All Chapters of 「夫の子を妊娠したのは親友でした。」: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話「優しい居場所」

――ピコン。通知音が鳴る。 表示された名前。 「……やっぱり」 小さく、笑う。その笑顔が、どこか安心したものだったことに――私は、気づかないふりをした。昔から、私が悩んだ時はすぐに駆けつけていた楽しい時も...悲しい時も...沙織だけには甘えることができたんだ。そんな昔の自分を思い出しながら...送られてきたメッセージを見る。「最近は調子どう?何かあったらすぐに連絡するんだよ。」沙織......その言葉に甘えるように...私は、沙織に連絡をした。「お仕事お疲れ様です。もしよかったら今度会えないかな」すぐに返信が来た。「連絡ありがとう!今日はパート休みだから時間空いてるよ」この孤独感から救われる...笑顔が綻びながら私は、「ありがとう、また愚痴になっちゃうかもだけど話を聞いて欲しくて...」「うん。わかった!30分後にカフェ集合で大丈夫かな?」「ありがとう、今から向かうね」と返信を打ち...鞄を掴み、逃げるように家を出る。玄関のドアを閉めた瞬間、ようやく息ができた気がした。カフェに入ると、いつもの席に沙織が座っていた。柔らかい照明。コーヒーの香り。ざわめき。そして――変わらない笑顔。 「美咲、こっち!こっち!」 その一言だけで、ここが“安全な場所”になる。私は少し遅れて席に着いた。「ごめん、待った?」「ううん、全然。今来たとこ」そう言いながら、沙織の前には半分以上減ったカフェラテ。嘘だって分かる。でも、その優しさが嬉しかった。「で?今日はどしたの?」軽い調子。でも、ちゃんと私を見ている。その視線に促されるように、私は話し始めた。結婚してからの孤独感...拓也と心の距離が離れていく感覚...言葉にした途端、胸の奥に溜まっていたものがゆっくり溶け出す。沙織は何も遮らない。ただ、静かに頷いている。その沈黙が、今の私には凄く優しい。「なんかさ……私、いなくてもいいみたいで」その言葉を口にした瞬間、胸がきゅっと締め付けられた。沙織は少しだけ首を傾げて、ストローをくるくる回す。「男の人ってさ、仕事忙しくなるとそうなるよね」軽い口調...でも、否定じゃない。「美咲がどうこうっていうより、余裕がないんだと思うよ」その言葉に、少しだけ救われ
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第12話「逃げないで...」

第12話。私には、心の支えができた。拓也も今は疲れてるだけ…拓也はお仕事が忙しいだけ…そう、何度も唱えることで、少しずつ我慢できるようになってきた。 沙織の言う通りにすれば、心がスッキリする… 沙織って、凄いんだから。 スマホの画面を、そっと撫でる。ついさっきまで続いていたやり取り。 「大丈夫だよ」「美咲は偉いよ」 たったそれだけの言葉なのに、胸の奥が、じんわりと温かくなる。 ——ああ、大丈夫。 そう思える。 私はもう、一人じゃない。 「……沙織がいるもん」 小さく呟いて、笑う。 部屋は静かだった。時計の音だけが、やけに大きく響いている。 拓也は、今日も遅い。 ——でも、大丈夫。 不思議と、不安はなかった。 だって、 「困ったら……沙織に聞けばいいし」 そう思った瞬間、胸の奥が、少しだけ軽くなる。 これまでは、一人で抱えて、一人で悩んで、どうしていいか分からなくて、ただ時間が過ぎていくだけだった。 でも、今は違う。 沙織がいる。 それだけで、ちゃんと前に進めている気がした。 「……明日も、聞いてみようかな」 ぽつりと、零す。 今日のことも…明日のことも…拓也のことも…全部。 「……うん」 小さく頷いて、スマホを胸に抱きしめる。その温もりを、確かめるみたいに。 ——これで、大丈夫。そう思った。そう、思っていた。それから、数ヶ月が経った。 拓也も、時々は早く帰ってきてくれるようになった。最近は、休日に一緒に過ごせる日も増えて、子供のことも、病院にも、ちゃんと付き合ってくれる。——ほら。やっぱり。「沙織の言う通りだった」小さく、呟く。間違っていなかった。全部、うまくいってる。だから——「沙織は、すごい」自然と、笑みがこぼれる。かけがえのない人。失いたくない人。もし、沙織に何かあれば——私はきっと、「……全部、あげてもいい」命でも、時間でも、何でも...それくらいの価値が、ある。だって——「私、沙織に会うために、生まれてきたんだと思う」その言葉は、あまりにも静かで、そして、どこまでも——確信に満ちていた。でもなんだろう...最近...沙織からの連絡があまり入っ
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第13話「その言葉で、私を崩した。」

心の中で、 何度も、何度も、繰り返す。 ――お願いだから。 私から、逃げないで。 ……………… 沙織が、ふっと笑い出す。 「何それ? うちらって、そんな確認取らないといけない関係だっけ」 その一言は、 不安に揺れる私の心を―― 軽く、なぞるように撫でていく。 安心と、不安が、 ぐちゃぐちゃに絡み合う。 「そ……そうだよね……。 何言ってるんだろ、私……」 「友達でしょ?もっと気軽に行こうよ。 うちらの仲じゃん」 沙織の言葉に、私は無理に笑った。 「……うん。そうだよね」 でも―― このまま終わらせちゃ、ダメな気がして。 胸の奥に溜まっていたものが、 勝手に口から溢れた。 「私、沙織には凄い感謝してて……」 沙織が、少しだけ眉を動かす。 「もし私……沙織に何かあったら、 絶対に助けに行くからさ」 「だからなんでも話してほしい...って言うか なんて言うか...」 一瞬。 ほんの一瞬だけ、沈黙が落ちた。 そのあと―― 沙織が、笑った。 さっきと同じはずなのに、 どこか違う笑い方で。 「……は?」 空気が、ひやりと冷える。 「美咲さ、それは重いって... 充実してるからって今度は何? 急ないい子ちゃんアピール?」 心臓が、ドクンと鳴る。 「だからさ、拓也さんも疲れてるんじゃない?」 言葉が、刺さる。 逃げ場もなく、まっすぐに。 「もうさ……正直、うざいって」 ――え? 何も、言えない。 喉が、張り付いたみたいに動かない。 さっきまでの空気が、嘘みたいに消えていた。 「……ごめん、なんか今日イライラしてる。 無理だわ。」 沙織は、ため息をついて立ち上がる。 視線すら、もう合わない。 「今日は私、帰る...」 カバンを乱暴に掴む音が、やけに大きく響いた。 取り残される。 さっきまで、すぐそこにいたはずなのに。 もう―― 手の届かない場所に行ってしまったみたいに... その日の夜... 部屋の電気は、つけていなかった。 カーテンの隙間から入る、 わずかな街灯の光だけが ぼんやりと室内を照らしている。 ソファに座ったまま、 私は、ずっと動けなかった。 ――ガチャ。 玄関の扉が開く音。 「ただいまー」 いつもと変わらない声。 そのはずなのに
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第14話「今日も私をやめた」

――私、しっかりしなきゃ。ちゃんと、しないと。 …………もう、嫌われたくない。 次の日から、私は以前と変わらない日々を過ごした。いや――“変わらないように”過ごすことにした。変わることが怖くなっていた。拓也が起きる少し前に目を覚ます。まだ薄暗い部屋の中で、そっと布団を抜け出す。寝息を立てる拓也を起こさないように、音を立てないように、慎重に、慎重に。 キッチンに立ち、朝食の準備をする。味噌汁を温めて、卵を焼いて、昨日の残りのおかずを小皿に分ける。 包丁の音も、フライパンの音も、できるだけ小さくする。 ――ちゃんとしなきゃ。 それが、頭の中で何度も繰り返される。 「おはよう」 少しして、拓也が起きてくる。私はすぐに笑顔を作る。 「おはよう。ご飯できてるよ」 その言葉も、その笑顔も、もうほとんど癖みたいなものだった。 食事を終え、ネクタイを整えて、「いってらっしゃい」と見送る。 玄関のドアが閉まる音を聞いたあと、私はしばらく、その場から動けなくなる。 今日も静かだ。あまりにも...静か... ……でも。 考えないようにする。 ――しっかりしなきゃ。 私はそのまま、家事に取りかかる。洗濯をして、掃除機をかけて、細かい汚れを拭き取っていく。 何も考えないように、手を動かし続ける。 動いていれば、少しだけ、楽だから。 すべてが終わる頃には、もうやることは何もなくなる。 時計を見る。 まだ、昼を少し過ぎたばかり。 …….... 一日が、やけに長く感じる。 テレビをつけても、何を見ていたのか覚えていない。 スマホを見ても、特に連絡はない。 ふと、沙織の名前が頭に浮かぶ。 ――だめ。 すぐに、頭を振る。 夕食の買い出しは、沙織が働いているスーパーを避けるようになった。 あの場所に行けば、きっとまた、頼ってしまう。 あの優しさに、あの言葉に、甘えてしまう。 それが、怖かった。 ――しっかりしなきゃ。 私は少し離れたスーパーへ向かう。 必要なものだけを、淡々とカゴに入れていく。 無駄なものは買わない。寄り道もしない。 ただ、家に帰るためだけの買い物。 家に戻ると、
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第15話「大丈夫という呪い」

私の気持ちに蓋をして、大事な拓也と、大事な沙織に、喜んでもらえるように振る舞えばいい。そうすれば、何も起きない。何も壊れない。みんな、幸せでいられる。――だから。私は、今日も“私”をやめた。幸せに向かって積み立てているつもりだった。気付かないふりをしていただけで、どこかで、ゆっくりと崩れていく音がしていた。........「ご馳走様。風呂入ってくる」夕食終わりに、テーブルに置いてる携帯...お風呂に行くって言ってるのに、拓也の携帯は私よりそばにいる事が増えた。職場から急な連絡でもあったりするんだろう。気にしない...気にしない...お風呂場から上がってくると、すぐに寝室に行き充電をしている。けど伏せるように枕元に裏返してる。急用に構えてるんだよね?でも私の前で、着信がなったことなんてない。その背中を向けた携帯は、私には開いてはいけないパンドラの箱だった。でも――拓也が眠ったあとにだけ震えるそれは、まるで、私を呼んでいるみたいで。ごめんね。……気付いてしまったら、きっと、全部終わってしまうから。だから――もう少しだけ、知らないままでいさせて。............だって――我慢するようになってから、拓也が私を求めてくれることが増えたんだ。 以前よりも、手慣れたキス。 触れ方も、どこか――慣れていて。 ……気付いては、いないんだろうな。 二人で抱きしめ合う、不器用だけど温もりを感じられる、あの時間が好きだった。 でも。 お願いなんてしたら、嫌われてしまう気がして―― 怖くて。 私は、枕に顔を埋める。 声が漏れないように。 泣いていることに、気付かれないように。 ただ、じっと。 “ふり”をしていた。それでも――嫌われるよりは、ずっといいと思ってしまった。..........そうして...何も変わらない日々が、続いた。 何も起きない。何も壊れない。 ――そう思い込むことで、私は、毎日をやり過ごしていた。気付かないふりをして、知らないふりをして、笑って、頷いて、受け入れて。それでも、時間だけは、確実に過ぎていった。そして――「少し、気になる数値が出てますね」白い部屋。消毒液の匂い。医者の言葉は、や
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第16話「帰る場所が、ない」

第16話「帰る場所の消失」とある日、私は両親に呼ばれて実家へ向かった。……何か、嫌な予感がする。理由は分からないのに、胸の奥がざわついて落ち着かない。足取りは自然と重くなり、見慣れたはずの道さえ、どこか遠く感じた。インターホンの前で、立ち止まる。押せば、何かが変わる。そんな確信にも似た感覚があった。――大丈夫。 いつも通りに、振る舞えばいい。そう言い聞かせて、指先に力を込めた。 「いらっしゃい」扉を開けた母は、いつもと変わらない笑顔を浮かべていた。そのはずなのに――どこか、探るような目をしている気がして。リビングに通されると、父もすでに座っていた。テーブルの上には、湯気の立つお茶と、手つかずのお菓子。整いすぎたその光景は、“これから話がある”と、無言で告げているようだった。「……それで、どうしたの?」沈黙に耐えられず、私から口を開いた。 母と父が、一瞬だけ視線を交わす。それだけで、胸の奥がざわりと波立つ。「今日はね、少し話があって」母が、ゆっくりと切り出した。「おじいちゃんのことなんだけど……」その言葉で、空気が変わる。 「正直、あまり長くないかもしれないの」静かな声だった。でも、その一言は確かに、重く落ちてきた。 「それでね……」母は言葉を選ぶように、一度視線を落とした。「お父さんとも話して、しばらく田舎に戻ろうと思ってるの」「……え?」間の抜けた声が、勝手に漏れた。父が続ける。「介護もあるしな。このまま向こうで暮らすことになるかもしれん」――帰る場所が、なくなる。頭のどこかで、そんな言葉が浮かんだ。困った時、逃げたくなった時、何も考えずに帰ってこれた場所。それが、なくなる。 「急な話でごめんね」母が、柔らかく笑う。「でも……その前にね」 その一言で、すべてが繋がる。「美咲、最近……本当に大丈夫?」――やっぱり。 「……うん。大丈夫だよ」反射みたいに、答えていた。母は、じっと私の顔を見る。その視線は、表情じゃなくて“中身”を見ているみたいで。「拓也さんとは、うまくやってるの?」 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。「……うん。優しいよ」嘘だ。 全部、嘘。でも――本当のことなんて、言えるわけがない。ここで崩れたら、私はもう
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第17話「私のせいだ」

ガラスに映る自分の顔が、 ひどく――他人みたいに見えた。 その顔は、 笑っていた。 ……どうして? カフェの前で立ち尽くす私のバッグの中で、 携帯が震える。 ――拓也。 「今日、仕事遅くなるから…… ご飯の準備はいらないよ。」 ……うふふ。 拓也は、きっとお仕事を頑張っているんだね。 きっと―― 目の前にいる沙織と楽しそうに話しているあの人は、 違う誰か。 そう。 そっくりさんなんだろうね。 「大丈夫だよ!いつもお疲れ様です。 連絡ありがとう」 そう返信して、すぐに画面を閉じる。 ――ねぇ、私。 ちゃんと、できてるよね? いい妻で、 いい人で、 ちゃんと“壊れてないふり”が、できてるよね? ガラスに映る私は、 やっぱり笑っていて。 その笑顔は―― さっきより、少しだけ歪んで見えた。 そして私は、自宅に戻る。 私は拓也が大好きで... 拓也は私が大好きで... 私のためにお仕事を頑張ってて... 私は拓也の生活をちゃんとサポートして... .......違う!! 本当は気づいてたんだ!!私は!! でも不安で怖くて 1人になるのが嫌で嫌で...... 知らないふりをしていたんだ。 でも...なんで... どうして...沙織なのよ。 どうして... 私はキッチンから包丁を取り出して 手に構える。 「私なんて...もういなくていいよね...」 ........ そのまま、手を離して床に落ちる包丁。 悔しい... とてつもなく悔しい... 「なんなのよ...私、なんでできないのよ...」 どの感情かわからない涙と共に私は 泣いた。 ひたすら、泣いた。 視界が、じわりと滲む。 「......!?」 涙のせいじゃない。 ぐらり、と。 足元が揺れた。 「……あれ……」 さっきから、少し気持ち悪い。 呼吸も、浅い。 胸の奥がざわざわして、 うまく息が吸えない。 「……は……っ……」 立っていられなくなって、 そのまま床に手をつく。 冷たいはずの床の感触が、 どこか遠い。 ――おかしい。 そう思った瞬間。 視界が、すっと暗くなった。 ..................... ............... ......... ....
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第18話「温もりの跡」

私が倒れたことに気づいたのは、母だった。 実家から急いで出た私の表情が曇っていたことを心配して、駆けつけてきたらしい。 ドアが開いていて―― 中を覗いたら、私が倒れていたのだという。 拓也にも連絡を入れたけれど繋がらず、 そのまま、ずっと私のそばにいてくれたらしい。 母は泣きながら、ベッドの上の私を抱きしめた。 「美咲!本当によかった……よかった……!」 私は、母の腕の中で泣いた。 「お母さん……私の子、いなくなっちゃった」 「いなくなっちゃったよ……」 「ごめんなさい……ごめんなさい……」 母は、優しい声で言った。 「いいのよ……美咲が元気なら、それでいいの」 けれどその優しさの奥に、 抑えきれない怒りが滲んでいた。 「本当に大丈夫?……こんな夜遅いのに、拓也さんは折り返しの連絡もないじゃない」 「ううん……いいの。今は呼ばないで……」 母は、私の表情を見て察したのだろう。 「……わかったわ。でも、本当に何かあったらちゃんと連絡するのよ」 「うん……わかってる……」 母は朝まで付き添うと言ってくれたけれど、 私はなんとか説得して帰ってもらった。 ――何より、今は一人になりたかった。 静かな病室。 私は、自分の下腹部にそっと手を当てる。 声にならないほど小さく呟きながら、 涙が溢れた。 「ねぇ……ごめんね」 「私を選んできてくれたのに……」 「私が弱いばっかりに……」 「痛かった?」 「苦しかった?」 「本当にごめんなさい……」 「本当に……本当に……」 「私のせいだよね……」 「生まれ変わったら、幸せになるんだよ」 「元気に生きるんだよ……」 「ごめんなさい……」 そこにいるはずだった命に、 私は別れを告げた。 後悔を抱えたまま―― その日は、静かに意識を閉じた。 気力も体力も落ち込み、 医師から「2、3日は入院してください」と告げられた。 そして、次の日。 看護師が声をかけてきた。 「ご家族の方、来られているのでお通ししますね」 ――拓也が来てくれた。 ……けど。 合わせる顔がない。 無断で家を空けて、 しかも―― 拓也との子を、失った。 不安と悲しみが入り混じり、 胸が苦しくなる。 看護師がカーテンを開ける。 ――その瞬間。 「美咲!大丈夫か!
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第19話「ありがとう、沙織」

「旦那と……親友です」 その言葉は、 まるで他人事みたいに、 自分の耳に、落ちてきた。 そっか... 私の返事に気まずくなった看護師は 焦るように病室を後にした。 机に置かれた携帯の通知が鳴る。 拓也だった。 「美咲の留守は、沙織さんがフォローしてくれる ことになったから家のことは心配しないで ゆっくり休むんだよ。」 私は、「ありがとう」とだけ 返信をする。 その数分後...また通知が鳴った。 「拓也さんのお願いで、美咲の留守中は 私がサポートに着くから安心してね。」 ...沙織だった。 そっか、沙織と私は親友だもんね。 ……優しいね。二人とも。 私の崩れ落ちた理性はもう疲れ果てた。 どうなろうといい... 二人がしたいようにしたらいい... 私はいなくなった我が子を愛でるように 下腹部をさすりながら呟いた。 「大丈夫だよ... お母さんは強くなるからね... あなたにまた会えるまで 私は諦めないからね... その時まで... どうか、ゆっくりお休み...」 静かな病室の窓に映る私の顔は、 見たことのないような笑顔で―― 口元だけが、不自然に歪んでいた。 .......それから、数日が経ち 私は退院をして自宅に向かった。 自宅には、沙織がいて 我が物顔で、私は出迎えられた。 自分の家に... リビングで互いにソファに座り、 私は今回の 拓也のサポートについてお礼をする。 「沙織、今回は家事まで本当にありがとう」 「いいよー。親友のピンチだもん。 助けるよー...」 沙織は、誇らしげな表情で言葉を返す。 親友...ねぇ... よくそんなこと言えるなぁ... 「あとは...私が出来るからもう大丈夫だよ ゆっくり休みたいし...」 私は少し疲れた素振りをしながら 沙織に帰宅を促す。 沙織は、少しだけ困ったように笑った。 「えー、でもさぁ…拓也さんにも“しばらく居てあげて”って言われてるし... 退院したばかりってほら、大変じゃん」 ……やっぱり。 胸の奥で、何かが静かに沈む。 「大丈夫だよ。 心配しないで...ちゃんとやれるから...」 私
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第20話「別れてあげないよ」

いろいろなことがあった。 人を好きになるなんて苦手だった私。 「お姉さん!入るとこ決めました?」 声をかけられて... 拓也と出会い... 「僕と付き合ってください!!」 「はい...わたしこそよろしくお願いします」 交際が始まり―― 「美咲とずっと一緒がいいなー。 卒業したら仕事もあるしねー。 あ!一緒に住まない?問題解決!」 やがて、同棲が始まって... 「美咲...あのさ...いい?」 「結婚しよう...」 「……うん。ずっと一緒だね」 そして、結婚。 最初はただ、 大好きな拓也と一緒にいられることが、 何よりも嬉しかった。 どんなに辛いことがあっても、 「拓也……大好きだよ」 そう心の中で唱えれば、 また前を向くことができた。 ――それなのに。 その想いも。 痛みも。 苦しみさえも。 私を“ママ”に選んでくれた命も。 すべて――奪われた。 あまりにも、あっさりと。 まるで、最初から “存在しなかったもの”みたいに。 悪びれることもなく、 当然のように。 ……許せるはずがない。 許すつもりも、ない。 だから私は―― 何もなかったように、 平然を装い続けた。 翌朝。 私は、わざと遅く起きた。 理由はひとつ。 ――猶予をあげるため。 大好きな拓也に。 だって、 こんなことで終わらせるわけない。 私の子を―― 殺したんだから。 いっぱい、苦しんでもらわなきゃ。 リビングに行くと、 テーブルの上に置いておいた 使用済みの避妊具の箱は――消えていた。 ……ああ。 「バレた」って、思ってるのかな。 それとも、 必死に言い訳、考えてるのかな。 どっちでもいい。 どちらにしても―― 別れる、なんて。 そんな選択肢は、ない。 別れてあげない。 何があっても。 ずっと。 ずぅっと一緒。 ――ふふっ。 その日の夜。 拓也はいつもより早く帰ってきた。 私はいつものような笑顔で迎える。 「おかえり。今日は早かったね」 「美咲が心配だったからさ... 早めに上がらせてもらったよ」 ふぅーん...心配...ねぇ 「ありがとう。夕飯できてるよ」 いつも通りの声に... いつも通りの距離。 ――なのに。 どこかぎこちないのは、 きっと私じ
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