車が、かつて二人で訪れて遊んだあの海辺の近くに着くまで、誰も口を開かなかった。梨央は思いきって靴を脱ぎ、砂浜に足を下ろした。ぬくもりを含んだ細かな砂が足の指の間に入り込み、歩くたびにさらさらとこぼれ落ちていく。二人は肩を並べて歩き、その場に立ち止まって、うねる波を見つめた。浜辺では、ほかの観光客たちの楽しげな笑い声が響いている。梨央はかすかに口元をゆるめ、ふいに口を開いた。「覚えてる?昔、ここで一週間過ごしたよね。帰るときも名残惜しくて、いつかお義母さんを連れてきて、ここでのんびり暮らしたいねって、冗談まじりに話してた。私、このあたりの家の値段をあちこち聞いて回ったの。そしたら本当に、ここに家を買うことになるなんてね」あの頃、彼女は言えなかった。本当は、この場所そのものよりも、理玖と二人きりで過ごす時間がいちばん名残惜しかったのだと。ここでは誰も彼らのことを知らない。寄り添い合う二人だけがいて、まるで彼が自分だけのものになったような気がしていた。あのとき彼女は、こんな幸せな日々がこのままずっと続けばいいと、心から願っていた。理玖は顔を向け、真剣な眼差しで彼女を見つめた。「ここが好きなら、これからは毎年、一緒に休暇を過ごしに来ればいい。子どもの頃だってそうだっただろ。お前が行きたい場所なら、俺はどこへでも付き合った。その気持ちは今も変わってない」傍らに下ろした手を、理玖はぎゅっと握りしめた。その声には、抑えきれない後悔と苦しみがにじんでいた。「梨央。俺はずっと、お前に抱いているのは家族としての情だと思ってた。ひとりの女性として見たことなんてないと、そう思い込んでた。でも、子どもの頃から今まで、お前のことだけはいつだって俺の中でいちばんだった。もしかしたら、愛している相手は最初からお前だったのかもしれない。ただ、俺が自分の気持ちをずっと見誤っていただけで」彼は、悠月と結婚することも考えた。彼女は美しく、聞き分けもよく、妻にするには申し分のない相手だったからだ。激しい恋情があったわけではない。それでも結婚して、一生守っていくことはできると思っていた。どうせ自分にとっては、誰を娶っても同じようなものだと、どこかでそう思っていた。けれど、あの出来
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