All Chapters of 君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜: Chapter 31 - Chapter 32

32 Chapters

31話

そんな三人の会話を盗み聞きしていた弥一は、ふと、自分は既に胃袋を掴まれた状態にあるのではないかと思った。 なんせ、かすみの作り出す料理は美味しいものばかりなのである。未だかつて、彼女が弥一に出した料理ではずれのものなどなかった。 正直今だって、弥一の口はかすみの作る料理を求めていた。 というのも、あの今朝の料理。あれは早苗が作ったものだということに、弥一は気付いていた。 昨日のことでどうやらかすみの機嫌を損ねてしまったか、あるいは気恥ずかしさや後ろめたさからか、まあ、理由は何にせよ、今朝の朝ごはんをかすみは作らなかったらしい。 朝も感じたことだが、早苗の料理は決して不味くはない。むしろ美味しいのだと思う。が、やはり弥一の口が求めるのはかすみの作る料理だった。 彼女の料理は高級料亭のような、豪華な食材がふんだんに使用されているわけでもなければ、繊細な味わいを楽しむそれとも違っていた。かといって、変に中毒になるような濃い味付けをしているわけではない。 あの味を表現する言葉があるとすれば、それは安心感と優越感だ。 かすみの料理を食べると、ほっと息を吐くことができる。家に帰ってきたんだな、そう思える。 そして、こんなに美味しい料理が主に自分のためだけに用意されたものだということに、何とも言えない優越感を感じる。 今だって、奥さんの料理に対してぼやく片山に、かすみの料理を食べている自分のことを自慢したくて堪らなかった。 うちのは何を作らせても美味しいけどな、と。 そして弥一は確信するのだった。 そんな自分はやはり、かすみの料理に胃袋を掴まされたのだな、とー 弥一と三雲を乗せた車は、御子柴御用達の高級寿司屋に到着した。 格式高い暖簾をくぐると、二人はカウンター席に案内される。 この寿司屋には個室などなく、カウンター席のみだったが、そもそもで高級すぎるが故に各界の著名人と呼ばれるような人々しか出入りできないため、プライバシーを気にする必要がないからであった。 そのため、弥一は席に着くと、大将に向かって、「コース料理とは別に、うにといくらとえんがわを二枚ずつ、彼に出して下さい。」と、言った。 それに対して大将が「かしこまりました。」と言うと、弥一は素早く隣にいる三雲の方を向いて、 「女性から誘われたとして
last updateLast Updated : 2026-05-07
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32話

弥一は答えを急ぐあまり、そもそもでこれが自分の話ではないということを前提に話しをするのを忘れてしまっていた。 なので、今さらながらも、「いや、これは俺の友達の話しであって、俺のじゃないんだ。」と、苦し紛れにそう付け加える。 そこに大将が、「旬のカツオを使ったお造りになります。」と、差し出す。 弥一がそれを食べるのを見てから、三雲も箸を伸ばした。 旬とあって、何の生臭さもないカツオは、ただただ美味しかった。 先程の弥一の話しに戻るが、 もちろん三雲にはバレていた。しかし、三雲は物分かりがいい。 だから彼は、「なんだ、友達の話か。ごめん、早とちりした。てっきりお前の話かと思ったわ。」と、言ってあげる。 「そんなわけないだろっ。」と、弥一は顔を赤くする。 三雲は笑って、「だから、ごめんって。で?そのお友達は断ったことで女性側を傷つけたんじゃないかと、そう悩んでるのか?」 「まあ、そうだ…」 「ふーん。」と答える三雲に、「蒸し鮑のあん肝ソースがけになります。」と、大将が二人に差し出す。 二人はそれを黙って食べた。 鮑は柔らかく蒸し上げられ、濃厚なあん肝ソースとよく合っている。 うまい そう味わっていたのも束の間、弥一が三雲に問いかける。 「やっぱり、傷つけるものなのか?」 「え?あ、うーん、まあ…そりゃ、傷付くことには傷付くんじゃないか?やっぱり、それなりに勇気のいることだと思うし。」 「そう、か。」 やっぱり傷付けたのか。そう思った弥一の顔が曇る。 その後、次々と大将が握った寿司が出されていった。三雲はそれらが出されると同時に食べていったが、弥一はなかなか手を伸ばさなかった。 「食べないのか?」と、聞く三雲に、「食べていいよ。」と、弥一が答える。 弥一のその落ち込んだ様子に、察したらしい三雲は、おもむろに、 「自分のこととして考えてみたらどうだ?」と、言った。そして、弥一の分の寿司をありがたく頂戴する。 弥一は顔を上げると、 「自分のこととして?」と、尋ねる。 「そ。もし誘ったのが自分だったらって、そう考えてみる。勇気出して誘って、それを相手に断られたんだとしたら、まあ、その日の体調とか気分とかあるだろうけどさ、でも、やっぱり傷付く部分はあるんじゃない?」 そう言われ、弥
last updateLast Updated : 2026-05-08
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