All Chapters of さらば、テクなしマザコンとフレネミー〜敏腕ウエディングプランナーは極上の愛に溺れる〜: Chapter 21 - Chapter 30

41 Chapters

21話

「嘘は困りますよ。それに、私はあなたに雇われはしましたが、公正に見ています。あなたが加害者なら、話は別です」「クソ……! 使えね―な!」「そ、そうだ! 私のは!? 私、沙綾さんにコキ使われたの。魚料理を用意したら、肉が食べたいからそんなの捨てろって言われたんですよ?」 和子はゴミ箱に捨てられた魚料理の写真をテーブルの上に置いた。ちらりと顔を見ると、勝ち誇ったような顔をしていた。「いいえ、私はそんなことしていません。私はお魚でもいいと言ったのに、勝手に作り直したんです」 今度は沙綾がいいと言っているのに、肉料理を作り直した和子の映像を提出する。映像の中の和子は、魚料理を捨てようとする。沙綾はその腕をつかみ、明日食べるとはっきり言葉にしている。「精神科医を騙して診断書を書かせたのなら、詐欺罪ですね」「精神科医もグルの可能性もありますね」 ふたりの弁護士は、まじまじと診断書を見る。「もしかしたら、偽造書かも」「なんにせよ、罪に問われることは確かですね」 ふたりの弁護士と沙綾の会話を聞いて諦めるかと思いきや、ふたりはまだ反撃してきた。沙綾にこれを買わされた、あんなことされたと写真、実物、レシートなどを出すが、沙綾が映像や音声でねじ伏せる。 30分もすると、皆本親子は黙り込んでしまった。「もうなさそうなので、今度はこっちの番ですね」 山田と一緒に、テーブルに証拠をずらりと並べる。スクラップブック、写真、音声、映像、リップに毛根のついた髪の毛。そして探偵の報告書が、テーブルを埋め尽くす。「ラインのやり取りもあります」 とどめに和人と星羅が沙綾をバカにしたり、次の待ち合わせを決めたり、いちゃついたりしているラインのスクショのコピーも出すと。吉沢は軽蔑した目でふたりを見た。「そ、そうだ! ライン! ライン俺も持ってるぞ」 そう言って和人が出したのは、沙綾が男とやりとりしているラインのスクショのコピー。「セックス気持ちよかった」「夫と大違い」「はやく離婚したい」など、沙綾が不倫を楽しんでいるような文面だ。「これも偽物ですね」 そう言ったのは、山田弁護士。「ライン風画像を作れるサイトで作ったやつですよね?」「違う! これはこのアバズレが本当に……!」「そうよ! だって沙綾ちゃん、この前再会した時に、和人さんの悪口言ってたし、いい男見つけた
last updateLast Updated : 2026-04-16
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22話

「次はお義母さんとの関係を証明する証拠です」 沙綾の言葉に、吉沢は目を丸くし、親子を交互に見る。「ふたりは親子にも関わらず、体の関係を持っていました」 次に並べたのは、親子が不倫関係にあるという証拠写真だ。もちろん、ふたりが体を重ねている写真や動画もある。「プライバシーの侵害!」「母さんを撮るなんて、変態! 最低だ!」「すいません、少しトイレをお借り、うえっ……」 喚くふたりに、そっぽを向く星羅。そして吐き気を催し、トイレに駆け込む吉沢弁護士。リビングにはカオスな空間が広がっていた。 沙綾も山田も、喚いたりする親子の声を涼しい顔で聞いている。狂ったように破り始めるが、そんなことをしても無駄だ。データはふたりの手元にある。「すいません……」 顔色の悪い吉沢が戻って来る。「いえ、こちらどうぞ」 ショルダーバッグから、小さなペットボトルの水を差し出した。「ありがとうございます」 吉沢は水を一気に飲み、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。「それと、もうひとつ」 沙綾は皆本親子と星羅が寝室で盛っている動画を流した。絹を裂くような星羅の悲鳴が、昼過ぎの住宅街に響き渡る。「うわ、酷い……」 吉沢は再び顔色が悪くなり、口元を押さえる。「あなた方には不倫の慰謝料と侮辱罪の慰謝料を請求します」「はぁ!?」「それと、書類偽装もですね」「ふざけんな!」 和人の怒声に、山田の表情が険しくなる。「ふざけているのはあなた達でしょう。不倫や暴言を繰り返した挙げ句、沙綾さんが不利になるように偽装し、弁護士まで騙して……。恥を知りなさい!」「慰謝料の請求書と内容証明書は、明日から明後日に届くから。金額はそれまでとお楽しみ。それと、これ。今書いて」 沙綾は茫然としている和人の前に、記入済みの離婚届とペンを置いた。「クソ!」 和人はテーブルを乱暴に殴ると、乱雑に自分の名前を書いた。「これでいいんだろ」「えぇ、ありがとう。そうそう、それとこの家、あなたが買ってね?」「は? 家?」「忘れたの? この家は、私名義で買ったもの。本来ならあなたが出ていくんだけど、不倫に使われた家なんて、気持ち悪くて住めないから、責任取って買い取ってね」「あなた、なんて人なの!」 和子がヒステリックに喚く。彼女をなだめたのは、意外なことに和人だった。「いいって、母さ
last updateLast Updated : 2026-04-16
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23話

「片桐くんの家、かな?」 住所は現在地の最寄り駅から3駅離れた場所にある。沙綾はその旨を伝えると、駅に向かった。 指定された住所に来て、圧倒される。眼の前にそびえ立つのは高級タワーマンションだ。沙綾の給料はひとり暮らしをしながら毎月5,6万円ほど貯金に回してもゆとりある暮らしができるほどあるが、1番安い部屋でも、沙綾では破綻してしまうだろう。 タワマンに住む知り合いなどいないため、入り方が分からず困惑する。英二にラインをすると、丁寧に教えてくれた。本当は迎えに来てほしかったが、最上階にいるのなら、ラインの方がはやいのだろう。 早速教えてもらった通りに入り、エレベーターに乗る。「え? というか、ここの最上階って……」 エレベーターの中で一息ついたところで、今更英二がタワマン最上階の住人である可能性に気づく。急に彼が雲の上の人間に思えてきて、変な緊張をしてしまう。 エレベーターが止まり、扉がゆっくり開く。眼の前には広々とした玄関があり、英二が立っていた。「片桐くん……!」 英二の顔を見て安心してしまい、体の力が抜けてしまう。前に倒れるような形になり、英二がとっさに抱きとめてくれる。「ご、ごめん……」「いいって。それより危ないから、こっちおいで」 足元を見ると、足はエレベーターに、上半身は玄関にある。扉が閉まったら体が挟まれてしまう。沙綾は慌てて玄関に踏み入れる。 ふわりと体が浮き上がる。英二が沙綾を抱き上げていた。「か、片桐、くん……」「違う」「え?」「英二って、名前で呼んで。沙綾」 真剣な眼差しと、初めて名前を呼ばれたことに、胸が高鳴り、言葉に詰まる。「カラオケボックスで、違う呼び方をしようって、こういう意味だって思ってたんだけど、俺の思い違いだった?」「ち、違うの! その、英二くんが、かっこよすぎたから……」 しどろもどろに言うと、英二は一瞬きょとんとして、声を上げて笑い出した。「そういえば、沙綾は面食いだったっけ」 面食いの自覚はあるが、好きな人に改めて言われると恥ずかしい。「てことは、俺の顔が好みってこと?」 うなずくと、彼は安堵したように笑った。「努力したかいがあったよ」「努力って?」「俺、学生の頃から沙綾が好きだった。けど、あの頃の俺って地味だろ? だから、自信なかった。それに沙綾は、すごく綺麗だから
last updateLast Updated : 2026-04-17
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24話

「そんな暗い顔しないで。な、もう1回、名前で呼んで」「英二くん……」 名前を呼ぶと、唇に熱いものが押し付けられる。すぐそこには英二の長いまつ毛がある。(あ、私……。英二くんと……) 幸せを噛みしめるように、目を閉じてキスを受け入れた。「好きだ、好き……。もう、抑えなくてもいいよな?」 英二はそのまま、沙綾をソファに運び、そっと寝かせる。「ごめん、寝室まで我慢できない」「嬉しい……」 沙綾は英二の背中に腕を回し、足だけでそっと、履いていたヒールを脱ぎ落とした。 翌朝、紅茶の香りで目が覚める。起き上がると知らない部屋にいた。高い天井に、雰囲気のある証明。壁紙は品の良い薄紫。沙綾が寝ているベッドは、キングサイズ。 冴えてきた頭で、ようやく自分の状況を理解しだした。「私、英二くんと……!」 昨晩、英二とソファの上で激しく愛し合い、そのまま気を失ってしまったのだ。慌てて自分の体を確認すると、ぶかぶかの男性物のパジャマを着ていた。シルク素材で、とても肌触りがいい。「こんなことしてる場合じゃなくて……!」 沙綾はベッドから降りると、ドアを開けて廊下に出る。廊下は左右に伸びており、どちらがキッチンなのか分からない。 紅茶を香りを頼りに歩くと、なんとかキッチンにたどり着いた。キッチンも広々としており、アイランドキッチンに、大きな冷蔵庫に食器棚。そしてシックなダイニングテーブルがあった。「おはよう、沙綾。体はつらくないか?」 調理中の英二は、沙綾に気づくと愛おしそうに彼女を見る。「今できるから、待っててくれよ」「あの、洗面所ってどこ?」「寝室の向かい。あとで家の中、案内しないとな。っと、いけない。焦がすところだった」 英二は再びコンロに向かい、調理を再開する。 沙綾は来た道を引き返し、寝室の向かいを開ける。ホテルのような洗面所に、数秒ほど固まる。脱衣所も兼ねた洗面所は沙綾が住んでいた家の倍近い広さがあり、奥には浴室に続くと思われるドアがある。(なんか、とんでもないところに来ちゃったのかも) 顔を洗い、タオル掛にかけてあるタオルで顔を拭くと、ふんわりしていた。(ちょっとだけ……) 好奇心に負けて浴室を覗くと、足を伸ばしても余裕がある湯船があった。ドアの向かいには大きな鏡があり、風呂桶の近くには高級そうなシャンプーやコンディショナーな
last updateLast Updated : 2026-04-18
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25話

「へ?」 思わず間抜けな声を出してしまい、また英二に笑われてしまう。「というか、沙綾が俺の告白受け入れてくれたら、そうするつもりだったし」「え?」「だって沙綾、復讐することで頭がいっぱいで、その後のこと、考えてなさそうだったし」 図星をつかれ、耳まで赤くなっていくのが自分でも分かる。(あーもう、私ってなんでいつもこうなの!?) 内心、頭を抱え暴れまわる。一度やると決めたらやる性格は昔からなのだが、そのことで頭がいっぱいになり、その後のことやまわりのことにまで考えが回らず、やらかしてしまう。 大人になって少しはマシになったと思っていたが、どうやら気の所為だったようだ。「もし取りに行きたいものがあれば、仕事終わりにでも付き合うし、必要なものも、欲しいものも、全部俺に買わせて」「そこまで甘えるわけには……」「男ってのは、恋人に甘えてほしい生き物なんだよ。それに、お金の心配ならいらない」「まぁ、そうでしょうけど……。考えておくわ」 沙綾は昔から金銭面で甘えるのが苦手だ。昔、「ここはごちそうするよ」と言われてお言葉に甘えたら、後から請求されたことがある。他にも友人の金銭トラブルの相談をよく受けていたため、お金のやり取りは好まない。「俺、そろそろ行くよ。食器はシンクに冷やしといて」 英二は沙綾の頬にキスをすると、食器をシンクに溜めておいた水に沈め、出勤準備を始めた。(あぁ、でも、確かにここで生活するの、幸せかも……) まだ感触が残る頬に触れながら、にんまりする。和人とはこういったことはほとんどなかった。きっと、本当に和人の顔だけを見て選んでしまったのだろう。だからこそ、あのような苦い思いをしたのだが。(荷物は今日、取りに行けばいいか) 沙綾は英二の分の食器も洗うと、身支度をして職場に向かった。 職場につくと、上司の岡本レイが神妙な顔をして沙綾に近寄る。彼女はアラフォーとは思えない若々しさと美貌を持ち合わせ、年生に相応しい品格も兼ね備えている。沙綾が憧れる女性像のひとつだ。「皆本さん、ちょっと話したいことがあるの」「なんでしょう?」「ここじゃアレだから、来てもらっていい?」 岡本は辺りをさっと見回すと、沙綾を連れ、今日使われる予定のない新婦の控室に行った。ここなら人が来る可能性はゼロに近い。「あの、私何かやってしまいましたか?」
last updateLast Updated : 2026-04-19
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26話

「大丈夫? 私が代わろうか?」「いえ、大丈夫です」 笑顔で答えても、岡本は不安そうに沙綾を見つめている。「人様の家庭に首を突っ込む趣味はないけど、これって、そういうことでしょ? 本当にいいの?」 彼女は途切れ途切れに尋ねる。きっと、沙綾が傷つかないように言葉を選んでくれたのだろう。「本当に大丈夫です。仕事に私情を持ち込まないタイプですから」「そこまで言うなら……。けど、つらくなったらいつでも言って。その時は、私が代わるから」「はい、ありがとうございます」 会話が終わると、ふたりは事務室に戻り、それぞれ仕事の準備を始める。 そして午後1時。皆本和人と松永星羅が腕を組み、仲睦まじい様子で式場に来た。「あれ、沙綾ちゃんここで働いてたんだぁ」「変な私情挟んだりするなよ。俺達に相応しいプランを、しっかり考えろ」 ふたりはニヤニヤしながら沙綾を見る。(指名したくせに白々しいんだよ) 内心毒づきながらも、完璧な営業スマイルを見せる。「皆本和人様、松永星羅様、この度はご婚約おめでとうございます。数ある式場の中から、当式場をお選びいただき、感謝いたします。もちろん、私情を挟むことなどいたしません。さぁ、こちらへどうぞ」 沙綾はふたりをカウンセリングルームに連れて行くと、あらかじめ用意していた資料を見せる。「結婚式で決めるべきことはたくさんあります。おふたりの衣装、料理、式場の花、演出……。他にも色々ありますが、ご予算に収まる範囲で、おふたりがご納得できる式を提供したいと思います。早速ですが、ご予算はおいくらでしょうか?」 沙綾が丁寧に尋ねると、和人は鼻で笑う。「予算は気にする必要なんてない。いいから始めろ」「かしこまりました。予算を気にしないなんて、素敵な新郎様ですね。実は、この段階で揉める方多いんですよ」 沙綾の言葉に、星羅は勝ち誇った顔をし、和人の腕に自分の腕を絡ませる。「そうなの。彼、お金持ちだから。先に幸せになっちゃってごめんねぇ?」「素敵ですね。では、ドレスからお決めしましょうか」 笑顔を崩すことなく進める沙綾に、ふたりは一瞬つまらなそうな顔をした。きっと、沙綾の悔しがる顔が見たかったのだろう。「では、こちらへどうぞ」 今度は色とりどりのドレスが置いてあるドレスサロンへ行く。ここにはスタイリストが常駐しており、プランナー
last updateLast Updated : 2026-04-19
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27話

「どのドレスも素敵!」「ご希望はありますか?」「誰とも被らないドレスがいい。なんかいいのない?」 沙綾が聞くと、星羅は意地悪な笑みを浮かべて言った。本田と顔を見合わせ、笑顔を向ける。「もちろんございます。とっておきのものが」「えー、見たーい!」 〝とっておき〟という言葉に食いついた星羅の前に、ふたりは1着のドレスを見せる。水色のAラインドレスで、色もデザインもどことなく子供っぽいわりには、胸元がガッツリあいてアンバランスなため、誰にも選ばれなかったドレスだ。「星羅様は色白ですので、何色でも似合いますが、特に淡い水色が似合うと思います」「それに、シンデレラのドレスみたいでロマンチックでしょう?」「確かに! ガラスの靴とかある?」 脳内お花畑のお姫様(笑)は、すぐに食いつく。予想以上にうまく誘導できたことに、思わず笑いそうになるのを、ぐっとこらえる。「本物のガラスの靴は危険なのでありませんが、そう見える靴でしたら」「え、なにそれ! 見たい!」「お持ちしますね」 本田は軽く会釈をすると、ドレスの合間に消えていった。その間も営業トークを止めることはない。「ご予算の上限ナシで、特別な式にしたいとおっしゃっていましたよね? 虹をテーマにしてはいかがでしょう?」「虹? どういうこと?」「ドレスのお色直しを計6回。つまり、7着のドレスを着るんです。もちろん、タキシードもその都度お着替えしていただきます。虹の色すべてを着て、星羅様の美貌はどの色にも合うことを、会場の皆様にお見せするんです。それに、あとで写真で見返して、どの色がどういう印象なのか見返せますし」「なにそれ素敵! あなたもそう思わない?」「いいんじゃない?」 和人はスマホをいじりながら生返事をする。こういう時の和人は、絶対に覚えていない。「お待たせいたしました。こちら、ポリカーボネートという素材で作ったガラスの靴です」 本田はおとぎ話よろしく、高級そうな紫色のディスプレイクッションに乗せたガラスの靴を持ってくる。星羅は目を輝かせ、ガラスの靴を見つめていた。「やっばい、かわいー!」「こちらにお座りください」 沙綾は壁際にあった椅子をひとつ持ってくると、星羅を座らせる。本田は丁寧に星羅が履いていたヒールを脱がせ、ガラスの靴を履かせようとする。普段はもちろんこのようなことはしな
last updateLast Updated : 2026-04-19
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28話

 その後も、式場の花は7色使い、統一感がないものにしたり、登場時のゴンドラには、雲と虹の飾りで教育番組のセットのようなものにしたり、とにかくダサくてお金がかかる式に誘導した。 ケーキももちろん7段7色。特注なので、高く付く。料理もイギリス料理を提案したら、すんなり受け入れた。何を作るかはおまかせとのこと。 カウンセリングルームに戻り、撮影スタッフや見積もりの話をする。「カメラマンや音響スタッフさんも、お選びしていただくことができるんですよ」「それ、どう違うわけ?」「最高ランクですと、芸能人の写真を撮るカメラマンさんや音響さんになります」「なにそれ最高じゃん! つまり、芸能人と同じ感じで撮ってもらえるってことでしょ!? ねぇ和人さん。プロに頼みましょう!」「そうだな。星羅の可愛い顔、ちゃんと撮って欲しいし」 和人は見せつけるように星羅の肩を抱き、星羅も和人に甘えるように寄りかかる。様々なカップルを見てきたが、人前でここまでベタベタするのは、ふたりが初めてだ。「では、改めて式の内容とご予算を説明させていただきます」 沙綾は式の内容をふたりと確認した後、値段を伝える。「720万円となります」「高くないか?」 不満そうに言うのは和人。「お色直しが6回ありますし、すべて最高級プランとなっております。ケーキも式場のお花も特注ですし、料理はイギリスからシェフをお呼びして作ることになりますので、そう考えると妥当かと」「別にいいじゃない。そんなケチケチしなくて。それよりも、ア・レ♡」 星羅が意味深な笑みを和人に向けると、和人は意地悪な顔をして、自分の鞄から何かを探す。「沙綾、お前、人に浮気だ不倫だ言っておきながら、お前もしてたんじゃねーか」「なんのことでしょう?」「これだよ」 和人が得意げに出してきたのは、航空会社の封筒。もちろん沙綾には、見覚えがある。「片桐英二って奴と、ハワイに行こうとしてただろ」「これ、私達がもらっちゃうから」「これで慰謝料はチャラにしてやるよ」「もう、和人さんってば優しすぎ」 眼の前でいちゃつくふたりを見て、吹き出しそうになる。「ないと思ってたら、そっちにあったのね」「返せって言われても返さないからな」「当然よね」 ふたりはニヤニヤしながら沙綾を見る。沙綾はお望み通り、悔しそうな顔を作ってみせた。「
last updateLast Updated : 2026-04-19
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29話

 夕方、仕事が終わると、英二と和人に家に行くことを伝え、職場を出る。英二から心配するメッセージが、和人からは手土産を持ってくるようにメッセージが来ていた。「は?」 思わず低い声が出てしまう。沙綾は帰り道のゴミ箱の中に高級菓子の紙袋を見つけると、その中に適当にゴミを詰め、あの家に行った。 インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いて和人が出てくる。「手土産は?」「はい」「へぇ、お前にしてはいいモン持ってきたな」 満足そうに受け取る和人を横目に上がり込むと、2階にある元自室に入る。思い入れこそあれど、未練はない。 キャリーケースを開けると、まだスペースがあったため、更に詰め込めるだけ詰め、挨拶もそこそこに出ていった。惜しいものはあるが、どうしてもというわけでもない。 年末の夜は冷える。沙綾はカイロを握りながら、新居のタワマンを目指す。その途中、英二に声をかけられた。「沙綾……!」 彼は沙綾を見つけるなり、名前を呼んで抱きしめる。突然のことに、沙綾はされるがまま。「大丈夫か? 変なことされてない? 嫌なこと言われてないか?」「もう、心配しすぎ。大丈夫だから。それに人目もあるし、ね?」「人目なんかどうでもいい。沙綾のこと、ずっと心配だったんだ。無事でよかった……」 愛おしそうな英二の目に、胸が高鳴る。和人がこんなに優しい目で、沙綾を見たことがあっただろうか?(なんか、初めて愛されるってことを実感してる気がする……) 沙綾は英二の腕の中で、幸せを噛みしめる。「帰ろう。それ、持つよ」 英二は沙綾が持っているキャリーケースを片手に、沙綾の手をもう片手にし、ゆっくり歩き出す。「ふふ」「どうした?」「歩いてるだけなのに、英二くんといると、すっごく楽しい」 少し顔をあげると、イルミネーションが夜の都会を彩る。恋人たちや帰宅途中の社会人が、その間を歩いていくのが見えた。「そう言ってもらえると嬉しいよ」「比べるのは失礼だって分かってるんだけど、英二くんの方がスペック高いのに、一緒にいて落ち着くし、素でいられるの」 英二は顔をしかめて沙綾を見下ろしている。(まずいこと言っちゃったかな) 謝ろうとしたその時、唇に熱いものが押し付けられる。「それは嬉しいけど、アイツのことなんかもう忘れてくれよ」 嫉妬深くて可愛いキスに、思わずニヤけてし
last updateLast Updated : 2026-04-20
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30話

「かんぱーい」家に着くと、ふたりは未開封の缶をぶつけ合う。プシュッという小気味良い音が、広いダイニングキッチンに響く。ゴクゴクと喉を鳴らせば、ストレスが泡のように弾けて消えていく。「ぷはあ!うんまあ!」「あはは、すごい飲みっぷり!」「誰かと飲むこと自体、久しぶりかも。あの家じや、お酒飲むと白い目で見られてたから、部屋で隠れて飲んでてさ。それはそれで悪くないけど、やっぱり、こうやって誰かと堂々と飲むのが1番美味しいよ」「そりゃよかった。俺、ビール好きだからさ。家に常備してあるんだよね。けど、ひとりだとなんか味気なくて、消費遅くてさ」「ふふふ、これからはどんどん減ってくから、買い足すの大変になるかも」「ま、お互いほどほどにな」「そうね。そういえばアレ、気づいてくれたみたい」 沙綾の言葉に、英二はニヤリと笑う。「そっか、気づいたか。向こうはなんて?」「慰謝料はこれでチャラにしてやるってさ」「それはありがたいな」 どちらからともなく再び乾杯し、笑い合う。 和人達が言っていた航空券は、英二が沙綾に持たせ、わざとあの家に置いていったものだ。もちろん、彼らに気前よくプレゼントするつもりではなく、他に目的があってのことだ。「近々、またうちの式場に来るから、進展あったら報告するわ」「あぁ、楽しみにしてる。それが終わったら、ふたりでハワイにでも行こう」 和人達への制裁は、まだ始まってすらいなかった。きっと彼らは慰謝料を払ったのだから、もういいと思っているはずだ。そこにつけこむだけ。 数日後、沙綾の職場にまた彼らが来た。今度は和子も連れて。「この前は、素敵な手土産をありがとう。これ、些細だけどお返しだ」「ありがとうございます」 和人は笑顔で沙綾に紙袋を渡す。その紙袋は、高級なジュエリーショップのものだ。彼らは見栄っ張りだが、世間体を気にする。だからゴミをプレゼントしても、沙綾の職場で暴れることはないと分かっていて、わざとゴミを渡したのだ。 沙綾は受け取った紙袋を足元に置くと、改めて前回組んだプランや盛り込んだオプションの説明をする。「俺は母さんに感謝してる。お前も知ってる通り、親父はほとんど家にいなかったから、俺には母さんだけだったんだ。だから、母さんになにかしたいんだけど、いい案ないか?」「まぁ、かずくんったら」 真剣な眼差しで沙綾
last updateLast Updated : 2026-04-21
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