「美咲に何かあったの?拓也さん」 にっこりと笑う沙織に、俺は強く言葉を返した。 「美咲が倒れたって連絡があった!! 今は構ってやれない! お願いだから邪魔しないでくれ!!」 その瞬間...... 沙織の表情が、はっきりと歪んだ。 「……美咲の話はしないでって言ったよね!!」 張り裂けるような声。 その目は、まるで笑っていなかった。 背筋に、ぞわりとした寒気が走る。 ……なんなんだよ。 どうして、こんな時にそんなことが言える。 胸の奥に、怒りと同時に 言いようのない違和感が広がっていく。 そして初めて―― 俺は沙織を“疎ましい”と感じた。 けれど、それは同時に 自分自身への嫌悪でもあった。 美咲を裏切っているのは、俺だ。 この状況を招いたのも、全部......俺自身。 だったら、これは当然の報いなのかもしれない。 ここで取り乱せば、全てが終わる。 分かっているのに、 胸の奥で何かが、ゆっくりと黒く濁っていく。 愛情だったはずの感情が、 形を失い、“執着”へと変わっていく。 ……それを、俺ははっきりと自覚していた。 「……ごめん。悪かった。気が動転してた」 「うん……ならよかった」 何事もなかったかのように、 沙織は俺に抱きついてきた。 その腕の力が、やけに強い。 俺は、それを振り払えなかった。 むしろ.......抱きしめ返してしまった。 事情を話すと、沙織は迷いなく言った。 「一緒に行こうよ。私も心配だし……」 そして、続ける。 「今すぐ行くと逆に怪しいよ? 明日なら自然に会えるしさ」 「……」 「そしたら、二人でもっと一緒にいれるじゃん?」 無邪気に笑うその顔が、 どうしようもなく怖かった。 ……もう俺には、止められない。 ごめん。美咲…… 「病院で、たまたま会ったことにしよう」 その提案に、頷くしかなかった。 断ったら、何をするか分からない。 ......俺は、もう怯えていた。 こうしてまたひとつ、嘘を積み重ねる。 翌日、俺たちは病院へ向かった。 病室で再会した美咲の表情は、凍りついていた。 ……当然だ。 こんな偶然が、あるはずがない。 それでも俺は... 美咲の無事を、この目で確かめたかった。 「美咲!大丈夫か!? 心労で倒れたって聞いたけど
Last Updated : 2026-05-07 Read more