私――氷室夏弥(ひむろ なつみ)の誕生日パーティーの最中、シャンデリアが音を立てて砕け散った。夫の氷室和哉(ひむろ かずや)は私を置き去りにし、インターンの秘書・三上実里(みかみ みのり)を咄嗟に抱き寄せた。いつもは冷えきっているその顔に、見たこともないほどの優しさが浮かんでいる。「実里……危険が迫ったあの瞬間、ようやく気づいた。俺にとっていちばん大切なのは、お前だった」呆然としているうちに、実里を気づかって駆け寄ってきた息子の氷室悠真(ひむろ ゆうま)に突き飛ばされ、私は床に倒れ込んだ。「どいてよ!氷室夫人になるのは、実里さんなんだから!」少し離れた場所で寄り添う三人の姿を見ている。今度こそ、本当にもう疲れた。氷室夫人なんて、誰がなりたければなればいい。和哉が悠真の言葉に続こうと口を開きかけた、そのとき。私は大股で歩み寄り、彼の胸元に付いていたマイクを乱暴に引きはがした。耳をつんざくようなノイズが一瞬で会場中に響き渡った。その不快さは、さっき和哉が実里に向けて口にしたあの告白と同じくらい、吐き気がした。ひそひそと囁き合う招待客たちの声が、あちこちから絶えず耳に入ってくる。氷室グループの株主たちは、「社長の顔に泥を塗るなんて、正気じゃないのか」と私を責めるような声を上げた。その一方で、「和哉さんたちもどうかしてる。この大事な場で愛人をかばうなんて正気じゃない」と囁き合う者もいた。周囲のざわめきを浴びて、和哉の表情はみるみるうちに暗く沈んでいった。彼はすぐに使用人たちへ指示を飛ばし、招待客たちを会場から退がらせた。だが――実里だけは、その場に残された。真紅のドレスをまとった実里は、気丈で誇らしげな表情で和哉の隣に立っていた。その姿は、和哉が今でも忘れられずにいる、亡くなった初恋の人――藤森澪(ふじもり みお)によく似ていた。悠真は、まるで私が逆上して手でも上げるとでも思っているかのように、大げさなくらい実里の前に立って彼女をかばった。こうして並んでいると、あの三人のほうがよほど家族らしく見えた。和哉は実里をなだめながら、苛立ちを隠そうともせず私を問い詰めた。「マイクを付けたままだったのを忘れていただけだろう。それくらいのことで、どうしてそんなに騒ぐんだ?それとも……実里のことが
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