同時刻、御子柴家二階の廊下にて。 弥一はかれこれ30分以上そこに立ち尽くしていた。 かすみに声をかけられたことがあまりに気まずかったため一目散に逃げてきたわけだったがー 「俺の部屋どこだよ?」 そう、一人呟いた。 自分の部屋がわからないのも当たり前である。 何せ、彼がこの家を訪れるのはこれが初めてだったのだから。 あの日、かすみと初めて会って結婚させられた日。 弥一は早苗に家の駐車場まで送ってもらうと、 「早苗さん、急で悪いんだけどこの後予定が入っちゃったんだ。だから、海老原市には早苗さん一人で帰ってくれる?」 そう言って、満面の笑みを浮かべる。 早苗はそれを冷ややかな目で見つめ返すと、 「かすみさんが一人お家でお待ちだということをお忘れですか?そんな冗談を言ってる暇がおありでしたら、早く支度してきてください。」と、言った。 ちっ、やっぱり騙されないか。 そう思った弥一は真面目な顔つきになると、 「早苗さん。俺の心には雪菜しかいなんだ。他の女性なんて愛せない。」 そう真摯に伝えた。 だが、早苗の表情に何の変化も見られなかったため、弥一はさらに言葉を続ける。 「それに、中途半端な態度を取ることは、却ってあのおばさんにも失礼でしょ?だから、ここは敢えてー」と、弥一が言い終わらない内に、早苗が「あのおばさん?」と、眉間に皺を寄せる。 弥一は、自分が自然とそう口にしていたことに指摘されて気付いたようで、 「あー、っと、失礼。おばさんなんかじゃなかった…あの女性。そう、あの女性にだって失礼だと思うんだ!だからー」と言いかけたところで、再び早苗が口を挟む。 「彼女のお名前はご存知ですか?」 「あ?名前?えーっと…」 あれ、何て言ってたっけ?全然覚えてない。 そんな弥一に、早苗はその目を細めると、 「わかりました。では、私は海老原市に戻ります。失礼致します。」 そう言って素早く運転席に乗り込むと、その後は弥一に一瞥もくれることなく、華麗な運転捌きで走り去って行った。 その場に取り残された弥一は、「あー、まあ。うん…とりま、オーケイかな?」と独り言を呟くと、くるりと踵を返して家の中に入って行った。 その後、弥一が取った行動は周知の通りである。 なので、彼は二階に駆け
Last Updated : 2026-04-23 Read more