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第8話

Author: 鬼火
画面の中で泣き崩れている颯太を見て、私はシステムに尋ねる。「彼がこんな状態でも、この世界はまだ救えるの?」

システムは溜息をついた。「こうなってしまった以上、もう無理ですね。岩崎さんは精神的に崩壊しきっていて、世界に対する認識も薄れてきています。何しろ、この世界の核である彼が死を望んでいる以上、この世界はもう終わりです」

やっぱり。

颯太は泣き止むと、ゆっくりと立ち上がった。

彼は引き出しから、かつて宝物のように大事にしていたライターを取り出した。

「お前がこの世界にいたくないのなら、俺が世界ごと壊してやる。

天国に行くまでの道のりはきっと寒いだろうから、俺もお前と一緒に行くからな」

そう言って、颯太はカーテンに火をつけた。

炎はまたたく間に燃え広がり、高価な家具も、数々の思い出が詰まったあのベッドも、そして私と彼も、すべてを赤く飲み込んでいく。

燃え盛る炎の中で、颯太は私の亡骸を抱きしめ、なぜか晴れやかな笑みを浮かべていた。

「柚。もし来世があるのならば、その時は絶対に俺とは出会うなよ」

邸宅が崩れ落ちると同時に、この世界そのものが音を立てて裂け始めた。

鏡が
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    10億円を手にした私は、仕事を辞めた。それからの1年は、旅をして過ごした。オーロラを見たり、スカイダイビングをしたり、ダイビングに挑戦したり。ありとあらゆるスポーツも体験して、命が燃える感覚を味わった。心が躍るたびに、かつて過ごしていたあの死んだような日々が脳裏をよぎり、私はより一層、貪るように自由な空気を吸い込んだ。旅の途中で、私は小川充(おがわ みつる)と出会った。彼は傲慢な御曹司でも、執着心の強い男でもない。笑顔が優しくて、綺麗な手をした、どこにでもいる風景写真家だった。オーロラを見たときのこと。充は私に温かいココアを差し出しながら、笑顔でこう聞いてきた。「寒いですか?」任務に縛られていた時のように機械的な返事をするのはやめ、私は肩をすくめて笑った。「ええ、ものすごく。温めてもらえますか?」それから私たちは自然と愛し合うようになった。充は私の過去を何も知らなかったが、時折、私がどこか遠くを見つめてぼーっとしているのには気づいていたようだ。そんな時、彼は理由を聞いてきたりはせずに、ただそっと歩み寄って手をつないでくれ、温かいハグで包み込んでくれた。「今夜は唐揚げにしようか?」と充が聞いた。一瞬驚いたが、私はすぐに笑って首を振った。「唐揚げは脂っこすぎるから、いや。しゃぶしゃぶが食べたいな。シャキシャキの野菜と一緒に食べる、あのさっぱりしたやつ!」「分かった。君の好きなものを食べよう」そこには変な駆け引きもなければ、顔色を窺う必要も、息の詰まるような束縛もない。ただ、ありのままの自分でいられる生活がそこにはあった。2年後、私たちは結婚した。親しい人だけを招いた、ささやかな式を挙げる。指輪を交換する瞬間、突然脳内にノイズが走り、あのシステムの声が聞こえた。「幸福指数が最高値に達しました。おめでとうございます。これで過去の闇からは完全に解放されるでしょう」目の前には誠実な瞳で見つめる充に、掌には確かな温もり。私は心の中で小さく呟いた。「じゃあね、システム。もう一生会うことはないから」「さようなら。あなたの幸せを祈っていますよ」その言葉を最後に、システムの気配は完全に消え去った。指輪をはめた充が、そっと額にキスをして微笑む。「何を考えてるの?そんなに幸せそうに笑って」私は

  • あなたの世界は、私の生きる場所ではない   第8話

    画面の中で泣き崩れている颯太を見て、私はシステムに尋ねる。「彼がこんな状態でも、この世界はまだ救えるの?」システムは溜息をついた。「こうなってしまった以上、もう無理ですね。岩崎さんは精神的に崩壊しきっていて、世界に対する認識も薄れてきています。何しろ、この世界の核である彼が死を望んでいる以上、この世界はもう終わりです」やっぱり。颯太は泣き止むと、ゆっくりと立ち上がった。彼は引き出しから、かつて宝物のように大事にしていたライターを取り出した。「お前がこの世界にいたくないのなら、俺が世界ごと壊してやる。天国に行くまでの道のりはきっと寒いだろうから、俺もお前と一緒に行くからな」そう言って、颯太はカーテンに火をつけた。炎はまたたく間に燃え広がり、高価な家具も、数々の思い出が詰まったあのベッドも、そして私と彼も、すべてを赤く飲み込んでいく。燃え盛る炎の中で、颯太は私の亡骸を抱きしめ、なぜか晴れやかな笑みを浮かべていた。「柚。もし来世があるのならば、その時は絶対に俺とは出会うなよ」邸宅が崩れ落ちると同時に、この世界そのものが音を立てて裂け始めた。鏡が砕けるように空にヒビが入り、その向こうには、荒れ狂う無機質なコードが見えている。大地は沈み、山も川もただのデータとなって霧散していく。颯太、澪、そしてこの世界に生きていたすべての人々が、光の粒子となって虚空に消えた。世界が崩壊したのだ。「千葉さん、大変申し訳ありませんでした。お約束通り、報酬はしっかりと支払わせていただきます」その瞬間、私は猛烈な浮遊感に襲われた。再び目を開けると、そこは見慣れた寝室で、自分のふかふかのベッドの上に寝転がっていた。窓の外には都会のネオンが輝き、下からは車の行き交う喧騒が聞こえてくる。システムも、攻略も、狂った颯太もここにはいない。脳内でシステムが、ほっとしたような声を響かせた。「約束通り、10億円を入金しておきました。それでは最後のオペレーション、感情の還元を開始します」言葉が終わるのと同時に、頭の奥で何かが弾ける感覚がした。温かい流れが全身を巡り、心臓が力強く脈打ち始める。喜び、悲しみ、怒り、恐怖、愛、憎しみ……失われていたはずの感情が、堰を切ったようにあふれ出す。私は跳ね起きると、肩で息をしなが

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