LOGINウエディングプランナーの沙綾は、お客様の要望を叶えるために残業し、充足感を抱きながら帰宅する。 玄関には真っ赤なハイヒール、寝室から聞こえてくる喘ぎ声…… 夫の不倫相手とその言い分に、絶句する沙綾。 ショックのあまり家から飛び出し、ホテルに泊まる。 復讐をしようと動いていると、ふたりの同級生に出会う。彼らは敵か味方か……?
View More「うぅ、さむ……!」
11月上旬の夜21時過ぎ、皆本沙綾はご自慢の艷やかな長い黒髪を北風になびかせながら、家に向かう。彼女は26歳という若さながら、多くのカップルから高評価を得ているウエディングプランナーだ。
今日はこだわりの強すぎる新婦が納得し、なおかつ予算内に収まるように、何度もプランを練り直したせいで、帰宅がいつもより遅くなってしまった。
「はぁ、残業した日って、お義母さんいる率高いのよねぇ……」
帰宅後のことを考えると、げんなりする。義母の和子は、自分の名前の漢字を使うほど、息子である和人を溺愛し、未だに子離れできていない。和人は和人でマザコン気質なため、沙綾が残業の連絡を入れると、義母を呼んで家事をしてもらう。酷い時は義母に膝枕と耳かきをしてもらうほどで、これには沙綾も言葉を失った。
最初は年上とは思えないほどの情けなさに呆れたが、夫のマザコンっぷりにも、義母の過保護にも慣れてきた。それでも、嫌なものは嫌で、家に向かう足取りが重くなってくる。
「あー、やめやめ! せっかく可愛い新婦さんの笑顔で気分いいのに、あんなの思い出すことないない。今日は呑もう。明日は休みだし、いいよね」
途中、コンビニに寄ってビールと枝豆チップスを買うと、今度こそ帰宅した。
鍵穴に鍵を差し込もうとして、違和感を覚える。
「開いてる……?」
景気も治安も悪くなりつつある今、いつ空き巣が入るか分からないため、家に人がいても鍵をかけるようにしてある。それなのに、何故か鍵が開いていた。嫌な予感がしてゆっくり玄関を開けると、目がチカチカするほど真っ赤なハイヒールがあった。2階から、女性らしき声も聞こえてくる。
(もしかして、不倫?)
スマホで動画を撮りながら、2階に向かう。寝室に近づくにつれ、女性の声が喘ぎ声だと気づく。
息を吐き、覚悟を決めると、勢いよくドアを開けた。
「そう、そうよ! 上手♡ 女の子はねぇ、少し乱暴にされるくらいがいいのぉ♡」
「あぁ、いい! 最高だよ、母さん!」
和子は和人にまたがり、腰を振っている。和人も必死に腰を突き上げていた。眼の前で繰り広げられる地獄絵図に、言葉を失う。あろうことか、夫は義母と、つまり、彼にとっての実母と不倫をしていた。
「なにしてんの」
「あら、もう帰ってきたの? 帰らなくてもよかったのに」
なんとか声を絞り出すと、和子は和人の上からおりて、沙綾に笑いかける。その後ろで、和人は不満そうな顔をしていた。
「邪魔すんなよ、いいところだったのに」
「は? 邪魔!? 何言ってるの? 親子で不倫なんて、気持ち悪い! するならせめて、血の繋がってない人にしてよ!」
声を荒げると、和子はチッチッチッと、気取った仕草で人差し指を振る。
「違うわよ。これはレッスン。親子だから不倫にならないのよ。知らないの?」
「母さん、仕方ないよ。沙綾が出たのは3流大学なんだから」 「それもそうね。沙綾さん、あなた、私に感謝なさいよ」「へ?」
和子の斜め上の発言に変な声が出る和子はそんな沙綾を笑い、言葉を続けた。
「私がこうしてレッスンをしたから、和人は上手なの。なのに、あなたはまだ妊娠もしないなんてねぇ。女として終わってるんじゃない?」
高笑いする和子に、賛同するように何度も大きく頷く和人。ふたりに嫌悪感を抱くのと同時に、ひとつだけ納得した。
(子供産んで年取ったお義母さんを相手にしてたから、下手くそだったわけね……)
「母さんの方が、女として上だよ。沙綾を抱いてても、締まりすぎるし、あんまり気持ち悪くないんだ」
和人の発言に、自分が義母と竿姉妹であることに気づき、吐き気を覚える。気づいた時には、家から飛び出していた。
1年後、沙綾と英二は真新しい式場で、結婚式を挙げた。もちろん、沙綾の職場でもあるあの式場だ。オーナーの粋なはからいで、当式場1番目のお客様となったふたりは、多くの人々に囲まれ、祝福された。 それぞれの両親、職場の人間や同級生、友人が集まる。新郎新婦が同じ高校だったため、ちょっとした同窓会だ。「まさか、片桐くんと結婚するなんてね。おめでとう、沙綾。今度こそ幸せになりなさい」「ありがとう、美樹」「片桐お前、あの千秋沙綾と結婚だなんてやるじゃねーか」「しかもお前、次期社長かよ。もっと仲良くしとくんだったぜ」「はいはい、お前らが今の会社クビになったら、雇ってやるよ」 祝福の言葉や冗談が飛び交う会場は、幸せ1色に包まれた。「どうしよう、怖いくらい幸せ」「まだ結婚生活始まってないのに?」「そうだけど、こんなに幸せな気持ちになったの、初めてで」「まだ満足しちゃダメ。明日から新婚旅行に行くし、日常に戻っても、沙綾を幸せにするって決めてるから」 キスをされて驚くも、幸せを噛みしめるように目を閉じる。野次など今のふたりには聞こえない。すっかりふたりの世界に入ってしまったふたりは、相手の存在を確かめるように何度もキスをし、極上の愛に溺れていくのだった。
ふたりは約2週間、マリンスポーツをしたり、散策をしたり、美味しいものを食べたりと、ハワイを満喫した。 そして日本に帰ると、沙綾は久しぶりにスマホの電源を入れた。 沙綾には、ことあるごとに写真を撮る習慣はない。それに、ハワイでの写真は英二が撮っていたから、それでよかった。何より、和人達がしつこく連絡をしてくる気がしたため、ハワイに行く前に電源を切ってから、ずっと放置していたのだ。スマホがない生活は、それはもう快適であった。「うげ……」 案の定、彼らから大量の不在着信とラインがあった。トーク画面を開くと、どれもこれも逆恨みだった。沙綾は彼らの連絡先をブロックし、削除した。「大丈夫か?」「えぇ、ブロックもしたから、もう大丈夫。でも、知らない電話番号もいくつかあるの」「調べてみたら?」「そうね」 電話番号をコピーして検索してみると、地元の警察からだった。「警察だ……」「ちゃんと動いてくれたってことだな」「えぇ、きっとそうね」 和人達の結婚式の後、沙綾は警察署に行き、彼らが義父の年金を不正受給したり、遺産を遺言書通りに沙綾に渡さず、自分達で分け合ったりしていたことを話し、報告書と証拠を提出していたのだ。 折り返し電話をしてみると、皆本親子は逮捕されたと言う。確認したいことや、手続きがあるから、後で警察署に来てほしいとのこと。「ま、大変だけどやらないと行けないしな」「ちょっと面倒だけど、そうね……」「今は帰ろう」 ふたりはタワーマンションの最上階に帰ると、旅の疲れを癒やすように眠った。 さて、皆本達がどうなったのか……。親子には実刑判決が下り、刑務所暮らしが確定した。義父の遺産を沙綾に返還しないといけないのだが、沙綾への慰謝料、家の購入の他にも散財してしまったため、3000万近く足りない。 その借金を、唯一逮捕されず、外で働ける星羅が返すハメになってしまった。だが星羅は今まで男性に寄生して生きていたため、働いた経験がない。いつものようにパパ活相手の元へ寄生しに行こうとしたのだが、和人と結婚する際、酷いフリ方をしてしまったため、全員に断られてしまった。 新しい寄生先を探そうにも、星羅の悪い噂が広がってしまって見つからない。 実家に頼ろうとしたが、事情を知った彼女の両親は、星羅を勘当して追い出してしまった。 泣く泣く家を手放し、今は
スタッフと一緒に教会に戻ると、純白のタキシードを着た英二が待っている。メンズメイクまで施された彼は、まるでどこかの王子のように気品があり、思わず見惚れてしまう。「沙綾、すごく綺麗だ……」 英二は沙綾に気づくと駆け寄り、スタッフの目があるというのに、沙綾を抱きしめる。「あ、ありがとう……」「こんなに綺麗な人が、俺の奥さんになってくれるなんて……奇跡だ……」「私からしたら、あなたが旦那さんになってくれることが奇跡よ」 見つめ合っていると、シャッター音がした。そちらを見ると、カメラマンがカメラを構えている。「おふたりとも、とても素敵です。さっそく撮影を始めましょう」 にこやかなスタッフに、恥ずかしさで顔が熱くなる。「まずは教会の中で撮りますよ」 カメラマンの指示に従い、ポーズを撮って撮影をする。最初は恥ずかしくて固くなっていたが、だんだん楽しくなってきて、自由にポージングをするようになっていた。 撮影は教会の中、前、外で行われた。幸い晴天だったため、理想的な写真になった。撮影が終わると英二がデータを受け取る。補正などをした写真は、3週間から1ヶ月後に届くそうだ。「ハワイでウエディングドレスを着れるなんて思わなかったから、すごく嬉しかった。それに、楽しい」「楽しんでもらえてよかった。勝手に決めてたことだから、突っ走りすぎとか言われるかと思ってたよ」「驚いたけど、いい思い出になったわ。ありがとう、英二くん」 微笑みかけると、英二は目をそらす。「英二くん?」「いや、その……。逆光で、神秘的に見えたというか、女神みたいだったというか……」 過剰な褒め言葉に、耳まで熱くなってしまう。「もう、大げさ……」「そんなことない。沙綾は、俺にとって女神だよ。あの頃も、今も」「え?」「中学になるのと同時に、あのへんに引っ越してたんだ。あの頃は自分に自信がなくて、引っ込み思案だったから、友達できなくてさ。高校でもそうだと思ってた。けど、沙綾が話しかけてくれてただろ? すごく嬉しかった。それに、沙綾との会話を聞いて、俺のこと気になって話しかけてくれるヤツも出てきて、おかげで友達もできたんだ。ホント、感謝してもしきれないよ」「英二くん……。感謝してるのは、私のほう。あなたのおかげで、あの家から抜け出せたし、復讐もできた。それに、ハワイにまで連れてきて
少しだけショッピングを楽しみ、ホテルに戻る頃には夕飯にちょうどいい時間になっていた。部屋に戻ると、キャンドルディナーの準備がされている。 純白のテーブルクロスの上には、南国ならではの料理がずらりと並び、赤いキャンドルが灯されていた。「素敵……」「喜んでもらえて良かったよ。沙綾……」 真剣な声で名前を呼ばれ、自然と背筋が伸びる。振り返ると、彼の瞳がまっすぐ沙綾に向けられていた。「英二くん……?」「君と一緒に、幸せになりたい。結婚してほしい」 差し出されたジュエリーボックスには、ピンク色の石がきらめいている。「ピンクダイヤモンドだ。石言葉は、永遠の愛、完全無欠の愛。俺は君につらい思いをさせない。傷つけない。最優先事項は、沙綾だ」「英二くん……!」 嬉し涙で、視界が滲む。いずれ英二と結婚できれば幸せかもしれないと思っていたが、まさかこんなにはやくプロポーズをしてもらえると思わなかった。「喜んで」「あぁ、嬉しいよ。手、出して」 左手を差し出すと、英二は丁寧に指輪をはめてくれる。自分の薬指に輝くピンク色の宝石は、まるでこれからの幸せを象徴しているように見えた。 どちらからともなくキスをし、笑い合う。「英二くん、大好き」「俺もだ、愛してる」 再びキスをすると、英二は沙綾をお姫様だっこし、椅子に座らせる。「さぁ、食べよう」「えぇ、そうね。お腹すいた」 シャンパンで乾杯し、食事を始める。「にしても、勇気あるよね」「そうか?」「だって、ハワイ旅行初日にプロポーズだなんて……。もし私が断ったら、気まずくならない?」「沙綾は断らないって確信してたからな。沙綾だって、結婚してもいいと思えない相手と、ハワイ旅行なんて行きたくないだろ? しかも、同じ部屋なんて」「確かに……」 言われてみればそうだ。面食いとはいえ、心を許せない相手と同室だなんて、考えられない。「それでも、緊張したよ。プロポーズって、人生のターニングポイントっていうか、重大なことだし」「ふふ、そうよね。ありがとう、すごく嬉しかった」 その晩、ふたりが愛し合ったのは言うまでもないだろう。 翌朝、英二に手を引かれて着いたのは純白の教会。背景に海がある美しい教会だ。ステンドグラスも太陽できらきら眩しい。「もう結婚式?」「違うって。フォトウエディング、どうかなって思って