「夫の子を妊娠したのは親友でした。」 のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 10

31 チャプター

第1話「おめでとうって言えるよね?」

大学の頃、同じサークルメンバーの拓也と付き合うことになり...互いに社会人になってすぐに拓也からのプロポーズを受けて結婚をした。それからは円満な生活を過ごしていた。強いて言えば...子どもができないことだけが、私たち夫婦の、たった一つの問題だった。それ以外は、きっと“普通に幸せ”だったと思う。「ただいま」玄関の扉が開く音に、私はキッチンから顔を出した。「おかえりなさい、拓也」ネクタイを緩めながら入ってくる拓也に、いつも通りの笑顔を向ける。「今日も遅かったね」「ああ、ごめん。ちょっと仕事が立て込んでて」そう言いながら、拓也は視線を逸らした。最近、こういう瞬間が増えた気がする。でも、私は何も言わなかった。夫婦って、多少の違和感には目をつぶって続いていくものだと、そう思っていたから。「ご飯、できてるよ」「ああ、ありがとう」テーブルに並べた料理は、拓也の好きなものばかりだ。肉じゃが、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし。結婚して三年。拓也の好みは、誰よりも分かっているつもりだった。「……美味いよ。ありがとう」箸を動かしながら、拓也がぽつりと呟く。「ほんと?」「ああ」短い返事。でも、それで十分だった。この人と、ちゃんとやっていけている。この何気ないひとときがあることでそう思えていた。 あの時までは。 「ねえ、拓也」食後、食器を洗いながら、私は背中越しに声をかけた。「今度さ、病院……もう一回行ってみない?」水の音に紛れるように、小さな声で。空気が、ぴたりと止まる。「……またその話?」少しだけ面倒そうな声。「ごめん。でも……」言葉を選びながら続ける。「やっぱり、ちゃんと調べた方が――」「いいって」遮られた。「そのうちできるって、医者も言ってたじゃん」「でも、三年だよ?」振り返ると、拓也は露骨に眉をひそめていた。「焦りすぎなんだよ」「焦ってるわけじゃ……」「じゃあ何?」言葉に詰まる。焦っていないわけがない。でも、それをそのまま言葉にするのは、怖かった。「……ごめん」結局、そう言うしかなかった。拓也は小さくため息をついて、ソファに寝転ぶ。テレビの音が、やけに大きく響いた。 この話になると、いつもこうだ。 私が悪いみたいに終わる。 それでも、いいと思
last update最終更新日 : 2026-03-25
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第2話「家族でしょ?」

「……え?何を言って...」 沙織の声が、わずかに揺れた。 さっきまでの余裕の笑みが、ほんの少しだけ崩れている。 私はそれを、静かに見つめていた。 「ん?聞こえなかった?私が育てるって言ったの」 もう一度、同じ言葉を繰り返す。 ゆっくりと、丁寧に。 誤解なんてさせないように。 「だって、その子――拓也の子でしょ?」 沙織の喉が、小さく動く。 何か言おうとして、言葉にならないみたいだった。 ああ、そうか。 まだ、分かってないんだ。そうなると思わなかったのかな?... 「……冗談、だよね?」 ようやく絞り出した声は、さっきまでとは違っていた。 少しだけ、弱い。 私は小さく首をかしげる。 「なんで?」 「だって……そんなの、おかしいじゃん。だから私は拓也さんの奥さんになりたいから...」  「どこが?...何もおかしくないよ?私、離婚する気ないし...そしたら沙織が大変じゃん。」  即答だった。 間なんて、いらない。  「だから、その子は――」  「うん」  言葉を遮るように、私は頷いた。  「私の夫の子だよね?」  それだけで、十分だった。  沙織の目が、はっきりと揺れる。  私は、カップに手を伸ばした。 もう冷めかけたコーヒーを、一口だけ飲む。  「……体、大丈夫?」  ぽつりと、そう言った。  空気が、一瞬だけ歪む。  「え……?」  「無理してない?」  視線を合わせたまま、穏やかに続ける。  「初期って大事っていうし...」  自分でも分かるくらい、優しい声だった。  「ちゃんと休めてる?」  沙織が、完全に言葉を失う。  さっきまでの“勝ってる側”の顔は、もうどこにもない。  「な、なんで……そんなこと……」  「なんでって?」  私は、少しだけ笑った。  「心配するでしょ、普通に」  嘘は言ってない。  “普通なら”そうだ。  でも。  今のこれは――違う。  「……一人で大変でしょ?」  ゆっくりと、言葉を重ねる。  逃げ道を、塞ぐように。  「仕事もあるし、これからお
last update最終更新日 : 2026-03-25
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第3話「何も知らない夫」

「ただいま...」 玄関のドアが開く音 少しだけ疲れた声 時計を見ると、もう23時を回っていた。 「おかえり...いつもお疲れ様」 私はキッチンから顔を出して、いつも通りに微笑む。 エプロンを外しながら、スリッパを揃える。 ――何も変わらない、日常。 そのはずなのに。 「……あれ、起きてたの?」 拓也が少し驚いたように言う。 「うん。ちょっとだけ...拓也の顔見てから寝たいし...」 「無理すんなよ...ありがとうな」 その言葉に、思わず笑いそうになる。 ――無理してるのは、どっちだろう。 「ご飯、温める?」 「...軽くでいいや」 ネクタイを緩めながら、リビングへ向かう背中。 その仕草も、歩き方も、全部知っている。 三年も一緒にいれば当然だ。でも。 「……やっぱり今日も、遅かったね」 何気ない一言。 それだけで、空気がほんの少しだけ変わる。  「仕事が立て込んでてさ」  振り返らずに返ってくる答え。  迷いのない、慣れた嘘。 「そっか...」 それ以上は何も聞かない。  聞く必要もない。  もう、知ってるから。  電子レンジの音が、やけに大きく響いた。  静かな部屋。  食器の触れる音。  水の流れる音。  その全部が、妙に遠く感じる。  「今日さ...」  背後から声がした。  「沙織と会ったんだ」  ピタリ、と。  空気が止まる。  ほんの一瞬。  でも、確かに。  「……へえ」  間があった。  ほんのわずかだけど、確実に。  私は振り返らない。  その代わり、ガスの火を弱める。  「元気そうだったよ」  「そっか」  短い返事。  興味がないフリ。  でも。  ――知ってるよ、その声。  ほんの少しだけ、硬い。  「なんかね」  私は、ゆっくりと言葉を続ける。  「大事な話があるって言ってた」  カチャン、と。  箸がテーブルに当たる音。  「……そうなんだ」  やっぱり。  分かりやすい。  「聞かなかったの?」  「うう
last update最終更新日 : 2026-03-26
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第4話「大事な命だから...」

その瞬間。 拓也の顔から、血の気が引いた。 ああ... いい顔。 最高。 まだ、始まったばかりなのに... 「なっ...何を訳をわかんない事を... 俺、風呂入ってくる!...」 焦るように食卓を立つ拓也。 「うん!いってらっしゃい... あれ?お風呂場に携帯持っていくの?」 「珍しいね...」 私は笑顔で焦る拓也に声をかける。 「あ...あぁ...やっぱり疲れてるのかな? 今日はすぐに寝るよ。」 携帯をテーブルに置いてお風呂に行った。 私は片付けを済まして、リビングのソファに 座りながら沙織にメッセージを送る。 「起きてる?」 「拓也から同居の話、了承得たから」 「引越しの準備始めててね。」 数分待つと沙織からの返信が入る。 「本当に拓也さんがOKしたの?」 「私、やっぱり堕ろすよ...」 私はすぐに返信を返す。 沙織は高校の頃から変わらないな。 嫌なことがあったらすぐに逃げ出す。 「堕ろす?...拓也の子を殺すって?」 「人殺しなんて...許さないからね。」 「そんなことしたら... 必ず探し出すからね。」 既読は付くが返信がない。 その間に、テーブルに置いてる拓也の通知音が 数回鳴り響く... きっと沙織からなんだろう...けど このタイミングを狙っていたの... 自ら証拠を作ってくれてありがとう...沙織。 ピロン。 軽い電子音が、やけに大きく響いた。 テーブルの上で、拓也の携帯が震えている。 一度。 二度。 三度。 ――止まらない。 私はソファに腰を沈めたまま、その様子を眺めていた。 焦るように震える携帯。 まるで、持ち主の心臓みたい。 くすり、と喉の奥で笑いが漏れる。 「……大丈夫だよ」 誰に向けた言葉でもない。 けれど、ちゃんと届いている気がした。 ――逃げられないってこと。 風呂場から、水音が聞こえる。 シャワーの音。 一定のリズム。 今、この瞬間... 拓也は、何も知らない。 私はゆっくりと立ち上がる。 足音を立てないように。 呼吸すら、静かに。 テーブルへと歩み寄る。 そこにあるのは、無防備に置かれた携帯。 ――置かされた、証拠。 画面が、また光る。 通知。 ロック画面に浮かび上がる名前。 「沙織」 そして、そ
last update最終更新日 : 2026-03-27
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第5話「家族」

朝は、いつもと同じように始まった。 カーテンの隙間から差し込む光。 キッチンで湯を沸かす音。 テーブルに並ぶ、二人分の朝食。 ――違うのは、ひとつだけ。 私は、もう“迷っていない”。 「いってきます!」 玄関で、いつも通りの声を出す。 背後から、拓也の眠たそうな返事。 「……いってらっしゃい」 振り返らない。 振り返る必要がない。 だって――もう、外から塞ぐから。 ドアを閉めた瞬間、表情が消えた。 風は少し冷たくて、気持ちがいい。 頭が冴える。 足取りは軽い。 まるで、買い物にでも行くみたいに。 でも、向かう先は―― “家族”。 インターホンを押す。 ピンポーン。 数秒の沈黙... 「……はい?」 女性の声。 少しだけ警戒を含んだ、年配の声。 「突然すみません。私、沙織さんの高校の同級生の美咲と申します。いきなりすいません。 少しお話がありまして...」 嘘は言っていない。 カメラ越しに、こちらを確認している気配。 間。 そして―― 「……何の御用でしょうか?」 私は、ゆっくりと名乗る。 「――沙織さんが不貞を働いている拓也の妻です」 沈黙が、落ちた。 鍵の開く音が、やけに大きく響いた。 ドアが、開く。 そこに立っていたのは、 きちんとした身なりの女性。 ――母親だろう。 その奥から、新聞を持った男性が顔を出す。 ――父親。 「……どういう、ことですか」 当然の反応。 私は、深く頭を下げる。 「突然の訪問、申し訳ありません」 声は、穏やかに... 柔らかく... どこまでも、礼儀正しく。 「ですが……どうしても、今お伝えしなければいけないことがありまして」 “今”でなければならない理由。 それは―― 逃げられる前に、塞ぐため。 最後の心の拠り所になろう二人を...ね。 「……上がってください」 母親の声は、硬い。 それでも、家の中へ通される。 リビング。 整えられた空間。 家族写真。 笑っている、沙織。 あぁ... 本当に――“普通”。 「それで……話とは?」 父親が口を開く。 警戒と、不快感と。 少しの苛立ち。 当然。 私は、もう一度頭を下げる。 「まず……謝罪をさせてください」 静かに。 確実に。 「主人が、沙織さ
last update最終更新日 : 2026-03-27
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第6話「あなたの意思で」

午後二時。 昼なのに、やけに静かだった。 外は明るいはずなのに。カーテン越しの光は、どこか白く濁って見える。 エアコンの音だけが、部屋に響いている。 「……」 沙織は、ソファに座ったまま動けずにいた。 スマホを何度も見ている。 通知は、ない。 両親からの連絡も。友達からの連絡も。拓也からの返信も...――何も。 「……」 指先で画面をなぞる。 誰かに、連絡を取りたい。 でも。 誰に? 何を言えばいい?  言えるわけがない。  胸の奥に、重たいものが沈んでいる。  その時だった。  ピンポーン。  「っ……!」  身体が、跳ねる。  一瞬で、心臓が早くなる。  ……誰?  分かっている。  でも、違ってほしいと思う。  もう一度。  ピンポーン。  逃げ場はない...  この部屋は、一人暮らしのワンルーム。  隠れる場所なんて、どこにもない。  ゆっくりと立ち上がる。  足が、重い。  玄関へ向かう。  ドアスコープを覗く。  ――見えた。  「……っ……」  息が、止まる。  そこにいたのは...  美咲だった。 逃げる?  無理だ。  ここは、自分の部屋。  逃げ場なんて、どこにもない。   震える手で、鍵を開ける。  扉を、開けた。  「こんにちは、沙織ちゃん」  午後の日差しの中で。  美咲は、柔らかく笑っていた。  「……どうして……」  声が、掠れる。  「近くまで来たからさ...」  当たり前のように言う。  「少しだけ、いい?」  拒否できる空気じゃない。 「……どうぞ……」  言ってしまった瞬間。  終わった、と思った。 美咲は自然な動きで靴を脱ぎ、部屋に入る。 ワンルームの狭さが、やけに際立つ。 逃げ場のなさが、露骨に突きつけられる。「一人だと、静かだね」 部屋を見回しながら、美咲が言う。 「……」  「寂しくない?」 その一言で。 胸の奥に、何かが刺さる。 「……別に……」 強がり... 
last update最終更新日 : 2026-03-27
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第7話「管理下」

目が覚めた瞬間。 違和感があった。 静かすぎる。 カーテンの隙間から差し込む光は、昨日と同じはずなのに。 世界が、少しだけ遠い。 「……」 ゆっくりと上半身を起こす。 頭が重い。 夢じゃない。 昨日のことは、全部覚えている。 ――契約。 喉の奥が、ひりつく。 美咲の言動が頭の中によぎる... 「ありがとう。沙織」 「これで」 「沙織は、もう私のもの...」 「でも安心して」 「ちゃんと守るから」 ............... 誰かの所有物になった不安と恐怖が 胸をざわつかせる。 「……大丈夫……」 誰に言い聞かせているのかも分からないまま、 呟く。 ――もう、“始まっている”。 深呼吸。 「……行かなきゃ……」 ここにい続ける方が、怖い。 逃げるように、部屋を出た。 午後。 パート先のドアを開ける。 カラン、と軽い音が鳴る。 「おはようございま――」 言葉が、途中で止まる。 店長が、こちらを見る。 その目が... 明らかに、“余所者の人を見る目”だった。 「……あの」 喉が、うまく動かない。 「今日、シフト……」 数秒の沈黙。 店長は、首を傾げる。 「……辞めるんじゃなかった?」 「……っ……」 一瞬、音が消える。 「私...辞めるなんて...言ってない...」 「いやいや、昨日君のご家族が挨拶に 来てましたけど...」 「……そんな……」 店長は、名簿をめくる。 「妊娠してるんだっけ? これ以上の勤務はお腹の子にも悪いって かなり強く反対されたよ」 「……え……?」 「“妊娠しているので働かせないでください”って 泣きながら話されたよ...。」 世界が、歪む。 「こちらも無理強いと言う訳ではないので、 採用も取り消しという形で...」 「おめでたい話だから、自分で来たら よかったのに...今までご苦労様」 「……うそ……」 立っていられない。 「失礼します」 ドアが閉まる。 外に出た瞬間。 膝から、崩れ落ちた。 「……なに……これ……」 頭が、追いつかない。 震える手で、スマホを取り出す。
last update最終更新日 : 2026-03-28
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第8話「静かな亀裂」

.......最初に拓也を見たのは、春の匂いがまだ少しだけ冷たかった頃だった。 大学のサークル棟で...新歓で、人がごちゃごちゃしていて、正直、少し帰りたかった。 「お姉さん!入るとこ決めました?」 声をかけられて、顔を上げる。 そこにいたのが、拓也だった。 「……まだ、です」「じゃあ、とりあえずうち来ません?いきなりなんですけど...」 軽い...でも、不思議と嫌じゃなかった。 押しつける感じもなくて、ただ、当たり前みたいに隣に立ってくる。 「何のサークルですか?」「ゆるいやつですよー。あ!なんか危ないのとかはないですよ!って今、俺が危ないやつですね。すいません」 その答えに、思わず笑った。 結局、その“ゆるいやつ”に入った。 活動内容は、本当にゆるかった。 たまに集まって、ご飯を食べたり、ボードゲームをしたり、外に出かけたり。 特別なことは何もない。 でも、その中に、拓也はいつも笑っていた。 最初は、ただの“話しやすい人”。 気を遣いすぎない距離で、でも、ちゃんと見てくれている。 「美咲ってさ、意外と無理するよね。目が笑ってないぞー」 ある日、何気なく言われた。 「え?」「大丈夫って顔してる時ほど、大丈夫じゃないやつ」 図星だった。 でも、それを指摘されても、嫌な気持ちにならなかった。 むしろ、少しだけ、救われた気がした。 それから、自然と一緒にいる時間が増えた。サークルの帰りに、二人で残ることが増えて、気づけば、みんなが帰った後も話していたりする。 「なんか、ここ落ち着くよね...」 人気のない部室で、拓也がぽつりと言う。 「……うん」 その“ここ”が、場所なのか、時間なのか、それとも―― 考えなくても、分かっていた。 恋だと気づいたのは、本当に些細な瞬間だった。 他の女の子と話しているのを見て、少しだけ、胸がざわついた。それだけで、十分だった。 ――ああ、私、この人のこと好きなんだ。 告白は、拓也からだった。「みっ!美咲さん!...」 名前を呼ばれて、振り向く。 サークルの帰り道。 街灯の下で、少しだけ真剣な顔をしていた。 「俺、美咲のこと好きです!
last update最終更新日 : 2026-03-30
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第9話「優しい距離」

それから、拓也も仕事が順調で 徐々に帰る時間が遅くなる日が増えた。 いつも20時には食卓にはいたのに... 残業の日はだいたい23時頃の帰宅する。 「寝てていいのに...」と拓也は言うが、 「ううん。大丈夫だよ。 起きて待ってるから...」と私はいつも 笑顔で帰宅を迎えた。 話したいこともいっぱいある。 結婚式だったり...2人の子供だったり... けど、残業で疲れている拓也に どう話を切り出して良いものかわからず 時間だけが過ぎていく...。 仕事が休みの日も、寝室からリビングに あまり出てくれなくて... おでかけデートの回数もかなり減った。 わがまま言うのは良くない... 拓也は私のために 頑張ってお仕事してるんだから... どうにか感じる孤独を飲み込んで 拓也の前では一生懸命に 笑顔を徹していた。 そうした生活が続く中、私は沙織が働いている スーパーに夕食の買い出しに出かけていた。 「美咲!今日は1人?」 「うん。最近、仕事忙しいんだって...」 「なんか元気ないじゃん?... あ!今日、そろそろ退勤だからさ 一緒に帰らない?ちょっとお茶しながらさ」 「あ!いいの?...わるいよー」 「いいって!いいって! すぐ近くにカフェがあるからさ。 そこで待っててよ」 「うん...わかった」 沙織はすんなりレジを済まして、 笑顔で「後でね...」と見送ってくれた。 .........カフェ。 そいえば結婚してから滅多にお茶なんて してなかったな。 なんて考えながら、沙織を待つ。 30分経たないくらいに沙織が来た。 「ごめーん!待った?」 「ううん。大丈夫だよ。ありがとうね。」 忙しく席に座りながら、コーヒーを注文して 心配そうな顔をしている沙織。 「旦那さんと何かあったの? 話聞くからさ、吐き出した方が楽だよ。」 その言葉に―― 一瞬だけ、喉が詰まった。 拓也を少しだけ裏切ってしまう気がした。 「……ううん。 大したことじゃないんだけどね」 視線を、カップに落とす。 まだ手をつけていないコーヒーから、 細く湯気が立ち上っていた。 「最近さ……
last update最終更新日 : 2026-03-31
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第10話 「大丈夫の嘘」

カフェで別れた、その日――。 その日も、拓也は23時過ぎに帰ってきた。 「ただいまー。今日も遅くなった」 私は、リビングのソファで拓也を待っていた。 いつものように、笑顔を作る。 「おかえりなさい。夕飯、できてるよ」 「あー、ごめん」 ネクタイを緩めながら、拓也は目も合わせずに言った。 「今日は疲れたから、お風呂入ったら……すぐ寝るわ」 ――えっ……? ほんの一瞬。 時間が、止まった気がした。 「……うん。わかった」 それでも私は、笑った。 拓也はそのまま、お風呂場へ向かう。 すぐに、シャワーの音が響き始めた。 私はキッチンに立ち―― ゆっくりと、ゴミ箱の蓋を開けた。 用意していた夕食を、 ひとつ、またひとつと放り込んでいく。 まだ温かいままの料理が、 ぐしゃり、と音を立てて崩れた。 その光景が、 なぜか少しだけ、綺麗に見えた。 ゴミ箱の中で混ざり合うそれは―― まるで、 私の心みたいだった。 「……我慢しなきゃ……」 ぽつり、と呟く。 「我慢しなきゃ……」 声を殺して、泣く。 泣いているのに、 どこか冷静な自分がいる。 シャワーの音が、止まる。 私は急いで涙を拭いた。 呼吸を整えて、 鏡も見ずに―― いつもの顔を、作る。 「今日もお疲れ様」 お風呂場から出てきた拓也に、 何事もなかったかのように微笑む。 「ゆっくり休んでね」 その言葉は、 驚くほど優しくて―― 自分でも、少しだけ怖かった。 拓也との距離は、決して変わっていない。 ただ、 私がまだ“恋人のまま”でいるだけ。 そうやって、何度も頭の中で唱えて―― 自分を、落ち着かせた。 その日は、そのままソファで目を閉じた。 ――翌朝。 拓也より少し早く起きて、 朝食の準備をする。 いつもと変わらないルーティン。 いつもと同じ、朝。 「行ってらっしゃい。今日も頑張ってね」 玄関のドアが閉まる音。 その瞬間―― また、世界が閉ざされる。 静まり返った部屋に、 ゆっくりと孤独が満ちていく。 「大丈夫って顔してる時ほど、 大丈夫じゃないやつ」 昔、拓也に言われた言葉。 「……私、まだ大丈夫なのかな……」 答えは、出ない。 ただ―― それから私は、 音を殺して泣くことだけが、 上手
last update最終更新日 : 2026-03-31
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