All Chapters of 「夫の子を妊娠したのは親友でした。」: Chapter 1 - Chapter 10

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第1話 結婚記念日の裏切り。

私の名前は、高橋美咲。 三年前、高橋拓也と結婚した。 郊外に建てられた新築一戸建て。それは、結婚祝いとして父が贈ってくれた家だった。 拓也は、新卒で入社した商社で毎日遅くまで働いている。 忙しくても優しくて、私はそんな彼を尊敬していた。 不自由のない毎日。穏やかで、静かで、幸せな結婚生活。 ……そう、思っていた。 だけど。ただ一つだけ、私の中で、埋まらないものがあった。 私は、拓也との子供が欲しかった。 結婚して一年が過ぎた頃、私は一度だけ、その気持ちを彼に伝えたことがある。 「今は仕事に集中したいんだ。ごめん」 困ったように笑いながら、拓也はそう言った。 責めるつもりなんて、最初からなかった。 だから私は、「そっか」と笑って引き下がった。 ……でも。 その日からだった。 拓也が、子供の話を避けるようになったのは。 気付けば、最後に拓也に抱かれたのは―― もう一年以上も前になる。 それでも私は、拓也のことを愛していた。 そして明後日は、私たちの結婚記念日。 だから私は、ちゃんと気持ちを伝えようと思っていた。 あなたが、そばにいてくれるだけでいい。 子供は、いつか授かれたらそれでいい。 もし負担になるなら、私は待つから。 ちゃんと、拓也の隣にいられるなら、それで良かった。 そして―― 結婚記念日当日。 私は朝から、少しだけ浮かれていた。 拓也を仕事へ送り出した後、料理の準備を始める。 ちゃんと私の気持ちを伝えるんだ。 拓也が大好きなメニューで食卓を埋めていく。 拓也の喜ぶ顔を想像すると、自然と頬が緩んでしまう。 食卓には花を飾って、少しだけ豪華な料理を並べた。 準備は完璧だった。 あとは、拓也が帰ってくるだけ。 それでも、私は待ち続けた。 けれど、彼が来ることはなく、メッセージ一通さえ届かなかった。 21時。 まだ、帰ってこない。 22時。 不安になって、メッセージを送る。 『まだ残業してるの? 帰り道で何かあったんじゃないかって、すごく心配してるよ』 既読は、つかなかった。 23時。 本当に、どうしたんだろう。 残業だとしてもさすがに遅すぎる気がする。 心配だけが、どんどん募っていく 何度画面を見ても、既読はつかない。 「......電話してみようかな」 そう呟いて携
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第2話 信じたい。

寝室に戻って、目を閉じてもさっき見た光景が 消えない。 (「沙織......沙織......」) 大好きな拓也の声が、私以外を呼んで欲求を発散している。 トラウマだった景色がフラッシュバックする。 通学路で幸せそうに歩く二人の背中、一人は沙織、そして、隣にいたのはーー拓也だった。 なんで!?どうして!? 頭の中で、何度も唱える。 (消えて!お願いだから...消えてよ!) 二人がこちらを見て笑っている。 (やめて!お願いだから!もう.....) 「はっ!!」 私は、寝室のベッドで目を覚ました。 隣で寝ている拓也。 ......夢だったんだ。 そう思った瞬間、胸を撫で下ろした。 拓也の背中に寄り添おうと近づいた時...... 浴室での風景が浮かぶ。 「うっ!......」急な吐き気に気づかれないように寝室を出る。 だめだ。忘れなきゃ......拓也、信じて良いよね? 私は、リビングのソファにもたれながらその日は 眠りに着いた。 ーーー 「美咲!美咲!......」 拓也の声に目を覚ますと、忙しく朝の出勤支度を している。 「あっ...ごめんなさい。急いで朝食を...」 拓也は不機嫌そうに、言葉を返す。 「もういい!遅刻しそうだからもう出るよ!」 私の顔を見ずに、強く玄関の扉を叩いて出ていく拓也。 「はぁ...やらかしちゃったな...」 私はパジャマのまま、昨日そのままにした食卓を片していく。 ゴミ袋を広げて、一皿ずつ料理を捨てていく。色鮮やかだったメニューも拓也が好きだった好物も袋の中で混ざってただの生ゴミになっていく。 ーーー♪♪♪ 携帯に着信が鳴る。 画面を開くと、拓也からメッセージだった。 「昨日は、ごめんな。 お詫びがしたいんだけど、夜20時に駅前の レストラン La Belle(ラ・ベル)で久しぶりに 二人で食事をしよう。」 このレストランは、結婚する前に良く二人で デートをしていた場所だ。 (よかった。拓也、ちゃんと結婚記念日覚えてて くれていたんだ。) 私はすぐに、メッセージを返す。 昨夜まで胸を締めつけていた不安が、少しだけほどけた気がした。 「昨日の事は気にしてないよ。仕
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第3話 もう一度と願った夜に。

今夜なら。 もう一度だけ、私たちは夫婦に戻れるんだ。 そう信じながら、私はレストラン La Belle(ラ・ベル) の灯りへ向かって歩き出した。 レストランの扉を開けると、店員さんが 笑顔で出迎えてくれた。 「いらっしゃいませ。本日はLa Belleへご来店頂きましてありがとうございます。 ご予約のお名前は?」 「旦那が予約してないかしら?名前は高橋と言います。こちらで待ち合わせをしてまして……」 「了解しました。ご予約のご確認がございますので その間、当店ウェイティングBARにてしばしお待ちください。」 レストランのBARに案内された私は、拓也を 待っていた。 (ちょっと早く到着しちゃったかな?) 時刻を確認すると、19時45分…… 予定の20時には到着してくれるかな? 私は拓也にメッセージを入れる。 「ちょっと早く着いちゃったから、先に中で待ってるね。」 19時58分。 店員が「そろそろお連れ様はいらっしゃいますでしょうか」と声を掛ける。 「もう少しで来ると思います。」 私は笑顔を作った。 それから15分経っても、拓也の姿はなかった。 不安になり、再度拓也にメッセージを入れる。 「20時の予約だよね?今日も仕事長引いちゃったのかな?心配です。返信待ってるね。」 ——20時20分、メッセージの既読もない。 店員が声をかけてきた。 「高橋様、申し訳ありませんが……20時のご予約は 入っていないみたいでして、こちらの不手際かと 再度お調べしたのですが、やはりご予約はないと……」 「えっ?」 店員の言葉に焦って、拓也とのメッセージを見返す。 「昨日は、ごめんな。 お詫びがしたいんだけど、夜20時に駅前の レストラン La Belle(ラ・ベル)で久しぶりに 二人で食事をしよう。」 時間も店名も間違えてない。 でもなんで……!? 「すいません。あれ?旦那からこちらのお店でと 連絡が来てましたので」 焦る私に申し訳なさそうな表情をしている店員。 「一度、旦那様にご確認されてみてはいかがでしょうか?」 「はい!」と拓也に電話を入れるが取らない。 メッセージを見返しても既読がない。 私は、この状況に気まずくなり 「すいません。何か手違いがあったかもしれないので今日は帰りますね。」と一度店を出た。 それから、30分ほど待っていたが……
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第4話 いらないのは美咲だけだよね。

気がつくと、私はリビングのソファで目を覚ましていた。 昨日見た光景が、何度も頭の中で蘇る。 拓也と沙織が重なり合う姿。 耳を塞いでも消えない声。 ショックが強すぎて、再び吐き気が込み上げる。 書斎を確認するが、誰もいない。 拓也が不倫――。 まだ現実として受け止めきれなかった。 リビングのテーブルには一枚のメモ書きが置かれていた。それは拓也の字で『ごめん、離婚したい』 と書かれている。 (拓也……そんな……離婚って......) ーーー♪♪♪ 携帯電話が鳴る。 画面に表示された名前を見た瞬間、息が止まりそうになった。 沙織。 『体調どう? 話があるの。13時に職場近くの喫茶店、来れる?』 怒りで震える指先を必死に押さえながら返信する。 『わかった。すぐ向かう』 拓也に連絡を入れるも一向に繋がらない。 (お願い......電話に出て......) ーーー 約束の時間、指定された喫茶店。 沙織はすでに席に座り、私を見るなり口元を緩めた。 「昨日、急に叫んで倒れるからびっくりしたよ。せっかくいいところだったのに、お楽しみを邪魔されて、こっちも迷惑だったんだけど」 悪びれる様子など一切ない。 私は唇を強く噛み締める。 「見られちゃったなら、もう隠す意味もないかなって」 平然とコーヒーを口に運ぶ沙織。 その姿に、怒りで体が震えた。 「どういうこと? 人の旦那に手を出しておいて、悪びれもしないの?」 沙織は肩をすくめる。 「拓也が言ってたよ。『美咲より沙織のほうが興奮する』って」 クスクスと笑う。 「『抱きたいとも思わせないくせに、子どもだけ欲しいってうるさい』ってさ」 胸が締めつけられる。 頭の中で、優しかった拓也の笑顔が音を立てて崩れていく。 「いつも耳元でね、『沙織が一番だ』って囁いてくれるの。最高だったよ」 幸せだった思い出まで、黒く塗り潰されていく。 「……もういい。聞きたくない」 私は震える声で言った。 「要件だけ言って。あなた、本当に拓也を愛してるなら――」 「愛してる?」 沙織は吹き出した。 「まさか。」 その一言に、私は言葉を失う。 「あんたと拓也の生活が羨ましかっただけ。」 「専業主婦で、家もあって、優しい旦那がいて……全部持ってるあんたがね。」 そして、冷たく笑う
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第5話 夫の子を妊娠したのは親友でした。

テーブルに置かれた遺書には、こう綴られていた。 「お父様、お母様。 娘が、お二人より先に逝くことをお許しください。 親不孝な娘で、本当にごめんなさい。 二人に愛されて育った私は、とても幸せでした。 どんなときも味方でいてくれて、いつも優しく見守ってくれて……心から感謝しています。 本当なら、お父様がずっと望んでくれてた孫の顔を見せて親孝行をしたかったよ。 これから先も、たくさん笑って、一緒に歳を重ねていきたかった。 でも、もう限界です。 私は、二人がどうしても許せない。 拓也のことを心から愛していました。 だから、拓也との家族が欲しかった。 この人となら、どんな苦労も乗り越えられると信じていたのに...... だけど、その想いは踏みにじられました。 私が信じ続けた夫は、私の親友と裏切り続けていました。 二人は私を騙し、笑い、私だけを置き去りにして幸せになろうとしています。 そしてずっと願っていた事。 「夫の子を妊娠したのは親友でした。」 どうして私だったんだろう。 私をいらないとまで言われた事を死んでもずっと怨み続けるでしょう。 二人で幸せになろうとしている事...... そして三人で家族になろうとしている事...... 絶対に許す事はないでしょう。 この家だけは、あの二人の幸せを育む場所として渡したくない。 そう思いこの命を終える選択肢をしたことを 本当に申し訳なく思います。 それでも、最後に一つだけお願いがあります。 どうか、私の死を自分たちのせいだと思わないでください。 悪いのは、お父様でもお母様でもありません。 私を捨てたのは、拓也と沙織です。 私を殺したのは、拓也と沙織です。 私の死を背負って、生き続けてください。 絶対に許さないから...... それが、私から二人への最後の贈り物です。」 ーーー沙織と別れた後、私は自宅に戻り、リビングのテーブルに離婚届を広げた。 名前を書き始めながら、苦しくて悔しくて 涙が止まらなかった。 拓也と出会って、付き合って、プロポーズされて 走馬灯のように想い出たちが頭の中を巡っていく。 (神様、お願いします。私の声が聞こえるなら この離婚届を書き終える前に止めにきてください。 拓也、愛してるよ。別れたくないよ。だから今すぐ間違いだった。って言っ
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第6話 復讐の歯車

はっ!っ...... 目を開けると私は、携帯を片手にリビングに立っていた。 (私......死んだんじゃ......) 携帯画面の時刻を見ているとまだ時間はあの日の お昼前だった。 リビングのテーブルには、拓也のメモ書きが置かれている。 そして......♪♪♪ 携帯の通知がなる。画面を見ると『沙織』の文字 (えっ?どういう事......同じようなことが......) メッセージを開くと『体調どう? 話があるの。13時に職場近くの喫茶店、来れる?』 やっぱりだ。 (えっ......私、夢を見てたの?......) 戸惑いながら、私はあの時と同じように『わかった。すぐに向かう』とメッセージを返した。 時間は10時半...... 私は、どうにか拓也に連絡を取ろうとどうにか手段を探そうとしてるうちに時間が来て喫茶店に向かった。 待ち合わせまで、時間はある。 何がどうなってるかはわからないが、私はこうやって生きている。 「拓也、沙織待っててね。必ず地獄に落としてやるわ......」 心に燃える復讐の炎が、燃え上がる。 必ず二人には復讐をしてやる。 私は、記憶をできるだけ手繰り寄せる。 拓也を愛してると言うフィルターから見ていた 視界に映る全てが、今や汚らしく見える。 愛してる人が他人と認識するとここまで 世界が変わるのか、と身の震えを感じた。 確か沙織は、私にエコー写真を見せてきた。 二人の関係は三ヶ月以上前になる。 そして、沙織との会話のやり取りも冷静になれば不可解な点もあった。 バラバラに散らばった点が一本の線になっていく 「ふふふっ...これなら、いけるわ。待っててね沙織」 私は、沙織が待つ喫茶店へ向かった。 沙織は先に席に座り、前回と同じように私を見るなり口元を緩めた。 (やっぱり、繰り返してる。...でも) 「昨日、急に叫んで倒れるからびっくりしたよ。せっかくいいところだったのに、お楽しみを邪魔されて、こっちも迷惑だったんだけど」 私はすぐに言葉を返す。 「あら、お楽しみを邪魔してたのね。ごめんなさい 拓也が汚いケダモノに襲われてると見間違いしちゃって...いや、二人ともか。」 前回と違う沙織の眉間にシワがよる。 「まぁ、いいわよ。もう隠す必要はないわよね?」 「何が?昨日のあなた達のこ
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第7話 布石。

表情は青ざめ、沙織は力が抜けたようにその場へ座り込んだ。 私は笑みを浮かべながらバッグからスマートフォンを取り出し、再生ボタンを押す。 ――「拓也と私にはもう新しい命がいるの! あなたが私たちに従いなさいよ。この負け犬……」 店内に、先ほどの沙織とのやり取りが鮮明に流れ始めた。 「よかった。ちゃんと録れてた。」 私はスマートフォンの画面を見つめながら微笑む。 「わざわざ自白してくれてありがとう。さすが親友だね。」 「ちょっと! やめて!」 沙織が慌ててスマートフォンを奪おうと身を乗り出す。 私は一歩だけ後ろへ下がった。 「そんなに動いたら、お腹の子に響くよ?」 その一言で、沙織の動きが止まる。 「安心して。これは大切に保管しておくから。」 私はスマートフォンをバッグへしまい、静かに席を立った。 「それじゃあ、連絡待ってるね。」 軽く手を振り、私は沙織を残して喫茶店を後にした。 (やっぱり……私はあの日をやり直している。) 神様がくれた復讐のチャンス。 ……いや。 悪魔が与えた二度目の人生なのかもしれない。 それでも構わない。 私はまだ終わっていない。 徹底的に、逃がしはしない。 喫茶店を出ると、私はまず拓也の両親へ電話をかけた。 拓也の不貞行為。 そして、沙織が拓也の子どもを妊娠していること。 知っている事実をすべて伝えると、義父も義母も言葉を失い、何度も謝罪を繰り返した。 「拓也さんと連絡が取れましたら、またご連絡ください。」 そう伝え、電話を切る。 続いて実家へ連絡を入れた。 事情を聞いた父は激怒していた。 当然だ。 「必ず幸せにします。」 そう言って頭を下げた男が、娘を裏切り、不幸のどん底へ突き落としていたのだから。 「離婚するのか?」 父の問いに、私は静かに答えた。 「……まだ決めてない。まずは拓也とちゃんと話し合う。」 通話を終え、自宅へ戻る。 まず手をつけたのは、拓也との思い出ではない。 この家に関する大切な書類だった。 沙織は私をこの家から追い出すつもりなのだろう。 でも、拓也はまだ気づいていない。 この家は、父が私へ贈ってくれたもの。 名義も私一人。 父は手続きのすべてを私に任せてくれていた。 つまり、この家は私だけの財産だった。 私は権利書や重要書類、印鑑な
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第8話 静かな亀裂。

「あの頃から、私は疑いもしなかった」 最初に拓也を見たのは、 春の匂いがまだ少しだけ冷たかった頃だった。 大学のサークル棟で... 新歓で、人がごちゃごちゃしていて、 正直、少し帰りたかった。 「お姉さん!入るとこ決めました?」 声をかけられて、顔を上げる。 そこにいたのが、拓也だった。 「……まだ、です」 「じゃあ、とりあえずうち来ません? いきなりなんですけど...」 軽い... でも、不思議と嫌じゃなかった。 押しつける感じもなくて、 ただ、当たり前みたいに隣に立ってくる。 「何のサークルですか?」 「ゆるいやつですよー。 あ!なんか危ないのとかはないですよ! って今、俺が危ないやつですね。すいません」 その答えに、思わず笑った。 結局、その“ゆるいやつ”に入った。 活動内容は、本当にゆるかった。 たまに集まって、ご飯を食べたり、 ボードゲームをしたり、外に出かけたり。 特別なことは何もない。 でも、その中に、 拓也はいつも笑っていた。 最初は、ただの“話しやすい人”。 気を遣いすぎない距離で、 でも、ちゃんと見てくれている。 「美咲ってさ、意外と無理するよね。目が笑ってないぞー」 ある日、何気なく言われた。 「え?」 「大丈夫って顔してる時ほど、大丈夫じゃないやつ」 図星だった。 でも、それを指摘されても、 嫌な気持ちにならなかった。 むしろ、少しだけ、救われた気がした。 それから、自然と一緒にいる時間が増えた。 サークルの帰りに、二人で残ることが増えて、 気づけば、みんなが帰った後も話していたりする。 「なんか、ここ落ち着くよね...」 人気のない部室で、 拓也がぽつりと言う。 「……うん」 その“ここ”が、場所なのか、時間なのか、 それとも―― 考えなくても、分かっていた。 恋だと気づいたのは、 本当に些細な瞬間だった。 他の女の子と話しているのを見て、 少しだけ、胸がざわついた。 それだけで、十分だった。 ――ああ、私、この人のこと好きなんだ。 告白は、拓也からだった。 「みっ!美咲さん!...」 名前を呼ばれて、振り向く。 サ
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第9話 優しい距離。

それから、拓也も仕事が順調で、 徐々に帰る時間が遅くなる日が増えた。 いつも20時には食卓にはいたのに... 残業の日はだいたい23時頃の帰宅する。 「寝てていいのに......」と言う拓也に、 「大丈夫よ。ちゃんと頑張ってる拓也にありがとうをしてから寝たいの」と私はいつも、笑顔で帰宅を迎えた。 もちろん、話したいこともいっぱいある。 結婚式だったり...2人の子供だったり... けど、残業で疲れている拓也に どう話を切り出して良いものかわからず 時間だけが過ぎていく...。 仕事が休みの日も、寝室からリビングや書斎に篭ったりしてあまり外にも出てくれなくて... おでかけデートの回数もかなり減った。 わがまま言うのは良くない... 拓也は私のために、頑張ってお仕事してるんだから... どうにか感じる孤独を飲み込んで 拓也の前では一生懸命に笑顔を徹していた。 そうした生活が続く中、私は沙織が働いている スーパーに夕食の買い出しに出かけていた。 「お疲れ様美咲!今日は1人?」 「そうなの、最近ずっと仕事が忙しいんだって......」 「なんか元気ないじゃん。落ち込まないでよ。」 「あ!今日、そろそろ退勤だからさ! 一緒に帰らない?ちょっとお茶しながらさ」 「あ!いいの?...なんか愚痴聞いてもらうみたいで悪いよ」 「いいって!いいって!すぐ近くに私がよく行くカフェがあるから先にそこで待っててよ」 「うん...わかった。」 沙織はすんなりレジを済まして、 笑顔で「後でね...」と見送ってくれた。 .........カフェ。 そいえば結婚してから滅多にお茶なんて してなかったな。 なんて考えながら、沙織を待つ。 ーーー30分経たないくらいに沙織が来た。 「ごめーん!待った?」 「ううん。大丈夫だよ。ありがとうね。」 忙しく席に座りながら、コーヒーを注文して 心配そうな顔をしている沙織。 「旦那さんと何かあったの? 話聞くからさ、吐き出した方が楽だよ。」 その言葉に―― 一瞬だけ、喉が詰まった。 拓也を少しだけ裏切ってしまう気がした。 「……ううん。大したことじゃないんだけどね」 視線を、カップに落とす。 まだ手をつけていないコーヒーから、 細く湯気が立ち上っていた。 「最近さ……
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第10話 大丈夫の嘘。

カフェで別れた、その日――。 その日も、拓也は23時過ぎに帰ってきた。 「ただいまー。今日も遅くなった」 私は、リビングのソファで拓也を待っていた。 いつものように、笑顔を作る。 「おかえりなさい。夕飯、できてるよ」 「あー、ごめん」 ネクタイを緩めながら、拓也は目も合わせずに言った。 「今日は疲れたから、お風呂入ったら……すぐ寝るわ」 ――えっ……? ほんの一瞬。時間が、止まった気がした。 (今まで、そんな事言わなかったのに......) 「......うん。わかった」 それでも私は、笑った。拓也に負担にならないように。 拓也はそのまま、お風呂場へ向かう。 すぐに、シャワーの音が響き始めた。 私はキッチンに立ち―― ゆっくりと、ゴミ箱の蓋を開けた。 用意していた夕食を、 ひとつ、またひとつと放り込んでいく。 まだ温かいままの料理が、 ぐしゃり、と音を立てて崩れた。 その光景が、なぜか少しだけ、綺麗に見えた。 ゴミ箱の中で混ざり合うそれは―― まるで、私の心みたいだった。 色々な思い出や感情が捨てられていく「それ」みたいに 「......我慢しなきゃ……」 ぽつり、と呟く。 「我慢しなきゃ……我慢だよ。美咲」 感情を抑えながら声を殺して、泣く。 泣いているのに、 どこか冷静な自分がいる。 シャワーの音が、止まる。 私は急いで涙を拭いた。 呼吸を整えて、 鏡も見ずに―― いつもの顔を、作る。 「今日もお疲れ様」 お風呂場から出てきた拓也に、 何事もなかったかのように微笑む。 「ゆっくり休んでね」 その言葉は、驚くほど優しくて―― 自分でも、少しだけ怖かった。 拓也との距離は、決して変わっていない。 ただ、私がまだ“恋人のまま”でいるだけ。 そうやって、何度も頭の中で唱えて―― 自分を、落ち着かせた。 その日は、そのままソファで目を閉じた。 ーーー翌朝。 拓也より少し早く起きて、朝食の準備をする。 いつもと変わらないルーティン。 いつもと同じ、朝。そして...... 「行ってらっしゃい。今日も頑張ってね」 玄関のドアが閉まる音。 その瞬間―― また、世界が閉ざされる。 静まり返った部屋に、ゆっくりと孤独が満ちていく。 「大丈夫って顔してる時ほど、大丈夫じ
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