「美咲に何かあったの?拓也さん」 にっこりと笑う沙織に、俺は強く言葉を返した。 「美咲のお義父さんが倒れたって連絡があった!!今は構ってやれない!お願いだから邪魔しないでくれ!!」 その瞬間...... 沙織の表情が、はっきりと歪んだ。 「......美咲の話はしないでって言ったよね!!」 張り裂けるような声で叫ぶ沙織 その目は、まるで笑っていなかった。 背筋に、ぞわりとした寒気が走る。 ......なんなんだよ。 どうして、こんな時にそんなことが言える。 胸の奥に、焦りと同時に言いようのない違和感が広がっていく。 そして初めて―― 俺は沙織を“疎ましい”と感じた。 けれど、それは同時に自分自身への嫌悪でもあった。 美咲を裏切っているのは、俺だ。 この状況を招いたのも、全部......俺自身。 だったら、これは当然の報いなのかもしれない。 ここで取り乱せば、全てが終わる。 分かっているのに、胸の奥で何かが、ゆっくりと黒く濁っていく。 愛情だったはずの感情が、形を失い、“執着”へと変わっていく。 ......それを、俺ははっきりと自覚していた。 「......ごめん。悪かった。気が動転してた」 「うん……ならよかった」 何事もなかったかのように、沙織は俺に抱きついてきた。 その腕の力が、やけに強い。 俺は、それを振り払えなかった。 むしろ.......抱きしめ返してしまった。 これから起きることをもう考えたくなかった。 そして沙織と2人、美咲との自宅に向かう...... 移動中に改めて現状を話すと、沙織は迷いなく言った。 「美咲は実家に行ったってこと?私たちがずっと一緒に いれるチャンスじゃん!」 そして、続ける。 「せっかく邪魔な美咲がいないんだよね?なら私は何も我慢することはなくない?」 「.......」 「そしたら、二人でもっと一緒にいれるしちゃんと私もアリバイ作り協力するからさ」 無邪気に笑うその顔が、どうしようもなく怖かった。 ......もう俺には、止められない。 ごめん。美咲…… 「まずはさ、私が美咲に用事があって帰宅途中の拓也さんに声をかけたことにしよう!」 その提案に、頷くしかなかった。
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