All Chapters of さらば、テクなしマザコンとフレネミー〜敏腕ウエディングプランナーは極上の愛に溺れる〜: Chapter 11 - Chapter 20

41 Chapters

11話

 追加の依頼をした2日後、和人は出張があると言い出した。「群馬の支社に行かないといけなくてな。4日くらい。荷物をまとめておけ」「分かりました」 素直に返事をし、物置部屋からキャリーバッグを引っ張り出す沙綾を見て、和人は満足げにうなずく。「やっと自分の立場が分かったか。お前はそうやって、俺に従ってればいいんだよ」「……はい」(今に見てなさい……) 怒りを表に出さないように返事をし、荷物をまとめるついでに、浮気の証拠になるようなものがないか調べ、小さなプレゼントを忍ばせ、キャリーバッグを玄関に置いた。「玄関に置いておいたから。それと、酔い止めと、気分転換用のガムも。あなた、乗り物酔いしやすいでしょ」「たまには使えるな」「どういたしまして」 沙綾は笑顔でそう言うと部屋に戻り、音を吸収するジェルクッションを殴ってストレス解消をする。どんなに力強く殴っても、ジェルクッションは衝撃も怒りも吸収していく。「死ぬほど後悔させてやる……」 不敵な笑みを浮かべ、地の底から這うような声で呟くと、沙綾はスマホを取り出してある人物へ連絡をした。 和人が出張に行ってる間、和子も出かけていった。なんでも、友達と温泉旅行に行くとか。「そもそもお前に友達いねーだろ」 和子が帰った後、毒づいてビールを一気飲みする。 ムチュコタンファーストの和子は、友人と約束をしていても、その日に和人からお誘いがあれば、友人との約束を取り消してしまう。連絡を入れれば違ったのかもしれないが、和子は友人に連絡などせず、そのまますっぽかしてしまう。 事情を知った友人に責められると、「私とかずくんが仲良しだから、嫉妬してるんでしょ。アンタ達の子は薄情だから、県外に引っ越したりしてるもんね。ま、それだけ子供を大事にしてこなかったってことなんでしょうけど。自業自得ね」などと言って、謝罪するどころか見下していた。 和子はコミュニケーション能力が高いのか、すぐに友人ができる。様々な大人の趣味のサークルで友達を作るが、そういった態度を取るため、結局ひとりになる。 飽き性なのもあって、サークルもすぐに辞めてしまう。向こうとしては、辞めてもらって清々しているだろうが。「出張なんて言って、ママと混浴でもするんでしょ。おえぇ」 沙綾の悪態は止まらない。職場でのストレスも、家でのストレスもなかなか解消
last updateLast Updated : 2026-04-14
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12話

 2日後の仕事終わり、沙綾は駅前のファミレスにいた。親友の美樹と食事をする約束をしている。 美樹とは小学生の頃からの付き合いで、小中高も大学も、東京に来るタイミングも一緒だった。少し離れたところに住んでおり、月に1,2回、こうして一緒に食事をする。「おまたせ。遅くなってごめんね」 美樹は小走りで席に来ると、息を整える。「そんな待ってないよ。はい、お冷」「ありがとう!」 ジムトレーナーをしている美樹は、いつ見てもスタイルがいい。ただ細いのではなく、程よい筋肉がつき、健康的に細い。「そういえば、聞いた? 星羅がこの辺に引っ越してきたって」 お冷を飲み干した美樹は、声を潜め、顔をしかめて言う。「知ってる。というか、会った」 星羅の名前を聞き、うんざりしてついつい投げやりに答えてしまう。「うっそ、もう会ったの? 大丈夫? あの子、片っ端から男子同級生狙ってるらしいじゃん」「あー、それはなんとなく察してた」「色んなSNSを駆使して、同級生達のこと調べてるっぽいよ。それで金持ちそうな男狙ってるって。やばくない?」「それで片桐くんにも声かけてたってわけか……」 星羅に言い寄られたと愚痴っていた英二の顔を思い出す。星羅の意地汚さには言葉も出ない。「片桐くんって、あの暗い感じの男子だっけ? 黒縁メガネの」「そうそう。いやー、男子3日会わざるばって言うけど、マジで見違えたよ。国宝級イケメンになってたし、次期社長だって」「うっそ!?」 美樹の大声に、近くに座っている老人が咳払いをする。美樹は気まずそうに謝り、沙綾に向き直る。「えー、ちょっと会ってみたいかも。そういえば沙綾、片桐くんとなんか仲良かったよね」「仲良いってほどではなかったと思うけど、それなりに話してたよ。好きなゲームとか、漫画とか」「普通に仲良いじゃない……。イケメンといえば、旦那さんとはどう?」 不倫のことなど知らない美樹は、ニヤニヤしながら聞いてくる。「知らないわよ、あんなテクなしマザコン」「魔法少女の呪文みたいな語感。何があったの? あんなにベタ惚れだったのに」「話せば長くなるんだけど……」 そう前置きをすると、美樹に夫の不倫のことを話した。もちろん、星羅とのことも。「うわぁ、気持ち悪……。そりゃ100年の恋も冷めるわ」「でしょ? 永松星羅も、あの顔と高収入で釣
last updateLast Updated : 2026-04-14
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13話

 和人と和子が帰って来るまでの間、沙綾は自由を謳歌した。英二を街案内したり、優雅に外食で手抜きをしたりと、自由気ままに過ごしていた。結婚して以来、こんなに楽しい気持ちになったことがあるだろうか? そう考えてしまうほど楽しく、出張や旅行が延長されることを願った。 現実はそう甘くない。帰宅予定の前日、ふたりから「明日帰る。家事サボってたら承知しない」といった旨の電話やラインが届いた。「言われなくてもやりますよ。ムカつく」 悪態をつきながら、仕事で疲れた体に鞭を打ち、文句の付け所がないくらいに家中を綺麗にした。 和人は「出張で疲れた旦那様を労え」というので、牛肉を買い、ひとりひと鍋ですき焼きをする準備もしておく。 出張や旅行から帰ってきた皆本親子は、家中を見回す。なかなか欠点がないのにイライラしだしたのか、ふたりの顔はどんどん険しくなっていく。 カーテンを見た和子が、ぱぁっと明るい顔をしたかと思えば、いつもの意地悪な笑みを浮かべ、沙綾に向き直る。「沙綾さん。このカーテン穴が空いてるじゃない。みっともない。書い直しなさいよ」「だらしないな、お前は。何したらこんな穴空くんだ?」 和人も便乗して沙綾を責めるが、沙綾は顔色一つ変えず、カーテンに近寄る。そこには確かに小さな穴が空いており、穴のまわりは黒く焦げている。「これは半年前、和人さんがうっかり煙草で空けてしまった穴です」「嫌味で残してるのか? 性格の悪い女だな」「いいえ、買い替えるって言ったら、和人さんがこんな小さい穴で買い替えるなんてもったいないからやめろとおっしゃっていたので、買い替えませんでした」「いちいち嫌味っぽい女。可愛くない」 悔しそうな顔をで沙綾を睨みつけるふたりに背を向け、キッチンに行く。 テキパキと3人用のすき焼きを用意すると、ふたりの目の色が変わる。「へぇ、すき焼きか」「沙綾さんにしては気が利くじゃない? で、お肉はどこの? 私達、国産しか食べないわよ」「分かっています。今、お肉を持ってきますね」 沙綾はラベルが見えるようにラップをむき、それぞれの前に置く。「ちょっと、あなたのだけ違うじゃない」「自分だけいい肉食おうとしてるんじゃないだろうな? お前は卑しい女だからな」 沙綾のぶんだけトレーが違うことに気づいたふたりは、白い目で沙綾を見る。もちろん想定済みだ。
last updateLast Updated : 2026-04-14
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14話

 追加の依頼をしてから2週間後、探偵事務所に足を運んだ。塚本はこの前と同じく、A4サイズの封筒を沙綾に差し出す。「情報提供のおかげで、出張先にも尾行できましたよ。まぁ、出張ではなく、不倫旅行だったみたいですけどね」 写真には、観光地で仲睦まじくデートをするふたりが写っている。他の写真は前回と同じく、星羅や和子との関係がよく分かるものとなっていた。 資料に軽く目を通すと、残業の日はどちらかとラブホへ行き、土日に沙綾が仕事で不在の時は、自宅で不倫セックスを楽しんでいたようだ。 驚きなのが、3人で出かけていることもあるということ。流石に3人でいかがわしい行為をしている写真などはないが、あれだけ頭のネジが外れまくった3人なら、ありえる話だ。「今回も、音声データがあります」 前回のやりとりで、沙綾が強い女性だと理解したのか、塚本はすぐに音声を流す。『ねぇ、いつあの女と離婚してくるの?』 音声は、星羅の甘ったるい声で始まった。『まぁまぁ、そう焦るなって』『だってぇ、はやく一緒に暮らしたいんだもん』『俺だって、はやく星羅ちゃんと暮らしたいよ。けど、今のままじゃ、アイツに慰謝料取られるからさ』『そんなの、無視すればいいじゃん』『そういうわけにはいかないよ。法律は厄介だからな。だから、俺が慰謝料をもらえるように、細工をするんだ』『なにするの?』『アイツが俺に家のこと押し付けて、アイツが有責になるようにする。それで精神科に行って、診断書でももらえば、俺が慰謝料もらえるってわけ』『さすが和人さん! 頭いい』『まぁな。賢く生きないと、生き残れないしさ。うまく立ち回ろうぜ』『素敵! ねぇ、結婚式は、あの女のところでやりましょ。幸せのお裾分けしてあげなきゃ』『名案だな。じゃあ、アイツにパンフレットでも持ち帰らせておくよ。アイツの職場、どれか忘れたし、ちょうどいいだろ』『ちょっと、ひどーい』『仕方ないだろ。俺の脳内は、星羅ちゃんの母さんのことでいっぱいなんだから。アイツが入る隙なんかねーの』『もう、和人さんったら』 この後に続くのは、聞いてて頭が痛くなるような、甘ったるい脳内お花畑の会話。「もう少し知能がある人だと思ったんですけどね。不倫してバカになったのかしら?」「不倫に走る人が、まともな思考回路してるわけないじゃないですか」 淡々とした口
last updateLast Updated : 2026-04-15
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15話

「なんつーか、エグいな。特に、千秋の職場で式を挙げようとしてるところが」「引き続き証拠は家でも集めるとして、職場に来られるの、鬱陶しいなって思ってる。復讐のチャンスなんだけど、どうしようかな」「それなら、いいこういうのはどうだ?」 英二はいたずらっぽく笑い、身を乗り出した。「そんな、悪いって」 作戦を聞いた沙綾は、首を横に振る。確かにいい案ではあるのだが、彼の負担が大きく、良心が痛む。「いいって。絶対おもしろいもの見れるし。な、決定! それに、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと、お前が不倫を疑われるぞ。ほら、帰った帰った」 半ば強引に追い出される形で、沙綾は帰路を辿ることになった。ただ、このまままっすぐ帰るのは気が重いため、コンビニでビールとおつまみを買ってから帰宅した。「おかえり、沙綾。遅かったから心配したよ」「こういう時は連絡入れてくれないと。けど、あなたが無事で良かった」 玄関を開けると、気色悪いほど優しい夫と義母が待ち構えていた。(さっそくあの作戦を実行しようってわけね……) 内心呆れながら、必死に笑顔を作る。「ごめんなさい、ちょっと残業してて」「それは大変だったね。さ、お風呂に入って。入浴剤もいいやつ買ってあるから」「ご飯ももうできてるからね。でも、お魚料理なの。疲れて帰ってきてるのなら、お肉の方がいいよね。ごめんなさいね、気が利かなくて。すぐに作り直すからね」「だめじゃないか、母さん。はやく作り直して」「い、いえ、作り直さなくても……」 沙綾の制止も虚しく、和子はキッチンへ行く。「さ、君はお風呂に入って。疲れてるだろ。いつもありがとう」 和人は沙綾のショルダーバッグとコートを奪うように預かると、彼女の肩を抱き、脱衣所まで連れて行ってしまった。 着替えを入れるかごには、見たことのないもこもこのパジャマが入っていた。「これは?」「最近寒くなってきただろ? だから、新しいパジャマあったほうがいいと思って」 パジャマをどかすと、黒のセクシーな下着と、薄手のインナーがある。どちらも見たことがない。「それも、買ってきたんだ。沙綾、そういうデザイン好きだったろ? それと、そっちはヒートテック。女性は冷えに弱いって、母さんが言ってたから」「あ、ありがとう……」「どういたしまして。ごゆっくり」 和人は沙綾を抱きし
last updateLast Updated : 2026-04-15
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16話

「え? これ、何?」「ビール用冷蔵庫。沙綾、ビール好きだろ? だから、買っといたんだ。それと、君が好きなおつまみは、ここに」 和人が立ち上がり、ソファを開けると、収納スペースにたくさんのおつまみとビールがあった。「俺は酒が苦手だから付き合えないけど、飲みたい時に飲んで」「あ、ありがとう……」 ここまで来ると称賛を送りたくなる。沙綾を極悪妻に仕立てるために、こんなにお金をかけてくるとは思わなかった。「さっそく飲むか?」「じゃあ、お言葉に甘えて」「おつまみは?」「その枝豆チップスを」「分かった。座って」 和人はソファから枝豆チップスを、冷蔵庫からビールを取ると、食事用のテーブルの上に置いてくれた。「すごく嬉しい」「いいんだよ。君は人を幸せにするために頑張ってるんだから、俺が幸せにしないと」 薄ら寒い言葉に、鳥肌が立つ。沙綾は笑顔が引きつらないように、口角をあげた。「お待たせ。遅くてごめんなさい」 和子はステーキやスープ、サラダなどを食卓に並べる。「ありがとうございます」 少し腹立たしいが、和子の料理は美味しい。感想を伝えながら完食すると、改めてお礼を言う。食器を持っていこうとすると、和子は慌てて止めに入った。「だめよ、沙綾さんは休んで。私、食器洗ったら帰るから。長居してごめんなさいね」 沙綾が何か言う前に、和子は食器を持ってキッチンへ行ってしまった。「さ、歯を磨いて。寝室においで」 和人は再び沙綾の頬にキスをし、先に2階の寝室に行ってしまった。正直、あの寝室は使いたくない。和人が他の女と、それも実母とセックスをしたベッドで寝るなんて、考えたくもない。(証拠のため……) 自分にそう言い聞かせながら歯を磨き、寝室に入る。甘く優しい香りが部屋に充満していた。「おいで」 ベッドの上で、和人が手招きをする。驚くことに、掛け布団が変わっている。「その布団……」「あぁ、買い替えたよ。沙綾が嫌がると思って。本当にごめん。もうしないから」 深々と頭を下げる和人に、嫌悪感が増すばかり。できることなら、ローキックでも食らわせ、馬乗りになって殴りたい。正直、それで満足できるとは思えない。それほど和人が嫌いだ。だが、ここで思うように振る舞ってしまえば、すべてが水の泡だ。「大丈夫、もう、いいから」「許してくれるのか? ありがとう。さ、
last updateLast Updated : 2026-04-15
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17話

 それから毎日、沙綾は気苦労が絶えなかった。朝は和人が不器用ながらに朝食と弁当を作り、家に帰ったら和子がいて、家事を全部済ませていた。 和人は毎日のように花やスイーツ、化粧品などを買って帰る。手土産もだんだんエスカレートしていき、最初はコンビニのスイーツだったり、花1輪だったのが、デパ地下の有名店のスイーツに変わり、大きな花束に変わる。 極めつけは、数十万もするブランドのバッグや財布だ。どんなに断っても「愛の証だから受け取ってほしい」と言い、引かない。沙綾は渋々受け取り。クローゼットの奥にしまった。 不自然な優しさに辟易して1週間。仕事帰りに声をかけられる。「よ、千秋」「片桐くん。どうしたの?」「ちょっと話したいことあってさ。今から時間ある?」「えぇ、問題ないわ」 沙綾は皆本親子に帰りが遅くなる旨をショートメールやラインで伝え、英二の後をついていく。ついたのはカラオケだった。「ふたりで行っても怪しまれない個室って、ここしか思いつかなかったからさ」 英二は申し訳無さそうに言いながら、メニュー表を差し出す。ワンドリンク制だから、なにか飲み物を注文しないといけないのだ。「気にしないで。帰りたくなかったし」 メニュー表を受け取る。沙綾がメニュー表を見ている間、英二は端末を操作していた。「アイスティーで」「分かった」 英二が端末で注文をしてくれる。他愛のない会話をしながら、注文したものを待つ。 しばらくすると、アイスティーふたつと、軽食が運ばれてきた。「腹減っちゃってさ。千秋も食べなよ」「ありがとう」「さっそく本題に入るんだけどさ、俺、気になって永松星羅と、千秋の義父を調べてもらったんだよ」「え?」「気を悪くしたらごめん。でも、どうしても気になってさ。そしたら、とんでもない事実が発覚した」 英二は例の探偵事務所のA4サイズの封筒をふたつ、沙綾に差し出した。「上の方が星羅だ」 星羅の方から見てみると、彼女は様々な男性と関係を持っており、定職に就いていない。いわゆるパパ活をしており、中年男性と食事やデート、それ以上のことをし、金銭やブランド品をもらっているようだ。 驚くことに、憂さ晴らし用の若いイケメンもかこっていた。「なんか納得だわ。あのテクなしマザコン。お義母さんのガバガバ具合を気に入ってたから。色んな男と寝てガバガバになっ
last updateLast Updated : 2026-04-15
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18話

 義父は沙綾達が結婚式を挙げた約2ヶ月後、海外で交通事故に遭い、そのまま亡くなったそう。ふたりは義父の遺体引取を拒否し、向こうの無縁墓地に埋めるように言ったそうだ。それだけでもひどい話だが、和子は義父が海外に埋まっているのをいいことに、年金を不正受給し続けている。 極めつけは遺産問題で、遺言書には「妻と息子はお嫁さんに確実に迷惑をかけるだろう。だから、遺産はすべてお嫁さんに」と書かれていたが、沙綾に内緒にし、ふたりで分け合ってしまったという。「なんてがめついの……」 怒りで手が震えた。うっかり報告書を破いてしまいそうだ。沙綾は報告書をテーブルに置くと、アイスティーを飲んで深呼吸をした。「こんなことって……。お義父さん可哀想……」 英二が義父と仲がいいか聞いてきた理由が分かった。沙綾がショックを受けないか心配してくれていたのだ。 義父のことはよく分からないが、少なくとも好印象を持っていた。彼は「嫌なことは嫌といいなさい」「ふたりに何かひどいことされたら、世間体など気にせず、離婚しなさい」と沙綾に言っていた。 当時はこれから結婚するのに何故そんなことを言うのか理解できなかった。結婚生活をして、ようやく義父の言葉を理解した時には、彼はもうこの世にいなかったことになる。「私、絶対に許さない」「あぁ、だろうな。協力するよ。そろそろ、アイツらも本性を出す頃だろう」 そう言って英二は、細長い封筒を沙綾に差し出した。 帰宅すると、和人も和子も神妙な顔でソファに座っていた。「ただいま。どうしたの?」「おかえり、沙綾。確か、来週の日曜、沙綾も休みだったよな?」「えぇ、そうだけど」「話があるのよ。ほら、もう12月中旬じゃない? 今年のうちに、片付けたい問題があって」「なんでしょう?」「ことがことだから、日曜に話す。午後1時から。絶対家にいろよ」「えぇ、分かったわ」 沙綾がうなずくと、ふたりはあの不自然な優しさを沙綾に押し付け始めた。「理解が早くて助かるわ。さすがはキャリアウーマンね。尊敬する」「さぁ、もうゆっくり休んで」 ふたりを見ながら、やっとこの茶番の終わりが見えてきたことに安堵する。1秒でもはやく、この親子と縁を切りたい。法律が許すのなら、とっくの昔にふたりを土に埋めていただろう。 沙綾は部屋に戻ると、弁護士と英二にメールで報告し、眠
last updateLast Updated : 2026-04-15
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19話

(片桐くん、もしかして、あなたも……?) 苦しそうな英二の顔を見て、彼も自分と同じ気持ちを抱えていると悟った。「片桐くん、私……!」 唇に人差し指を添えられ、言葉が封じられてしまう。「ダメだよ、千秋。そういうことは、全部終わってからじゃないと」「そう、ね……」「全部片付いたその時は、もっと違う呼び方をさせてほしい」 真剣な眼差しと期待に、胸が高鳴る。こんなに恋心が刺激されたのは、いつ以来だろう?「私も、その時は」「あぁ、待ってる」「じゃあ、そろそろ行くね」 英二に背を向け、ドアノブに触れる寸前、腕を思いっきり引っ張られる。よろけて倒れた先には、力強い熱。(私、片桐くんに、抱きしめられて……っ!)「ずっと、待ってるから」 返事をする前に抱擁は解かれ、ドアが開かれる。「さぁ、行って。応援してる」「行ってきます……!」 涙腺が崩壊しそうになるのをぐっとこらえ、英二に笑顔を向けると、外に出た。 11時過ぎ、駅前のカフェで弁護士の山田と合流し、証拠を並べて打ち合わせをする。スクラップブックには、写真と共に日付と出来事を記し、それとは別に日記もある。和子と星羅、それぞれのアルバムに、聞きやすく編集した音声データと動画。そして星羅が家に忘れたであろうリップもある。 更に毛根つきの髪の毛や、ラブホテルやブランド品のレシートなどもあり、まるで証拠品の見本市だ。「これだけあれば勝てます。自信を持ってください」「はい。ただ、あの言い草だと、向こうも弁護士を用意していると思います」「問題ありません。そろそろ行きましょう。待たせておくのも申し訳ないですからね」「はい」 沙綾は山田弁護士を連れ、自宅という名の戦場に赴いた。 玄関を開けると、靴がやたら多い。2足のビジネスシューズは、きっと和人と弁護士のものだろう。赤いハイヒールは和子のもの。予想はつくが、持ち主不明の可愛らしいピンクとチョコレートブラウンの厚底ブーツがある。「来たか」 ドタドタと足音を立てて登場したのは和人。腕を組み、沙綾を見下ろす。その顔に、ここ数日に見せていた優しい夫の面影は微塵もない。氷のように冷たい目をしているが、沙綾からすれば、あの薄ら寒い優しさに比べれば、何倍もマシだ。「そっちの男は? 浮気相手か?」 和人は隣りにいる山田を見ると、鼻で笑った。(やっぱ不倫
last updateLast Updated : 2026-04-16
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20話

「皆本和人さんの奥様、皆本沙綾様でお間違いないですね?」「はい、そうです」「私は和人さんの弁護を担当する、吉沢と申します」 中年弁護士は、沙綾と山田に名刺を手渡す。「私は沙綾さんの弁護を担当します、山田です」 若手弁護士の山田は、ここにいる沙綾以外の人物に名刺を配った。和子はまだ若い山田と名刺を見比べ、鼻で笑う。「お若いわねぇ。経験のある弁護士さんを雇う余裕がなかったのかしら」「ご心配なく。こう見えても経験は積んでいますので。そちらからお話していただいでよろしいでしょうか?」「では、私から」 吉沢はビジネスバッグから、封筒をいくつか取り出す。そのうちのひとつの中身を取り出し、沙綾の前に2枚の紙を並べる。「診断書?」「和人さんと和子さんは、あなたにモラハラをされ、精神病を患いました。こちらが証拠のレシートです」 並べられたレシートは、高級ブランドのものばかり。(やっぱり、こういうことするためにわざわざ買ったのね) 沙綾は内心呆れ返った。こんなずさんな証拠をでっちあげるふたりにも、それを信じる吉沢弁護士にも。「買わないと殴るって言われて……」「可哀想なかずくん……。あの木刀でいつも私達を脅してくるんですよ」 和人は顔を覆い、和子は部屋の隅にある木刀に目をやる。だが、沙綾はその木刀を見たこともなければ、触ったこともない。「新しいバッグを買っても、1回使ったらもう次のバッグを要求してきて……。2日前に買っただろって言ったら、何回もそのバッグで殴ってきたんです。バッグがぼろぼろになるほどに……。だから、仕方なく貯金を切り崩して買ってたんだ」「どうですか、沙綾さん。これは事実でしょうか? 日記にも、詳細に書かれていますが」「少々お待ちください」 沙綾は自分の部屋に行くと、隠しておいたブランド品を持ってリビングに戻る。「これは主人からいただいたブランド品です。見ての通り、すべて新品未使用です。商品とレシートをすり合わせても構いません。それと、これは買ってもらったものと日時と、その時に言われた言葉をメモしたスクラップブックです」 そう言って1冊のスクラップブックを引っ張り出し、吉沢に差し出す。「拝見させていただきます」「いや、そこまで見なくても……。それにほら、壊したやつはこうなることを見越して、自分で買ったに決まってる」「そう
last updateLast Updated : 2026-04-16
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