All Chapters of 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: Chapter 191 - Chapter 200

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第191話

奈緒は痛みで顔を歪め、充の端正な顔を勢いよく叩こうとした。「充、何すんのよ!」その直後、充は再び奈緒の両手首を力任せに掴み上げ、彼女の頭の上に固定した。充は奈緒の長い首筋に顔を埋め、それから鎖骨の下へと順に、情熱的な痕をいくつも刻みつける。奈緒が文句を言おうとすれば、充はすぐさま唇で彼女の口を塞ぎ、狂おしいほど激しくキスをした。それは、奈緒の呼吸さえも奪い取るような行為だった。しばらく経ち、奈緒が息も絶え絶えになったところで、ようやく充は彼女を離した。充は奈緒の華奢な首筋を締めつけながら、異様なほどの独占欲を露わにする「忘れるな。お前は俺の女だ」「どうかしてるわ!」奈緒は奥歯を噛み締めた。充は、半分狂気に取りつかれたような笑みを浮かべて言った。「そうだ。俺はどうかしてるよ。それも、お前のせいで、死ぬほど頭がおかしくなりそうなんだ」怒りに駆られた奈緒は、充の隙を突き、膝で彼の急所を蹴り上げる。「だったら死ねばいい。私の前で変なことしないで!」間一髪で躱した充だったが、奈緒の拘束を解くしかなかった。奈緒はその隙を逃さず、充の腕の中から滑り出した。唇の端の血を拭いながら、自分の胸元に刻まれた赤い痣を目にして、奈緒の瞳は怒りに燃え上がった。必死に関係を断ち切ろうとしているのに、それでも無理やり押さえつけられてキスされる。その屈辱と悔しさに、奈緒は怒りで胸が煮えくり返りそうだった。何としてでも、できるだけ早く充との婚姻関係を終わらせる。奈緒は一度目を閉じ、冷え切った声で言い放った。「充、覚悟しておいて。明日、離婚に関するものとゼニスビルの著作権争いに関する内容証明が届くと思うから。どちらの裁判も勝つのは私。信じられないんだったら、結果が出るまで大人しく待つことね」そう言って奈緒は迷いなく車のドアを開け、この窒息しそうな空間から逃げ出そうとした。しかし、充が即座に手を伸ばし、扉に手をかけた奈緒を強引に引き留める。深い疲労を宿した瞳で、充は言った。「奈緒。俺たちは5年も夫婦だったんだ。なのに、どうしても争うしか道はないのか?」「私は穏便に終わらせたかった。でも、それを拒んだのはあなたでしょ?全てあなたのせいだから」と、奈緒は言い返した。「何が俺のせいだ?普通に暮らしていればいい
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第192話

奈緒は、自分の今の気持ちをどう表現すればいいのかわからなかった。ただ、この激しい雨で、充の存在を体からも心からも洗い流してしまいたいと願うばかりだった。今の奈緒は、充の残り香さえも酷く不快に感じた。そして二度と、あの頃の幸せな思い出には浸りたくない。振り返ることは、出産の間自分が味わった苦しみを否定することになるから。ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!轟音とともに稲妻が走り、奈緒の少し前のアスファルトへ激しく落ちた。水しぶきが大きく跳ね上がる。ただ、ひたすら歩き続けた奈緒。けれど、背後から車のエンジン音が聞こえてくることはなかった。充は結局、追ってはこなかったのだ。皆の前では、「美紀が雨に濡れる」と心配していた充なのに、自分が土砂降りの中へ飛び出し、ずぶ濡れになって歩いていても、追いかけてさえこない。愛される者と、愛されない者。その差を、これ以上ないほど突きつけられる。それを思い出した瞬間、奈緒は心の奥まで壊れてしまいそうなほどの皮肉を感じた。あてもなく雨の中に佇み、今自分がどこにいるのかさえ分からなくなったその時――背後から、激しい足音が聞こえてきた。次の瞬間、大きな黒い傘が奈緒を包み込み、容赦ない雨から守ってくれた。視線を上げると、そこには星空のように輝く、仁哉の凛々しい顔があった。仁哉が差す傘のほとんどが奈緒側へ傾き、激しく走ってきたらしく、その息遣いは荒い。仁哉自身もびしょ濡れで、髪からは水滴がこぼれ落ちていた。それでも、彼は黙ったままジャケットを脱ぐと、奈緒にそっと肩からかけ、包み込むように羽織らせた。「こんな雨の中を歩くなんて、何考えてるんだ。まだ産後の身体なんだぞ。風邪を引いたらどうするんだよ」心配と焦りが入り混じった声だった。そう言い終わると、仁哉は奈緒の手首をつかみ、そのまま歩き出す「この先の古い通りに祖母の家がある。まずは、そこで雨宿りさせてもらおう」その時になって初めて、奈緒は自分の身体から力が抜け始めていることに気づいた。足取りは重く、何度かつまずきそうになる。さっきまでお酒を飲んでいたし、今日は出産してから初めての飲酒だった。酒のせいなのか、産後の体のせいなのか。意識が遠のき、足がうまく進まない。足を止めた仁哉は真っ青な奈緒の顔色を見て、血相を変えた。「
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第193話

「まだ……覚えてるのか?」数秒後、仁哉は高鳴る鼓動をどうにか落ち着かせ、背中の奈緒へ顔を向けた。しかし、背中の奈緒は目を固く閉じたまま、ぴくりとも動かない。疲れ果てて眠っているのか、意識を失っているのかすら分からなかった。仁哉の表情が険しくなる。躊躇なく前へと走り出し、趣のある古びた屋敷の前で足を止めた。スマートロックが電子音を立てて解錠される。仁哉は奈緒を守るように、素早く屋敷の中へと入っていった。……旧市街の入り口。充は黒い長傘を差し、まるで石像のように豪雨の中で立ち尽くしていた。その顔は険しく、引き結ばれた薄い唇からは一切の感情が消え、底知れぬ冷気を放っていた。その後ろから、赤いドレスを着た女が小さな花柄の傘を差し、ドレスの裾を泥だらけにしながら車の方から必死に駆けてきた。「充さん!どうしてこんな所にいるの?早く車に乗って!ひどい雨だよ!」美紀は充の傘の下に潜り込み、傘を閉じると、甘えるようにその腕にすがった。「世界で充さんだけが、私を一番に大切にしてくれるって信じてた。仁哉と違って……彼は私のことなんてどうでもいいみたいだから……」しかし、充は冷ややかな表情のまま、一言も発さずに振り返った。「乗れ。家に送る」道中の車内は、言いようのない沈黙に包まれていた。ハンドルを握る充の手は関節が白くなるほど強く握りしめられ、彼の頭の中では先ほどの光景が嫌というほど何度もフラッシュバックしていたのだった……奈緒が雨の中へ飛び出したとき、充は本能的に後を追おうとした。しかし、振り向いた先には、道の向こう側で立ちすくむ美紀がいた。雨に濡れ、赤いドレスが体に張り付いた美紀は、あまりにか弱く、脆い存在に見えた。そこで、ためらいが生じたのだ。ほんの数秒の迷いだった。結局、充は道を戻り、まず美紀を傘に入れてジャケットを羽織らせ、車内に乗せた。それから、再び奈緒を追いかけたときには、すでに仁哉が彼女の背中を追っていた。いつも冷静で品格を崩さないあの男が……美紀が自分には関心を持ってくれないと嘆いていたあの夫が……ためらいもなく奈緒を追いかけ、背負い上げると、土砂降りの雨の中を必死に走っていったのだった。美紀が濡れても、仁哉は気に留めない。だが奈緒が雨に打たれると、まるで何より大切な宝物の
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第194話

仁哉は、びしょ濡れの髪からしずくが滴る奈緒を見て眉間にしわを寄せ、心配そうに言った。「風邪を引いたらまずいから、体が温まる生姜スープを作ってあげるよ」濡れた服が体に張りついて不快だったため、奈緒も遠慮せずに服を受け取り、バスルームへ向かった。バスルームも洗練された落ち着きのある空間だった。かすかなアロマの香りが漂い、張り詰めていた神経がゆっくりとほぐれていく。シャワーを浴び終えると、仁哉がキッチンに立っていた。ブラインドの隙間から見えたのは、シャツの袖をまくり上げ、しなやかな腕で鍋をかき混ぜる、彼の背中だった。仁哉は少し俯きながら、丁寧に鍋の様子を確認していた。何気ない生活のワンシーンだが、まるで1つの芸術作品のようにも見える。ほどなくして、可愛らしいお椀に入った生姜スープが運ばれてきた。「熱いうちに飲んで」仁哉は生姜スープを奈緒に渡し、淡々と言った。「何か胃に入れておいた方がいいと思ったから、野菜も少し入れておいたよ」確かに、奈緒は空腹でたまらなかった。口に入れた瞬間の野菜の甘みと生姜の刺激が、温もりとなって胃に沁み込んでいく。奈緒はお椀を両手で抱えながら、仁哉を見上げた。その奈緒の目には、少しだけ複雑な色が宿っている。「ありがとう、仁哉さん」仁哉は向かいに座り、生姜スープではなく、お茶を啜っていた。彼も奈緒を真っ直ぐに見つめる。「自分の体は大切にした方がいい」その声は穏やかだが、とても真剣なものだった。「どんなことがあっても、自分の身体は犠牲にしちゃ駄目だ。今夜、たまたま僕が君を見つけられたからよかった。でも、もしあのまま一人で雨の中を歩き続けていたら……どうなっていたか分からないだろ?」奈緒はお椀を見つめ、肩を落とすようにして言う。「うん。もうこんなことはないから」窓の外では雷鳴が轟き、稲妻が夜空を引き裂くように何度も走っていた。外を見やり、仁哉が言った。「雨はやみそうにないし、タクシーも危険だ。2階に空き部屋があるから、今夜はここでゆっくり休んでいって」突然の提案に戸惑い、奈緒はお椀をそっと置いた。「えっ……あの、そんな。迷惑では?」「そんなことないよ」仁哉はふっと微笑んだ。その穏やかな笑みは春風のようにやさしく、奈緒の胸にあった気まずさをすっと溶かし
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第195話

「奈緒!仁哉!ドアを開けろ!中にいるのは分かってるんだぞ!」かつて充と仁哉は、この旧市街へ遊びに来たことがあった。そのおかげで、二人が今いるこの屋敷を突き止めるのは、充にとって簡単なことだったのだ。土砂降りの雨の中、充は玄関を何度も激しく叩いていた。中まで聞こえるよう、声を張り上げて必死に叫ぶ。その物音に、仁哉は思わず顔を顰めた。外へ出て木製の扉の鍵を外すと、そこには雨に打たれ、全身ずぶ濡れの充が立っていた。水滴がその凛々しい顎のラインを伝い、絶え間なく零れ落ちている。漆黒の瞳は充血し、狂おしいまでの憎悪と冷気を纏って仁哉を射抜いていた。「男と女が二人きりで、中で何をしているんだ?」充の声はひどくかすれ、限界まで張り詰めた怒りを露わにしていた。「仁哉、やり過ぎだ!」そう言うや否や、充は仁哉を力任せに突き飛ばし、そのまま家の中に踏み込んでいった。寝室の扉を開け放ち、視線を荒々しく巡らせて、奈緒を見つけた瞬間、その動きが止まる。オレンジ色の照明が室内を柔らかく包み、奈緒は静かに木製のダイニングテーブルのそばに座っていた。彼女はシンプルな青と白のチェック柄のパジャマを着ていた。ゆったりした襟元からは、白く繊細な鎖骨が覗き、風呂上がりの髪から落ちた水滴が、その白い肌をよりいっそう危うく彩っている。奈緒が両手でお椀を抱え、充を見つめるその鋭くも冷静な眼差しには、隠しきれない怒りと、相手を突き放すような冷ややかな嫌悪が混ざり合っていた。充はそんな奈緒を見て、心を鋭い針で刺されたような痛みを覚えた。嫉妬と後悔が渦巻き、発狂寸前だった。「こんな真夜中に、いきなりどうしたの?」奈緒の声はどこまでも冷ややかで、そこには微塵の感情もない。充は口元に冷たい笑みを浮かべ、そのまま奈緒と仁哉を交互に見やった。「男と女が二人きりで一晩過ごしておいて……俺にどうしたのだって?奈緒、俺が納得できる説明をしてもらおうか?」その背後から、仁哉が静かに口を開く。それは少しの動揺もない、落ち着いた声だった。「僕が奈緒さんを追いかけたのは、君が彼女を置き去りにして、美紀さんを雨から守りに行く姿を、この目で見たからだ。納得できる説明をしなければいけないのは、君の方じゃないの?」そう言い放つと、仁哉は携帯を取り出し、動画を再生
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第196話

充はさらに激昂し、仁哉の胸ぐらを掴み上げた。目には嫉妬と制御不能な殺意が宿っている。仁哉の美紀に対する態度は、あまりに冷淡で、心まで凍りつくほどだった。それなのに奈緒には、驚くほど気を配り、守ろうとしている。その落差が、充には信じられなかったのだ。仁哉は抵抗することなく、自分の襟を掴む充の手を見下ろしてから、ゆっくりと視線を上げ、充の目を真っ直ぐに見据えた。「当時、僕がなぜ美紀と結婚したのか……君自身が一番よく分かっているはずだよね」仁哉の静かな声が、充の胸に重く突き刺さった。「あの夜、僕も君も酔い潰れていた。僕たちは同じ部屋で寝ていたはずなのに、翌朝目が覚めると、隣で寝ていたのは君じゃなくて、美紀だったんだ。あの日、一体何が起きたのか今でも分からない。僕は昔から自制心には自信があったから、酒に酔ったくらいで、見境なく女性と関係を持つような人間じゃない。でも、その時君は目を真っ赤にして、拳を震わせながら僕を責めた。『美紀に対して責任を取れ』って」そこまで言うと、仁哉は充の手首を掴む手に力を込め、長年抑え込んできた感情をその目に宿す。「充、僕は君を友人だと思っていたからこそ、美紀との結婚を受け入れたんだ。僕がなぜ結婚したのか……いや、そもそもあの夜、僕が美紀に指一本でも触れたのかどうか……君が一番分かっているはずだろ?ずっと疑問だったんだ。あの夜、君はどこへ行っていた?どうして君だけ姿を消し、美紀があの部屋にいたの?僕と美紀との結婚に……本当に君の思惑なんて混ざっていなかったって言い切れる?」最後の一言には、抑え続けてきた憎しみが滲んでいた。本当なら、親友だったあの頃の情を思い、この疑いは一生胸の奥へしまっておくつもりだった。しかし、二人の関係が完全に壊れてしまった今、過去の疑念は仁哉の心に刺さったままの棘となって痛み続けていたのだ。この棘を抜き去らなければ、心が救われることはない。その横で奈緒は、まるでとんでもない話を聞いてしまったかのように口をあんぐりと開け、絶句していた。ということは、仁哉の言いたいことって……あの時、仁哉が美紀と結婚する気が全くなかったのに、充が酔った仁哉を利用して、美紀を無理やり彼のベッドに送り込んだというのか?充の顔が引き攣り、仁哉の襟を掴んでいた手から、す
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第197話

充が目を大きく見開いた。「仁哉、お前が思っているようなことじゃないんだ……」いつもは温和な仁哉の顔に、今は隠し切れないほどの鋭い殺気が浮かんでいる。「もう、真相は知っているから。君が僕に美紀と結婚するよう強いた1ヶ月前、君が酒に酔って眠っていた夜、美紀はこっそり君の部屋へ入った。美紀はあわよくば既成事実を作ろうとしたんだろう。でも、異変に気づいた胡桃さんが間一髪で見つけて止めた。だから、二人の間に何も起きなかった。でも、その時から君は美紀の気持ちに気づいた。だから、自分が信頼できる男に彼女を託そうと考えた。そして、その相手に選ばれたのが僕だった。違うか?」充は首を何度も振った。「仁哉、誤解だ……」仁哉は鼻で笑い、充の弁解など一切聞こえていないようだった。「理由なんてどうでもいい。事実はもう変えられないんだからな。本当は追及なんてするつもりもなかったし、結婚した以上、このまま終わればいいと思っていた。だって、心から望む相手と結ばれなかった僕にとっては、誰が嫁になろうと一緒だったから。でも、美紀ときたら、全く手に負えない人間だった。5年間の結婚生活、やりたい放題に荒らしてくれたよ……全部、僕は耐えてきた。でも、人には限度っていうものがあるだろ?よその男との子供を、僕に押し付けようとするなんて……それはさすがに我慢できないからな」その言葉の衝撃に、充は身体を震わせた。そばで聞いていた奈緒までが言葉を失い、自分の耳で聞いたことが信じられなかった。充の顔色が急速に変わり、彼がかすれた声で叫ぶ。「仁哉、何言ってるんだよ?よその男との子供?美紀が他の男の子供を身籠った?そんな馬鹿な!美紀は……美紀はそんなやつじゃない!」仁哉は静かに充を見つめた。いつもの穏やかな瞳は、今や底知れない深い闇を宿している。「うちの両親が裕弥を引き取った後、念のため3回DNA鑑定をしたんだ。そうしたら3回とも……僕の子ではないという結果が出た」仁哉はそこで一度静かに目を閉じた。崩れ落ちそうな感情を必死に抑えるため、拳を固く握りしめた。少しの間を置いて、低い声で続ける。「栗原家は代々後ろめたいことなんて一切なかったんだ。だから、こんな屈辱は初めてだったよ。先祖代々、一夫一妻の家訓を重んじ、夫婦は互いを尊重し、真剣に
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第198話

仁哉の人柄は誰より知っている。証拠もなく、こんな話をする男ではない。それだけに、この事実はあまりにも衝撃だった。美紀は浮気をした。しかも産んだ子どもまで、仁哉の子ではないのだ。充の身体中が震え始め、彼は足に力が入らず、慌てて近くの椅子へ腰を下ろした。室内には静寂が漂う。聞こえるのは、外で鳴り続ける雷だけ。数分間の沈黙を経て、充はようやく仁哉の口から聞かされたことを、理解し始めていた。それでもぼんやりと立ち尽くし、まだうまく飲み込めていない様子だ。「じゃあ……裕弥はお前の子じゃないのか?そんなバカな……美紀が……そんなことをするはずがないだろ?」仁哉も腰を下ろし飲みかけのお茶を一口啜ると、淡々と答えた。「本人に聞けばいいさ。それとも……君はあれほど美紀の妊娠を気遣って、出産の時も産後もずっとそばにいた。まさか……君の子だったりして?」充は顔を青くし、慌てて両手を振り、自身の潔白を主張する。「仁哉、そんな冗談はやめろ。俺がそんなことをするわけないだろ!いくらなんでも、自分の従妹と関係を持つなんてありえない!絶対に俺の子じゃない。誓ってもいい!」仁哉は疑わしそうな目で充を見つめる。「本当かな?奈緒さんはどう思う?」奈緒はその時になってようやく、驚きで開いたままだった口を閉じ、はっと我に返ってから静かに頷く。「可能性がないとは言い切れないと思う。だって、美紀をあそこまで大切にしていたからね。美紀とその息子を宝物みたいに大事にしていたよ、何もやましいことがないなんていう方が信じられないわよ充は背筋を伝う嫌な汗で、服が濡れるのを感じた。つい、置いてあったお椀の中身を勢いよく飲んだ……しかし、その生姜スープでむせかえる。充は生姜が苦手だったのだ。顔を引きつらせた充は、きっぱりと言い放った。「絶対に俺の子供じゃない。信じないなら、DNA鑑定でもなんでもしてくれ!」そう言い切った瞬間、充はふと違和感を覚えた。そして、その違和感の正体に気づくと、顔を強張らせ、怒りを露わにする。「仁哉、話を逸らすな!本来は、お前たち二人の問題を話し合う場だったのに、なぜ俺と美紀の話になってるんだ?」仁哉は冷ややかな瞳を充に向けた。「僕と奈緒さんの潔白を伝えているんだよ。美紀との
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第199話

奈緒と仁哉はあっけにとられ、顔を見合わせた。奈緒が近寄り、充の上まぶたをそっと持ち上げて様子を見た。瞳孔に異常はない。彼女はふうと溜め息をつき、困ったように仁哉を見た。「最近ずっと眠れてなかったみたいだし、また気絶しただけね」仁哉が眉間にしわを寄せた。「外はこれほどの豪雨だから、今は病院に連れて行くのも難しい」奈緒は上の階を指さした。「まずは上の部屋に運んで休ませよう。彼の服はびしょ濡れだから、着替えをお願いしてもいい?」仁哉はうなずき、迷わずクローゼットへ向かった。取り出したのは新品のメンズパジャマ。それは奈緒が今着ているものとお揃いのデザインだった。仁哉の母方の祖母・墨谷妙子(すみたに たえこ)は非常に気の利く女性だった。仁哉が結婚してからは、美紀と一緒に泊まりに来た時のためにパジャマや洗面用具をいつも常備していたのだ。まさかそれが、こんな状況で奈緒と充の身にまとわれることになろうとは。奈緒と仁哉は協力して充をゲストルームへ運んだ。奈緒が外へ出ると、仁哉は手際よく充を着替えさせ、髪を乾かし、布団を掛けてやった。充はもうろうとしていて、額もひどく熱い。高熱が出ているようだ。幸い、屋敷には薬箱が備え付けられていたので、仁哉は解熱剤を探し出し、充に飲ませた。実を言えば、充に意識はあった。ただ、眠ったふりをしていたのだった。彼には、彼なりの小さな思惑があった。具合が悪いなら都合がいいし、熱でも出れば、なおさらいい。そうすれば、ここにいても不自然じゃない。まさか仁哉も、病人の自分を追い出したりはしないだろう。充の世話を終えると、時刻はすでに午前2時を回っていた。部屋から出てきた仁哉の顔には疲労の色が浮かんでいる。「奈緒さんは隣の部屋で寝て。僕は充と適当に寝るから」奈緒は、もう充と同じ部屋で過ごす気にはなれなかった。前回、同情心から彼を助けたことを、今でも後悔していたから。離婚を決めた以上、中途半端な行動はとるつもりはない。終わらせるなら、身体的にも精神的にも、すべてを断ち切る。戻れる余地も、迷う余地も残さない。奈緒はうなずいた。「ありがとう。彼のこと、お願い。時間ももう遅いし、仁哉さんも早く休んでね。今夜は本当にいろいろと迷惑をかけちゃって、私……」仁哉はぱちりと瞬きを
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第200話

「やっぱり!昨夜、仁哉は帰ってこなかったし、あんたの車もBBQバル・熱風の前にある。だからあなたたち二人がここへ逃げ込んだんじゃないかって思ったんだけど……読み通りだったみたいね!」美紀の顔には、怒りと得意げな笑みが入り混じっていた。昨夜、彼女は一睡もせず、あらゆる手を尽くして仁哉の行方を血眼になって探していた。それは昨晩、仁哉と奈緒がデキているんじゃないかと、充があまりにも衝撃的なことを口にしたからだった。美紀が抱えていた仁哉に対するあらゆる疑問が、堰を切ったように一つに繋がり、すべてが腑に落ちた。この5年間、仁哉がいつも忙しいふりをして書斎に籠もっていたのも、実は奈緒と連絡を取っていたからに違いない。自分を冷たくあしらっていたのも、心にずっと別の女がいたから。美紀は一晩中寝返りを打ちながら、怒りに全身を焼かれるような思いでいた。そこで、ありとあらゆる手段で追跡した結果、仁哉の携帯の位置情報からここを突き止めたのだ。美紀はこの場所を知っていた。結婚して間もない頃、海外へ発つ前に、仁哉に連れられて妙子のお見舞いに一度だけ来たことがあった。どうして仁哉が、祖母も最近は住んでいないこの屋敷へ、わざわざ一人で来るのか?美紀の脳は高速で回転し、確信した。こここそ、仁哉が奈緒と密会するために使っている場所だ。もし本当に仁哉と奈緒が過去何年も心のつながりのみの関係だったとしても、仁哉はこの数年間、一度も自分とは肌を重ねてこなかった……しかし、仁哉は今が男盛り。そんな若い男が久しぶりに帰国して、最初にすることなど決まっているだろう。奈緒に会いに行き、人目につかない場所へ連れ込み、抑えていた欲望をすべてぶつける。そこまで想像すると、美紀はもはや正気を保てないほど興奮していた。もし昨夜、雨があれほど激しく降っていなければ、すぐにも人を引き連れて現場に乗り込んでいた。仁哉と奈緒が不貞を働いた証拠さえ握れば、二人の弱みを握ったも同然だ。仁哉が離婚を切り出してきても、浮気現場の動画を公開すると脅せばいい。そうすれば、彼は名誉を失い、最後には自分に許しを乞うことになる。奈緒に関しても同じだ……不倫の証拠をネタにすれば、充との離婚など簡単に進められる。そう考えるほど、美紀の胸は高鳴った。まるで、勝利の光がすでに
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