All Chapters of 「夫の子を妊娠したのは親友でした。」: Chapter 1 - Chapter 4

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第1話「おめでとうって言えるよね?」

大学の頃、同じサークルメンバーの拓也と付き合うことになり...互いに社会人になってすぐに拓也からのプロポーズを受けて結婚をした。それからは円満な生活を過ごしていた。強いて言えば...子どもができないことだけが、私たち夫婦の、たった一つの問題だった。それ以外は、きっと“普通に幸せ”だったと思う。「ただいま」玄関の扉が開く音に、私はキッチンから顔を出した。「おかえりなさい、拓也」ネクタイを緩めながら入ってくる拓也に、いつも通りの笑顔を向ける。「今日も遅かったね」「ああ、ごめん。ちょっと仕事が立て込んでて」そう言いながら、拓也は視線を逸らした。最近、こういう瞬間が増えた気がする。でも、私は何も言わなかった。夫婦って、多少の違和感には目をつぶって続いていくものだと、そう思っていたから。「ご飯、できてるよ」「ああ、ありがとう」テーブルに並べた料理は、拓也の好きなものばかりだ。肉じゃが、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし。結婚して三年。拓也の好みは、誰よりも分かっているつもりだった。「……美味いよ。ありがとう」箸を動かしながら、拓也がぽつりと呟く。「ほんと?」「ああ」短い返事。でも、それで十分だった。この人と、ちゃんとやっていけている。この何気ないひとときがあることでそう思えていた。 あの時までは。 「ねえ、拓也」食後、食器を洗いながら、私は背中越しに声をかけた。「今度さ、病院……もう一回行ってみない?」水の音に紛れるように、小さな声で。空気が、ぴたりと止まる。「……またその話?」少しだけ面倒そうな声。「ごめん。でも……」言葉を選びながら続ける。「やっぱり、ちゃんと調べた方が――」「いいって」遮られた。「そのうちできるって、医者も言ってたじゃん」「でも、三年だよ?」振り返ると、拓也は露骨に眉をひそめていた。「焦りすぎなんだよ」「焦ってるわけじゃ……」「じゃあ何?」言葉に詰まる。焦っていないわけがない。でも、それをそのまま言葉にするのは、怖かった。「……ごめん」結局、そう言うしかなかった。拓也は小さくため息をついて、ソファに寝転ぶ。テレビの音が、やけに大きく響いた。 この話になると、いつもこうだ。 私が悪いみたいに終わる。 それでも、いいと思
last updateLast Updated : 2026-03-25
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第2話「家族でしょ?」

「……え?何を言って...」 沙織の声が、わずかに揺れた。 さっきまでの余裕の笑みが、ほんの少しだけ崩れている。 私はそれを、静かに見つめていた。 「ん?聞こえなかった?私が育てるって言ったの」 もう一度、同じ言葉を繰り返す。 ゆっくりと、丁寧に。 誤解なんてさせないように。 「だって、その子――拓也の子でしょ?」 沙織の喉が、小さく動く。 何か言おうとして、言葉にならないみたいだった。 ああ、そうか。 まだ、分かってないんだ。そうなると思わなかったのかな?... 「……冗談、だよね?」 ようやく絞り出した声は、さっきまでとは違っていた。 少しだけ、弱い。 私は小さく首をかしげる。 「なんで?」 「だって……そんなの、おかしいじゃん。だから私は拓也さんの奥さんになりたいから...」  「どこが?...何もおかしくないよ?私、離婚する気ないし...そしたら沙織が大変じゃん。」  即答だった。 間なんて、いらない。  「だから、その子は――」  「うん」  言葉を遮るように、私は頷いた。  「私の夫の子だよね?」  それだけで、十分だった。  沙織の目が、はっきりと揺れる。  私は、カップに手を伸ばした。 もう冷めかけたコーヒーを、一口だけ飲む。  「……体、大丈夫?」  ぽつりと、そう言った。  空気が、一瞬だけ歪む。  「え……?」  「無理してない?」  視線を合わせたまま、穏やかに続ける。  「初期って大事っていうし...」  自分でも分かるくらい、優しい声だった。  「ちゃんと休めてる?」  沙織が、完全に言葉を失う。  さっきまでの“勝ってる側”の顔は、もうどこにもない。  「な、なんで……そんなこと……」  「なんでって?」  私は、少しだけ笑った。  「心配するでしょ、普通に」  嘘は言ってない。  “普通なら”そうだ。  でも。  今のこれは――違う。  「……一人で大変でしょ?」  ゆっくりと、言葉を重ねる。  逃げ道を、塞ぐように。  「仕事もあるし、これからお
last updateLast Updated : 2026-03-25
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第3話「何も知らない夫」

「ただいま...」 玄関のドアが開く音 少しだけ疲れた声 時計を見ると、もう23時を回っていた。 「おかえり...いつもお疲れ様」 私はキッチンから顔を出して、いつも通りに微笑む。 エプロンを外しながら、スリッパを揃える。 ――何も変わらない、日常。 そのはずなのに。 「……あれ、起きてたの?」 拓也が少し驚いたように言う。 「うん。ちょっとだけ...拓也の顔見てから寝たいし...」 「無理すんなよ...ありがとうな」 その言葉に、思わず笑いそうになる。 ――無理してるのは、どっちだろう。 「ご飯、温める?」 「...軽くでいいや」 ネクタイを緩めながら、リビングへ向かう背中。 その仕草も、歩き方も、全部知っている。 三年も一緒にいれば当然だ。でも。 「……やっぱり今日も、遅かったね」 何気ない一言。 それだけで、空気がほんの少しだけ変わる。  「仕事が立て込んでてさ」  振り返らずに返ってくる答え。  迷いのない、慣れた嘘。 「そっか...」 それ以上は何も聞かない。  聞く必要もない。  もう、知ってるから。  電子レンジの音が、やけに大きく響いた。  静かな部屋。  食器の触れる音。  水の流れる音。  その全部が、妙に遠く感じる。  「今日さ...」  背後から声がした。  「沙織と会ったんだ」  ピタリ、と。  空気が止まる。  ほんの一瞬。  でも、確かに。  「……へえ」  間があった。  ほんのわずかだけど、確実に。  私は振り返らない。  その代わり、ガスの火を弱める。  「元気そうだったよ」  「そっか」  短い返事。  興味がないフリ。  でも。  ――知ってるよ、その声。  ほんの少しだけ、硬い。  「なんかね」  私は、ゆっくりと言葉を続ける。  「大事な話があるって言ってた」  カチャン、と。  箸がテーブルに当たる音。  「……そうなんだ」  やっぱり。  分かりやすい。  「聞かなかったの?」  「うう
last updateLast Updated : 2026-03-26
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第4話「大事な命だから...」

その瞬間。 拓也の顔から、血の気が引いた。 ああ... いい顔。 最高。 まだ、始まったばかりなのに... 「なっ...何を訳をわかんない事を... 俺、風呂入ってくる!...」 焦るように食卓を立つ拓也。 「うん!いってらっしゃい... あれ?お風呂場に携帯持っていくの?」 「珍しいね...」 私は笑顔で焦る拓也に声をかける。 「あ...あぁ...やっぱり疲れてるのかな? 今日はすぐに寝るよ。」 携帯をテーブルに置いてお風呂に行った。 私は片付けを済まして、リビングのソファに 座りながら沙織にメッセージを送る。 「起きてる?」 「拓也から同居の話、了承得たから」 「引越しの準備始めててね。」 数分待つと沙織からの返信が入る。 「本当に拓也さんがOKしたの?」 「私、やっぱり堕ろすよ...」 私はすぐに返信を返す。 沙織は高校の頃から変わらないな。 嫌なことがあったらすぐに逃げ出す。 「堕ろす?...拓也の子を殺すって?」 「人殺しなんて...許さないからね。」 「そんなことしたら... 必ず探し出すからね。」 既読は付くが返信がない。 その間に、テーブルに置いてる拓也の通知音が 数回鳴り響く... きっと沙織からなんだろう...けど このタイミングを狙っていたの... 自ら証拠を作ってくれてありがとう...沙織。 ピロン。 軽い電子音が、やけに大きく響いた。 テーブルの上で、拓也の携帯が震えている。 一度。 二度。 三度。 ――止まらない。 私はソファに腰を沈めたまま、その様子を眺めていた。 焦るように震える携帯。 まるで、持ち主の心臓みたい。 くすり、と喉の奥で笑いが漏れる。 「……大丈夫だよ」 誰に向けた言葉でもない。 けれど、ちゃんと届いている気がした。 ――逃げられないってこと。 風呂場から、水音が聞こえる。 シャワーの音。 一定のリズム。 今、この瞬間... 拓也は、何も知らない。 私はゆっくりと立ち上がる。 足音を立てないように。 呼吸すら、静かに。 テーブルへと歩み寄る。 そこにあるのは、無防備に置かれた携帯。 ――置かされた、証拠。 画面が、また光る。 通知。 ロック画面に浮かび上がる名前。 「沙織」 そして、そ
last updateLast Updated : 2026-03-27
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