大学の頃、同じサークルメンバーの拓也と付き合うことになり...互いに社会人になってすぐに拓也からのプロポーズを受けて結婚をした。それからは円満な生活を過ごしていた。強いて言えば...子どもができないことだけが、私たち夫婦の、たった一つの問題だった。それ以外は、きっと“普通に幸せ”だったと思う。「ただいま」玄関の扉が開く音に、私はキッチンから顔を出した。「おかえりなさい、拓也」ネクタイを緩めながら入ってくる拓也に、いつも通りの笑顔を向ける。「今日も遅かったね」「ああ、ごめん。ちょっと仕事が立て込んでて」そう言いながら、拓也は視線を逸らした。最近、こういう瞬間が増えた気がする。でも、私は何も言わなかった。夫婦って、多少の違和感には目をつぶって続いていくものだと、そう思っていたから。「ご飯、できてるよ」「ああ、ありがとう」テーブルに並べた料理は、拓也の好きなものばかりだ。肉じゃが、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし。結婚して三年。拓也の好みは、誰よりも分かっているつもりだった。「……美味いよ。ありがとう」箸を動かしながら、拓也がぽつりと呟く。「ほんと?」「ああ」短い返事。でも、それで十分だった。この人と、ちゃんとやっていけている。この何気ないひとときがあることでそう思えていた。 あの時までは。 「ねえ、拓也」食後、食器を洗いながら、私は背中越しに声をかけた。「今度さ、病院……もう一回行ってみない?」水の音に紛れるように、小さな声で。空気が、ぴたりと止まる。「……またその話?」少しだけ面倒そうな声。「ごめん。でも……」言葉を選びながら続ける。「やっぱり、ちゃんと調べた方が――」「いいって」遮られた。「そのうちできるって、医者も言ってたじゃん」「でも、三年だよ?」振り返ると、拓也は露骨に眉をひそめていた。「焦りすぎなんだよ」「焦ってるわけじゃ……」「じゃあ何?」言葉に詰まる。焦っていないわけがない。でも、それをそのまま言葉にするのは、怖かった。「……ごめん」結局、そう言うしかなかった。拓也は小さくため息をついて、ソファに寝転ぶ。テレビの音が、やけに大きく響いた。 この話になると、いつもこうだ。 私が悪いみたいに終わる。 それでも、いいと思
Last Updated : 2026-03-25 Read more