「お義母さん。三年の約束の期限が、もうすぐ終わるわ。私、もう出ていく」梨央は床に膝をつき、血の流れる手首を伏し目がちに見つめながら、苦さと寂しさの滲む声で言った。電話の向こうの義母は、たちまち慌てた。「梨央、理玖はあなたを愛していないわけじゃないの。ただ、自分の気持ちに気づいていないだけよ。もう一度、あの子に機会をあげて。もう少し待ってあげられない?」梨央は苦笑いを浮かべた。「お義母さん。私はこの三年、理玖の妻でありながら、ずっと彼に憎まれてきたわ。もう、本当に疲れたの」彼女は一瞬言葉をつぐまず、どうにか平静な口調で続けた。「彼が愛している人も、もうすぐ帰国する。私も、もう身を引くべきなのよ」義母の引き留める言葉は、その一言で力を失い、途切れた。梨央が六歳のとき、両親は離婚し、それぞれ別の家庭を築いた。けれど、どちらも梨央を重荷にしか思わず、引き取ろうとはしなかった。そんな彼女を篠原家が引き取り、育ててくれたのが、心優しい義母の篠原志保子(しのはら しほこ)だった。そして梨央は、同じ家で育った篠原理玖(しのはら りく)を好きになった。三年前、理玖の誕生日。彼は恋人だった水原悠月(みずはら ゆづき)にプロポーズするつもりでいた。だがその日、理玖は何者かに薬を盛られ、梨央と同じ部屋に閉じ込められてしまう。そこで二人は、過ちを犯したのだ。その場を目撃した悠月は深く傷つき、翌日には国外へ去った。そして志保子に迫られるまま、理玖は梨央と結婚した。けれどその日から、彼は彼女を激しく憎むようになった。梨央は立ち上がって部屋を出た。隣の部屋の前を通りかかったとき、思わず足が止まった。ドアの隙間から、女の甘ったるい声がかすかに漏れてきた。「理玖、会いたい。まだ迎えに来てくれないの?理玖、これ、私が選んだおそろいのアイコンなの。早く変えて。やだ、これがいいの。子どもっぽいなんて言わないで。私のこと、愛してる?どれくらい?私が理玖を想ってる以上に、私をもっと愛してほしいの……理玖……理玖……」その艶めいた声に混じるように、男の荒い息遣いが聞こえた。押し殺し、懸命に耐えるような熱を帯びた声で、彼は何度も女の名を呼んでいた。「……悠月」こうい
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