そう言ったのは、翠だった。充が仕事を1週間も休んで、クラブ・ノクターンの現場に籠もっていると聞いた翠は、腹の虫が収まらず、夢香を引き連れて現場へ怒鳴り込んできたのだ。階段を上がった二人の耳に、蘭が充に言い渡した条件が聞こえてきて、翠の怒りは頂点に達した。彼女は勢いよく乗り込むと、自分より背が高い蘭の前に腰に手を当てて立ちはだかり、背伸びをしながら精一杯の剣幕で言い放った。「蘭!調子に乗るのもいい加減にしてちょうだい!奈緒を買い被りすぎじゃないの?うちの息子が、奈緒がいなきゃ生きていけないとでも?うちと縁組みしたい名家なんて、星の数ほどいるわよ!私たちに謝れだなんて、よくそんな図々しいことが言えるものね!」蘭は冷静な様子で立ち尽くし、腕を組んで、冷ややかな視線を投げた。「いい加減現実を見なさい。今、あなたの息子が奈緒に縋り付いて、離婚を渋っているのよ。そっちが謝るかどうかだって?どうでもいいわ。あなたたちがこれまでしでかしてきた汚い数々……この先一生かけて償おうと、私は絶対に許さないわよ」翠は、言葉に詰まった。翠は言い返したかった。でも口を開いても、自分にはもう言い分がないと気づくだけだった。明らかな事実として、奈緒があれこれ騒ぎ立てている目的は、離婚に他ならないのだから。でも、この馬鹿な息子ときたら、前は奈緒のことなんて大して気にかけていなかった。それなのに向こうが離婚しようとすると、意地でも応じず、蘭の内装工事の現場で下働きまでしている。翠は腹が立ってしかたなかった。夢香は母がやり込められているのを見て、すぐに前へ飛び出し、冷たく笑った。「縋り付いている?違うでしょ。充は子供のことを思ってるだけよ。青木家の血を引いてるんだから。奈緒なんて誰もいらないでしょ!離婚したいなら、してもいいわ。奈緒が娘を青木家に返して、何も持たずに出ていけばね。そうすれば、弟にすぐ離婚の手続きをさせてあげる!」夢香がそう言い放つと、蘭の顔色がさっと変わった。「奈緒に何も持たせず追い出して、子供まで奪い取る気?青木家って、とことん腐りきってるわね!」蘭は震える指で充を突き刺すように指した。「つまり、それがあなたの離婚条件なのね?奈緒は結婚式もなく、何一つないままあなたのところへ嫁いだ。5年もの間、献身的に尽くした挙
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