さらば、テクなしマザコンとフレネミー〜敏腕ウエディングプランナーは極上の愛に溺れる〜

さらば、テクなしマザコンとフレネミー〜敏腕ウエディングプランナーは極上の愛に溺れる〜

last updateآخر تحديث : 2026-04-23
بواسطة:  東雲桃矢مكتمل
لغة: Japanese
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ウエディングプランナーの沙綾は、お客様の要望を叶えるために残業し、充足感を抱きながら帰宅する。 玄関には真っ赤なハイヒール、寝室から聞こえてくる喘ぎ声…… 夫の不倫相手とその言い分に、絶句する沙綾。 ショックのあまり家から飛び出し、ホテルに泊まる。 復讐をしようと動いていると、ふたりの同級生に出会う。彼らは敵か味方か……?

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الفصل الأول

1話

「うぅ、さむ……!」

 11月上旬の夜21時過ぎ、皆本沙綾はご自慢の艷やかな長い黒髪を北風になびかせながら、家に向かう。彼女は26歳という若さながら、多くのカップルから高評価を得ているウエディングプランナーだ。

 今日はこだわりの強すぎる新婦が納得し、なおかつ予算内に収まるように、何度もプランを練り直したせいで、帰宅がいつもより遅くなってしまった。

「はぁ、残業した日って、お義母さんいる率高いのよねぇ……」

 帰宅後のことを考えると、げんなりする。義母の和子は、自分の名前の漢字を使うほど、息子である和人を溺愛し、未だに子離れできていない。和人は和人でマザコン気質なため、沙綾が残業の連絡を入れると、義母を呼んで家事をしてもらう。酷い時は義母に膝枕と耳かきをしてもらうほどで、これには沙綾も言葉を失った。

 最初は年上とは思えないほどの情けなさに呆れたが、夫のマザコンっぷりにも、義母の過保護にも慣れてきた。それでも、嫌なものは嫌で、家に向かう足取りが重くなってくる。

「あー、やめやめ! せっかく可愛い新婦さんの笑顔で気分いいのに、あんなの思い出すことないない。今日は呑もう。明日は休みだし、いいよね」

 途中、コンビニに寄ってビールと枝豆チップスを買うと、今度こそ帰宅した。

 鍵穴に鍵を差し込もうとして、違和感を覚える。

「開いてる……?」

 景気も治安も悪くなりつつある今、いつ空き巣が入るか分からないため、家に人がいても鍵をかけるようにしてある。それなのに、何故か鍵が開いていた。嫌な予感がしてゆっくり玄関を開けると、目がチカチカするほど真っ赤なハイヒールがあった。2階から、女性らしき声も聞こえてくる。

(もしかして、不倫?)

 スマホで動画を撮りながら、2階に向かう。寝室に近づくにつれ、女性の声が喘ぎ声だと気づく。

 息を吐き、覚悟を決めると、勢いよくドアを開けた。

「そう、そうよ! 上手♡ 女の子はねぇ、少し乱暴にされるくらいがいいのぉ♡」

「あぁ、いい! 最高だよ、母さん!」

 和子は和人にまたがり、腰を振っている。和人も必死に腰を突き上げていた。眼の前で繰り広げられる地獄絵図に、言葉を失う。あろうことか、夫は義母と、つまり、彼にとっての実母と不倫をしていた。

「なにしてんの」

「あら、もう帰ってきたの? 帰らなくてもよかったのに」

 なんとか声を絞り出すと、和子は和人の上からおりて、沙綾に笑いかける。その後ろで、和人は不満そうな顔をしていた。

「邪魔すんなよ、いいところだったのに」

「は? 邪魔!? 何言ってるの? 親子で不倫なんて、気持ち悪い! するならせめて、血の繋がってない人にしてよ!」

 声を荒げると、和子はチッチッチッと、気取った仕草で人差し指を振る。

「違うわよ。これはレッスン。親子だから不倫にならないのよ。知らないの?」

「母さん、仕方ないよ。沙綾が出たのは3流大学なんだから」

「それもそうね。沙綾さん、あなた、私に感謝なさいよ」

「へ?」

 和子の斜め上の発言に変な声が出る和子はそんな沙綾を笑い、言葉を続けた。

「私がこうしてレッスンをしたから、和人は上手なの。なのに、あなたはまだ妊娠もしないなんてねぇ。女として終わってるんじゃない?」

 高笑いする和子に、賛同するように何度も大きく頷く和人。ふたりに嫌悪感を抱くのと同時に、ひとつだけ納得した。

(子供産んで年取ったお義母さんを相手にしてたから、下手くそだったわけね……)

「母さんの方が、女として上だよ。沙綾を抱いてても、締まりすぎるし、あんまり気持ち悪くないんだ」

 和人の発言に、自分が義母と竿姉妹であることに気づき、吐き気を覚える。気づいた時には、家から飛び出していた。

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1話
「うぅ、さむ……!」 11月上旬の夜21時過ぎ、皆本沙綾はご自慢の艷やかな長い黒髪を北風になびかせながら、家に向かう。彼女は26歳という若さながら、多くのカップルから高評価を得ているウエディングプランナーだ。 今日はこだわりの強すぎる新婦が納得し、なおかつ予算内に収まるように、何度もプランを練り直したせいで、帰宅がいつもより遅くなってしまった。「はぁ、残業した日って、お義母さんいる率高いのよねぇ……」 帰宅後のことを考えると、げんなりする。義母の和子は、自分の名前の漢字を使うほど、息子である和人を溺愛し、未だに子離れできていない。和人は和人でマザコン気質なため、沙綾が残業の連絡を入れると、義母を呼んで家事をしてもらう。酷い時は義母に膝枕と耳かきをしてもらうほどで、これには沙綾も言葉を失った。 最初は年上とは思えないほどの情けなさに呆れたが、夫のマザコンっぷりにも、義母の過保護にも慣れてきた。それでも、嫌なものは嫌で、家に向かう足取りが重くなってくる。「あー、やめやめ! せっかく可愛い新婦さんの笑顔で気分いいのに、あんなの思い出すことないない。今日は呑もう。明日は休みだし、いいよね」 途中、コンビニに寄ってビールと枝豆チップスを買うと、今度こそ帰宅した。 鍵穴に鍵を差し込もうとして、違和感を覚える。「開いてる……?」 景気も治安も悪くなりつつある今、いつ空き巣が入るか分からないため、家に人がいても鍵をかけるようにしてある。それなのに、何故か鍵が開いていた。嫌な予感がしてゆっくり玄関を開けると、目がチカチカするほど真っ赤なハイヒールがあった。2階から、女性らしき声も聞こえてくる。(もしかして、不倫?) スマホで動画を撮りながら、2階に向かう。寝室に近づくにつれ、女性の声が喘ぎ声だと気づく。 息を吐き、覚悟を決めると、勢いよくドアを開けた。「そう、そうよ! 上手♡ 女の子はねぇ、少し乱暴にされるくらいがいいのぉ♡」「あぁ、いい! 最高だよ、母さん!」 和子は和人にまたがり、腰を振っている。和人も必死に腰を突き上げていた。眼の前で繰り広げられる地獄絵図に、言葉を失う。あろうことか、夫は義母と、つまり、彼にとっての実母と不倫をしていた。「なにしてんの」「あら、もう帰ってきたの? 帰らなくてもよかったのに」 なんとか声を絞り出すと、和子は
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2話
「あぁ、もう、本当に気持ち悪い……」 仕事での達成感や充実感などは消え、嫌悪感や怒りでいっぱいになる。コンビニで夕飯とお茶を買い、お茶を飲んで少し落ち着いた沙綾は、近場のホテルに片っ端から電話をかけ、寝泊まりする場所を探す。幸い3件目で決まり、タクシーを捕まえてホテルに向かった。(ホント、無駄な時間、無駄な出費) タクシーの後部座席に座ってる間も、ずっとイライラした。スマホで時間を見ると、本来なら食事も終わって、風呂に入るような時間だ。なのに、食事も風呂も済んでいない。何より、安いホテルはすべて埋まっており、泣く泣く高級ホテルに泊まらざるを得ないのが腹立たしい。 フロントで鍵を受け取り、部屋に入ると、イライラが少し収まった。高級ホテルなだけあって、スイートルームと見間違うほどラグジュアリーな空間が広がっている。広さはあまりないが、それでも普通のビジネスホテルよりは寛げる。「まぁ、こんな日くらい、いいよね」 贅沢する免罪符が手元にあるからか、少しだけ、頬が緩む。コンビニで買ったものを小さな冷蔵庫に押し込むと、風呂を沸かしに行く。 スマホを見ると、充電は残り17%。フロントに充電器を借りに行き、部屋に戻ると、入るのにちょうどいい水位になっていたため、充電してから入浴する。 温かいお湯と、金木犀の入浴剤でリラックスすると、少しずつ余裕が出てきた。(にしても、いったいいつからあんなことを?) 思い出したくもないが、現実逃避ばかりしてても仕方がない。自分なりに考えてみる。 あのマザコンとムチュコタンラブなキチママなら、筆下ろししててもおかしくない。そう思ってしまうくらいに、ふたりの仲は親密だった。 できたての熱い料理は和子がふーふーしてから食べさせていたし、和人が持っているスーツ、シャツ、ネクタイや、ネクタイピンなどの装飾品でさえ、すべて和子が買い与えたものなのだから。「お義父さんがいれば、少しは違ったのかな……」 やり手の経営者である義父は、自ら各地に飛び回り、仕事をしている。家にいるのは年に10日も満たないらしく、沙綾が義父に会ったのだって、顔合わせの時と結婚式の時の2回だけ。 延々と息子語りをする和子を制止し、子離れするように言った義父がいたら、ここまで酷いことになっていなかった気がする。「いない人のこと考えても、仕方ないんだけど……」
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3話
「うぅ、気持ち悪い……」 翌朝、二日酔いで最悪の目覚めに小さく唸る沙綾。重たい体を引きずるように、テーブルに近寄る。昨晩買ったオレンジジュースと板チョコをベッドに放り投げると、電気ケトルでお湯を沸かし、インスタントのしじみ汁に注ぐ。「はぁ、染みる……」 オレンジジュース、しじみ汁、チョコレートは、飲みすぎた時用にいつも買う。しじみ汁を飲んだあと、オレンジジュースをゆっくり流し込むが、チョコレートを食べるほどの元気はない。 なんとか半分までオレンジジュースを飲むと、再び眠った。 沙綾の実家は、飛行機の距離にあるため、気軽に実家には帰れない。そのため、3日分の予約をしてあるのだ。 沙綾が目を覚ましたのはお昼前。二日酔いはだいぶマシになっていた。チョコレートをかじりながら、スマホで不倫された時にするべき行動について調べる。「証拠、とりあえずあのキモい動画か……。もうちょっと欲しいな」 証拠を入手するコツのひとつに、ペットや赤ちゃんの見守りカメラが役に立つと書いてあった。ペットも赤ちゃんもいない場合は、空き巣や強盗が入った時のためにすればいいとも書いてある。「今ならあの人も仕事ね……」 どっちにしろ、着替えなどを取りに行くために一度帰らなくてはいけないと思っていた。さあやは残りのオレンジジュースを飲み干し、シャワーを浴びてから身なりを整えると、家電量販店へ行き、ペットカメラを何台か購入すると、帰宅した。 まずは玄関にひとつ設置する。和子が押し付けように置いていった大きな花瓶があり、そこに造花を挿している。花瓶の影に隠れるように設置すると、次はリビングへ。こちらも棚の上に飾り付けてある悪趣味な置物の間に設置。 次は寝室に設置するのだが、ここは慎重に置かなくてはならない。というのも、沙綾が見た記事によると、たとえ自分の家でも、不倫の証拠を得るためでも、性行為を撮るための設置は証拠になるどころか、訴えられる可能性があるらしい。 寝室には、大事な書類や、将来のために少しずつ買い集めている金が入った金庫がある。沙綾はあくまでも〝防犯のため〟に、金庫が映るように設置した。置く場所があまりないので、ベッドも映るようになっているが、仕方のないことだ。 再びリビングに行くと、悪趣味な真っ赤のハンドバッグを見つけた。和子のものだ。「私くらいの女になると、これくら
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4話
 次にスマホに手を伸ばすが、パスワードがかかっている。「どうせアイツの誕生日でしょ」 和人の誕生日を入れてみたが、違うようだ。「ほかに4桁の数字……。あ……」 思い出すのは、和子がぬいぐるみを赤ちゃんのように抱っこしている姿。「私ね、毎日あの子が産まれた時と同じ重さのぬいぐるみを抱っこして、愛を再確認してるの。母親なら、これくらい普通なのよ。ねー、かずくん」 和子はぬいぐるみをあやしていた。それしかないと思い、何度も聞かされた体重を入力すると、解除できた。「どこまでキモいの……」 うんざりしながらラインを開く。1番上にあるのは、和人のアカウント。つまり、最新のやりとりだ。ちなみに沙綾は1番下にあった。連絡先を交換したものの、和子が沙綾に連絡をするのはいつも電話だった。「ラインが使いこなせないから」と言っていたが、邪魔をするのが目的なのは分かっている。 和人とのラインを見てみると、地獄が広がっていた。『沙綾さんとはどうなの?』『あんなの、家畜でいいよ母さん』『そうね。あの家畜、どうしてる?』『仕事ばっかでつまらない女だよ。夜の方も、正直イマイチでさ』『あらそうなの』『母さんのほうが柔らかくて安心するんだよね。アイツはでかいだけで固くて、揉んでてつまんないし』「お前の母親が垂れ乳なだけだろ」 自分の胸をおさえ、スマホに暴言を吐いてしまう。沙綾は自分のスタイルに自信があった。慎重は162センチあり、胸はEカップ。くびれは細く、おしりはほどよい肉付き。もう少し身長があれば、モデルになっていたかもしれない。 実際、何度か芸能界にスカウトされたことがあるのだから、スカウトマンの話に乗っていれば、人気が出たかどうかはともかく、芸能デビューしていたことは確かだ。 もっとも、沙綾はスカウトマンなど全員詐欺師だと思っていたし、芸能界に行きたいと思ったことは微塵もないので、断り続けていたが。 深呼吸をして、再びラインを見る。『家畜って若さと稼ぎしか取り柄ないよな。母さんは美魔女なのに』『もう、照れちゃう♡ 確かに、あの家畜はつまらない人よね。いつもイライラしてない?』『本当にそう。せっかく母さんが親切で来てくれてるのに、邪険にするなんて許せないよ』『和人はいい子ね。あんなのさっさと捨てて、違う人と結婚しなさい。お母さん、いい人探しておくか
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5話
 沙綾は悪態をつく。 和子と和人は、彼女を美魔女と思い込んでいるが、そうは思わない。というより、思えない。 美魔女というのは、年齢よりも若く美しい女性のことだ。 だが、和子はどうだ。厚化粧でシミを隠し、6,7年前に若者の間で流行した服やブランドを身に着けているだけの勘違いおばさんだ。 化粧を覚えたばかりの高校生のほうが、まだ上手い。「荷物、まとめとかないと」 沙綾は物置小屋からキャリーケースを引っ張り出すと、服、自分の食器、日用品。そして、金庫に入っている大事な書類と自分で購入した金のコインを詰め込む。コインは1枚1枚ケースに入っているため、神経質にならずにキャリーケースに入れられた。 一度ホテルに戻って荷物を置くと、スマホを持って近くのカフェに行く。 テラス席でカフェラテを飲みながら、スマホで近くのマンスリーマンションを調べていると、気配を感じて顔を上げる。「えー、沙綾ちゃん!? めっちゃ久しぶりー! 座っていい? てか、座るね」 ショートウェーブの茶髪に、男ウケしそうなあざといワンピースを着たたぬき顔の女性が、沙綾の許可もなしに勝手に座る。(げ、松永星羅……) げんなりして眼の前の女性を見る。彼女は松永星羅。高校時代の同級生だ。沙綾はあまり星羅のことが好きではない。というより、嫌っていた。 いつも甘ったるい猫なで声で、男子と男性教師に話しかけていたし、人の彼氏を奪ったりもしていた。自分の思い通りにならないと、近くの女子に濡れ衣を着せて泣いてるふりをして注目を集めたがる。 一言で言えば女の敵。 彼女と話したことなどほとんどなく、話しかけられた時に必要最低限の返しをする程度だった。「えー、なんか暗い顔してない? どーしたの?」「実はね……」 沙綾は夫が義母と不倫していたことや、今までのふたりの仕打ちについて、思いつく限りすべてを星羅に話した。彼女のことは嫌いだが、話してスッキリしてしまいたかった。 沙綾が話せば話すほど、星羅の表情は徐々に曇っていった。それでも彼女は適度に相槌を打つから、ずっと話し続けた。 結婚式にウエディングドレスを着られそうになったこと、新婚旅行についていったこと、日頃の嫌味や夫のマザコンっぷり、自分が旅行に誘っても断るのに、義母とは行くこと……。 話している途中は思い出して惨めな気持ちになったり、怒り
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6話
 星羅との作戦会議が終わると、ホテルに戻ってスマホの電源を入れる。会議の途中でやたら通知音がうるさかったから、電源をオフにしていたのだ。「うわぁ……」 電源を入れた途端、和人から電話がかかってくる。向こうが切るまで放置をし、その間に帰りに買ったお茶や食糧を冷蔵庫に入れる。 電話が切れてから通知一覧を見て絶句した。ほとんどが和人からで、不在着信32件、ラインも99+と表示されていた。 恐る恐るラインを開くと、こちらでの不在着信もいくつかあった。『どこほっつき歩いてるんだ。反省して戻ってこい』『ごめん、言い過ぎた。早く戻ってきて』『ふざけんなクソ女!』『違うんだ、沙綾。はやく会いたい』 こんな感じで、暴言と優しい言葉が交互に並んでいた。その間に時々着信がある。「きっしょ……。ないわ……。マザコンモラ男とか終わってる……」 げんなりした。もしできるのなら、スマホをハンマーで叩き壊したいくらいだ。「でも、チャンスかも」 先程の作戦会議を思い出し、考え直す。「そのためにも、英気を養わないとね」 今日と翌日、沙綾はホテルのレストランで食事をし、お高いワインも注文した。これから戦うのだから、こうでもしないとやっていられない。 ホテル滞在最終日の朝、チェックアウトをして最後のホテルレストランでの食事をしてから、キャリーケースを引いて出る。 駅のコインロッカーにキャリーケースを預け、職場に向かう。「未来ある花嫁、花婿のために、今日も頑張らないと」 そう自分に言い聞かせながら。『冷静になってきたから、今日帰ります』 和人にそうラインを送ったのは、昼休憩の時だ。マナーモードにしているとはいえ、あまりにもうるさいからそう返した。実際、今日帰るのだから嘘ではない。『ようやく俺達の素晴らしさと自分の愚かさが分かったか』 調子に乗った返事が来たが、適当に返事をしてスマホの電源を切った。 定時に仕事を終わらせ、スマホの電源を入れると、手土産を持って来いだとか、謝罪金で誠意を見せろだとか、好き勝手なラインが何件か届いていた。「はいはい、しおらしくしてあげますよ」 ラインをスクショすると、デパートで悪趣味なブランドの財布をふたつと、高級ケーキを購入し、帰宅する。もちろん、ショルダーバッグにはICレコーダーを、胸ポケットには動画撮影をしているスマホを
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7話
 休日の午前中、弁護士に相談をし終えた沙綾は、どこかで食事を取ろうとあたりを見回す。「あれ、千秋?」 旧姓で呼ばれて振り返ると、見知らぬイケメンが沙綾を見て驚いている。(え、めっちゃ好み! だけど誰!?) イケメンは目鼻立ちがしっかりしており、ネイビーに染めた髪をワックスで遊ばせていた。芸能人顔負けのルックスとオーラに、圧倒される。「久しぶり。俺のこと、覚えてない?」「えっと、どちら様?」「片桐だよ。高校の頃、よく話してただろ」「片桐、片桐……。あぁ!」 記憶を手繰り寄せ、思い出す。 片桐英二。 長めの前髪に、黒縁メガネの地味な男子生徒。今でいう陰キャだった男子で、沙綾とそれなりに会話をしていた。 放課後や休日に遊ぶほどではなかったが、友人のひとりと認識していた気がする。「うっそ、片桐って、片桐英二くん!? 変わりすぎてない!? え、整形!?」「あはは、そういう失礼なとこ、相変わらずだな。髪染めてコンタクトにしただけ」 写真加工アプリを開き、黒縁メガネのエフェクトをつけて彼に向けると、確かに面影がある。「こんなイケメンだったなんて気づかなかった! わぁ、面食いとしてなんか悔しい」「なんだよ、それ。にしても、驚いたな。この短期間で、ふたりの元同級生に会うなんて」「え? 他に誰と会ったの?」「永松星羅だよ」 苦笑いして答える英二に、沙綾は同情した。 星羅も沙綾に負けず劣らずの面食いで、イケメンの生徒や教育実習生にベタベタしていた。そして英二のような地味な男子生徒には、お前達に人権はないと言わんばかりの態度だったのだ。「私も会ったよ」「マジか……。あ、今時間ある? これからどこかで食べようと思ってたんだけど、一緒にどうかな?」「いいね。どこで食べようか迷ってたの」「じゃ、知り合いの店行こうか。親父が昔からお世話になってるフレンチがあるんだ」「なんかおしゃれ。うん、そこ行こう」 レストランに着くと、沙綾は後悔した。明らかにお高い店なのだ。その証拠に全席個室な上に、沙綾に手渡されたメニューには、値段が書かれていない。「好きなの頼んで。ごちそうするよ」「そんな、悪いって」「同級生とはいえ、女性に出させるわけにはいかないし。俺の顔を立てると思ってさ」 英二は父が世話になっている店だと言っていたし、ウエイターも顔見知り
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8話
 英二は仕方なくと言わんばかりに肩をすくめるが、どことなく誇らしげに見える。「千秋はどうしてるんだ? 結婚したって聞いてるけど……」 何気ない問いに、笑顔も動きも固まってしまう。英二はそんな沙綾の眼の前で、手を振る。「おーい、大丈夫か?」「あ、ごめん……」「聞いちゃまずかったか?」「まずいというか、愚痴りたいというか……」「やっぱ結婚生活って大変なのか……」「結婚生活ももちろん大変なんだけど、姑とか、不倫とか……」「マジか……。でも、意外だな。そういうの許さないっていうか、隙を与えないイメージあった」 英二の発言に、思わず吹き出した。「なに、私束縛する女だと思われてるの?」「いや、そうじゃなくて……!」 笑いながら聞くと、英二は自分の発言に気づいたのか、慌てて手を振る。「不倫の気配あったら、すぐに指摘して理詰めしそうっていうか」「あはは、束縛と大差ないって。けど、相手があれじゃなかったら、してたかもなぁ……」「あれ?」「夫の浮気相手、姑なのよねぇ」 今度は英二が固まった。「もしもーし、聞いてる?」「え、待って。今なんて? 夫の浮気相手が……」「姑」「姑って、実母ってことであってる、よな……?」 沙綾が頷くと、英二は口元をおさえ、顔をしかめた。「嘘だろ……」「いやいや、グロ過ぎんだろ」「だよねー。今、証拠集めてる最中。さくっと離婚したいところだけど、復讐もしときたいかなって思ってる」「復讐って、昼ドラみたいな? 見たことないから詳しくないけど」「私だって、昼ドラなんか見ないから詳しくないわ」「んじゃ、何する予定なんだ?」「まだ未定」「あーあ……。んじゃ、こういうのどうよ。俺、まだ東京に来たばっかでさ。何度が来たことあるけど、親父の行きつけ以外よく知らなくて。だから、千秋は俺に案内をする。 んで、俺は千秋の復讐に協力する」「いいけど、それ、片桐くんにどんな得があるの? 街案内の方が楽だと思うんだけど」「普通に面白そうじゃん」 英二は白い歯を見せ、にかっと笑う。その笑みは、どこぞのぶりっ子女よりも信用できた。 復讐に関する知識がまったくないふたりは、お互いに勉強しておくことを約束し、連絡先を交換して別れた。「どうすれば法的に問題なく苦しめられるかな」 歩きながら考えていると、男子小学生が数人、こ
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9話
 帰宅した後に調べてみると、不倫を会社にバラしたり、バラすことをほのめかすことは名誉毀損や脅迫になりかねないらしい。「不倫野郎の人生なんて、終わってしまえばいいのに」 たとえ多くの人がそう思っていても、法律がだめと言っているのなら、手も足も出ない。「ま、これは後ででいいや」 気になる法律をあらかた調べ終えると、今度は探偵事務所を探すことにした。「一応、報告しておこうかな」 英二に探偵を雇うことにするとラインをするとすぐに既読がつき、「知り合いにいいのがいる」というメッセージと共に、探偵事務所のリンクが送られる。「次期社長の人脈ってすごい……」 さっそく問い合わせ、次の休日に探偵事務所に行くことになった。予約が決まったことを英二に連絡すると、すぐに返信が来る。『その日俺空いてるから、街案内してよ。メシおごるからさ』 沙綾は了承の旨を伝えると、掃除用具が入っている物置に向かった。調子に乗った皆本親子は、ことあるごとに沙綾をコキ使う。彼女が休みの日は、隅々まで掃除しろと命令してくるのだ。「まるでシンデレラね」 そうつ呟き、掃除を始めた。 次の休日、地図アプリを頼りに探偵事務所に行く。探偵事務所は雑居ビルの2階にあり、1階は喫茶店になっている。英二はそこで待っていると言っていた。 探偵事務所に入ると、塚本という物腰が柔らかそうな中年男性が招き入れてくれた。事前に相談内容は伝えていたが、和子と和人の写真を渡し、再び説明をする。 プランや料金について話し合い、連絡先を交換すると、沙綾は探偵事務所から喫茶店へ行く。「こっちこっち」 店内に入ると、英二が奥のボックス席から手招きをしている。離れていても、彼の容姿の良さは目立つ。 席に座るとメニュー表を差し出されたので、カフェラテとミックスサンドを注文する。「どうだった?」「物腰が柔らかくて、いい人だった」「でしょ。いい証拠見つかるといいね」「そうね。でも、塚本さんが言ってたんだけど、今私が持ってる証拠でも、充分戦えるって」「じゃあ、探偵はやめたわけ?」「いいえ、頼んだわ」「どうして?」「だって、他に何かありそうなんだもの」「へぇ、ホテルのレシートでも見つけた?」「いいえ、女の勘ってやつ」 ニヤニヤしながら聞いてくる英二に、にっこり笑って答える。「そういえば、どういうところ
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10話
 2週間後、塚本から連絡が来たため、仕事帰りに探偵事務所に行く。事務所には彼ひとりしかおらず、電気も最低限しかつけていないため、薄暗い。きっと、最低限あればいいという性格なのだろう。「旦那さんですが、他の女性とも不倫関係にありました」 差し出されたA4サイズの封筒を開けると、報告書と数枚の写真が入っていた。写真に写る女の顔を見て、思わず失笑する。「知り合いでしたか?」「えぇ、高校時代の同級生です」「そうでしたか。報告書にも書いてありますが、女性の方から旦那さんに声をかけていました。いわゆる逆ナンってやつですね」「あの子がしそうなことね……」 写真を眺めながら返事をする。写真には、星羅とホテルに入ったり、腕を組んで歩いたり、路地裏でキスや性行為をしている和人が写っていた。 もちろん、和子との写真もあり、年齢にそぐわない若い格好で、和人とデートをしたり、ホテルに入ったりしている。家の前でキスをしている写真もあった。「それと、音声データも入手しました。あなたのことを貶しているので、気分が悪くなったらすぐに言ってください。止めますので」「分かりました」 沙綾が返事をすると、塚本はICレコーダーの再生ボタンを押した。飲食店なのだろうか、ガヤガヤとした音が聞こえる。「これは駅前の喫茶店で録りました」「そうですか」 しばらくして、ふたりが注文をする声が聞こえる。店員が立ち去ると、ふたりの会話が始まった。『にしても、驚いたよ。星羅ちゃんが沙綾の同級生だったなんて』『沙綾ちゃん、性格きっついから大変でしょ。同じクラスになったことあるけど、目をつけられててぇ、めっちゃ嫌なこと言われたんだよねぇ』『あの性悪ならやりかねないな。星羅ちゃん、可哀想』『和人さんって、本当に優しい。その歳で高収入だし、お母さん思いで優しいし、めっちゃイケメンで最高。なのに、沙綾ちゃんってば、見る目ないよね』『本当にそう思うよ。俺の収入だけで生活できるんだから、大人しく家にいればいいのに、生意気にまだ仕事してやがる。女が男で収入面勝てるわけないだろ。どうせ大した稼ぎじゃないんだから、さっさと仕事辞めてほしいわ』『私だったら家にいるけどなー。やっぱり、お家守る人いないと、安心して仕事してもらえないだろうし』『そうなんだよ。さすが星羅ちゃん、分かってる。あの女、仕事できる自
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