなんです」

システムの焦ったような声が、私・千葉柚(ちば ゆず)の脳内に響く。

「岩崎さんの精神がおかしくなってしまいまして、あなたに会えなければ、世界の核心を爆破して、全員道連れにすると言っているんです」

私はモニタールームに座り、崩壊寸前のデータを眺めた。

2年前、攻略に失敗した私は、全ての感情を代償にすることで、任務を脱出し元の世界へ戻る切符を手に入れた。

だから今の私には、喜びも怒りも哀しみも楽しみも一切ない。つまりは、愛憎も執着も消え失せているのだ。

私の心は底のない器のようなもので、何が入ってこようとも、何一つ留めることができない。

「戻ってもいい」私は静かに口を開いた。「でもあの男はもう狂っているんでしょ?今の私には感情がないから、彼に応えることはできないよ」

「大丈夫。あなたがそばにいてくれさえすればいいんですから!あと3ヶ月彼を繋ぎ止めてください。その間に、世界の防御システムを復旧させて、すぐにあなたを元の世界へ送ります。その時には感情も返しますし、10億円の報酬も上乗せしますから!」システムはかなりの報酬を提示した。

私は少し考えてみた。10億円あれば、残りの人生は何不自由なく暮らせる。

そうして私は承諾したのだった。

再び目を開けると、そこは見慣れた邸宅の前だった。

ドアが勢いよく開き、足をもつれさせながら岩崎颯太(いわさき そうた)が飛び出してきた。

2年ぶりの彼からは、かつての凛々しさが消え、陰鬱な殺気をまとっていた。しかし、私を見た瞬間、彼の瞳の奥に宿っていた狂気は、戸惑いに変わる。

「柚なのか?」

颯太は指先を震わせ、私に触れようとしてはその手を止め、まるで幻影でも見ているかのようだ。

私は颯太を見つめる。2年前、彼が佐野澪(さの みお)のために私を捨てた光景が、脳内にフラッシュバックしてきた。

本来であれば、憎んだり、悔しがったりすべきだと分かってはいる。しかし、心には茫洋とした空白が広がっているだけなのだ。

私は記憶を頼りに、颯太と愛し合っていた頃の自分を演じて、淡い微笑みを浮かべながらささやく。「ただいま。颯太」

次の瞬間、私は颯太に力強く抱き寄せられた。

驚くほどの力だった。彼の手足は激しく震え、頬から落ちる熱い涙が私の襟元を濡らしていく。

溺れかけた人間がやっと見つけた流木にしがみつくかのように、颯太は私を抱きしめながら、私の名前を耳元で何度も繰り返した。

「ようやく戻ってきてくれたんだな……お前なら戻ってきてくれるって分かってたよ……柚、もう二度と俺を捨てないでくれ、頼む……」

私は颯太にされるがままになりながら、ゆっくりと手を上げて、彼の背中を優しく撫でた。

はたから見れば、自分のパートナーを優しく落ち着かせている女性だろう。しかし、私の心には何の感情もなかった。

体は颯太の腕の中にあるが、心は空中に浮かび、この感動的な再会という芝居を冷めた目で見つめているようだった。
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第1話
「千葉さん。お願いします。この世界を救えるのはあなただけなんです」システムの焦ったような声が、私・千葉柚(ちば ゆず)の脳内に響く。「岩崎さんの精神がおかしくなってしまいまして、あなたに会えなければ、世界の核心を爆破して、全員道連れにすると言っているんです」私はモニタールームに座り、崩壊寸前のデータを眺めた。2年前、攻略に失敗した私は、全ての感情を代償にすることで、任務を脱出し元の世界へ戻る切符を手に入れた。だから今の私には、喜びも怒りも哀しみも楽しみも一切ない。つまりは、愛憎も執着も消え失せているのだ。私の心は底のない器のようなもので、何が入ってこようとも、何一つ留めることができない。「戻ってもいい」私は静かに口を開いた。「でもあの男はもう狂っているんでしょ?今の私には感情がないから、彼に応えることはできないよ」「大丈夫。あなたがそばにいてくれさえすればいいんですから!あと3ヶ月彼を繋ぎ止めてください。その間に、世界の防御システムを復旧させて、すぐにあなたを元の世界へ送ります。その時には感情も返しますし、10億円の報酬も上乗せしますから!」システムはかなりの報酬を提示した。私は少し考えてみた。10億円あれば、残りの人生は何不自由なく暮らせる。そうして私は承諾したのだった。再び目を開けると、そこは見慣れた邸宅の前だった。ドアが勢いよく開き、足をもつれさせながら岩崎颯太(いわさき そうた)が飛び出してきた。2年ぶりの彼からは、かつての凛々しさが消え、陰鬱な殺気をまとっていた。しかし、私を見た瞬間、彼の瞳の奥に宿っていた狂気は、戸惑いに変わる。「柚なのか?」颯太は指先を震わせ、私に触れようとしてはその手を止め、まるで幻影でも見ているかのようだ。私は颯太を見つめる。2年前、彼が佐野澪(さの みお)のために私を捨てた光景が、脳内にフラッシュバックしてきた。本来であれば、憎んだり、悔しがったりすべきだと分かってはいる。しかし、心には茫洋とした空白が広がっているだけなのだ。私は記憶を頼りに、颯太と愛し合っていた頃の自分を演じて、淡い微笑みを浮かべながらささやく。「ただいま。颯太」次の瞬間、私は颯太に力強く抱き寄せられた。驚くほどの力だった。彼の手足は激しく震え、頬から落ちる熱い涙が私の襟元を濡らして
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第2話
颯太は私を家に連れ戻すと、まるですぐに壊れてしまうシャボン玉であるかのように扱った。極端に過敏になった彼は、邸宅の周囲にボディーガードを配置し、家の中も監視カメラだらけにした。颯太自身も、目を離した隙に私がまた消えてしまうのではないかと心配し、片時もそばを離れようとしない。「柚。お前の大好きな唐揚げ、作ってみたんだ」そう言いながら颯太は、期待に満ちた目で私を見つめ、唐揚げを私の皿に載せる。彼が私のためにキッチンに立つなんて、前ではありえなかったのに。私が颯太のために雨の中必死に書類を届けて高熱を出した時だって、彼は出前で済ませたのだ。私がいなくなった後、彼はかなり変わったようだった。しかし、なぜあの頃は、少しも私のことを気にかけてくれなかったんだろう?「美味しいよ。ありがとね」私は箸を置き、彼に向かって小さく微笑む。颯太はしばらく私を見つめた後、目元を少し翳らせた。「柚……まだ怒ってるのか?」「ううん、もう怒ってないよ」私は正直に首を横に振った。なぜなら、もう愛もなければ、憎しみも抱いていないのだから。知らない人に対して、怒りなど沸くはずもない。「じゃあどうして……」颯太は言葉を詰まらせた。多分私に聞きたいのだろう。どうして以前のように、些細なことで感動したり、必死になったりしないのか、と。今の私は、まるで客人のように他人行儀だったから。その時、こんな現状を招いた元凶である、澪が姿を現した。澪は颯太の親友であり、2年前、私と颯太の関係を壊した張本人だった。澪は相変わらずとても優雅だったが、私に向ける目には隠しきれない嫉妬が混じっている。「あら、帰ってきたの?」澪はソファに座り、以前は私のものだったクッションを手に取ると、私を挑発するように言った。「あなたがいなくなってから、この2年……颯太はずっと辛い思いをしてきたのよ。本当、薄情な人ね」リンゴを剥いていた颯太の手が、その言葉を聞いた瞬間止まった。だが、何も言い返さない。私の反応を窺っていた。私に怒ってほしいのか、やきもちを焼いてほしいのかは定かではないが、とにかく2年前のように、彼に必死にしがみつく姿を期待しているのだろう。しかし、私にはもうそんな感情は残っていなかったので、淡々と澪を一瞥する。「確かに薄情かもね」私は澪の言葉に
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第3話
颯太は焦り始めた。私が見せる、何をされても無関心な態度が許せなかったのだろう。彼は私を刺激しようと、わざと澪を甘やかした。澪も颯太の書斎に夜遅くまで居座るようになり、私が牛乳を届けに行った時なんかは、颯太のシャツ一枚で彼の膝の上に座っていた。颯太は私が入ってきたのを見ても、わざと澪を突き飛ばさず、挑戦的な目で私を見つめる。私はドアのそばに立ち、その光景を眺めていたが、心は空っぽのままだった。2年前の私なら、泣き叫び、罵倒していたことだろう。しかし今となっては、彼らの姿勢が窮屈そうだなとか、牛乳が冷めてしまうなといったことしか考えられなかった。「あ、邪魔しちゃったね」と声をかけ、牛乳をテーブルに置く。「夜風は冷えるから、体冷やさないように気をつけて。後は、ごゆっくり」と、私は窓まで閉めてあげた。そして、彼らに背を向けてドアを閉める。ドアが閉まった瞬間、部屋の中から颯太の怒鳴り声が響いた。「消えろ!出ていけ!」すると、澪の泣き叫ぶ声も後から聞こえてきた。その夜、酒臭い息を漂わせた颯太が私の部屋へ入ってきて、私をベッドに押し倒した。「柚!お前には心ってものがないのか?」と彼は目を真っ赤にして私を睨みつける。「あんなのを見ても怒らないのか?もう俺のことなんてどうでもいいのか?」もうどうにかなってしまいそうな颯太を見て、私は静かに彼の目元に光る涙を拭った。「颯太、もうやめて?」と私は普段と変わらぬ穏やかな声で言う。「もしあの女が好きなら、それでもいいんだよ?あなたが幸せなら、私はそれでいいんだから」「幸せじゃない!俺は全く幸せなんかじゃないぞ!」颯太は私の首元に顔を埋めると、まるで子供のように大声で泣き出した。「俺はお前に愛してほしいんだ。殴ってくれよ……恨んでくれよ……頼むから、そんな無関心な目で俺を見るな……」部屋着が涙で濡れたが、私は気にせずに心の中で残りの日数を数える。あと1か月ちょっと。あと1か月ちょっと耐えれば任務終了。私は報酬をもらってここから去るだけだ。颯太がどれだけ苦しもうが、それは自業自得だ。私には何の関係もない。こんな私と狂った颯太との暮らしが続くと思っていた矢先、澪が私のもとにやってきた。「千葉。あなたって本当に最低ね」彼女は、庭で植木の剪定をしていた私
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第4話
ある日、颯太が隣の街にあるシュークリームが食べたいと言い出した。そして、そのシュークリームは2年前、私が一番大好きだったお菓子でもあった。私は車で出かけたのだが、海沿いの人気のない道に入ったところで、突然エンジンが動かなくなった。外に出て様子を確認しようとした瞬間、鼻をつくような臭いのするハンカチで口を塞がれた。意識が遠のく中、唯一頭に浮かんだのは、「ベタな展開だな」ということだけだった。目が覚めると、廃工場の柱に縛り付けられていた。周りには何人かの男がいて、カメラを片手にニヤつきながら私を見ている。すると工場のスピーカーから、澪の得意げな声が流れてきた。「千葉、起きた?気分はどう?」「澪。これは犯罪だよ」私は事実だけを告げる。「そんなこと言っていられるのも今のうち。これ、誰が仕組んだと思う?」澪の声が鋭く響いた。「颯太も一緒に計画したんだから」しかし、私の心臓は落ち着いたままで、特に何も感じなかった。「颯太の計画じゃ、あなたを誘拐して怖がらせてから、あなたが泣いて助けを求めた時に、彼が英雄みたいに現れて助け出すって予定だったの。極限状態になればあなたも颯太に助けを求めるだろうし、吊り橋効果ってやつで彼に惚れ直すって思ったんだろうね。最低で情けない男だと思わない?」なるほど。颯太は私の心を取り戻そうと、こんな芝居を計画したのか。「でも……」澪の声が急に低くなる。「シナリオ通りにはさせないから。ここで、あなたを終わらせてあげる。男たちに滅茶苦茶にされているところを、写真と動画に収めて、颯太が来る頃には、汚れたクズ女が誕生ってわけ。そうなった時、颯太はまだあなたのことを好きでいられるかしら?」合図を受けた男たちが、私の方へ近づいてくる。一人が中に濁った液体が入っている注射器を取り出した。「怖がらなくたって大丈夫だ。そんな悪いもんじゃねえ。ちくっとした後には……すぐお楽しみが待ってるからよ」必死に抵抗したが、男たちの力には敵わない。針が首筋に刺さり、冷たい液体が血管を伝っていくのがわかる。私の心に嫌な予感がよぎる。「システム」私は頭の中でシステムを起動させる。「体の状態を調べて」すると、システムの慌てた声が返ってきた。「千葉さん、大変です!高濃度の幻覚剤と催淫剤が検知されました!」
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第5話
扉は凄まじい衝撃で蹴り開けられ、砂埃が舞った。逆光の中に浮かぶ颯太の姿は、映画のワンシーンのように力強く、まるで姫を救いに来た騎士のようで、ひどく切迫していた。「柚!」颯太が叫んだその声には、まるでリハーサルを重ねたかのような切実さと深い愛情がこもっている。彼の頭の中では、今ごろ私は隅で怯えているはずなのだろう。泣きじゃくる私が颯太に抱きつき、それを彼が優しく抱きしめて、「遅くなってごめん」と詫びる。そうすれば、すべてが元通りだった。しかし、そこにあったのは、すでに生気を失った一つの屍。冷たいコンクリートの上に倒れている私の体は衣服が引き裂かれ、露出した肌はアザやひっかき傷だらけだった。青白い顔には何の手応えもなく、閉じられた目や唇には乾いた血痕が残っている。男たちも皆、死人よりも真っ青な顔で立ち尽くしていた。「一体、どういうことだ……」颯太の表情が凍りつく。ふらつきながら私の死体に近付くその一歩一歩は、まるで刃物の上を歩いているようだった。「柚?冗談はよせよ。助けに来たんだ……柚?」颯太は死体の横に膝をつき、震える手で私の頬に触れた。冷たい。骨まで凍るような冷たさが、彼の幻想を一瞬で砕く。「岩崎さん……この女……急に動かなくなって……それで……」主犯格の男が声を震わせながら言った。「ま、まだ、始めたばかりで、大したことはしてないんです!なのに、突然動かなくなっちまって……」「黙れ!」颯太は振り返った。その両目は赤く充血し、獲物を狙う獣のような鋭い光を放っていた。彼は懸命に心肺蘇生を繰り返す。一回、二回……それは永遠に繰り返された。「目を覚ませ、柚!お願いだから、目を覚ましてくれ……死ぬなよ。聞こえてるか?死ぬなんて、絶対に許さないからな。もしかして、俺への罰なのか?分かったぞ……芝居でもしているだろ?なあ、分かったからって……頼むよ、起きてくれ……」時の経過とともに、颯太の動きは必死の救急から絶望の揺さぶりに変わり、最後には虚無的な抱擁へと変わった。魂の消えた身体に顔を埋め、彼は獣のようにむせび泣いた。颯太の後ろで、ずっと様子を見ていた澪も、ようやく近づいてくる。彼女はここで、高みの見物を決め込むつもりでいた。私が全てを失い、颯太から蔑まれる姿を見たかっ
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第6話
颯太は無言で私の亡き骸を抱きかかえると、ゆっくりと立ち上がった。それまでの荒々しさは消え去り、彼からは鳥肌が立つほどの冷静さが漂っている。背後にいるボディーガードにちらりと視線を送ると、まるで今日の夕飯でも話すような淡々とした口調で命じた。「こいつらと澪、全員連れて行け。一人残らずな」「颯太!何するつもりなの?私たちは友達でしょ!」澪は恐怖で叫び、必死に抵抗したが、ボディーガードたちに無情にも地面へねじ伏せられた。「ここを封鎖しろ。埃一粒見逃すな。全部調べ上げるんだ」颯太は私を抱えたまま歩き出した。そして、澪のそばを通る際、ふと立ち止まって彼女を見下ろした。その瞳には、死にゆくものを見るような虚無感だけが宿っていた。……岩崎家の掛かり付け医が到着し私の検死が行われ、検査結果を待っている間も颯太は頑として私を離そうとしなかった。邸宅に戻ると、彼は私をかつて二人で愛し合ったあのキングサイズのベッドへと寝かせると、ぬるま湯を汲んできて、それはとても丁寧に、私の身体の汚れと血を拭い始めた。たとえ私が、もう命を終えた亡き殻であったとしても、颯太は私が一番お気に入りだった白いドレスを着せてくれた。そしてこれは、告白された時、私が着ていたものだった。結果が出るまでの間、颯太はベッドの横に正座して、温かいタオルで冷え切った私の指先をずっと拭っていた。まるで稀少な宝物でも扱うかのように、それはあまりにも丁寧で心のこもったものだった。「柚。見てみて。もうすっかり綺麗になったぞ」颯太は冷たくなった私の手のひらに自分の頬を寄せ、しわがれた声でこうつぶやいた。「まだ怒っているのか?もしかして、俺が遅かったから?でも、わざとじゃないんだ。ただ、お前が俺を心配して慌てる姿が、どうしても見たくて……」過ちを犯した子供のように、彼は亡き骸に対して許しを乞い続けている。「澪に言われたんだ。お前を絶望の淵に追いつめ、恐怖に震えさせれば、前みたいに俺を頼ってくれるって。俺は、ただお前のその冷たい殻を破って、もう一度俺を愛してほしかっただけなんだよ……俺がお前を本当に傷つけようなんて、思うはずがないだろ?柚、愛してる。お前を誰よりも愛しているのは俺なのに……」私はモニタールームから、その様子を冷ややかに見下ろしていた。愛して
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第7話
颯太は私の唇に切なげなキスを落とすと、地下室へと向かった。そこには、澪たちが椅子に縛り付けられていた。その後の光景は、あまりにも悲惨で、システムが閲覧制限をかけたほどだった。颯太が拷問するまでもなく、男たちは生き残るために、澪とどう連絡を取ったのか、どんな薬を使ったのか、どんな酷い方法で私を傷つけたか……動画の指示まで包み隠さず話した。澪の冷酷な言葉ひとつ残すことなく、忠実に再現してみせたのだった。証拠は揃った。澪は泣き叫んでいた。「颯太!全部あなたのためにやったの!あの女は、あなたのことなんて微塵も愛してなかった!まるで石像みたいに冷え切ってたんだから!あんな女は追い詰めて当然でしょ?それに、あなただって計画を黙認してた!彼女が苦しむ姿が見たかったんじゃないの?」この言葉が、颯太にとどめを刺した。そう、彼も同罪なのだ。私を救い出したかったのも、澪の誘拐計画を黙認したのも……すべては彼自身なのだ。颯太があんなことを考えなければ、私が死ぬことなんてなかったのだから。彼こそが澪に刃物を握らせ、私を地獄へ突き落とした元凶なのだ。颯太が笑い出した。それは掠れたひどい声で、瞳からは涙がこぼれ落ちている。「そうだな。死ぬべきなのは俺なのかもしれない」と呟きながら、彼は手術用ナイフを握りしめ、澪に近づいていく。「だがその前に、柚に詫びろ」澪は恐怖に目を見開いた。「嫌っ!やめて、颯太!お願い!いやあああああああ!!!」この世界で、颯太はついに本性をむき出しにした。ただし今回その狂気が向けられているのは私ではなく、私の命を奪った張本人だった。颯太は澪を簡単には死なせなかった。粘着質なやり方で、私よりもずっと苦しい時間を彼女に味あわせた。まるまる3日間だった。地下室からの悲鳴は、3日目の夜更けにようやく途絶えた。事後処理を終えた颯太は、寝室へと戻った。季節は真夏だったが、部屋はきんきんに冷やされていたため、私の死体は腐敗することなく、青白く固まっていた。ベッドサイドに座った颯太は髭も伸び、頬もこけて、まるで亡霊のようだった。彼は冷たくなった私の手を握りしめ、自分の頬に押し当てる。「柚、あいつらは全員消してやったからな」そう言う颯太は、まるで親に褒められるのを待っている子供のようだった。「
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第8話
画面の中で泣き崩れている颯太を見て、私はシステムに尋ねる。「彼がこんな状態でも、この世界はまだ救えるの?」システムは溜息をついた。「こうなってしまった以上、もう無理ですね。岩崎さんは精神的に崩壊しきっていて、世界に対する認識も薄れてきています。何しろ、この世界の核である彼が死を望んでいる以上、この世界はもう終わりです」やっぱり。颯太は泣き止むと、ゆっくりと立ち上がった。彼は引き出しから、かつて宝物のように大事にしていたライターを取り出した。「お前がこの世界にいたくないのなら、俺が世界ごと壊してやる。天国に行くまでの道のりはきっと寒いだろうから、俺もお前と一緒に行くからな」そう言って、颯太はカーテンに火をつけた。炎はまたたく間に燃え広がり、高価な家具も、数々の思い出が詰まったあのベッドも、そして私と彼も、すべてを赤く飲み込んでいく。燃え盛る炎の中で、颯太は私の亡骸を抱きしめ、なぜか晴れやかな笑みを浮かべていた。「柚。もし来世があるのならば、その時は絶対に俺とは出会うなよ」邸宅が崩れ落ちると同時に、この世界そのものが音を立てて裂け始めた。鏡が砕けるように空にヒビが入り、その向こうには、荒れ狂う無機質なコードが見えている。大地は沈み、山も川もただのデータとなって霧散していく。颯太、澪、そしてこの世界に生きていたすべての人々が、光の粒子となって虚空に消えた。世界が崩壊したのだ。「千葉さん、大変申し訳ありませんでした。お約束通り、報酬はしっかりと支払わせていただきます」その瞬間、私は猛烈な浮遊感に襲われた。再び目を開けると、そこは見慣れた寝室で、自分のふかふかのベッドの上に寝転がっていた。窓の外には都会のネオンが輝き、下からは車の行き交う喧騒が聞こえてくる。システムも、攻略も、狂った颯太もここにはいない。脳内でシステムが、ほっとしたような声を響かせた。「約束通り、10億円を入金しておきました。それでは最後のオペレーション、感情の還元を開始します」言葉が終わるのと同時に、頭の奥で何かが弾ける感覚がした。温かい流れが全身を巡り、心臓が力強く脈打ち始める。喜び、悲しみ、怒り、恐怖、愛、憎しみ……失われていたはずの感情が、堰を切ったようにあふれ出す。私は跳ね起きると、肩で息をしなが
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第9話
10億円を手にした私は、仕事を辞めた。それからの1年は、旅をして過ごした。オーロラを見たり、スカイダイビングをしたり、ダイビングに挑戦したり。ありとあらゆるスポーツも体験して、命が燃える感覚を味わった。心が躍るたびに、かつて過ごしていたあの死んだような日々が脳裏をよぎり、私はより一層、貪るように自由な空気を吸い込んだ。旅の途中で、私は小川充(おがわ みつる)と出会った。彼は傲慢な御曹司でも、執着心の強い男でもない。笑顔が優しくて、綺麗な手をした、どこにでもいる風景写真家だった。オーロラを見たときのこと。充は私に温かいココアを差し出しながら、笑顔でこう聞いてきた。「寒いですか?」任務に縛られていた時のように機械的な返事をするのはやめ、私は肩をすくめて笑った。「ええ、ものすごく。温めてもらえますか?」それから私たちは自然と愛し合うようになった。充は私の過去を何も知らなかったが、時折、私がどこか遠くを見つめてぼーっとしているのには気づいていたようだ。そんな時、彼は理由を聞いてきたりはせずに、ただそっと歩み寄って手をつないでくれ、温かいハグで包み込んでくれた。「今夜は唐揚げにしようか?」と充が聞いた。一瞬驚いたが、私はすぐに笑って首を振った。「唐揚げは脂っこすぎるから、いや。しゃぶしゃぶが食べたいな。シャキシャキの野菜と一緒に食べる、あのさっぱりしたやつ!」「分かった。君の好きなものを食べよう」そこには変な駆け引きもなければ、顔色を窺う必要も、息の詰まるような束縛もない。ただ、ありのままの自分でいられる生活がそこにはあった。2年後、私たちは結婚した。親しい人だけを招いた、ささやかな式を挙げる。指輪を交換する瞬間、突然脳内にノイズが走り、あのシステムの声が聞こえた。「幸福指数が最高値に達しました。おめでとうございます。これで過去の闇からは完全に解放されるでしょう」目の前には誠実な瞳で見つめる充に、掌には確かな温もり。私は心の中で小さく呟いた。「じゃあね、システム。もう一生会うことはないから」「さようなら。あなたの幸せを祈っていますよ」その言葉を最後に、システムの気配は完全に消え去った。指輪をはめた充が、そっと額にキスをして微笑む。「何を考えてるの?そんなに幸せそうに笑って」私は
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